1961/01/31

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38 参議院・本会議


○江田三郎君 私は、日本社会党を代表いたしまして、総選挙後最初のこの通常国会にあたり、池田首相の所信をただしたいと思います。

 まず第一は、昨年五月十九日以来失われた議会の権威をどうやって回復するかであります。議会政治が権威を保つための第一の条件は、選挙が正しく行なわれることであります。私は、選挙中の三党首討論会におきまして、悪質な買収事犯の明らかなものは、司直のさばきを待つまでもなく、進んで党として処断しようではないかと提唱いたしましたが、残念なことに、池田首相からは、自分個人の選挙は公明選挙だという、答えにならない答えを聞かされただけであります。すでに幾人かの当選議員が悪質買収事犯として取り調べを受け、中には、過去の選挙において選挙取り締まりの先頭に立った経歴の者もありまして、国民をあぜんとさせているのであります。(拍手)首相は、国民が議会政治にどんな不信感を持とうと、何年かかるかわからない裁判の確定まで手をこまねいて見ておられるのかどうか。また、こうした事態の根本解決のため、金のかからぬように選挙法を改正せよということは、強い世論となっております。首相の頼みとする財界にあっても、経済同友会が経済再建懇談会解散を提唱いたしております。すでに審議会の答申は出ており、直ちに木国会において、このことだけでも法律改正をすべきであります。必要なことは、あらためて審議会を作ることではなく、池田首相の決意であります。(拍手)正しい選挙のためには、人口数に比例するよう定数を改正することも必要でありますが、とりあえず、金のかからない、金の使えないための改正を行なうべきであります。首相は、最近、自民党を近代的組織政党に脱皮させると言明されました。われわれは、このことが、から手形に終わらないことを期待するものであり、同時にその第一の試金石は選挙法改正であると考えて、首相の所信を承りたいのであります。

 国会が権威を保つため第二に必要なことは、国会と国民の間にパイプが通るということであり、野党の主張が正しく反映されるということであります。首相は野党に対して寛容と忍耐で臨むと言われますが、さきの臨時国会の清瀬議長選挙を振り返ってみれば、首相の寛容と忍耐ということは、あらかじめ結論をきめておいて、ただ若干の時間を野党に与えるということに尽きているのでありまして、単なる議会運営のテクニックにすぎないのであります。議会政治の正しいあり方は、審議の内容が結論を左右することであり、動かさない結論をきめておいて見せかけの審議をすることではないのであります。(拍手)この点について首相のお答えをいただきたい。

 次に、私は、日本の平和と繁栄のため、外交についての所信を伺いたいのであります。

 池田内閣は岸内閣の新安保条約を受け継いだのでありまして、本年は条約実施の第一年目であります。新安保条約の骨格は、第一にはアメリカと結んでの共産圏との力の対決、第二には日米経済協力であります。しかし、最近の世界の動きは一体どうなのか、お互いに冷静に判断しなければなりません。昨年末から今年にかけてのラオスに起こった事態は、まさに一触即発の危機を示し、アメリカは反共政権支持のために積極的な武力行使をもあえて辞せない方向をとろうといたしましたが、平和を求める世界各国の動きに牽制されて、ケネディ大統領はラオスの中立化を求める方向に大きく転換いたしました。ラオスは第二の朝鮮半島にならなかったのであります。イギリス、インドを初め、世界の各国は、平和の道を切り開くために、多方面に触手を伸ばし、機を失わない敏速な行動をとったのであります。翻って、日本の政府は一体何をしたのか。ラオスが不幸にいたしまして第二の朝鮮となれば、新安保条約によって、日本にあるアメリカの軍事基地は作戦基地となり、日本は戦争の共犯者となる危険性を持つのであります。新安保条約によって日本の危機は倍増されているのであります。イギリスよりも、どこよりも深い関係を持つ日本の政府は、ただ事態を傍観しておったのか。政府は、基地使用について、アメリカとどのような交渉を行なったのか。ラオスの両軍は、ともに日本製の軍服を着て、ともに日本製の弾丸を撃ち合っていると伝えられており、戦争をおそれる国民の不安にこたえて、以上の点を明らかにしていただきたいのであります。

 今や、戦争はだれの利益にもならないばかりか、人類が共に滅びる危険を持つことが明らかになりました。ケネディ政権の門出にRB47の乗員釈放が行なわれましたことは、一九六〇年代の第二年目の出発にあたって最も象徴的なできごとでございます。まさに六一年のニュー・フロンティアは平和共存の開拓にあるのであります。歴史の舞台は大きく回っており、いつまでも昔の歌を繰り返しているときではございません。

 しかし、平和はひとりでやってくるのではございません。戦争の危険性はどこにもころがっており、平和共存を世界の大道とするためには、人類のすべてが、どんなささいなことをもゆるがせにしない努力を重ねなければなりません。他国の指導者に頼み切るのではなくて、たとえ小さくとも、われわれにできることを積み重ねなければなりません。このことは、戦争放棄の憲法を持つ日本が世界の平和のために果たさなければならない光栄ある務めでございます。(拍手)池田首相は、この平和への責任を、アメリカの力をかり、その意向に沿わなければ果たし得ないとされているようでございます。われわれは、そうではなく、アメリカの軍事勢力と一体になった新安保条約こそ、日本を取り巻く国際緊張を高めており、憲法の精神に逆行していると確信いたすものであります。(拍手)しかし、かりに池田首相の立場に立つとしても、あなたまかせではなく、冷戦の一方の当事者であるアメリカを平和共存の方向に大きく引きずる決意と行動が伴わなければ、平和憲法に忠実な態度とは言えないはずであります。少なくとも極東の緊張緩和、そのための日中国交回復のためには、日本が進んで新しい条件を生み出さなければならないはずであります。このことがない限り、大国でないばかりか、独立国とも言えないのであります。(拍手)首相は、国連を重視し、日本の国連代表陣を強化されると言いまするが、独自の方針を持たない者が何人ふやされても、何の意味もないことであります。(拍手)

 池田首相は、中国との懸案解決について、気象と郵便の協定には用意があるが、政府間貿易協定については承認とつながるために踏み切れないと言明をされました。しかし、今や中国の国連加盟は時間の問題と言われ、ケネディ政権の外交担当者の見解も同様であります。何ゆえ承認につながることをおそれられるのか、その理由をお聞きしたい。また、同じく政府間協定でありながら、気象と郵便と貿易とではどれだけ本質的な違いがあるのか、また、臨時国会で言明された気象や郵便についての政府間協定に、具体的にどういう折衝なり努力をされたのかを明らかにしていただきたいのであります。

 中国問題について首相がアメリカ待ちの態度をとられるのは、現在の日本の貿易構造において、アメリカの持つ比重があまりに大きいからだと思いますが、一本の柱に寄りかかる貿易構造そのものが日本の地位を不安定にしているのでありまして、アメリカ、西欧、共産圏、AAグループというように、柱の数をふやすことが、安定した貿易構造なのであります。しかも、今後の共産圏貿易は大きく拡大する見込みであり、アメリカのドル防衛措置が強行される今日、中国との貿易を軌道に乗せることは緊急の課題となってきたのであり、私は、国民大多数の意向もここにあることは間違いないと思うのであります。昨日の衆議院における加藤質問に対する首相の答弁からしても、われわれは、池田首相にわれわれの中立主義外交を直ちに理解してもらうことの困難なことを知っております。しかし、中国との政府間貿易協定だけなら、今日の平和共存の大勢の中で、対米関係を悪化させるはずはないと思うのであります。これを直ちに対米関係の悪化と考えるのは、自民党の長い間のアメリカに対する伝統的コンプレックスの表われだと思うのであります。(拍手)さらに忘れてならないことは、中国との国交を回復することは、さきの戦争で中国人民に、はかり知れない損害を与えた日本国民として、一日も早く果たさなければならない道義的責任があるということであります。(拍手)また、これによってアジアの緊張をゆるめることは、アジアの日本として、世界の平和のために背負った責任でもあります。こうした点について首相の見解を承りたいのであります。

 政府は、中国との問題には足踏みをしながらも、韓国との国交回復には大きな熱意を示しているようであります。一体、日韓交渉はどこまで進展しているのか。政府は、韓国の政権を安定した政権と認めて、長期の借款を与えるのかどうか。このことがNEATO結成につながるという見方も流れておりますが、首相は、将来、NEATO結成の意思があるのかどうか。われわれは、朝鮮半島の事態は、まさにラオスの事態と似通った状態にあり、真の安定は南北朝鮮が中立国として統一されることにあると考えます。中立を求める声は韓国内部にも高まっており、今、日本が韓国とだけ国交を回復することは、悲しむべき分裂の事態を固定化させ、朝鮮民族の半分を敵に回すことにほかならないと思うのであります。最近北鮮側から三千万ポンドの貿易の申し出がありましたが、現在北鮮貿易は、わざわざ香港を経由するという世界にも例のない不自然な形をとっているのであります。われわれは一方的な日韓交渉に深入りするのではなくて、当面、南北それぞれと政府間貿易協定を締結して、一歩前進すべきものと思うのでございまして、この点、首相の見解を承りたいのであります。

 次にお尋ねしたいのは経済政策についてであります。ことしは、池田内閣にとって経済の高度成長政策の第一年目でありますが、この政策の出発は、新安保条約第二条による日米経済協力強化を背景としたのであります。ドル防衛の措置が強力に行なわれるようになった今日、私は、条件は出発のときとは異なっていると思います。従って、当然この高度経済成長政策は改定されなければならぬと思うのであります。それとも、首相はこのことあるを予想して計画を立てたのか、あるいは影響はないというのか、この点を明確にしていただきたい。

 もし、何ら影響されることがないというのであれば、池田内閣の三つの柱である公共事業投資と減税と社会保障は、それぞれ当初の構想と変化はないのか。首相は、総選挙前、税の自然増収を二千五百億円と見込んで、一千億減税を唱えられました。ところが、自然増収は四千億円と大幅に引き上げられたにかかわらず、減税は、ガソリン税の増収を差し引くと、わずかに六百二十一億円であります。国民所得に対比しての税負担も、税制調査会答申の二〇%をこえ、昨年度の負担をもこえ、二一%近くなったこの事実を、公約通りの減税を行なったと言われるのかどうか承りたい。

 さらに社会保障の面は一体どうか。なるほど社会保障関係費の総額は増額されましたし、生活保護基準も一八%引き上げられました。しかし忘れてならないことは、今日一般世帯の生活水準に比べて、被保護世帯の生活水準はわずかに三九・七%という事実であります。池田首相は、昨年秋、食えない生活保護は憲法違反だとして、政府が裁判に敗れたことを忘れてはおられないと思うのであります。われわれは、保護基準の五割引き上げを主張し、厚生省でも最少限二六%の引き上げを主張したのに対し、予算ではわずか一八%であります。この諸君には減税の恩典はありません。あるのはこれからの物価の引き上げであります。また、社会保障の名によって新たに始まる国民年金の掛金であります、社会保障の名によって医療費の引き上げられたことに伴う健康保険掛金の引き上げであります。一八%はどこかにすっ飛んでしまい、一そうの生活の苦しみが始まるのであります。ケネディ大統領は、ドル防衛の苦しい中から、就任後の施策第一号として、貧困階級への食糧増配を断行いたしました。池田首相は、空前の満腹予算の中で、貧しい同胞に生活苦を与えるのであります。また、被保護世帯とのボーダー・ラインにある人々は、いささかも与えられるところなく、もっぱら奪い取られるのであります。まさに昭和の残酷物語というほかはございません。(拍手)多くの国民が要求している国民年金の改善も、何ら手を打とうとはされておりません。首相は、日本は大国であると言われますが、大国であるためには、国民全体のつり合いがとれていなければならないはずでありまして、その政治は、最後の人々に常にあたたかい手が差し伸べられていなければなりません。首相は、今後公聴会など広く世論を聞いて、この社会保障の内容を改める気にはならないのか。一たんきめた以上は、与党の多数の力にものをいわせて、強引に押し通そうと言われるのか。もしそうであれば、話し合いの政治とは一体どういうことなのかを聞きたい。総選挙における自民党の得票率は全体の六割であります。四割の野党の声、国民の声は、実質的に何ら顧みられないのがこれまでのあり方でございましたが、私は、これはどこか大きな間違いがあると思うのであります。話し合いの政治を唱えられた首相としては、また同時に党の総裁としては、何かこれまでと違った態度がなければならぬと信ずるのであり、お答えを願いたいのであります。

 私は、この政府予算は、当初高度経済成長を立案したときとは内容が大きく違っていると思うのであります。すなわち、予想しなかったドル防衛に直面して、輸出の伸びによる需要増大が狂ったために、その埋め合わせを国内需要に求めて、このために減税や社会保障に回す額を大きく削って、公共事業投資に振り向けたと思うのであります。しかも、それだけではなお成長の裏づけに不足をして、公共料金の引き上げを行なったのでありますが、今日満員電車に乗せながらの国鉄運賃の値上げには、国民ひとしく腹を立てております。(拍手)これは、事業拡張資金であり、当然政府出資なり借入金でまかなうべきでありまして、国民は、高度成長政策の恩恵を受けるのではなく、そのしわ寄せを受けるのであります。しかも、との料金値上げは必ず他に波及せずにはおきません。私鉄もガスも電力も、競って値上げ競争を展開するでありましょう。首相は消費者物価は下がっていると言われますが、家庭の主婦は毎日違った感じで台所生活を送っているのであり、首相自身も、資本家の別荘に自動車を飛ばす道すがら、小田原のかまぼこが十円上がったことにびっくりされたはずであります。数字の魔術というものはいいかげんにしていただきたいと思うのであります。首相は、もし年間の消費者物価水準を、企画庁が案として出した一・一%、私たちはこの一・一%の引き上げにも反対でございますが、かりに企画庁案の一・一%を上回った消費者物価の引き上げがあったときには、いかなる政治的責任をとられるのか、明らかにしていただきたい。(拍手)

 その上、さらに金利の引き下げまで行なうのでありますから、景気は過熱にならざるを得ません。西欧の景気は下半期下降に向かい、アメリカの不況回復は長引くと見られております。きのうのケネディ大統領の教書を見ましても、アメリカの経済危機がいかに深いかを示しており、この点に関する首相及び政府の見解の甘さを物語っていると思うのであります。しかも、アメリカのドル防衛により、世界の貿易競争は激化し、日本の貿易収入は、首相の言われるような特需の一億二千万ドルの減少ではなく、もっと深刻であり、すでに最近の輸出貿易が下降線にあることが、最近の通産省発表ではっきりとしているのでありますが、首相はこれを一体どう見るのか。われわれの見解では、日本の景気は過熱であり、国際経済の動向とはすれ違いであり、やがて経済政策は設備投資過大による大きな破綻を来たさざるを得ないと信ずるのであります。このとき、破綻を打開するために残されたただ一つの道は公債発行だけとなるのでありますが、首相は、将来、少なくとも今明年の間、公債発行は行なわないと言明できるのかどうかをただしたいのでございます。

 このように見ていきますならば、本予算は明らかに独占の強化のためのものであり、さらにつけ加えられるのは、日米経済協力の名のもとにアメリカのドル防衛に協力する予算でもあります。すなわち、貿易自由化を押しつけられ、軍備の予算をふやし、やがてはアメリカにかわって韓国に借款を与え、ガリオア、エロアの返済を始めようとし、ドル防衛への積極的協力の方向が現われた予算でございます。これらの犠牲は広く国民にかぶせられ、二重構造と所得の格差は一そう広がるのが必至であります。これをわれわれは新安保体制と呼ぶのであります。世界の外交の方向も、アメリカの経済の実態も、安保改定の当時とは大きく変わっているにもかかわらず、池田首相は、情勢の変化に目をつぶって、イノシシのように突進しておられるのであります。首相は、経済のことはこの池田にまかせよと、こう言われます。しかし、池田首相は、かつて一千億減税、一千億施策の失敗の経験を味わった人であります。昔のことだけではございません。過ぐる臨時国会には、第二次補正は組まないと言明をされながら、今回四百億をこえる補正を出そうとしておられるのは、無責任というか、見通しがきかないというか、とうていこの池田首相にだけはまかしておけないと言わざるを得ないのであります。(拍手)われわれは、もう一度誤りを重ねようとせられるその池田首相に声を大きくして警告するものであります。しかも、この失敗の重荷の全部は、労働者、農民、中小企業者に転嫁されるのが必至であるだけに、われわれは、単に警告するだけではなくて、この方向に大きく抵抗する国民運動を展開し、強く政策転換を求めるものであります。

 次に、私は、こうした犠牲者の中で今日最も大きな不安にさらされている農村の問題について、首相の見解をただしたいと思います。首相の農業人口六割削減論に対しては、おそらく、農業を軽視するのではなくて、行き詰まった農業を採算のとれる農業に再編成するのが真意だと弁明されるでしょう。そのためには、農業基本法も用意したし、農林予算も大幅にふやしたと言うでございましょう。しかし、われわれは逆に、政府の農業基本法や農林予算そのものが農業軽視であることを指摘せざるを得ないのであります。(拍手)
 まず第一に、農林省の農業基本法草案は、その目的として、「農民と他産業従事者との所得の均衡」という点を取り上げておりますが、この他産業従事者というのは具体的に何をさすのか。基本問題調査会の答申では、「都市的要素を除いた農村地域の勤労者」となっておりまして、このことは、農民の所得を農村の低水準に固定することになるのであります。われわれは、農村と都市との生活文化水準の格差をなくすることを明確な目標にしなければならず、均衡の対象は都市労働者でなければならぬと考えるのであります。首相の考え方からいたしますならば、この目標達成のためには、まず農業の経営規模が大きくならなくてはならず、そのために、第二次、第三次産業が発展して、農村人口を吸収するというのでありましょうが、最近の高度経済成長により、村の若い労働力が他産業に流れていることは事実でありますが、他面、農家戸数が減っていないということも事実であります。このことは、これらの労働力が主として臨時工や社外工という低賃金労働者なのであり、その収入だけでは家族を養うことができない、農業という副収入を手放すことができないということであります。これでは日本農業の経営規模の拡大には役立たないし、また、このような副業農業は、若い働き手を欠いたおくれた経営内容でありまして、農業全体の生産性の向上に足かせとなって、ただいたずらに低賃金の温床を固めることにしかならないのであります。(拍手)

 農業基本法が第二に目標としているのは、経営の近代化であり、農林省の構想では一町五反以上の農家を近代生産に向上させようというのでありますが、一体、一町五反や二町歩の農家の経営をどう近代化してみたところで、今後の国際農業との競争にどうやって立ち向かうというのでありましょう、国際競争に耐える近代化は大型機械を中心とした共同化以外にはあり得ないのであります。農林省の基本法草案は、依然として自作農主義に閉じこもって、共同化の道をとろうとはしない、協業という消極的な態度しか上っておらないのでありまして、これは農業の発展を指向するのではなくて、農村の古い思想を温存して保守党の基盤を守ろうとするにほかならないのであります。(拍手)共同化によってこそ、第二種兼業農家の副業的農業をも近代経営のワクの中に入れ込んで、日本農業全体を前進さすことができるのであります。

 さらに、このようにして経営が近代化したところで、どういう価格が保障されるかということが問題であり、この点からして一番重要なことは、農畜産物の貿易自由化をどういうテンポで行なうのか、主要農畜産物についてどのような価格支持政策をとるのか、すなわち生産費及び所得保障方式でいくのかどうかという点でありまして、この点の首相のお考えを承りたい。農民の多くは、今回の麦に対する措置からして、近い将来、米はどうなるのかという不安を持っており、同時に、選択拡大とか何とかいっても、貿易自由化になれば息の根をとめられるのだという、前途に希望のない毎日を送っているのであります。池田首相の農村人口政策というものは、農民をこのような絶望状態に追い込んで、当てもなく都会に追い立てようとするのかどうかをお尋ねしたいのであります。農林予算がどのように増大されましても、基本方向が正しく設定されないでは、ただいたずらに四百をこえる補助金団体のボスを育成するだけのことに終わりまして、自民党の農村支配網の確立にはなっても、農民の幸福にはならないのであります。(拍手)

 最後に、私が今まで質問をして参りました議会政治の民主化、選挙法の改正、平和中立の外交、社会保障を初め生活向上の問題、あるいは共同化による農業の立て直しなど、これらのすべてのことは、憲法を尊重し、憲法を完全に実施するかどうかにかかっているのであります。国の政治にとって何が大切なことか、何が価値のあるものなのか、経済政策はだれのためのものなのか、幸福とは何かということが、絶えず追求されなければなりません。われわれは特別に変わったことを申しておるのではないのであります。今の日本国憲法の中身を完全に誠実に実行しようというのであります。池田首相はこの憲法をどうしようとされておられるのか。文部大臣のILO発言などを聞きますというと、憲法の保障する労働者の諸権利に対して、まさに戦前的な感覚しか持ち合わせないことを露呈したものでありまして、(拍手)国民の多くに不安を与えているのであります。池田首相の国政に処する基本的姿勢の表明を求めて、一応私の質問を終わるものであります。(拍手)


○国務大臣(池田勇人君) お答え申し上げます。
 御質問の第一点の選挙の公明でございまするが、民主主義を完全に打ち立てていきます場合におきまして、公正な選挙が行なわれることは当然でございます。私は選挙法の改正につきましていろいろ考えております。従来、調査会によりまして答申が出、これを与野党で審議いたしましても、なかなか結論に達しないのであります。私は、新たに相当権威のある調査会を早急に設けまして、そうしてその結論によって、できるだけ早い機会に改正をいたしたいと考えておるのであります。

 なお、寛容と忍耐についてでございまするが、私は、政治につきましては、与野党と議会運営につきましては十分話し合いをしていかなければなりません。また、政策につきましても、私は国会において十分論議していただきたいと思うのであります。従いまして、予算案その他の法案につきましては、野党の御批判を十分喜んで受けるのであります。その結果におきまして、私は修正する必要があるならば国会で修正なさることに反対するものではございません。

 次に、ラオスの状態でございまするが、関係各国の努力によりまして、私は御心配のような事態は起こらないものと認めております。また、従来ともそういう方向で関係国と協議をし、できるだけの努力をいたしておるのであります。

 なお、中共との政府間貿易でございまするが、私はこの政府間貿易が中共承認になるようにとられることはただいまの情勢としてとれない。従いまして、私は今まで通りの積み重ね方式で行って、世界の情勢を見ながら適当な措置をとっていきたいと考えておるのであります。

 次に、韓国に対しての問題でございまするが、わが国といたしましては、一衣帯水の間でございますので、韓国と国交の平常化をしていきたいと考えております。なお、お話の韓国への借款とか、あるいはSEATOへの参加、こういうことは考えておりません。(「NEATOだ」と呼ぶ者あり)

 次に、経済問題でございまするが、高度成長とドル防衛の関係につきましてお話し申し上げます。私は、日本が高度成長をいたしまするには、貿易・為替の自由化が絶対必要であると数年前からその考えで進んでおったのでございます。しかもまた、世界の経済の伸展に、アメリカがドルを持ち過ぎておるということも世間でいわれておったのであります。だんだん私の予想通り、また各国民が期待しておりまするように、アメリカの世界経済における地位はドルの減少によりましてだんだん低くなり、西欧並びに日本の国際的な力が強くなってきたのであります。しかして、今回のドル防衛につきまして、私は高度成長を変える考えはないのであります。変えなくても、昨日申し上げました通り、われわれが貿易の伸長をはかっていくならば、また国内の生産態勢を指導強化していくならば、これを克服できると考えておるのであります。

 また、税の自然増収でございまするが、さきの国会におきまして、大体千五百億をこえる自然増収を見ました。しかし、あのときも申しておりましたごとく、年末における法人税の収入、あるいは年末の賞与、あるいは間接税収入によりまして、今のところはこれが適正でございまするが、将来はまだわかりませんと答えておいたのであります。従いまして、一月の状況におきましては、相当の予想外の自然増収が出ましたから、適当な措置を講じたのであります。

 また、社会保障の関係でございまするが、お話の通り、私は今で十分とは思いません。しかし、減税につきましては、調査会の答申通り、平年度千二百億円程度、初年度、所得税、法人税で九百二十五億円程度の減税をいたしたのであります。大体予定通りの減税をいたしておるのであります。しこうして、社会保障制度あるいは公共事業につきましては、経済の伸び、また、今の状況から考えまして、私が当初考えておった以上に社会保障費は予算を計上することができたことを申し上げておきます。まだこれでも十分ではないということは先ほど申し上げた通りでございます。

 次に、消費者物価の問題でございまするが、企画庁の調査は大体妥当なものと思います。われわれは、今後物価政策におきまして、あの線を守るように努力していきたいと思いますが、何分にもこれは見込みでございます。従いまして、経済は生きものでございますから、これが動いたときには責任をとるか、これは私はそういう責任をとらずに済むように努力していきたいと考えております。(拍手)

 また、貿易の状態でございまするが、御心配の点はわかりまするが、一昨年におきましては、日本の輸出入貿易は二割ふえました。昨年でも一割五分以上、一割七分くらいふえておるのであります。今年におきましては、大体一割以上ふえる見込みでございまして、これは私は達成できるものと考えておるのであります。従いまして、国際収支におきましても、大体二億ドル程度の黒字を見込んで差しつかえないと考えておるのであります。従いまして、今後、今明年中に国債を発行するという考えは、ただいまのところございません。

 なお、私が石橋内閣のときに出しました千億減税、千億施策は、失敗ではなかったかと、こうおっしゃいますが、私は今日の高度成長のもとをなした予算でございまして、決して失敗とは考えておりません。あの積極政策があったからこそ今日のような状態ができたことを私は確信いたしておるのであります。数字をあげて申し上げればおわかりと思いますが、これは、はぶきます。

 なお、農村につきましてのお考えでございまするが、私は、農村の方々の所得を、他の産業の方々の所得と見合うようにしたい。農村における他の人人の所得ではございません。全体的に農村の所得を上げまして、他の一般産業との格差を少なくしていこう、だんだんなくしていこうというのが、私の農村に対する政策でございます。従いまして、私は農業基本法その他財政金融措置を講じまして、そうして、また工場の地方分散等を行ないまして、ほんとうに全産業が均衡のとれた発展を促すよう、万般の措置を講ずる考えでございます。

 なお、憲法につきましてのお考えでございまするが、憲法はわが国の最高法規でございます。われわれはあくまでこれを尊重し、そうしてこれに従って行動しなければなりません。御承知の通り、憲法調査会におきまして、憲法を改正する要ありや、また改正する要ありとすればどの点について改正する要あるかということを検討させておるのであります。この結果を見て、その結果に国民大多数の結論が出ましたときに私は考えたいと思っております。(拍手)

○議長(松野鶴平君) 江田三郎君。

○江田三郎君 首相は、昨日の衆議院の加藤質問に対しましては、まことに威勢のいい答弁をなさったのでありますが、本日は全く精彩を欠いた答弁になり、しかも、内容のぼけた答弁でありまして、私は、若干再質問をしたいと思います。

 選挙の問題については、あなたの党に、何人かの悪質な買収事犯、しかも、中には、さきに検察の首脳にあったというような人が出ているのを、これを裁判の確定までほうって置くのかどうかということであります。同時に、もう一つは、もう選挙法の改正は、今さら審議会を作るのでなくて、答申案の出ている部分はすみやかに立法化するかどうかという点なのであります。この点の答弁をいただきたい。

 それから、ラオスの問題が心配される方向に行っていないというととは、私が申しましたように、すでにケネディ政権も、これを中立化の方向として認めて、転換をしたのであります。ただ、その間、日本は何をしたのかということを私は聞いているのであります。ただ、韓国の問題について、韓国に借款を与える気持はないと言われたことは、私ははっきり記憶にとどめておきます。

 それから、アメリカの世界経済における地位が、西欧、日本に比べて低くなったのは、私の予想通りということは、池田首相が、今後アメリカに対してコンプレックスをはねのけたものと考えていいのか、それとも勇み足であるか、ちょっと注意しておきます。

 税制問題について、あなたは税制調査会の答申通りやったと言われるが、税制調査会は、国民所得に対する税負担は二〇%を適当としたのであります。今日の税負担は二一%になろうとしているのでありまして、明らかに違っているのであります。あるいは経済問題について、経済のことはこの池田にまかせろ、こういう経済問題について、物価の値上げについては、企画庁案の一・一%で押えるつもりであるが、それが狂ったからといって責任をとるとは言わないところに、やはりあなたの物価値下げ言明というものは、数字の魔術といわなければならぬのであります。公債発行についても、ただいまのところというようなあいまいな言葉しか使われないところに、ほんとうにあなたがこの経済高度成長について自信があるかどうかを私は疑わざるを得ないのであります。

 最後に、農村問題について、農村における他産業との均衡ではなしに、農民と、農村以外の他産業との所得の均衡をとると言われましたことは、農林省の基本問題調査会の答えとは違うのでありますから、もしそういう方向でいくならば、価格についても、生産費及び所得保障方式でいかなければならぬ結論になるのでありまして、この点はその通りに解釈していいのかどうか、念を押しておきます。(拍手)


○国務大臣(池田勇人君) さきの選挙におきまして、選挙違反を起こした人についてどういう処置をとるか。――私は司法当局の措置にまかす考えでおります。党といたしましてこれをどうこうすることは、私は行きすぎであると考えております。

 また、選挙法の改正につきまして、今まで答申案が出ている。その答申案によって立法化するかという御質問でございまするが、私は、御承知の通り、今までの答申案によりまして与野党で協議いたしましても、なかなかととのわなかった。従って、先ほどの選挙の結果を見まして、新たに強力な調査機関を早急に設けまして、早急に結論を出してもらって、そうして私は立法化いたしたいと思います。その結論が今国会中に出まして、そうして今国会中に提案した方がいいと思ったら、今国会中でも提案いたします。

 次に、米国の経済の逆調についての御質問でございまするが、江田さんは御承知の通り、もう数年前からドルがアメリカに集まり過ぎておる、これをヨーロッパ、日本、こういうところが輸出貿易によってこのドルの集中を避けよう、そうして世界全体がよくなろうということは、私ばかりではございません。ヨーロッパの政治家、学者の言っておったことであるのであります。そのことが実現された、ただその程度が早く、大き過ぎるというだけでございます。従いまして、ドル不足になりましたら、アメリカの状態をわれわれは考えて、お互いに助け合っていこうという結論に到達しつつあるのであります。(拍手)

 また、税負担は調査会のいうことを聞いていないじゃないか、こういうお話でございますが、これはこまかい問題で、大蔵大臣から御答弁するのが適当かと思いまするが、私の見るところでは、所得税、法人税につきましては、大体、調査会の意見を聞いております。ただ問題は、調査会は課税所得百八十万円まで相当の軽減をしろというのを、課税所得七十万円、すなわち総所得百万円程度の減税をしただけで、大体におきまして税制調査会の意見を聞いておるのであります。ただ国民所得に対しまして何パーセントがいいかというのは、これでなければならぬという答申ではないのであります。これは二〇・五%がいいか、あるいは二〇%がいいか、いろいろ問題がございます。今回の税負担につきましても、私は大体二〇・五、六%で大体妥当なものと考えておるのであります。

 なお、公債の発行は三十六年度はいたしません。三十七年度も私はその必要はないと思いまするが、(拍手)経済は生きものでございますから、再来年のことをとやこう言うことは差し控えますが、今の状態では、国債発行をしなくとも、高度経済成長で相当の予算が盛れると考えておるのであります。

 なお、農民の所得の問題でございまするが、私の理想は、農民の方々が農村における他の産業の方々と一緒になることで満足いたしておりません。農村の人も都市の人も、とにかくその所得格差を少なくし、だんだんなくすることを私は理想として進んでおるのであります。

 ラオスの問題につきましては、私は外務大臣より、ジュネーブの国際監視委員会によりまして、イギリスあるいはインドが相当努力しておる、日本もそれに話をし合って、そうしてお互いに熱い戦争にならぬように努力しておりますと、外務大臣から報告を受けております。詳しいことは外務大臣からお話をいたさせます。(拍手)

○議長(松野鶴平君) 小柳牧衞君。(「議長、外務大臣の答弁がない」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)
 小柳君、少しお待ち下さい。小坂外務大臣。

○国務大臣(小坂善太郎君) わが国といたしましては、ラオスにおきます状態が一日も早く静ひつに復しますように考えまして、ただいま総理大臣からお答えがありましたように、関係のありまする各国との間に、これをおさめるという方向で、いろいろ通常の外交ルートを通じて話をし合っておったのであります。先ほど、インドやイギリスが非常にやっているのに日本は何をしているのかというお話がございましたが、これは御承知のように、国際監視委員会、ジュネーブにおきます国際委員会の当事者がインドでございますので、そういう関係もありまして、これらの国が非常に活発にやっておりまして、われわれはわれわれなりの考え方で動いておるわけでありますが、これを、外交の問題を必ずしも日本が先頭に立って派手にやるということがいいとも限りませんので、(拍手)やはりその時の情勢に応じて一番適切な方法をとったこと考えておる次第でございます。

 なお、安保条約との関係のお話がございましたのでありますが、ただいま米軍が日本をベースとしてラオス問題に介入するということは、資本をベースとして考えているということはございませんのでございますし、将来もこういうことはちょっと予想されないのでございます。従いまして、安保条約にございまする事前協議の問題というもの鳳必要ない、かような状態でございます。幸いにいたしまして、非常に平静化の方向に関係国際各国の努力によって行っておりますので、どうぞ一つ御安心を願いたいと思っております。(拍手)


1961/01/31

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