2000年6月26日 |
民主党代表鳩山由紀夫殿
〔2000年総選挙での民主党の勝敗の判断について〕
さる6月25日、あなたは総選挙の結果について、「民主党が大躍進した」とコメントされました。たしかに民主党の議席は増えましたが、「躍進」と勝敗とは別物です。
民主党が総選挙にあたって目標とされたのは、自公保連立政権を過半数割れに追い込んで、「政治を変える」ことでした。少なくとも、民主党は選挙に臨んで、国民にそのように表明されました。
選挙前に比べて、確かに民主党の議席は増加し、与党連合の議席数は減少しました。しかし連立与党は現実に安定多数を確保しました。
民主党が国民に対して示した戦略目標は明らかに達成されていません。従って、民主党にとっての今回の総選挙の結果は、勝利ではなく敗北、しかも惨敗であると評価されなければなりません。
〔惨敗と評価する根拠について〕
私が民主党が総選挙で惨敗したと評価するのは、単に所期の戦略目標を達成できなかったからではありません。戦術さえ正しければ民主党は勝利できた、すなわち「連立政権の打倒」という戦略目標を達成できたはずだと信じるからです。
〔民主党の戦術の誤りについて〕
民主党の失敗の原因について、種々の論評がされていますが、その大半は末節にすぎません。民主党の最大の失策は、現在の小選挙区制度に適応した組織づくりをしなかったことにあります。
〔労働組合組織に頼る選対システムの失敗について〕
大都市圏はどうか知りませんが、地方の選挙区では、各選挙区の選対システムそのものが、大単産の労働組合組織に頼った形で行われていました。各選挙区内の学区単位の支部選対づくりは、全く行われていないか、非常に疎かにされていました。候補者はまず労組巡りを強いられ、各労組組織において公的な推薦決定が得られない限り個々の組合員に対して働きかけることが事実上できませんでした。
支持者リストは全ての選挙活動の基本となるべき情報ですが、最終盤に至るまで総合的なものがなく、選対の主力となる労組やその系列の地方議会議員から得られる情報に限定されていました。労組組織は就労場所においてだけ機能しており、個々の組合員の住所地では機能していませんから、労組組織を基礎にして地区選対システムを編成していくことはできませんでした。
それらの結果、優れた候補者を擁していた選挙区にあっても、個々の地域への浸透が致命的なまでに遅れ、その結果、本来ならば獲得できていたはずの票数を得ることができませんでした。
このことは、地方で民主党が勝利できた小選挙区が非常に少ない、という結果に直結しました。その結果、小選挙区の圧倒的多数は自民党がおさえることとなり、自民党の議席を大きく減らすことができなかったのです。
〔労働組合組織に頼る選対システムが小選挙区制度に適応できないことについて〕
労組組織を基礎とした選対システムは、かつて行われていた中選挙区制度、すなわち、4〜5名の定員の選挙区で一定数の当選者を得ることを戦略目標とする選挙対策に適応した(というよりもむしろ、過適応した)システムです。
ずっと狭い範囲の選挙区で相対最多数の得票をしなければならない、現行の小選挙区制度には全く適応していません。労組の組合員は、各々住所は別にあり、それらは広範囲に分散していて住所地単位の「団結」をするようには組織そのものができあがっておらず、しかも場合によっては選挙区そのものが分散しています。
ある労組の構成員は、自分の家の数十m先に別の労組の構成員がいてもそれと知らないのです。そして、労組員は多くの場合、地域の活動には全く関与していないのです。
このような性質の組織を基本にして組織された選対システムが、小選挙区制度の下で有効に機能するはずがなく、現にそれは機能しなかったのです。
〔労働組合組織に頼る選対システムが小選挙区・比例代表併用制度に適応できないことについて〕
民主党は、今回の総選挙にあたって、基本的に小選挙区立候補者を比例区立候補者と重複させ、かつ各比例区候補者の間の順位を一律にする、という戦術を採用されました。このことの(いわゆるゾンビ当選者を生むことによる)倫理的是非は別のこととして、労組組織に頼る選対システムは、この戦術に適応しませんでした。
多くの地方では、民主党が自民党に比べて劣勢にあったことは厳然たる事実でしたから、各選対の努力は惜敗率を上げることに集中される傾向があり、現実的な競争相手は同選挙区の自民党候補者ではなく隣の選挙区の自党候補者である、ということになりました。そして、労組組織を基本として選対システムが編成されていた結果、○○区の選対を担当する労組が隣の××区の自党候補者の得票数を増やすためには甚だ貧弱な努力しかしない、という結果を生みました。
〔労働組合組織に頼る選対システムしか採用できなかった原因について〕
民主党の選対システムが労組組織を基礎として編成されざるをえなかった最大の原因は、民主党が地域支部を組織する日常的な努力を怠っていたことにあります。
小選挙区制度のもとで機能する選対システムとしては、最大限でも小学校区を単位とする支部選対を機能させなければなりません。そのためには、選挙間の時期を利用して地域単位での政党組織を編成し、それが選挙の際に機能しうる状態に置いておくべきでした。
前回の総選挙から今日に至るまでには3年余りの時間があったのですから、民主党の努力次第、否、努力の方向次第ではそれは可能であったはずでした。自民党は現にそれに成功しています。民主党は自民党を停滞と腐敗の代表として批判されますが、政策面はさておき、こと政党・選対組織の面においては、民主党は自民党以上に停滞し腐敗した状態にあります。
〔民主党が今後採用すべき方針について〕
今回の選挙で民主党が惨敗した原因は以上のとおり明らかですから、民主党はその失策を冷静に分析し、次回の選挙に備えて根本的なシステムの再編成を行わなければなりません。次回の総選挙が現行の小選挙区・比例代表併用制度下で行われるのではないという保障は全くなく、かつ、現行制度下で自民党に代わって政権をとるには過半数の小選挙区で勝利することが絶対の条件であることは明白ですから、民主党は直ちに、現行の小選挙区制度に適応した地域支部システムの編成に着手すべきです。
すなわち、小学校区単位ごとに有効に機能する党支部システムを組織するとともに、民主党支持者全体を統合した支持者情報を(個々の議員ではなく)党自身が把握すべきです。
この努力を怠ったままでいる限りは、民主党はいつまでたっても労組依存の体質から脱却することができず、かつての社会党と同様に、20〜30%政党の座に甘んじなければならないでしょう。
〔新方針に対する抵抗の可能性について〕
組織再編成の努力に対する労働組合/連合サイドからの抵抗は無論予測できますが、それは全く恐るるに足りません。なぜなら、連合は現在民主党を支持していますが、民主党の組織構築の手法が気に入らないからといって、連合が支持対象を転換できる代替政党が現実に存在しないからです。唯一考えられ得るのは社民党ですが、同党は現在国会内での勢力が非常に小さいので、民主党が政策面で連合サイドと協調している限り、連合が社民党に全面的に支持を転換することは考えられません。
議員個人の抵抗も予想されますが、これまた恐るるに足りません。再編成は現在の選挙制度を前提とする限り、きわめて合理的かつまっとうな要請であることは誰も正面から否定することはできませんし、有力な議員ほど自分が選挙区支部の一般支持者から直接に支えられているという自信をもっているはずですから、再編成に対する議員の抵抗は初めは強いように見えても、次第に鎮静化するでしょう。しかも、彼らは次回の選挙のことが気になるので党を離れることはできません。
また、あなたに対する国民的人気と、現実にあなたに代わる代表者の選択肢を現実に持っていないことから、あなたを厄介払いすることもできません。あなたが、正当な論理と党の一般支持者の支持に根拠を置き、かつ障害を排除するための手段を誤ることがなければ、党組織の改革は必ず実現することができるはずです。
〔民主党の国民に対する義務について〕
国民は、選挙を通じて、国政の方向を自ら決定することができなければなりません。野党第一党である民主党には、国民が変革を欲したときに、与党を選挙で破って政権をとる能力を持つべき義務があります。
今回の選挙はその絶好の機会であったにもかかわらず、民主党はその能力を国民に対して示すことができなかったために、過半数の小選挙区で相対多数の得票をするだけの支持を、国民から得ることができなかったのです。このことの責任は国民にではなく、国民の支持を引きつけることができなかった民主党自身にあります。
小選挙区に適応できるシステム構築を怠った民主党が、現内閣を支持しない80%の国民の期待を裏切るとともに、党自身が罰を被ったのです。
いま、民主党代表であるあなたには、次回の総選挙で自民党に勝利できるだけの党組織を構築する責任があります。その責任は、あなたと民主党とが、国民に対して負っている責任です。あなたが今回の選挙の結果を正しく評価されて、国民に対する重責を果たされることを願ってやみません。
不承不承ながらいまだに民主党を支持する者の一人である、(有)立浪機化
2000年6月26日 |