2005年3月29日 | >>全文 | 戻る/ホーム/民主党文書目次 |
民主党郵政改革調査会
1.はじめに
郵政改革論議が始まった1980年代初頭当時は出口改革が焦点。出口改革は中途半端なまま今日に至る。その結果、当時と今日では、(1)出口での浪費が膨張し財政赤字が制御困難な規模にまで拡大、(2)入口の肥大化と相俟って郵貯・簡保が財政赤字の中心を成す国債を大量保有、(3)過疎化が進む地域を中心に郵政事業のネットワーク機能の重要性が一段と向上、といった状況変化が生じている。
そうした中、現在の小泉「民営化」は時代遅れの主張を展開。民主党は郵政事業を巡る環境変化を的確に認識したうえで、本来の姿に戻す「正常化」を訴えていく方針。
2.政府案の問題点
【1】株式会社化=民営化ではなく、さらなる民業圧迫が懸念される
政府出資の株式会社は官有民営であり、民営化ではない。官有民営のまま巨大な規模で金融・郵便以外の一般事業へ参入することは、民業圧迫以外の何物でもない。
【2】分社化は天下りポストの増加にすぎない
分社化は海外においても特殊な事例。分社化が成功する保証もない。
分社化によって経営幹部のポスト(役職)が増え、「郵便ポストが減って、天下りポストが増える」=「国民が困って、天下り官僚が喜ぶ」という「ポストの悲劇」を生み出す。
【3】将来の経営リスクと潜在的財政負担増
郵便、貯金、保険、窓口各社の自立が証明されていない。試算は根拠がなく信頼性が低い。
将来的な経営破綻に伴う財政負担増が顕現化する蓋然性が高い。
【4】政府案は本来の改革目的に資さない
郵政改革の目的は出口改革である。民営化すれば出口改革に資するかと言えば、実効性については何の保証もない。民営化新会社が自主的に国債を購入し続け、出口での浪費が続く可能性が高い。
【5】ユニバーサルサービスはボランティアなしではできない
中山間地の配達業務は低廉な委託料で働くボランティア的民間人で支えられている。
低採算の郵便局は閉鎖され、子供や高齢者がアクセスできる身近な窓口が失われる。
【6】郵政民営化と「小さな政府」は関係がない
郵政公社職員の人件費は事業収入で賄われており、民営化と「小さな政府」は関係がない。
民営化した場合、(1)基礎年金の国庫負担増、(2)共済年金の国庫負担増という財政負担が発生する。この点の誤認を受け、政府も公社職員を国家公務員共済から脱退させない方針に転換した。
「民営化」と言いつつ事実上の「みなし公務員制度」を導入し、「みなし公務員制度」を導入しつつ「非公務員化」と主張するのは論理矛盾。
【7】民営化・分社化とユニバーサルサービスの両方を主張する論理矛盾
政府は、ユニバーサルサービスの義務づけ、ネットワーク維持のための基金創設を検討しているが、民営化・分社化の定義とは両立しない。意味不明の改革である。
【8】新たな金融不安を招く危険性
小泉民営化は、低能力だが「暗黙の政府保証」を持つ大規模コンツェルン企業を生み出す。
成功すれば民業圧迫、失敗すれば公的資金注入による処理コストが増嵩する。
【9】外資参入の是非
小泉民営化・分社化によって、貯金会社・保険会社が外資に買収される可能性がある。外資参入の是非に関する判断材料、検討が不十分。
【10)欠けている新しいサービスの視点
現在でも郵便局は行政サービス(住民票交付等)を提供している。市町村合併が進む中、行政サービス拠点として活用するという新しいニーズは単純な小泉民営化では対応仕切れない。
【11】現実的な財政再建論の欠如
現在の国債発行残高、公社の膨大な国債保有残高を鑑みると、現実的な国債管理政策が必要。
小泉民営化では国債管理政策を巨大な民間企業に委ねることになる。一方、そうした事態を回避するために、日銀に国債直接引受けを迫る政治的リスクも高まる。
【12】変遷する政府案の主張の論拠
(1) 「入口論」
最も初期の段階(昨秋頃)には出口への資金供給ルート絞込みのための民営化論(いわゆる入口論)を主張。しかし、この論理は出口改革は終わったとする主張と矛盾。
(2) 「小さな政府」=「出口論」
出口改革が不十分という指摘に便乗し、「非公務員化=小さな政府」という論理を展開。しかし、公社職員の人件費に公費が投入されていないことから、主張の論拠を喪失。
(3) 「先細り論」
入口論、出口論も封じられ、次は公社の先細り論を展開。しかし、先細り対策のために規模面で大きなハンディを持たせたまま民営化することは、典型的な民業圧迫である。
(4) 予測される次の論拠
現状、(1)ユニバーサルサービスの維持、(2)ネットワーク維持のための基金創設(要は公的資金投入)、(3)事実上の公務員維持(郵便士資格の創設、国家公務員共済の加入維持)という内容に収斂。もはや、小泉民営化は似非民営化であり、「看板に偽りあり」ということは明々白々。
3.民主党の考え方
【1】基本的なポイント
(1) 財政は危機的状況であり、短期間かつ容易に事態を打開できるものではない。現実的な観点から国債管理政策等を運営していく必要がある。
(2) 郵政改革の目的は、民間資金を公的部門に流す役割を必要最低限に抑え、財政規律を高め、財政健全化に寄与することである。
(3) 郵政事業のうち、郵便事業は万国郵便条約に明記された基本的公共サービスであり、国が責任をもって国民にユニバーサルサービスとして提供する義務がある。但し、民間事業者の参入を妨げるものではない。
(4) 郵政事業のうち、金融事業は民業の補完としてスタートしたものであり、現在もその役割は変わっていない。
(5) 年金受給者の増加、市町村合併に伴う役所までの遠距離化など、今日的な環境変化を踏まえると、郵政事業のネットワークには合理的な範囲で新しい公的役割を担わせる時期にきている。
(6) 郵政事業の運営に過度の財政負担や非効率性が許されるものではない。そうした視点から、郵政事業の運営状況や組織形態については、不断の見直しが必要と考える。現時点においては、昨年の公社化に伴う経営改革の成果を見極める時期にあると認識している。
(7) 上記(6)に関連して、現在、公社職員の人件費には税金が投入されていないうえ、基礎年金の国庫負担分(1/3)についても公社の事業収入で賄っている点は財政負担軽減に寄与している。財政再建が喫緊の課題となっている中、今後もこうした運営が可能となるよう、不断の努力を求めていく。
(8) 上記(1)、(2)を踏まえ、当面は預入限度額の上限を引き下げ、徐々に規模縮小を図るとともに、国債管理政策の観点から現実的なソフトランディングを図るべきだと考える。具体的にはプライマリーバランス均衡までの間は、公社の経営改革の継続に加え、預入限度額の上限引き下げによる段階的規模縮小を図る。
(9) その後の郵政事業の在り方(事業内容、組織形態)については、あらゆる選択肢を否定するものではない。今後、公社の中期経営計画策定の都度、見直し作業を累次に亘って行っていく。職員の身分についても、事業・組織の変革に応じて見直されるべきであるが、公務員制度改革全体の中で検討していく。
【2】出口改革
民主党は「お金の民営化」と「直接金融への転換」を行うことが必要と考える。政府案では新会社が公的金融を続けることとなっており、「お金の入口の似非民営化」にすぎない。直接金融のウェイトを高めるなど、「お金の出口の真正民営化」が必要である。
民主党はプライマリーバランス均衡のために、既に、(1)特殊法人、独立行政法人等の徹底的廃止・合理化、(2)天下りの禁止、(3)財投債の廃止などの行財政改革プランを提示している。
【3】入口改革
入口に関して、民主党は政府・国会の関与・監視の下で、適正な規模へ段階的な縮減を図ることをマニフェストに明記している。具体的な施策として、名寄せの徹底、預入限度額の引き下げ、大都市部の特定局の転廃業促進などを想定している。
【4】新しい役割
21世紀型、日本型の小さな政府、分権による身近な行政、NPOや市民の行政参加を実現するために、公社の既存の公的ネットワークを利用するのが合理的。行政のワンストップサービスとして活用するとともに、市役所、町村役場のスリム化に繋げるような複合的解決を図る。
「官」、「民」は運営主体、「公」、「私」は対象分野の区分概念。基本的公共サービスを提供する郵政事業は、対象分野としては「公」に重きを置きつつ、「私」の一部も対象としている。そういう意味では、「官」と「民」の中間に位置する公社という経営形態は合理的な選択。
【5】経営の合理化・適正化
経営の合理化を図り、公法人としての経営の不透明性やファミリー企業との癒着などの批判を自らの努力によって払拭しなければならない。
小泉民営化は、ファミリー企業の創設・保有や取引についての自由度が増すため、監視や見直しが十分にできなくなる危険性がある。
今後は、定期的な(4〜5年ごとの)中期経営計画策定時に不断の見直しを行い、将来については、あらゆる選択肢を否定せず、多様な改革案を適時適切に実行していく。
4.おわりに
小泉民営化は、郵政事業、とりわけ金融事業を民間金融機関と競争させることを目的としている。この場合、郵政事業は民間金融機関を「補完」するものではなく、「代替」する存在となる。郵政事業はいつから「補完」から「代替」に目的が変質したのか。
「民」の資金を浪費する「官」の出口改革を断行するとともに、郵政事業を本来の姿に戻す「正常化」こそ、今求められている改革である。
小泉民営化はシステム統合のフィージビリティについて懸念がある。拙速な対応を強行し、将来混乱を招いた場合には、関係者の責任が厳しく追及されなければならない。以上
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