1999/06/29

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参院・行革税制等特別委員会 一般質疑 

1.オウム真理教問題 被害者救済法と、特別法による団体活動の規制について

2.地方分権一括法について、行政不服審査法と地方自治法との関係について

3.人権政策と省庁改革法案について


○江田五月君 おはようございます。御苦労さまです。
 私は、六月十六日、延長前の本委員会での審議で、中央省庁等改革関連十七法律案について総括的に、総論の質疑をさせていただきました。総論についてももちろんまだまだ質疑をしなきゃならぬ課題がたくさんありますが、きょうは各論に入ります。

 そこで、何といっても各省のトップはこれは法務省。そこで、きょうは法務大臣に御足労いただきました。お忙しいところ恐縮です。
 そして、法務大臣、また官房長官初め関係大臣の皆さんに、政府の中央省庁改革法案における我が国の人権政策の位置づけについて質問したいと思っておりますが、本題に入ります前に、法務大臣、官房長官、おられますので、オウム真理教問題について緊急の質問をしておきたいと思います。

 御承知のとおり、地下鉄サリン事件以来四年がたちました。最近また一段とオウム真理教の活動が活発になってきておるということが報道もされており、きのうも夜のテレビなど、どのチャンネルも報道がございました。
 各地の地域住民の皆さんの不安の問題、これも一つあります。もう一つ、松本サリン事件あるいは地下鉄サリン事件などの被害者の皆さんの救済の問題、これもなかなか大変です。地域の皆さんの不安をどうやって取り除くか、また、被害者の皆さん、どう救済に遺漏なきを期するか、立法府と行政府が迅速かつ適切な対応を求められていると思いますので、オウム問題についてこの間ずっと特別の関心を持っておられる野中官房長官にまずお伺いをいたします。

 この地域住民の皆さんの不安解消、被害者救済の問題について、現段階における政府の認識、そして対応策、これを説明いただきます。

○国務大臣(野中広務君) 委員御指摘のように、オウム真理教は、地下鉄サリン事件を初めといたしまして、組織的な凶悪事件を引き起こした後におきましても、現在に至るまで何らの謝罪、反省もすることなく反社会的教義を維持いたしておりまして、最近では各地に新たな教団施設の取得を図るなどいたしまして、それぞれ施設周辺住民の皆さん方に多大の不安を与えておるということを私どもとしても強く危惧し、認識しておるところでございます。

 このため、オウム真理教にかかわります諸問題について、関係省庁の密接な連携を確保いたしまして政府として必要な対応を検討するため、内閣にオウム真理教対策関係省庁連絡会議を設置いたしまして、去る五月二十四日以来、鋭意検討を行っておるところでございます。この会議は、内閣官房副長官を議長といたしまして、内閣官房内政審議室、警察庁、法務省、公安調査庁、国税庁等から成り、必要な情報交換を行い、対応を検討を今いたしておるところでございます。

 オウム真理教にかかわります被害者の救済は重要な問題であると認識をしておるところでございまして、破産をいたしました宗教法人オウム真理教と現在収益を上げていると言われるパソコンショップは、権利の帰属主体として、委員は十分御承知のように、別なものでございまして、なかなかその対応に苦慮しておるところでございます。

 宗教法人オウム真理教の破産手続にパソコンショップが上げていると言われる収益を取り込むような処置を講ずることは現行法上まことに困難でありまして、そういう状況の中において、先ほど申し上げましたように、各庁の連絡会議を通じましてどのようなことが対応できるかを鋭意検討いたしているところでございます。

○江田五月君 政府の対応を最大限やってもらわなきゃなりませんが、活動の規制の方、これは官房長官が今おっしゃった連絡会議で対応に遺漏なきを期すると。しかし一方で、まさに官房長官がおっしゃるとおり、法人格として別の今のオウム真理教の皆さんの活動、これによって上がる収益、これをどうやって前の宗教法人であったオウム真理教の活動によって被害を受けた皆さん方の救済に充てるか。現行法ではなかなか難しい。

 そこで、被害者救済、これを一歩進めてそちらの方面から団体活動の規制を結果として行っていこう、そんな考え方で被害者弁護団の弁護士の皆さんから、大規模不法行為による破産法人の破産財団の充実に関する特例法、ちょっとややこしい名前ではありますが、要するに法人が不法行為をして大変な被害を与えた、そして破産して後はさようならというんじゃおかしいじゃないかと。そういう法人に関しては、その構成員が破産後どこかでまた活動をして資金を得ているという場合に、前の破産した法人の破産財団、すなわち被害者の救済に充てる原資、そこを後からの活動で得た資金も組み込むようにしてはどうか、これを特例法でつくろうという、そういう試案が示されております。また、弁護士会などから一般的な犯罪被害者救済法の考え方なども示されておるんですが、法務大臣はこういう犯罪被害者救済の立法について御存じでしょうね。御見解を伺います。

○国務大臣(陣内孝雄君) 犯罪被害者の救済について、いろいろな立場の方がいろんな形でいろいろ提言されたり研究されておられるということは存じ上げております。

○江田五月君 御存じだろうとは思ったんですが、それについてはどういう見解をお持ちですか。

○国務大臣(陣内孝雄君) 官房長官からもお答えがございましたけれども、オウム真理教に係る被害者の救済は重要な問題であると考えております。しかし、破産した宗教法人オウム真理教と、現在収益を上げているといわれるパソコンショップは権利の帰属主体として別なものであることから、宗教法人オウム真理教の破産手続にパソコンショップが上げているといわれる収益を取り組むような措置を講ずることは困難ではないかと認識しております。

 この問題は、例えば破産した会社の従業員が集まって別会社を経営し、それにより収益を上げているような場合に、その収益を破産会社の収益として取り組むことがおよそできないのと同じことではないだろうか、このように私は感じております。

○江田五月君 官房長官は先ほど非常に言葉を選ばれた、現行法では難しいというふうに言われた。だから、新しい法律が必要なんだということなんですよ。法務大臣、ふつうの会社で、それは運悪く破産をした、その従業員の皆さんが前の破産した会社を離れて別に事業を起こしていく、それと同じことですか。

 オウム真理教というのは、それはもちろん宗教活動をやっていた。しかし、あの全体像を見ると犯罪集団ですよ。犯罪集団が破産で逃れて、それを構成していた皆さんが、やれ破産したからさようならです、あとはまたこれから自分たちは別個パソコンショップでどんどん収益を上げている。そして、前の法人の活動で大変な被害を受けた皆さんが、何十億でしょう、そのうちの幾らですか、その損害賠償がちゃんとなされているのは。そういう皆さんのことをほっておいて、それで今の法律では難しいですからと。それで立法府として済むか、あるいは政治の中枢にある内閣としてそれで済むのか。私は、やはりここは政治にある者として知恵を絞らなきゃならぬところだと思います。

 幸か不幸かと言うといけませんが、国会は随分延長されていますので、今国会中にでも私たち民主党としても各党の皆さんと一緒になってこの被害者救済に関し特別立法をつくっていきたいと思います。

 野中官房長官、先ほどの言葉を選ばれたのは、そういう努力が必要だということだ、そのことが脳裏にあって言葉を選ばれておったと思うんですが、いかがですか、御見解は。

○国務大臣 (野中広務君) 御指摘のように、オウム真理教に対する法的措置につきましては、現在は現行法令の最大限の活用を行うことに重点を置いております。それは、先ほど申しましたように、五月に関係省庁会議を開催いたしまして、積極的に取り組むようになりまして、今日現在まで検挙いたしました者、十一件でございますが、五月以降九件になっておるわけでございまして、各省庁間の連携がいかに大切であるか、警察庁、国税庁を初め関係省庁が互いに連携をして取り組む成果を上げておることを考えますときに、法的に非常に難しゅうございますけれども、現行法令上の最大限の活用をまずは第一に考えておるわけでございます。

 また、適用は残念ながらされませんでしたけれども、破壊活動防止法につきまして、法務大臣からも公安調査庁に対して改正をも視野に入れた検討が進められておると聞き及んでおるわけでございますが、それぞれ特別立法を示唆する御意見も承っておるわけでございますので、そのような問題を十分踏まえて、被害者救済を含めて立法化の道を私どもも求めてまいりたいと考えておるところでございます。

○江田五月君 現行法を最大限活用してというのは、活動を制約する、これはかなりできると思います。 しかし、一方で被害者救済というのは、これは現行法をどう活用したってできない。一方で、あの皆さんはどんどん活動して巨大な収益を上げている。これを野放しというのは、これは国民感情が許さないということだと思いますね。何かやっぱり立法上の知恵が必要だと私は思っております。

 団体活動の規制について、破防法のことを今ちょっとお話しになりましたが、私はやっぱりオウム真理教を政治団体として破防法で規制するのは無理があるだろう。そこで政府の方は、あるいは組織犯罪対策法三法、これをこうした犯罪集団の制圧のために必要だということで出しておられるということかもしれませんが、しかし今の組織犯罪対策三法というのは、実態はやっぱり組織犯罪を行った個人に対する処罰の強化とマネーロンダリングの規制法であって、被害者救済規定はその中には全くありません。あるいは犯罪組織、組織の活動に対する規制というものも、これもありません。これでは組織犯罪対策法とは名ばかり、オウム対策にもなっていない。

 私はやっぱり、今の刑法体系というのは、どうしたってこれは個人の刑事責任というものに基礎を置いた体系になっているわけです。個人の刑事責任をどう追及するかということですよね。 そこにいろんな法体系をつくり上げて、それをどう工夫してみても、犯罪組織、組織というものをどう規制していくかというところはうまくいかないんだろう。やっぱり個人の責任、これと別に組織をどういうふうにして規制していくかという、破防法もその一つ、暴対法もその一つですが、暴力団でもない、政治団体でもない犯罪集団というものを組織として規制していく刑法体系と別の法体系を考えなければいけない。

 例えば通信傍受にしても、そういうふうに犯罪組織というものを指定して、その指定犯罪組織の通信について厳掛な要件のもとにこれを認めるという、そういうような知恵が何か要るのではないかと思いますが、これは別のところでまた議論いたします。

 もう一つ、人権行政に入る前に、今度はちょっと自治大臣、地方分権一括法の関係でちょっと聞いてみたい。

 私ども民主党、地方分権一括法は賛成という党議を決めておりまして、余りいろいろあら探しをしてはいけないのかと思いますが、どうも細かく見ておりまして私は、あるいは私の勘違いなのか、しかし考えれば考えるほどこれは勘違いじゃなくて、やっぱりちょっとこの法律おかしいんじゃないかということが一つございます。

 それは、行政不服審査法と今回の地方自治法改正の問題、関係なんですが、地方自治法二百五十五条の二という規定を設けて、法定受託事務に係る処分について住民などに不服がある場合、行政不服審査法による審査請求を認めて大臣に対して審査請求ができる。もちろん市町村長の場合は知事に対してですけれども、そういう審査請求が今までどおりできるようにしてある。 これはどういうお考えですかね。

 つまり、国の政府と地方自治体の立場を上級、下級という関係じゃなくしよう、対等の立場にしよう、そしてその間をいろいろ調整していこう、これが今度の地方自治一括法のまさに眼目ですよね。しかし、行政不服審査法というのは、下級行政庁のした処分に不服があるときには上級行政庁に審査をお願いすることができるという旧訴願法を改正してできた行政庁内の不服審査の一般法ですね。それを地方自治体制の改正によって、地方分権によって、中央と地方とが対等だと言いながら、なぜこの上級、下級の行政庁内部の審査の一般法というものを使われるんですか。

○国務大臣(野田毅君) 若干込み入った話になろうかと思うんですけれども、基本は、今御指摘がありましたように機関委任事務が廃止をされて、そして法定受託事務と自治事務に分かれていくわけであります。その中で、まず自治事務に関しては、従来どおり、処分を受けた私人はそのまま異議申し立てを知事なりにしていくという形になるわけです。法定受託事務に関しては、確かに機関委任事務ということが廃止はされて法定受託事務。そういう意味で、上級処分庁というものではなくて、その事務処理そのものは知事なり市町村なりの権限と責任において行われた処分ではあります。この点は、そういう意味で上下関係というものではない、こういう位置づけになっていることはたびたび申し上げておるとおり。

 そこで今、では審査請求というものをなぜ大臣にするかということなんですが、これの趣旨は、法定受託事務というその事務の性質から、法令を所管する国の立場においてその法令の適正な運用を確保しようということで法定受託事務ということになっておるわけでありますから、そういう点で従来の包括的な指揮監督権というものの一環としての話ではないのでありますけれども、法令の適正なる執行ということがまず第一であります。

 そこで、今回の変更によりまして、各大臣は、処分庁の上級行政官庁ではない、別個の存在でありますので、裁決においては原処分を取り消すということができるということにとどまるのであって、原処分を変更するような新たな処分をすることはできないという点が従来のやり方とは異なるといいますか、従来とは異なっている。よろしいですね。

 機関委任事務から自治事務になるものについては、今申し上げましたとおり、各大臣への審査請求はできない、処分庁への異議申し立てができるということだけであるという点はさっき申し上げたとおりであります。

 したがって、物事の発想として、いわゆる機関委任事務の廃止、それに伴って今までありました包括的な指揮監督権も廃止をしたんです。これがまず基本にある。ただ、あとは処分を受けた私人がそれの救済の道といいますか、それについてはこういう形で救済をしていくということはあった方がいいのでは、逆にその方がいいのではないでしょうか。

○江田五月君 多分野田さん、今までいろんなことを一緒にもやってきたりして尊敬もしておりますし、その理論家の野田さんがあれだけ今の答弁のように、言っちゃ悪いけれども大分苦労されておるというのは、これはどうもちょっとやばいなということをお感じだからではないかという気がするんですね。

 つまり、この行政不服審査法五条、ちょっと細かな話ではあるんですけれども、五条一号は、処分庁に上級行政庁があるときにはその上級行政庁に審査請求ができる。これは全くの一般法理です。二号には、前号に該当しない場合で特に法律で審査請求ができる旨の定めがある。これは何かいろんなその事柄の性質上、やはり上級行政庁というかどこか別のところに審査をしてもらった方がいい、そういう体系にした方がいいという場合にこの二号を置いているわけで、やっぱり二号というのは個別の法律でこの事務については別の機関に審査請求をと、こう判断して決めていく。

 ところが、機関委任事務の場合にそうであったその不服申し立て、行政内部での不服申し立ての仕組みをそのまま温存しようということで地方自治法二百五十五条の二というものを設けて、一般規定ですよ、これは。特別に事務の性質に応じて審査請求をどこかに任せるのではなくて、一般規定です。地方自治法というのは特別の法律ではない、まさに地方自治の憲法です。その地方自治法の中に一般的な規定、政府の皆さんのこの解説のペーパーにも、一般規定を設けることとすると書いてある。そして所管の大臣のところへ審査請求できると。

 これでは、地方自治体の長、地方の行政庁は常にやっぱり中央の所管の大臣の方を見ながら地方の行政をやっていかなきゃならぬことになってしまうじゃないですか。それでどうして一体中央と地方が対等だということが言えるんですか。自治事務と同じように異議申し立てでとどめて、あとは住民の方は取り消し訴訟なりを起こしていくということにすればいいじゃないですか。

 国が困ると。今、法令の適正な執行のためにとおっしやいました。しかし、審査請求というのは、これは行政内部での審査ですから、単なる法令違背だけじゃないですね。上級庁は、これは不当だという場合だって取り消せる。取り消して自分で処分をしない、それはわかりました、その限度では。だけれども、これではこれは取り消される。取り消されたら、それはやっぱり裔束するんでしよう、その地方の行政庁は裔束されるんでしよう、取り消されているんですから。そうすると、やっぱり上を見なきゃいけないことになるじゃないですか。

 しかも、もし法令の適正な執行、それはやっぱりその事務を担当している所管の中央の官庁が責任も負わなきゃならぬ、関心ももちろんあると。それならば関与の規定があるわけです。関与でちゃんとやれる。しかも、関与のときには地方行政庁は最終的に高等裁判所に取り消し訴訟を起こせます。

 しかし、審査請求はどうでしょう。例えば知事がある産廃は許さないと不許可をする。その不許可処分を受けた産廃業者が厚生大臣に審査請求をする。厚生大臣が知事の処分を取り消す。差し戻すわけです、もう一遍やれと。そうすると、その産廃不許可にした知事には不服申し立ての方法はありません。国の関与の場合にはできる。しかし、審査請求で取り消されたら知事は何もできない。そうすると、知事としては、幾ら対等で、いや関与はある、関与については訴訟の道が開かれていると言ってみたところで、審査請求の方がそのままになっていると、前の機関委任事務の思想がそのまま残って、中央と地方が対等ということは言えないじゃないですか。いつも国の方を見ながらやっていかなきゃならぬということになってしまうじゃないですか。

 私は、地方自治法二百五十五条の二で新設される規定は削除すべきだと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(野田毅君) 確かに、機関委任事務ということは廃止をしたわけです。しかし、一方で法定受託事務というのは、自治事務とは違って、国の関与の仕方についても、自治事務に関しては法令違反なりそういったような事実があって是正がされないという場合には最終的に是正の要求ということまでいくわけですけれども、法定受託事務に関しては是正の指示になるわけです。是正の指示ということで、普通の自治事務とは違ってその法令の執行に関してより強い関与の仕方が当然あるわけです。そして、どうしてもその指示に従わない場合には、法律によっては、場合によっては代執行という手段もあり得るわけです。これは個別の法令によって行われるわけであります。

 そういう意味で、この法定受託事務という事務に関しては、実際にやるのは地方自治体ではありますけれども、自治事務とは異なった特別の法令の執行に関して国自身が重大なる関心を持ってやらなければならない、そういう責務があるというのがこの自治事務と法定受託事務を区分けした一番の原点になっているわけですね、これはメルクマールの中にいろいろ書いてありますけれども。そういう事務の性質上、今のような審査請求の形をとったんだと。だから、この形をとったから全く昔と同じような上下のままであるんだということにはならないのではないかと思います。

○江田五月君 もちろん、すべてのことが昔のままだと言っているわけじゃないんで、だけれども、審査請求というものに機関委任事務のときの形をそのまま残しているというのはやっぱりおかしいですよ、それは。だって、国の関与に対して、その知事さん、市長さんたちが高裁に対して取り消し訴訟まで起こせる道を一方でつくっておきながら審査請求の方にそのまま残しているというんじゃ。

 この議論は、やっていても時間ばかり食いますが、一遍帰ってよく考えてみてください。野田さんだったら、これはやっぱりおかしいぞというのはわかってくれると思います。官房長官も、さっきメモされていたようですから、一遍考えてみていただきたいと思います。

 さて、本題。済みません、だんだん時間の方が過ぎてしまいましたが、六月十八日、法務大臣、文部大臣、総務庁長官のお三方からの諮問を受けた人権擁護推進審議会から、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」というタイトルの答申案が公表されました。

 七月十六日までいわゆるパブリックコメントを求めて七月末に正式答申ということのようですが、法務大臣、パブリックコメント、今のところどのくらい意見が寄せられていますか。

○国務大臣(陣内孝雄君) ただいま委員御指摘のとおり、人権擁護推進審議会におきまして、六月十八日に人権教育啓発に関する答申案を公表いたしまして、各方面から意見を募集しているところでございます。

 答申案につきましては、法務省のホームページに掲載するなど、その周知を図るとともに、意見については、書面、ファクス、電子メール等によりまして七月十六日まで受け付けるということにしておりますので、どの程度の意見が今寄せられておるか中間的な集計はしておりません。

○江田五月君 もう大分たつんですが、今どのくらい来ていますとか、そういうことを言えば、また、これはパブリックコメント、意見を出そうということになるので、ぽんと、どうぞ意見をお寄せくださいで、あとは最後に締めて見ますというんじゃ、やっぱりそれはどういう意見が来ているかというのをもっと真剣にやってもらわないとパブリックコメントにならないんじゃないですかね。

 私も恥ずかしながら科学技術庁長官をやらせていただいたことがあって、そのときに原子力利用の関係で国民の皆さんに御意見を聞く会というのをやりまして、幾らでしたか、五千件ぐらいですか、いろんな意見が寄せられました。そんなことをやってみたことがある。そのとき私ももっと、きょうはどのくらい来たかなと関心を持って見ていましたよ。見てくださいね。

 この答申案を見ますと、冒頭の部分で、「本審議会の人権に関する基本的認識」というところで、二十一世紀は人権の世紀だと書いてある。最初の部分は大変すばらしい。最初の部分はですよ、大変すばらしい認識。

 私はここで、この人権擁護施策の推進という政策課題と、それからもう一つ、この六月十五日に基本法が成立した男女共同参画社会の実現という政策課題と、この二つをちょっと比較してみたいんですね。理念はどちらもすばらしい。男女共同参画社会基本法では、参議院の修正で、与野党共同修正ですが、法律に前文がついた。その前文の中には「男女共同参画社会の実現を二十一世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付け、」と、こういう文言が入っております。

 もとより、男女共同参画も人権問題そのもの、人権問題だけではありませんけれども、人権問題そのものでもあるわけですが、片や二十一世紀は人権の世紀という、片や男女共同参画社会の実現は二十一世紀我が国社会を決定する最重要課題と位置づける、この二つの政策課題の理念、位置づけについて、関係大臣、各大臣の皆さんの認識を伺います。

 まず、両方に非常に重要な役割を果たしておられる野中官房長官。

○国務大臣 (野中広務君) 人権は、申し上げるまでもなく、すべての人々が社会において幸福な生活を営むために欠かすことのできない権利でございます。

 政府といたしましては、二十一世紀に向けまして、すべての人々の人権が尊重される平和で豊かな社会の実現を目指しまして今後とも鋭意努力をしてまいりたいと存じ、人権擁護推進審議会の答申に沿って一層決意を新たに努力をしてまいりたいと考えておるところでございます。

○江田五月君 その答申は今パブリックコメントの最中で、これからどういう答申、最終案になるか。しかし、どうも沿ってということではちょっと足りないのじゃないかという感じがしますが、わかりました。

 あと、各大臣の皆さん、簡単にで結構といいますか、簡単にお願いしたいんですが、人権というものをどうとらえておられるか、法務大臣。

○国務大臣(陣内孝雄君) 人権の擁護というのは憲法の柱でありますし、また民主主義の、民主政治の基本でもありますので、すべての人々の人権が尊重される平和で豊かな社会の実現が必要であり望まれているということでございます。

 そのために法務省といたしましても、人権擁護事務を所管する立場から、二十一世紀に向けまして、各種の啓発活動によって国民の問に広く人権尊重の思想が普及徹底するように努めるとともに、人権侵犯事件の調査、処理を通じて関係者に人権尊重の思想を啓発し、被害者の救済に努めるなど、人権擁護行政の一層の充実強化を図ってまいりたいと考えております。

○江田五月君 文部大臣、総務庁長官、それから外務大臣、ちょっと順次と言って済みませんが。

○国務大臣(有馬朗人君) 人権尊重というのは極めて大切だと思っております。その上で、まず教育が果たす役割が非常に重要と我々は考えておりまして、文部省といたしましては、従来から憲法及び教育基本法の精神にのつとって、学校教育、社会教育を通じまして広く国民の人権尊重の教育の推進に努めているところでございます。

 このたび人権擁護推進審議会から公表されました答申案は、国民一人一人に人権に関する正しい知識、日常生活の中で生かされるような直感的な感性や人権感覚が十分身につくよう人権教育・啓発を行うことが重要であるとした上で、人権教育に関しては、学校教育、社会教育、家庭教育の各分野において今後講ずべき施策を御提言いただいております。これを我々十分考えまして実行に移していきたいと思っています。

 なお、男女共同参画ということも極めて大切でございまして、大学等々に対してもっと女性の教員を採るべしというふうなことを言っているところでございます。

○国務大臣(太田誠一君) 私は、憲法の中に幾つも大事な考え方が盛り込まれておりますけれども、そのうちの一つで大変大切な柱だと思っております。そして、それが現実の具体的な法律や制度の中に盛り込まれているのかどうかということについてはまだ考える余地が十分あると思っておりまして、そういう意味で、それは単にどこどこの役所がどうだではなくて、やっぱりこれは政治家として判断すべきであり、また立法府として判断することであり、また内閣レベルの問題だと思つております。

 そして、いわゆる少数者といいますか、マイノリティーという言葉は余り我々使わないわけでありますけれども、差別をされているのはマイノリティーに決まっているわけでありますから、差別をされているマイノリティーの方から、痛みは差別された方しかわからないわけでありますから、さまざまな問題提起に対してもっと我々は謙虚に耳を傾けていくべきであるというふうに考えております。

○国務大臣(高村正彦君) 自由とか民主主義とか基本的人権というのは、西側諸国が共有してきた価値観でありますが、これは冷戦構造が崩壊しましてますます普遍的になってきている、こういうふうに思っております。

 今後二十一世紀におきまして、我が国を含めた各国が国内の人権の改善に努めることはもちろんでありますけれども、同時に、世界の人権状況全体にも関心を持って、より効果的に人権が保障されるように国際的に協力していくことが必要である、こういうふうに考えております。

○江田五月君 皆さん、それぞれすばらしい人権についての認識をお示しくださいました。役所のつくつたペーパーの中身もすばらしかったわけですが、特に役所のつくったペーパーをお読みにならない総務庁長官の決意は大変すばらしいと思います。その決意が今度の中央省庁法案で生かされているかどうか、これが問題なんですね。いやいやまだこれから先は長いからと、さっきはそういうような含意もあったのかもしれませんが、しかしそうもいかないと思いますよ。

 人権そして男女共同参画、この二つの政策課題の諮問機関である人権擁護推進審議会と男女共同参画審議会は、その理念と基本認識には共通点が随分ある。しかし、答申の内容は随分違う。男女の方は、男女共同参画社会を実現するために基本法の制定というものを提案した、これができた。しかし人権擁護推進審議会は、二十一世紀を人権の世紀にするための法的措置について、この諮問第一号、教育・啓発についてという諮問ですが、少なくとも今の段階で何の提言もしていない。

 この審議会設置のもとになった九六年十二月の人権擁護施策推進法成立のときの衆議院、参議院両院の附帯決議に 「法的措置を含め必要な措置を講ずること。」と明記されているんですが、さて、法務大臣、そして文部大臣、総務庁長官、書いていないんだからしなかったんだろうと思いますが、法的措置についての諮問はしなかったんですか。順次伺います。

○国務大臣(陣内孝雄君) 諮問の第一号についてでございますが、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」ということで諮問いたしました。

 それについてでございますけれども、ただいまお触れになりました衆議院、参議院の両法務委員会の附帯決議、これは政府に対するものでございまして、今御指摘のような、「人権擁護推進審議会の答申等については、最大限に尊重し、答申等にのつとり、法的措置を含め必要な措置を講ずること。」というふうに政府に対して附帯決議がついていることも承知いたしております。

○江田五月君 法的措置を諮問したのかと聞いたんですけれども、まあいいです。

 次、文部大臣、総務庁長官。

○国務大臣(有馬朗人君) 審議会においては、種々審議をされた上で、答申案に記載してある諸施策はいずれも行財政措置で十分対応が可能であるという認識がありますので、そういう考えに今従っているところでございます。

○国務大臣(太田誠一君)附帯決議は、最大限に尊重し、答申にのっとって、答申がそのように言えば「法的措置を含め必要な措置を講ずること。」 というような附帯決議になっているわけですね。だから、その法的措置を、今おっしゃるように男女共同参画社会の基本法に相当するような基本法をつくれと、そういうふうな内容、例えばつくりなさいというふうな諮問をしているわけではないということであることは確かにそのとおりだと思います。

 ただ、確かに今おっしゃったような答弁がありますけれども、行財政措置だけで十分だというふうな内容の答申だと思いますけれども、それは、立法権を持っておるのは立法府であって、法的な措置が必要云々ということはこれから我々が考えることだと考えております。

○江田五月君 答弁に若干の違いがやっぱりありますね。法的措置についても視野に入れながらという答弁と、いや、法的措置はこの答申で必要ないと言っておるのでそういう方向でというのと。私は、二十一世紀は人権の世紀とそういうふうに言う以上、この男女共同参画、人権擁護、どちらも理念として非常に高い位置づけをしておられるんですから、片や基本法の制定、片や法的措置は何もなしというのは、ちょっと対応としてどうかと思います。

 そして、もう一つ大きな違いがある。 それは政府の推進体制です。男女共同参画の方は、現在内閣に総理大臣を本部長とする男女共同参画推進本部がある。事務局としては総理府に男女共同参画室がある。これが今回の省庁改革では内閣府に男女共同参画局が置かれる、こういうことのようであります。さて、人権については、現在は、内閣に総理大臣を本部長とし、官房長官、法務大臣、外務大臣、文部大臣、総務庁長官を副本部長とし、各省庁の事務次官全員を本部員とする人権教育のための国連十年推進本部が設置されており、事務局は内閣の内政審議室が担当して、国内行動計画を推進することになっている。

 官房長官、今回の省庁改革では、この人権教育のための国連十年推進本部というものを設置してやっていく人権推進体制というものはどうなるんですか。

○国務大臣(野中広務君) 内閣においてやっていく予定でございます。

○江田五月君 それでちょっとほっとしますが、よくわからないんですね、どこでどうなっていくのか。

 総務庁長官、今回の政府の省庁改革では、人権政策についての総合調整機能は一体どこにあるということになるんですか。

○国務大臣 (太田誠一君) 人権擁護につきましては、法務省の人権擁護推進局というものが調整の中心になるというふうに理解をいたしております。

○江田五月君 法務省の人権擁護推進局が総合調整機能を担う。一方で、長い名前ですが、人権教育のための国連十年推進本部、これで人権教育国連十年については内閣がこれまでどおりやっていく。多少違うといえば違いますが、どんなもんですかね。せっかく内閣の方にそういう本部体制をつくって、人権教育については国連の行動指針を積極的に内閣を中心にしながら進めようと、それはこれからも続けるんだと言われながら、一方で人権政策については法務省であると。これはちょっと政府の省庁改革案の重大な欠陥ではないか。私たち民主党の行政改革案では、男女共同参画と人権政策の推進はともに内閣府の主要な任務の一つとしてきちんと位置づけております。

 ちなみに、衆議院でも議論になったようですが、私たち民主党は公正取引委員会もきちんと内閣府に位置づけている。どこかの新聞に、これだけはすばらしいと、これだけはと言われてもちょっとつらいところですが、褒められました。

 官房長官、政府として、この省庁再編に当たって男女共同参画と同じように内閣府の総合調整機能の中に人権政策を位置づけていく、こういうお考えはございませんか。

○国務大臣(野中広務君) 人権擁護は、もう申し上げるまでもなく政府・内閣全体として取り組むべき課題であることは言をまたないわけでございまして、その充実強化につきましては、中央省庁等の改革基本法でも特に明記をされておるところでございます。

 その推進に当たりまして、基本法で、委員御承知のように、人権啓発や人権侵犯事件の被害救済を所掌することになる法務省を初め、関係行政機関が十分に協力していくものでありまして、これを一括して内閣の所掌事務とすることは基本法の趣旨には合わないと考えておるところでございます。私どもが今回お願いしております省庁再編の法案は、その根っこに基本法があるわけでございますので、この基本法に基づいて、ただいま申し上げたような経過に従いまして、法務省の所管としておるところでございます。

○江田五月君 だから、私どもは基本法はおかしいと反対をしたのです。

 総務庁長官、ちなみに、まさか衆議院の方で民主党も去年のときに基本法に賛成したと誤解されているわけじゃないですよね。何かちょっとそのように読めるような答弁があったものですから、そこはちゃんと認識しておいてください。私どもに対して基本法もこうだったんだからあなたたちも賛成しろというふうに言われたって、我々はあのとき意見が違っているわけですから、そこは誤解のないようにお願いいたします。

 さて、ちょっと細かいことですが、文部大臣、文部省では人権教育は初中局の小学校課、それから生涯学習局の社会教育課の所管だと聞いているんですが、人権擁護推進審議会の答申案の中では、人権教育は小学校だけではなくて中学校、高等学校、大学を含めた学校教育、さらに社会教育、家庭教育にわたる広範な課題であるとされているんですが、今後とも学校教育については小学校課の所管でおやりですか。小学校を軽視する意味じゃないんですよ。いかがですか。

○国務大臣 (有馬朗人君) 現在おっしゃるように初等中等教育局の小学校課に置いてありますけれども、人権教育の重要性ということは全体の問題でございますから、初中教育だけではなく高等教育も含めて十分重要なことと認識いたしております。 それから、社会教育関係につきましては御指摘のように生涯学習局の社会教育課でやっておりますが、お互いに極めて強く連携を保っているということをまず最初に申し上げたいと思っております。

 また、今度は新しい省になりますが、その課のレベルの具体的な組織編成につきましては現在検討中でございまして、二十一世紀に向けての文部科学省の新しい姿をどうするか、課のレベルでどうするかについて今鋭意検討しております。その中で人権教育をどこがどう担当していくか、こういうことについてもさらにいい方向に向けて進んでいきたいと思っております。

○江田五月君 これはぜひ、やっぱり今の体制では文部省が力を入れているという姿は示せないと思います。

 さて、人権政策にはもう一つ重要な視点があります。それはグローバルな視点。人権擁護推進審議会の答申案には「二十一世紀は、「人権の世紀」」という記述がある。その後に「それには、二十世紀の経験を踏まえ、全人類の幸福が実現する時代にしたいという全世界の人々の願望が込められている。二十世紀においても一九四八年の世界人権宣言以来、国際連合を中心に全人類の人権の実現を目指して、様々な努力が続けられてきたが、それが一斉に開花する世紀にしたいという熱望である。」と、こういうふうに書いてあるように、人権政策には全世界的な視野、グローバルな視点が必要不可欠だと思います。

 また、平成九年七月四日に公表された「人権教育のための国連十年」に関する国内行動計画には、やはり二十一世紀は人権の世紀であり、「「人権教育」とは、「知識と技術の伝達及び態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修、普及及び広報努力」」であり、さらに平成八年五月の地域改善対策協議会意見具申の内容を引用して「人類は、「平和のないところに人権は存在し得ない」、「人権のないところに平和は存在し得ない」という大きな教訓を得た。今や、人権の尊重が平和の基礎であるということが世界の共通認識になりつつある。このような意味において、二十一世紀は 「人権の世紀」と呼ぶことができよう。」と、こういう記述もある。

 外務大臣、先ほどもちょっとお話を伺いましたからそのとおりだということになると思いますが、人権の尊重が平和の基礎であるということについて、あなたの認識は。

○国務大臣(高村正彦君) そのとおりだと思います。
 例えば、最近の例で言えばコソボの問題でも、お互いの民族がお互いに差別し合うというような人権侵害がまさに紛争になっていったということで、必ずしもマイノリティーだけが差別されたわけじゃなくてマジョリティーがやられたこともあるわけでありますが、まさに紛争のもとに人権侵害があるということは非常に実際問題としても多いと、こういうふうに思っております。

○江田五月君 平和の基礎である、平和というのは国内だけの話じゃない、世界全体のことですから、人権のことを考えるときはやはりグローバル、全世界的な視野から考えていかなきゃいけない、それはよろしいですね。

 さてそこで、世界の目から見ると、我が国の人権状況はまだまだ問題がある。外務大臣、我が国の人権状況について国連の規約人権委員会などからどのような指摘を受けているか、それに対して日本政府はどのように対応するつもりか。ちよっと質問がやや漠然で済みませんが、ちょっと短く、国連規約人権委員会からどういう指摘を受けていると認識されているか、日本政府がどう対応しようとしているか、お答えください。

○国務大臣(高村正彦君) 国内人権機構の地位と役割に関する原則によれば、国内人権機構は立法の勧告、人権に関する広報等の権限を有すること等が求められているわけでありますが、そういったいわゆるパリ原則からいっても日本の機関は問題があるのではないかというような指摘も受けております。

 ただ、これについては関係省庁において慎重に検討しているというふうに承知をしております。

○江田五月君 さすが外務大臣、私がそこへ話を持っていこうということを先にお答えになられまして、時間が省けてありがとうございます。

 法務大臣、国連からそういう指摘をされているんですが、どのように受けとめてどう対処されるおつもりですか。

○国務大臣 (陣内孝雄君) 人権に関しましては、B規約としていろいろ指摘を受けておることは承知いたしております。
 これらの問題につきましては、いろいろな立場からの論議が必要だということで、規約そのものにつきまして今いろんな形での論議をお願いしているところでございます。

○江田五月君 いろんな論議をお願いしていると言われますが、もうちょっとやっぱりスピードも必要ですよね。

 ちょっと話がぽんぽんと飛んだので、あるいは委員の皆さん、話が飛んでどうなっているのと思われるかもしれませんが、私が特に指摘しておきたいのは、一九九三年国連総会で決議をされた国家機関の地位に関する原則、その前の九二年には国連の人権委員会での決議もありますが、いわゆるパリ原則に基づく国内人権機関、いわゆるナショナルマシーナリーの設置のことでございます。

 規約人権委員会のつい先日の最終報告でもこのことが指摘をされておるということですね。人権擁護のために機能する既存の国家とは別個の公的機関で、憲法または法律を設置根拠とし、人権侵害に対する苦情処理や救済に準司法的権限を持っ独立した行政機関の設置がパリ原則で求められている。

 これについて日本政府としてどうするか。外務大臣、法務大臣、今議論をしてもらっているところだと、こういうお話ですが、私は、これはやっぱり積極的に国際社会のそういう動きというものに日本はもっと敏感に反応していかなきゃならぬと思うんですね。

 私たち民主党案では、パリ原則に基づく国内人権機関として、公正取引委員会のように、国家行政組織法の三条機関として独立した行政委員会である人権擁護委員会を内閣府に設置し、あわせて内閣府に男女共同参画人権政策推進室を設けて男女共同参画と人権関係行政に関する施策の総合調整を行うとともに、同和対策やウタリ対策等特別の施策を推進していく。もちろん、人権教育のための国連十年行動計画、国内行動計画の推進に関する本部事務局機能も担当する、こういうことにしているわけでございますが、官房長官に改めてお伺いいたします。

 基本法ではそうはなっていない、したがって基本法にのっとってつくった今度の中央省庁改革では法務省が総合調整機能だ、そこまではそれはわかりました。しかし、今後、政府として二十一世紀は人権の世紀、人権の尊重が平和の基礎だ、そういう人権政策を内閣総理大臣の直轄の形で強力に推進していく、そういう体制整備をする必要がある、そういうお考えにはなりませんか、官房長官。

○国務大臣 (野中広務君) 組織といたしましては、先ほど来累次御答弁を申し上げておるとおりでございます。

 ただ、人権教育の重要性はもう言をまたないところでございまして、我が国では、人権教育のための国連十年の趣旨を踏まえまして、関係行政機関相互の緊密な連携協力によりまして、人権教育のための国連十年に係る施策を推進いたしますために、先ほども申し上げましたように、平成七年の十二月に内閣総理大臣を本部長とする人権教育のための国連十年推進本部を閣議決定いたして内閣にこれを設置いたしますとともに、平成九年七月に人権教育のための国連十年に関する国内行動計画を決定、公表したところでございます。

 政府といたしましては、この行動計画に沿いまして、行政機関相互の緊密な連携を図りっっ、関係省庁において関連施策を推進しているところでございます。今後とも、鋭意この推進に努めてまいりたいと思うわけでございます。

 私は、もう申し上げるまでもなく、委員御承知のように、我が国で同和行政を初めとする人権問題が大きく取り上げられたのは昭和四十年の同対審の答申以来で、自来昭和四十四年同和対策事業特別措置法ができ、累次それが法律名を変えましたけれども、三年前まで継続してまいって、そしてハードな面についての事業はこれをほぼ完了することができ、残事業にっきましても一定の一般行政に移すことができ、今後は人権啓発一教育を重点にやっていくべきであるということの合意をいただいて、その上で法務省の所管にしてまいりました経緯があるわけでございますので、所管といたしましては、教育については文部省、人権啓発・救済については法務省といたしておるところでございます。

○江田五月君 パリ原則に基づく国内人権機関は既存の国の人権擁護機関を否定するものではない。現在の国の人権擁護機関といえば法務省の人権擁護局、人権擁護委員会ということになるんですが、一方で、国連の規約人権委員会では、国内の現在ある人権擁護体制について非常に鋭く批判をされておる。

 これは正訳というのではないのかもしれませんが、国連人権NGOネットワークの訳の規約人権委員会による最終見解、九八年十一月五日採択。これによると、九項ですが、委員会は、人権侵害を調査し、申立人のための是正措置をとることに役立つような制度的機構、国内人権機関が存在しないことに関して懸念を表明する。当局が権力の乱用を行わず、実際に個人の権利を尊重するということを保障する効果的な制度的機構が日本に必要とされている。委員会の見解では、人権擁護委員会はそのような機構ではない。なぜなら、法務省によって監督され、その権限は勧告を出すことに厳密に限定されてしまっているからである。委員会は、人権侵害に関する苦情申し立てを調査する独立的な機構を締約国、というのは日本、これが設立することを強く勧告する、そういう文言が採択されているんです。

 人権侵害というのは、国家権力、公権力による人権侵害というものが非常に大きな問題なんです。政府がつくった人権教育のための国連十年に関する国内行動計画の中には、特定の職業に従事する人に対する人権教育の推進という、ざあっと書いてありますね、たくさん。その中には、これはもう国家権力、国家の行政を担当しているいろんな人に個別にわたって、これにはこういう教育をということをずっと書いてある。

 ですから、それは多くが法務省の所管にあるわけでしょう。その法務省がそういうところを所管しながら、一方で人権救済についても法務省がというのではこれはだめだと。まして今、法務省は、参議院で審議が始まった盗聴法、はかり知れないプライバシー侵害という人権侵害が組織的に行われる可能性を持った法案を提案している張本人です。これは余計ですが、別のところで議論しますが。

 法務省が人権政策の総合調整機能を持って人権侵害の救済機関を監督していく、そういう議論は人権の世紀と呼ばれる二十一世紀の世界には通用しない。だから、私たちは、この人権救済関係について今度の中央省庁改革法はだめだと、こう言っているわけです。これは私の意見です。

 質問を終わります。(拍手)


1999/06/29

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