野党、一致結束して田中辞職を迫る
東京地裁は十二日、元総理の受託収賄罪を事実認定し、田中に懲役四年、追徴金五億円の実刑判決を下した。
“総理の犯罪”の嫌疑を受けただけでも「万死に値す」と語ったにもかかわらず、判決直後田中は「遠からず上級審で身の潔白が証明される」「わが国の民主主義を守り再び政治の暗黒を招かないためにも、私は断じて屈することなく一歩もひくことなく前進を続ける」と開き直り、公然と民主主義に挑戦する「所感」を発表した。
このため国民世論は激昂。また社民連を初めとする野党は一斉に、田中辞職と政治倫理確立を現政局の最優先課題とするとの方針を固める一方、自民党の中でもロ事件後当選した若手議員を中心に、田中派を除き、超派閥的に中曽根総裁に「田中元首相に対して辞職を迫るべきだ」との声が、日増しに高まってきた。
社民連など野党は街頭に出て「田中は国会議員を含む全ての公的活動から退くべきである」と訴え続けているが、こうした主張は各種世論調査でも国民の八割以上が支持している。にもかかわらず、中曽根首相は“長考一番”と政治的リーダーシップを放棄する一方で、恥知らずな「三番制」論で田中を擁護し続けている。
政治倫理の確立を求める国民世論を背景に田代表ら中道四党党首は十九日、宇佐美同盟会長の呼びかけにより都内で党首会談を行った。
この会談では、当面の政局への対応について意見の交換がなされたが、その結果、
(1)現在の政局に対しては政治倫理確立を最優先課題として断固たる態度で臨む
(2)政府・自民党の減税案は絶対に容認できるらのではない
(3)中道四党ならびに同盟は政治倫理問題と減税との一切の取り引きはしない
ということで完全な意見の一致を見た。
なお、「仮に自民党から与野党党首会談の呼びかけがあっても、野党が納得できる内容を首相が用意しなければ意味がない」と、田代表は否定的な意見を述べ、この考えが大勢を占めた。
この難局を乗り切るため政府・自民党は、“ミニ”減税(十九日)、二%の人勧実施(二十一日)など相次いで閣議決定したが、田中の議員辞職を求めて燎原の火のように燃えあがった野党や国民の声を鎮めることができず、むしろ「田中問題にけじめをつけなければ局面の打開は図れない」との意見が自民党内で表面化する結果となった。
減税法案の提出やコール西独首相、レーガン米大統領、胡中国共産党総書記の来日などが迫り、日程的にこれ以上の国会空転が許されないという窮地に陥った中曽根首相は自民党党四役と協議、
(1)政治倫理委の設置
(2)議員証言法の改正
(3)政党法の制定
などの収拾策をまとめ、党首会談などを示す意向である。
社民連を初めとする野党各党は、(1)最優先の田中決議案を棚上げにしての収拾策には応じられない、(2)衆院解散・総選挙まで中曽根内閣を追いこむということで完全に一致しており、このまま与野党すくみ合って来月十六日の会期末に至る可能性も出てきた。