2001/02/16

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平成13年(て)第10号、第11号 裁判官古川龍一忌避申立事件決定要旨

            主     文
       本件忌避申立てを認容する

            理     由

 検討するに、刑事訴訟法21条所定の忌避理由である「不公平な裁判をするおそれ」とは、裁判官がその担当する事件の当事者と特別な関係にあるとか、訴訟手続外においてすでに事件につき一定の判断を形成しているとかの、当該事件の手続外の要因により、当該裁判官によっては、その事件について公平で客観性のある審判を期待することができない場合をいう(最高裁判所昭和48年10月8日決定・刑集27巻9号1415頁)。

 これを本件についてみるに、現在まで新聞報道等で公にされているところによると、確実な事実として、福岡高等裁判所第二刑事部裁判官古川龍一は、生活を一にする妻が、所轄警察署から、電話交際していた男性の新たな交際相手の女性に対する脅迫等の容疑で内密で捜査対象となっているなか、平成12年12月28日福岡地方検察庁次席検事から、「警告」ということで妻が捜査対象となっているとの情報を得ていること、妻は、平成13年1月31日脅迫容疑で逮捕され、現在拘留中であること、これら被疑事件の検察庁における捜査指揮は、同年2月5日、上記次席検事から替わって、福岡高等検察庁刑事部長が行うことになったこと、が認められる。

 以上の事実によると、裁判官古川龍一は、福岡地方検察庁の次席検事から妻の脅迫等被疑事件に関する上記の情報を得ることにより、この事件がいわゆる破廉恥犯罪に当たるうえ、特異な不名誉な性格のものであることから、妻の逮捕及び訴追の有無等捜査の帰趨に直接的に強い利害関係を有するに至ったものと認められまた、上記次席検事の情報提供が被疑者の夫が裁判官であることによる異例の措置であることも認識したものと考えられ、検察庁に対し、いわば「負い目」を負ったものと解される。しかも、その後脅迫等被疑事件の捜査指揮の権限が福岡高等検察庁に移ってからは、妻の起訴・不起訴等のいわゆる生殺与奪の権限を直接同検察庁が握るようになったものであるから、そのような事情のもとにおいては、古川裁判官は、例え本件の事件が妻の脅迫等被疑事件と全く関係がないものとしても、客観的にみて、同検察庁刑事部所属の検察官が立会している本件事件において、検察官に対し中立の立場を保持し、公平な処理を期待することは困難な状況にあるといわざるを得ない。そうすると、同裁判官については、担当する事件の当事者と特別な関係にある場合に準ずるものとして、当該事件の手続外の要因により公平で客観性のある審判を期待することができず、「不公平な裁判をするおそれ」があるものと認めるのが相当である。

 よって、本件忌避申立ては理由があるので、主文のとおり決定する。

     平成13年2月16日
        福岡高等裁判所第一刑事部


2001/02/16

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