1964/03/27 |
46 衆議院・本会議
賃金問題をめぐる春闘に関する緊急質問
○江田三郎君 私は、日本社会党を代表して、現在進んでおります春闘を中心に、政府の所信を伺いたいと存じます。質問は具体的に行ないますので、答弁も具体的にされるよう、あらかじめ要望しておきます。
私ども社会党の国会議員団約百二十名は、去る三月十八日、列車の運転台に乗って、国鉄の状況を実地に調査いたしました。そのとき私の乗った車の勤続十六年の車掌さんは、本俸一万九千八百円、妻と子供が二人、妻は一個二十銭の電気セット入れの内職をやっているのであります。事故を起こせば、命を失ったり刑事罰に問われる国鉄労働者が、このような状態にあることを、池田総理は知っておられるのか。知っておられても改善の必要を認められないのか、まず、この点からお尋ねいたしたい。(拍手)
政府は、三月二十四日の閣議において、賃金抑制の統一見解を出すことをきめましたが、これまで、大橋労働大臣及び労働省は、賃上げが物価上昇の原因ではなく、消費者物価上昇は、わが国の高度成長に伴う構造変化の結果であり、このため、経済成長に見合った健全な賃上げは押える必要はないという見解を一貫してとってまいりました。ところが、三月四日の経済閣僚懇談会並びに三月二十四日の閣議において、賃上げが物価を上げると態度を変えられたのはいかなる理由か、お尋ねしたい。
物価騰貴は、労働大臣がこれまで言明されたとおり、賃上げに原因があるのではございません。生産性の低いサービス業などでは、確かに賃上げが物価上昇を招く傾向が一部にはありますが、生産性の高い産業におきましては、賃上げにもかかわらず、価格は下がるはずでございます。この下がるべき価格が下がらない最も大きな要因は、政府の高度成長政策のラッパにあおられて、過剰投資が行なわれたところにあります。そのため、大企業の付加価値構成比率において、人件費は下がっておるのに、金利負担と減価償却が大幅に上がっておるのであります。
さらに、渡邊公取委員長の言明のように、三十八年三月末に、製造業の生産する商品全体の一三・五%にカルテルが存在し、その九〇%以上が、製品価格に何らかの影響を与えているという点に物価問題のいま一つの焦点があると見なければなりません。つまり、政府の政策のあやまちに原因があるのであります。政府はあくまで、物価が上がるのは賃金が上がるためだと考えるのか、それならば、その根拠を明らかにしていただきたいと思います。(拍手)
また首相は、賃上げが国際競争力を弱めると言われますが、あなたが心配されるような国際競争力が問題になる大企業製品の労務費コストはきわめて低く、たとえば通産省統計によっても、鉄鋼の労務費は、アメリカ六二・七%、西ドイツ三五%に対し、日本は二四・六%にすぎません。また労働集約度の高い製品は、むしろ国際競争力が強くて、国際的にダンピングの非難を受け、輸入制限を受けているのが事実でございます。国連の統計を見ましても、先進資本主義国の労働分配率が、ほとんど例外なしに五〇%前後になっておるのに対しまして、わが国は三〇%台であり、まさに低開発国並みという事実をどう説明されるのか、お伺いいたしたい。(拍手)
われわれのこの主張に対し、政府や経営者は、賃金のほかに福利厚生費の高いことを宣伝されますけれども、これとても、首相が常に例にあげられるところのイタリアにおきましては、賃金に対する福利厚生費の割合は、法定福利費を加えて四二・四%であるのに対しまして、日本は一一・八%であり、全く根拠のない伝説であったことが明らかでございます。(拍手)
開放経済体制への移行に際しまして、低賃金によって国際競争力の強化をはかろうとする考え方は、これは世界の大勢に逆行するものであり、必ずや、厚い壁に突き当たらざるを得ないのであります。
政府の低賃金による国際競争力という考え方は、単に国内においてばかりでなく、現に韓国に資本進出を行ない、そこでの低賃金を利用しようとする態度にもあらわれており、政府が日韓会談の妥結を促進する裏には、このような資本の要求のあることは否定できないところであり、これが現在韓国での排日運動を呼び起こしていることを反省してもらわなければなりません。(拍手)
そもそもILOが生まれましたのは、国際的な賃金の平準化のもとで公正な競争を行ない、そのことが世界の平和につながるという認識からであることはここで繰り返す要はございません。開放経済下にあっては、賃金の格差によってではなく、高度の技術と効率の高い投資による競争でなければならぬことは、私は現代の常識であると考えるのでございます。(拍手)総理が一枚看板としてこられました所得倍増というのは、月給倍増のことだと国民は正直に受け取っております。しかるに、総理みずから賃上げの抑制を言明するとは、一体何事かと問わざるを得ないのであります。(拍手)
労働者が高度成長に見合って生活様式を高度化しようとするのは当然であり、それに見合った賃金を要求するのもまた当然でございます。また、最近のように物価が上がればなおさらのことでありましょう。賃金水準の引き上げに見合って経済構造をどう変えていくか、また物価をどう押えていくか、これが政治の課題であり、政府の責任であるはずなのに、首相はこの肝心の点を置き忘れておられると申したいのであります。
そもそも、政府が賃金抑制の統一見解を発表することは、本来労使間において解決すべき賃金紛争に対する不当な権力的介入であって、絶対に許されないばかりでなく、それは政府みずからが、全労働者の前に立ちはだかっての挑戦であり、賃金闘争を政治闘争におびき寄せる重大なあやまちでございます。(拍手)政府は、この際、資本家の側に立っての春闘対策に熱中するあまりの勇み足であったことを反省されて、三月二十四日の決定を撤回し、賃金紛争への介入を中止する意思はないかどうかをお尋ねいたしたい。もし、政府があくまで賃金闘争に介入し続けるならば、この春闘が反池田、反政府の政治闘争に発展することが必然であることを警告するとともに、かつてイギリス保守党が、所得政策と称して貸金ストップの挙に出ようとし、これが労働者の憤激を買い、一挙に保守党の支持率低下、労働党の急上昇になったことを参考までに申し添えておくものであります。(拍手)
次に、現在の最低賃金法は業者間協定をおもな内容としたものであり、ほとんどが一日三百円前後という前時代的な賃金をきめ、しかも協定して何年間も据え置きの状態に置かれておるのでございます。社会党が当初から主張したように、賃金抑制の機能を果たすのみであって、何ら改善の機能を果たさなかったことは多言を要さないところと存じます。政府が現行法を制定するにあたって、これによってILO二十六号条約が批准できると言明したのにかかわらず、今日に至るもその批准ができないのは、実に、現行法が条約の要求している条件とあまりにもかけ離れておるところに問題があるわけでございます。
二十六号条約は、いまから三十六年も前に、後進国を配慮した低水準の条約であるにもかかわらず、これすら批准できない政府が、大手を振ってOECDの仲間入りができるなどとまじめに考えておられるとするならば、私はその認識の程度を疑わざるを得ないのでございます。(拍手)
大橋労働大臣は、昨年以来、現行法が実効性に乏しいので改正が望ましいと言い、さらに本年に入ってからも労働組合との話し合いの席上、現行法には成立当初から反対であった、十六条方式を広げながら九条方式を死文化したい。業者間協定は全く異例に属するもので、国際的な舞台で認められるようなしろものではないなどと、しばしば言明されております。
このように現行法の効果のないことを認める以上、一歩進んで、この際、全国一律の最低賃金制に踏み切る決断をなさるべきだと思うのであります。今日、全国一律の最賃制と社会保障制度の拡充をはかることは、中小企業に若年労働力を確保し、その近代化をはかるための不可欠の政策であり、総理並びに労働大臣の見解を承りたいのでございます。(拍手)
次に、最近における労働災害は驚くべき増加を来たし、ことに昨年秋の三池、鶴見事故は、国民に強い衝撃を与えましたが、政府は、時の経過とともに忘れ去ったのか、何ら責任ある対策を施そうとはしておられません。多くの労働者の家族は、政府と経営者を信頼することができず、主人の無事故をただただ祈って日夜を送っておるのでございます。総理は、国電の乗客が衝突や追突をおそれて、前とうしろの箱は避けて乗らないという、うそのような話を御存じかどうか、お聞きしたいのであります。
災害多発の原因は、政府が、生産の原動力は人間であり、何よりも人命が尊重されなければならぬという大事なことを忘れて、職場の安全を無視し、利潤第一、生産第一主義の施策を行なっているところにあります。三河島、鶴見と相次ぐ国鉄の事故の原因は、過密ダイヤのもとでの労働強化にあることは、すでに明らかでございます。石田国鉄総裁は、この国会の委員会におきまして、この過密ダイヤのもとでは、責任が持てず、これからも事故は起こりますよと言い放っておるんであります。これは国会での責任ある政府会員の答弁であります。大国といわれる国の議会で、このような答弁が平然と行なわれた事例が、世界のどこにあったかと尋ねたいのであります。(拍手)
一体、政府は、事故防止に抜本対策を持っているのかどうか。前回の国会で流れたと同じ法案を、労働災害防止法と銘打って、わずか三億四千万円の金を経営者につぎ込んで、それで対策ができるとでも思っておられるのか。さらにまた、労働基準法は空文化され、労働基準監督官は計算上十二年に一度しか現場をのぞけないという実態をどう考えているのか、お尋ねしたいのでございます。今日、どこの国を見ても、安全行政においては、まず第一に、人命尊重主義に徹し、これを貫く、第二には、労使対等の立場で保安、安全に当たる体制をとる、第三には、国際慣行の水準を下らない、この三つを原則としておるのであります。政府は、こうした原則に立ち、ILO三十一号勧告の線にも従って、抜本的な産業、交通の災害対策を打ち立てる意思はないのかどうか、このままで今後三池、鶴見のような災害を引き起こすことがあれば、そのとき政府はいかなる責任をとられるのか、お伺いしたいのでございます。(拍手)
私は、最後に、労働者の権利の問題についてお伺いいたしたい。ILOの結社の自由委員会は、第五十四次報告において、公営企業という理由で、一律にストライキを禁止することは適当でないとして、このことについて日本政府に注意を喚起すると言っておるのであります。しかるに、政府は、公企体の争議については、懲戒、解雇の民事責任のみならず、刑罰をもって臨もうとしておるのであります。民間企業も存在している産業部門におきまして、その企業が単に国営、公営であるというだけの理由で争議権を停止している国がどこにあるのかをお尋ねしておきたいのでございます。政府の態度は、争議そのものを事業法違反として刑事罰にするという考え方であり、それは当然憲法とILO百五号条約に違反し、少なくとも二十世紀後半の福祉国家といわれる国においては、全く通用しない考え方と断ぜざるを得ないのでありまして、所見を承っておきたいのでございます。
しかも、三月二十四日の閣議において、河野建設相は、スト権禁止の範囲を拡大すべきだと発言し、田中大蔵大臣は、人事院勧告もたやすくのむべきでないと述べたと伝えられておりますが、かりにもこれが事実といたしますならば、全く言語道断でございまして、この際撤回すべきであり、両大臣の答弁をお聞かせ願いたいのでございます。(拍手)
いま、全国の労働者は、本日の統一ストライキに続き、かってない大規模のストライキを用意しております。公務員、公共企業労働者は、過去のストライキで大きな犠牲を払わされたにもかかわらず、今回あえて大規模のストライキを行なわんとしているのであり、何が労働者をここまで追い込んでおるか、政府は事態を正しくとらえて、前向きの措置をとるべきであります。ところが逆に、統一見解を発表して、火に油を注がんとしているのであり、許しがたいことであります。自民党の党内には、今日もなお、労働対策を治安対策と心得て、ILO八十七号条約批准にすら反対運動をするという、まことに時代離れをしたところの動きがございます。これと一体となって、世界の大きな流れと逆行せんとする政府に対しまして、私は強い反省を求めて、社会党を代表しての質問を終わるものでございます。(拍手)
○国務大臣(池田勇人君) お答えいたします。
御質問の第一点は、国鉄職員の、夫婦子供二人の月給が一万九千八百円ということでございます。月給だけで、あとの賞与の点がわかりませんが、いずれにいたしましても、国鉄だけ賃金が安いというわけにはまいりません。およそ、賃金水準というものは、公共企業体の労働者のみを考えたり、あるいは大産業の人の賃金だけで考えるべきではございません。われわれは、農業、中小企業等の国民の相当の部分の方々の生活程度を考え、全体としてきめるべきものであるということをはっきり申し上げておきます。(拍手)
なお、具体的にというお話でございまするから、具体的に申し上げます。
その次の問題は、物価と賃金との関係でございます。江田さんは、いかにも物価と賃金とには関係のないような論旨のようでございますが、大いに関係があるのであります。最近、世界における最も大きい問題は、イギリス、フランス、イタリア等における生産性の向上と賃金の上昇との関係でございます。昨年の九月、十月、十一月、フランス・ドゴール大統領のとった、あのいわゆる国営企業に関係しておる労務者の貸金ストップとか、あるいは物価に対する非常措置は、これは賃金と生産性と物価との関係を意味したものでございます。イギリスの二、三年前からの施策もしかり、イタリアもしかり、西ドイツもしかりでございます。また、日本の問題を申し上げましても、皆さん御承知のとおり、私は過去の経過を考えて所得倍増を唱えたのでございますが、昭和三十年を一〇〇といたしますと、三十八年は、賃金は一八〇になっております。八〇%の上昇でございます。生産は、労働省の調査では一五七、生産性本部の調査では一九〇となっております。もしそれ、労働省の調査から言うならば、生産性の向上よりも賃金のほうが、八年間の平均が上がっております。生産性本部の調査から言えば、生産性のほうが上で、賃金が低い。皆さん、賃金が一八〇になっておるにかかわらず、消費者物価は三〇しか上がっていないのです。だから、この前の施政演説で申し上げましたごとく、実質賃金は、物価の上がりを引いても四〇%上がっておるじゃございませんか。しかも完全雇用の実現が見られておるのであります。私は、所得倍増、賃金倍増ということを言っておりますから、労務者の賃金の上がることは大賛成であります。上げたい。しかし、それにはおのずから限度があるということを言っておるのであります。あなた方はこういうことをお考えにならずに、賃金の上昇はよく考えておやりくださいと言うと、政府は賃金ストップだと曲解せられることは、私はとるべき言動ではないと考えます。(拍手)
次に、労使間の問題につきまして申し上げますが、私は閣議におきまして、――最近の賃金の上昇は、昭和三十五年までは生産性のほうが上で賃金の上昇が下だったが、三十六年からは生産性の上昇のほうが下で賃金が生産性を越えた上昇を三年間続けております。それだからといって、私はいま直ちにコスト・インフレということは言いませんが、この状態が続き、しかも、その生産性よりも賃金の上昇が非常に上になると、フランスやイタリアのように心配しなければならぬから、労使間におきまして、よほど良識をもっておやり願いたい。ことにこの四月から開放経済に向かいまして、国際競争力を高めなければならぬこの機会に、いたずらにいわゆる近視眼的な自己利害にのみ走って、国家永遠の利益を考えないということはよくないということを申し上げておるのであって、決して賃金ストップのような考え方は持っておりません。(拍手)お話のとおり、賃金は適正な上昇、よその国よりもうんと上がることが所得倍増の目標なのでございますから、この点はおわかりいただけると思います。
次に、最低賃金の問題でございますが、もう江田さんなんかが三、四年前に言っておられたあの十八歳八千円という最低賃金は、最低賃金法を設けたころの十八歳八千円というのは、いつの間にか所得倍増政策で吹っ飛んでしまいまして、十八歳の人は一万二千円ということに相なっております。しかし、最低賃金制の制度自体につきましては、私は、賃金は相当上がっても考えていかなければならぬ重要問題と思います。その点は同感です。しかし、この問題につきましては、いわゆる中央最低賃金審議会に諮問いたしまして、先般その答申を得ました。その答申によりますと、やはり現行法の決定方式によってやるべし、そうして対象業種をふやしてやる、こういう答申でございますから、私は、いままでの政策をもっと大胆に運用し、そうしていまの職権決定の方式もございますから、それも考慮に入れながら、最低賃金制の問題をこの上とも前向きに検討していきたいと思います。もちろん全国一律の最低賃金制に反対するものではございませんが、いま申し上げましたような事情でございますので、一律制の最低賃金のあれにいく前に、もっといまの制度を前向きに活用していって、将来におきましては一律ということも考え得るような体制でいこうと思っておるのであります。
また、労働災害防止につきましては、これはお話のとおりで、産業の合理化も生産能率の向上も、これあってこそでございます。われわれは、いままでにも増して、最近の事故発生の事情から考えまして、今後十分、いわゆる重点産業に対する監督の強化、あるいは法制とか、あるいは行政体制を整備するとか、また、各会社、各企業におきまして自主的災害防止の活動を促進するという方向に導いていきたいと考えております。
次に、労働運動に対しまして政府が弾圧するとか、ことに公共企業体に対しまするスト権を認めないのは憲法違反というふうなお話でございますが、もちろん、憲法第二十八条によりまして、勤労者の争議権の重要さ、それが基本権であることは認めておりますが、同様に憲法第十二条、第十三条の公共の福祉ということから考えていきますと、やはり公共企業体のいわゆる労働争議ということを禁止することは、いまのわが国の状態からいって適当であると考えておるのであります。しこうして、争議を禁止せられました職員が法に違反して違法行為をしたときに刑罰をかけることは、法治国当然の措置であると私は考えております。(拍手)
これを要するに、私はあなたにも負けない、労働者の生活向上に努力をしてまいっております。所得倍増計画もこの意味からでございます。かるがゆえに、池田内閣になりましてからの賃金の上昇は、戦後比較にならぬほど上がり、しかも完全雇用に近い状態であるではございませんか。私は、今後ともこの政策を続けていって、所得倍増を十年以内に完成し、りっぱな労働者の生活環境をつくることを目標に努力していくことをここにお答えいたしまして、答弁といたします。(拍手)
○国務大臣(大橋武夫君) 最近におきまする賃金の上昇は、経済成長に伴う労働需給の逼迫から、従来相対的に賃金の低かった中小企業、サービス業において顕著に見られるのであります。これは労働力を確保いたしまするために避けることのできない結果でございまして、これを押えるということになりますると、労働の需給に非常な混乱を免れないと思うのでございます。しかし、このことが、最近の消費者物価の上昇の主たる内容をなしておりまする中小企業製品の価格またはサービス料金の上昇の一つの原因であるといわれておるのでございますが、政府といたしましては、消費者物価安定を期しまするために、財政金融政策の適切な運用あるいは中小企業、サービス業の近代化等、諸般の施策を一そう強力に推進いたしまして、これらの産業の生産性の向上をはかっておるところでございますので、コスト・インフレのような事態が生ずるおそれは目下のところないと考えておるのでございまして、このことは私が従来からも申しておるところでございます。すなわち、昨年の末、賃金問題につきまして労働竹の見解を発表いたし、賃金は国民経済の成長に見合い、かつ、国民各層の所得の改善と均衡を保ちつつ改善せらるべきものと考えており、関係労使がかかる観点から賃金問題を合理的に解決することを期待していると述べておるのでございますが、この見解は、労働省といたしましては、現在もいささかも変更をいたしておらないことをお答えいたす次第であります。
政府といたしましては、賃金問題については、国際収支や物価との関連においてこれらに悪影響を与えないよう、労使が国民経済的見地に立って慎重に対処してほしいという考えはもちろん持っておるのでございまするが、これにつきましては、先ほど申し上げましたるごとく、春闘に先立って昨年の末に労働省見解を発表いたしておるのでありまして、今回の春闘のさなかにおいて、労使の良識に期待をいたしておるのでございまして、かつ、労使の自主的な交渉によって賃金が決定されるものと考え、これに介人しようという意図は毛頭持っておりません。したがって、政府といたしましては、現段階において、これに関してあらためて統一見解を発表するというような考えのないことは、先ほど総理からも申されたとおりでございます。
次に、産業災害安全防止問題につきましては、三池事件、鶴見事件などによりまして、従来考えてまいりました以上の根本策を必要とするに至ったものと判断いたしております。これにつきましては、目下労使の意見を聞いておる段階でございまするが、双方の意向が判明いたしましたならば、これを基礎といたしまして、労働省といたしましては、具体化に乗り出してまいりたいと考えておるのでございます。
次に、最低賃金の問題について、先ほど総理からもお答え申し上げましたが、池田内閣といたしましては、一昨年以来、最低賃金制の今後の進め方について、中央最低賃金審議会の検討を願っておったのでございます。現在におきましては、その答申もございまするので、先ほど総理の言われたように、現行法のもとにおいてできるだけ広範囲に職権方式を活用し、実効ある最低賃金を定めていく、そしてその後におきましては、審議会の答申されました意見にもございますとおり、三年間の実績を検討いたしました上、現行制度の根本的再検討をはかってまいりたいと存じておるのでございます。(拍手)
○国務大臣(宮澤喜一君) 賃金決定に権力的な介入をする意図がないということについては、先刻総理大臣から答弁を申し上げたわけでございます。
私ども、国民経済を考えますときに、しばしば設備投資が過剰であるとか、輸出入がどうであるとか、財政がどうだとかいうことを申しますけれども、国民総生産の中の非常に大きな要素であるところの勤労所得についてだけは議論をしてはいけないということであれば、国民経済というものは論ずることはできないと思います。のみならず、大企業の労使間で賃金の交渉が行われますときに、国全体には農業も中小企業もサービス業もあるのでございますが、労使間の賃金交渉で国民経済全体のことを考えていただきたいと申しましても、なかなかそれは行なわれがたいことでありますから、私どもがやはり国民経済全体の立場からものを考え、あるいは申したりするのは、むしろ必要な義務ですらある場合があるというふうに考えます。なお、しかし、誤解を招いてはいけないわけでございますから、そういうものの申し方、あるいは内容等については、きわめて慎重でなければならないということは、確かにさように思っております。(拍手)
○国務大臣(田中角榮君) 江田さんの御質問の第一点は、春闘に対する態度でございますが、春闘における賃上げにつきましては、労使の自主的交渉によってきまるものでありまして、政府としまして、春闘に対して具体的規制を行なう考えはないのであります。しかし、開放経済への移行に備え、また、今後の経済の安定成長を期する上にも、労使双方の良識ある判断を望む次第でございます。
第二は、人事院勧告の問題について、私が尊重をしないような発言をしたような御発言がございましたが、人事院勧告の出ておらない現在、このような発言をしようはずはないのであります。
人事院勧告についてこの際申し上げますと、従来、人事院勧告につきましては、政府としましては、できるだけこれを尊重して実施をしてきたところでございます。三十九年度におきましては、人事院勧告が出るかどうかは、現在のところ明確ではないのでございますが、かりに勧告が出された場合には、例年どおり、一般的経済情勢及び財政事情等を総合勘案した上で、態度を決定することになると思われるのであります。(拍手)
○国務大臣(賀屋興宣君) お答えを申し上げます。
私に関係します御質問の第一は、春闘に対して、その争議に関して刑事罰をもって臨む方針である。これははなはだけしからぬという御質問だと思いますが、労働運動に対しまする政府の態度は、従来繰り返し明らかにしてまいったところでございまして、要するに、健全な労使関係の育成を念願いたしておるところでございます。およそ民主的で秩序正しい労働運動の発展を期待いたすのでございまして、みだりに正当な労働運動に介入し、刑事罰をもってこれを弾圧するというような意図は毛頭ないところでございます。(拍手)しかし、法律の明文によりまして争議行為などを禁止されておるものが、違法な争議行為を行なって罰則に触れます場合、正当な組合活動の限界を逸脱して暴力行為に及ぶような場合におきましては、これを取り締まる必要があることは言うまでもない次第でございます。(拍手)決して正当なる労働運動を弾圧する考えはない次第でございます。
また、公共企業体の従事員が同盟罷業をすることにつきまして、これが禁止規定があるのはよろしくないという御趣旨かと思いましたが、この点に関しましては、先ほど総理大臣より御答弁がありましたように、やはり憲法十二条、十三条に基づきまして、公共の福祉の立場から当然な制限でございまして、これは最高裁判所の判例におきましてもこれが適法なりということは認められておるところでございますから、これをつけ加えて申し上げておく次第でございます。(拍手)
〔政府委員鴨田宗一君登壇〕
〔発言する者あり〕
○政府委員(鴨田宗一君) 次官でも副大臣でございますので、この点御了承をお願いいたしたいと思います。
二十四日の閣議の席上、河野大臣の公団等の争議に関する問題の内容について江田さんから御質問がございました。その内容につきまして大臣の真意をお伝えいたしたいと思うのであります。
現在、公団等の職員の労働関係については、民間会社の場合と同様に争議権が認められておることは御承知のとおりでございます。しかし、公団の業務は公共性が強く、民間会社よりはむしろ国鉄等の公社に近い性格を持っておるので、その業務の停滞は、場合によっては公共の福祉を著しく害することも予想されるのであります。したがって、これら公団の職員の争議権については、一般の公務員及び公社職員との権衡を考えても、何らかの抑制措置を検討すべきではないかという趣旨のことを発言したのでございます。(拍手)
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