1966/04/05 |
51 衆議院・農林水産委員会
○江田委員 たまたまあすからアジア開発閣僚会議が開かれるわけでありますが、この閣僚会議にあたりまして、いままでわれわれが新聞その他を通じて受け取っておりますところは、今度の会議の主要なテーマとして、農業開発会議を提唱するということが伝えられておりまして、この農業開発会議がどういう性格のものかということを承りたいのであります。ただ、この問題は、将来の日本の食糧の需給計画と大きなつながりがあるわけでありまして、最近あるいは経済同友会の将来農業への提言ということがあったり、あるいはまた松永安左エ門さんの研究所でも同じようなことがなされておりますし、あるいはまた農林省の農林水産技術会議の議長の小倉さんあたりも、東南アジアの米の開発輸入ということを提唱されておりまして、今度の農業会議の問題というものは、ただそのことだけを切り離して考えるのじゃなしに、日本の食糧政策全体につながる課題だと思いますので、さような問題について御質問したいと思います。
まず、この閣僚会議そのものでありますが、これについても私たちはいろいろな疑問を持っておるわけであります。きのうあたりの新聞を見ますと、国民総所得の一%――一昨年世界貿易開発会議できめられたこの一%をできるだけ早く出すようにしたいということがいわれておりますが、しかし、大蔵省あたりは相当渋っているということもいわれておる。これだけ大がかりに関係国の閣僚を集めて、一昨年の貿易開発会議できまったことが、まだこれから数年かかってそろそろやりますのだというようなことになってくれば、私は、この会議が日本のアジア外交の前進になるのでなしに、むしろ関係国に大きな失望を与えるだろうと思うのであります。あるいはまた、このアジア開発構想というものが、ジョンソン大統領のかつて提案された十億ドル援助ということの、はなはだ自主性のない露払いになっていくのじゃないかということも一つの問題点だと思いますが、そういう閣僚会議そのものの問題につきましては、いずれ適当な委員会で取り扱われると思いますので、ここは農林水産委員会でありますから、私はそういう点には触れないで、直接政府がいままで宣伝されました、この会議で主要なテーマとして取り上げるのだといっておった農業開発会議について御質問しますが、一体これはどういう構想のものなのか、その点をまずお伺いしたいのです。
○坂田国務大臣 この農業開発会議というものを別にやるのではなしに、東南アジア全体に対する農業、中小工業、それからいろいろの衛生関係の問題等について会合を催すのでございまして、そのうちで、農業の問題は非常に大きな議題であることは、これは言うまでもございません。しかし、農業会議というものを別に催してまいるというような考えは持っておらぬのでございます。もしそれが必要であるといたしましても、日本のわがほうからそれらの必要を主張するのではなしに、参加国のほうにおいてそれが非常な希望として述べられる場合において、あるいは農業会議を開催するというようになるかもしれぬと思うのでございますが、同時に、わが国のほうからこれらの開催を主張するという考えは持っておらぬわけであります。
○江田委員 外交の問題というのは、なかなかあとで簡単に取り消しができないものであります。国内問題ならば、あとでこれを打ち消したところで大きな影響はありませんが、外交問題はそうはいかないと思うのであります。
そこで、いまの大臣のお答えだと、農業開発会議というものを考えておるのじゃないのだ、向こうから言われたならばそういうことも取り上げるかもわからぬということであります。しかし、この閣僚会議の開催がきまりましてから今日まで、新聞その他を通じて農業開発会議の構想が大きく宣伝されたことは、これは否定できないことであります。これは外務省あたりがそういうことをマスコミにPRなさったのじゃないかと思うのであります。マスコミが根拠のないことを書くはずはないと思うのであります。また、そういうようなマスコミに伝えられた内容というものは、やはり関係各国に反映しておると思うのであります。これが単なる副次的な議題というのでなしに、今度の会議で、おくれたアジアの農業を開発するために最も力こぶを入れなければならぬ課題だというように宣伝されたものが、いまの大臣のお答えを聞きますと、何か急に方向が変わったように思うのでありますが、なぜ一体、各新聞社なり放送なりが今日までそういう宣伝をしてきたのか。それはマスコミのかってな誤解であるのか、あるいは外務省なり農林省のミスリードであるのか、その点は一体どういうように思ったらいいのですか。
○坂田国務大臣 今度の東南アジアに対する問題は、もちろん、農業開発ということが非常に大きな問題であることは、これは言うまでもないことでございます。したがいまして、今度の会議以前から、東南アジアに対する技術援助は、コロンボ計画その他によって、これらの地域に対していままで相当力を入れておるわけでございますが、しかしながら、何と申しましても、これらの諸国の農業問題は非常に立ちおくれております。そのような関係からして、食糧等につきましても、どちらかと申しますと、これらの関係諸国においては非常に窮乏しておる国が多いわけでございます。中にはそうでない国も若干加わっておりますけれども、そういう国が非常に多いところでございます。したがいまして、東南アジアの農業開発援助につきましては、将来に向かってもわが国としては十分の援助をしていかなければならぬ、こう考えてはおるのでございます。そういう考えのもとに今度会議に臨むのでございますけれども、この会議後においてさらに引き続いて農業開発会議をやるかやらぬかという問題になりますと、これは加わってまいりました諸国の要請がある場合において、それらにこたえるために、この開発会議をどうするかという問題は、それは出るかもしれませんけれども、当方から引き続いてこれらの開発会議をやるということを申すわけではないということを申したわけでございます。
○江田委員 私の質問に端的に答えていただきたいのでありまして、農業開発会議という構想を外務省も農林省も事前に報道関係にPRしたことはないのか、報道関係がかってにそういう解釈をしてやったのか、それともあなた方のほうがそういう宣伝をされたのか、まずその点からはっきりさしてもらいたい。
○坂田国務大臣 お答え申しますが、農林省といたしまして、今度参集されます諸国の情勢から申しまして、食糧問題が非常に重要な問題であることは言うまでもございません。これはもうよく御了承のことであると思いますが、そういう関係にありますので、食糧会議を引き続いて開催するという考えはございません。こちらから積極的に要請することはございません。
○江田委員 大臣のあやふやな答弁でなしに、官房長と外務省の経済協力局長から端的に答えていただきたい。
○大口政府委員 報道関係にそのような発表をしたかという趣旨のお尋ねでございますので、私から便宜補足してお答え申し上げたいと思います。
新聞紙上において東南アジア閣僚会議の記事が報道されます際に、東南アジア農業開発会議というものを提唱するという趣旨の記事が多くの新聞に出たことは、私も読んで承知をいたしております。もし農林省からそういう発表をしたかというお尋ねでございますれば、農林省からそのような発表をしたことはございません。したがって、大臣が先ほどからお答えになっておりますのは、農業開発会議とか、東南アジア農業開発についての重要性なり、今後の問題の検討は内部でいたしております。ただ、いまのお尋ねのように、農業開発会議の開催を提唱するという趣旨の発表を農林省からいたしたことはございません。
○西山政府委員 先ほど農林大臣から御説明がありましたように、昨今の後進国の開発の問題をながめますと、農業の問題が非常に重要性を増してきておる。工業化の進展に非常に努力しておりますけれども、社会的な基盤として、農業の問題を従来にも増して努力する必要があるということが世界的に痛感されておりまして、たとえばインドの最近の事情のごときは端的な例であるということをひとしくみんな言っておるわけであります。そういう意味で、農業問題をさらに実際的な見地から検討する心要があるのではないか。なかんずく、各国が農業を開発しながら、国の経済的な繁栄を漸進的に均衡をとった形で進めていくという必要が痛感されておりまして、そういう角度から農業のいろいろの関係を議論するために会議をやってはいかがかという意見が、内部では確かにございました。そういう意味で、そういう作業があるいは新聞等に伝えられたかもしれませんけれども、外務省としては、政府の最終的な決定があったわけではございませんし、積極的に外部に発表したとか、そういう事実はございません。
○江田委員 エープリルフールということがあるのですが、あれはエープリルフールよりだいぶ前に出たことですから、どうもわれわれもキツネにつままれたような感じがするのです。しかし、当時の新聞を見ると、農業開発会議の具体的な協力方法として、農業技術指導のための農業開発センターをつくるんだ、あるいは農業機械、肥料などの購入資金融資のために農業開発基金をつくるんだ、そういう内容まで出ておるわけでありまして、私は、そういうことをあなた方のほうが何ら意思表示をされないのに、報道関係がかってに書くはずがないと思うのです。先ほども申しましたように、これは国内問題でなしに、外交と関係がある問題で、日本の新聞が何を書いておるかということは、その日のうちにそれぞれの国に伝わるわけであります。そういうものが途中で幽霊のように消えてしまうということは、外交のあり方としてもまことに遺憾なことであります。要するに、あなた方が言われるのは、そういう構想は報道関係がかってに書いたのだということに受け取っていいわけですか。
○大口政府委員 先ほど私がお答えをいたしましたのは、御質問の趣旨が、新聞にたくさんそういうことが出ておったのは発表したかというお尋ねでございましたので、私のほうから積極的に発表したことはございませんということを申し上げたのでございますが、しかし、東南アジアの経済協力とか、あるいは経済協力の中における農業協力、技術協力の重要性とかいうものを、いろいろな方がいろいろな場において論議をされておることは事実でございますので、もちろん、農林省におきましても、そのような問題について、どういうことを今後研究をし、どういうことを準備すべきであるかというようなことは、所管の省でございますから、十分研究はいたしております。しかし、会議の開催を今度の閣僚会議の席で提晶する予定であるという趣旨の発表をしたことはない、こういうふうにお答えをいたしたのでございます。
○江田委員 たとえば農業開発会議の問題について、朝日新聞のごときは社説で取り上げておるわけであります。よほどあわて者の新聞社ということになるのです。そういうことがあなた方の言明のように受け取りようがないじゃありませんか。私は、そういうことをあいまいにぼかされるならぼかされるで、それ以上申しませんけれども、とにかく、今度の閣僚会議そのものが、非常な無責任な思いつきの上に立っておるのじゃないかと思うのです。最初に触れましたように、あらためて一%の援助をこれから検討するんだ、それは大蔵省は五年と言い、外務省は三年先だと言っておる。そういうようなことをいまごろ検討するようなことで、ほんとうに関係国に喜ばれるような外交ができるわけはないじゃありませんか。思いつきばかり並べた外交がどんなに危険なものであり、どんなに国益を損するかということは、あなた方にもわかっておると思うのであります。
そこで、それをだれが発表したかどうかということはこれ以上追及しませんが、この問題を論ずる中において、われわれが新聞報道から受け取った内容によりますと、今後日本は東南アジアからの長期の継続的な米の輸入を考えるべきだということを佐藤総理大臣が発表をされて、関係各大臣に指示された、こういうことまで伝わっておりますが、その点はどういうことであったのか、これは大臣から答えていただきます。
○坂田国務大臣 さような指示を受けたことはございません。
○江田委員 これも全く新聞の誤報だと言うのですか。
○坂田国務大臣 新聞の誤報であるかないかは私は存じませんが、私はそういう指示を受けたことはございません。
○江田委員 関係大臣といえば、これはもちろん農林大臣だけでなしに、通産大臣もそうでしょう。あるいは外務大臣もそうかもしれませんが、しかし、一つの新聞だけでなしに、多くの新聞が同じような内容のことを書いておるわけなんです。先ほどの発言といい、いまのお答えといい、あなた方は、国民とともに農業問題あるいは日本の外交問題を語り合おうという姿勢はないのですか。ただ秘密外交、何か質問があればおとぼけで済ませるということが、日本の政治のあり方としてはたして許されることかどうか、その心がまえをまず言っていただきたい。
○坂田国務大臣 同じことを申すようでありますが、指示を受けないことをはっきりと指示を受けないと申すのでございます。したがって、指示を受けないから、新聞の論評はどうであったかということは、私に関係したことではないと思うのでありますが、実際、それは指示を受けないものを受けたということは言うわけにいきませんから、それは受けないと申しておるわけでございます。
○江田委員 あなたのようなそういうことは、これはしっぽをつかまれないための国会答弁ではあるかもしれませんけれども、しかし、まじめに政治を担当するものの態度じゃないと思うのです。だから、これも否定なさるならなさってよろしい。
そこで、大臣にお尋ねしますが、一体指示があろうとなかろうと、今後東南アジアからの長期継続的な米の輸入ということは可能なことだと考えておられるのか、角度を変えて質問します。
○坂田国務大臣 今度参りまする諸国のほうからは、日本の米、いわゆる食用として輸入し得るものはないのであります。と申しますのは、現在食用として輸入しておりますのは、準内地米と申しまして、いわゆる長米でなしに、まんまるい日本種のものでございますが、今度参ります諸国については、それらの日本種、いわゆる準内地米というものを生産している国はないのであります。したがいまして、これらの国がら日本のいわゆる食用の米を長期に輸入することはできないという事実問題に立っておるわけでございます。
○江田委員 これからの日本の食糧問題というのは、私は容易ならぬ事態に立ち至ってきたと思っているのです。昨年度の食糧及びえさの輸入が一千万トンになった。これから先日本の食糧需給計画はどうするのか、いまこそこれは真剣に論議して、今後のあやまちのない方向を出さなければならぬと思うのでありまして、これは農民にとっても大事なことでありますし、また消費者にとっても、あるいは日本の国際収支にとっても、ゆるがせにできない問題なんであります。それだけに、大臣もおざなりなことでなしに、責任を持った答弁をしていただきたいと思うのですが、東南アジアからの米の長期継続的な輸入はできない、そういう考え方は、大臣の考え方であると同時に、政府の統一した見解なのかどうか。たとえば、そういう中におきまして、あるいはせんだっての経済同友会の農業への提言の中にも、日本の食糧の自給度を引き下げて、東南アジアの開発輸入をしたほうがいいというような考え方が出ておるし、先ほどもちょっと触れましたが、農林省に関係のある小倉農林水産技術会議議長なんかも、東南アジアの米の開発輸入ということに触れておるのでありますが、政府としては、東南アジアからの長期継続的な米の輸入は不可能だ、こういう見解を持っておると受け取ってよろしいのでありますか。
○坂田国務大臣 私が申しましたのは、今度参りまする国においては、準内地米をつくっておる国はないのであります。したがって、そういう国から長期的に食糧として輸入することはできない、こういうことでございます。
○江田委員 東南アジアで、今度来てない、しかも米をつくっておるということになると、ビルマが残ると思いますけれども、しかし、条件はそう変わっておるわけはないのでありまして、私たちも、太い粒の日本米を東南アジアで増産するということは非常に困難な問題だと思っておるわけです。あるいは台湾においてそういうことが成功したじゃないかという人もありますけれども、台湾は言うまでもなく、日本の植民政策のもとにおいて、従来あの土地の人々が食わなかった米を食わすように押しつけたわけでしょう。東南アジアはなかなかそういうわけにはまいりません。だから、米の輸出ということが、自分たちの食っている米をなお増産して輸出するというのなら、これは可能でしょう。しかし、自分たちの食っている米ではない米をつくらなければ日本への輸出はできないわけです。非常に近代化された農業でありますならば、あるいは大規模の農業でありますならば、そういう商品としての生産も可能でしょうが、東南アジアの農業は、そういう大規模の近代農業でないことも言うまでもないことなんです。そういう点から、私たちも米の開発輸入ということについては大きな疑問を持っておるのでありますが、その点は、いま私が考えたことと大臣の考え方は同じなのか。消費者の問題であり、農民の問題であり、日本の国際収支の問題であり、大きな影響があることですから、いいかげんな答弁でなしに、はっきり答えていただきたい。
○坂田国務大臣 いま江田委員の申されたとおりの気持ちでおるわけでございます。ただ、この問題としてさらにつけ加えて申しますならば、食糧以外のもの、たとえば飼料作物の問題については、東南アジアとの交流などを考えていきたいという問題があります。それからさらにつけ加えて、誤解のないように申し上げたいことは、現在日本そのものがまだ完全な自給ではございませんことは、御存じのとおりでございます。さようなときでございますから、やはり日本と同じようなまるい種のものでなくても、雑用とか工業用といったようなもので、ビルマ等から輸入はいたしておることをつけ加えて申し上げておく次第でございます。
○江田委員 だから、お菓子の原料とかそういう問題で可能性があるということは申すまでもありませんが、しかし、準内地米としてわれわれの食べる米としては今後もその可能性はないと、こうはっきり見ていいのか。そうでないと、これからのわが国の農業政策なりあるいは食糧政策に大きな影響があるわけですから、こういう点は明確にしておいていただきたいわけです。
○坂田国務大臣 大体、江田委員のいまおっしゃったことと、私と、意見は一致しておるわけでございます。
○江田委員 そこで、えさの問題なら可能性があるということを言われましたが、あるいはえさの問題について、タイのトウモロコシあたりのことをお考えになったのじゃないかと思いますが、しかし、一体タイのトウモロコシの輸入というのは、ほんとうにタイでできているトウモロコシが輸入されておるのか。何しろ一方においてアメリカのコストの安い大量生産があるわけでありまして、そういう中において東南アジアあたりでえさの開発をやるということになれば、よほど農業の構造を変えていかなければならぬと思うわけです。いまのままの多少の技術援助を加えたような形で、東南アジアからのえさの輸入ができるといういうようにお考えになっているのか、あるいはあれだけ大量の余剰農産物を持っておるアメリカ農業ということを考えていけば、これもそう簡単ではないというお考えなのか、その点はどうですか。
○坂田国務大臣 トウモロコシ、マイロ等の飼料の輸入につきましては、これは長くなりますが、私どもといたしましては、一ところに限ることなく、東南アジアあるいはアメリカというふうに、でき得る限り多数と申しますか、産地を一ところにきめずに輸入するという方向をたどりたい、かように考えておるわけでございます。そして東南アジアもその一つであることは言うまでもございません。
○江田委員 日本に輸入されているタイのトウモロコシは、タイの原産であることは間違いありませんか。
○大口政府委員 いまのお尋ねの原産という意味は、品種がアメリカから来たかということではなくして、積み出し港なり……。
○江田委員 いや、向こうの地でできたものか。
○大口政府委員 私どもの承知する限りにおいては、タイから入っておりますトウモロコシは、タイの国で生産をされたトウモロコシだと承知をいたしております。
○江田委員 そういう承知をされているということ以上には出ないだろうと思うのでありまして、なかなかそう簡単な問題ではないと私は受け取っておるわけであります。
そこで、わが国の食糧の需要供給の長期にわたる計画というものも、非常に重大な段階に来ておるわけでありますが、いまの御説明だと、東南アジアからは、長い何十年も先のことになれば別ですけれども、近い将来にそういう可能性がないということになると、一体、現在の不足しているところの内地米、準内地米をどういうように補っていかれるかということが問題になってくるわけです。最近、韓国の朴農林部長官は、日本人の記者団との会見において、国際収支の改善のために米の長期契約輸出を話し合いたいということを言っておるということが報道されておりましたが、そういう事実を農林省は知っておられるのかどうか。
○坂田国務大臣 韓国の問題でございますが、さようなことをそう具体的には聞いたことはございませんが、この前向こうへ参りましたときにも、さような希望の一つを聞いたことがございます。これはあとからお答えしてもいいと思いますが、ついでに申しますが、韓国が実はいまから二年ほど前でしたか、むしろ逆に不足いたしまして、日本から二万トンばかりお世話をして米を輸入させたことがあるようなわけでございまして、そういう問題がありますので、私としては、やはりこれは長期的なそういう計画によらずして、実情に即応して進みたい、かように考えておるわけでございますし、さように申しておったわけでございます。
○江田委員 実情に即してというのは、具体的にどういうことですか。いまあなたのお答えの中にもありましたように、韓国自身が米が余っておるのじゃない、ある意味で飢餓輸出をやっておるわけであります。そうすると、具体的な実情に即してということは、これも可能性はないということですか。
○坂田国務大臣 お答えいたします。
それは長期の輸入という問題でなしに、現在は日本のいわゆる食糧の自給が足らないのでございますから、それらを満たす意味において、朝鮮の事情をもよくお互いに調べ上げて、そして必要な分量をその年々輸入する、かような考え方を持っておるわけでございます。
○江田委員 さらに、申すまでもなく、いま日本に入っている準内地米、一番大口は中国でしょうが、二番目は何といってもアメリカであります。そのアメリカの農務省の海外農務局長が、アメリカの生産者団体と日本政府との間に契約栽培をしたいということを示唆されたということが伝えられておりますが、その点はどうですか。
○坂田国務大臣 お答えいたします。
さようなことは聞いてはおりますけれども、私が直接その話を承ったこともございません。
○江田委員 あなたは農林大臣なんで、聞いてはおるけれども――そういうことをよそごとのように言われて済むことかどうかということなんです。そういうことを具体的に言われた場合にどうされますか。
○坂田国務大臣 私は、米の問題については、国内の自給を将来に向かってはかってまいりたいという方向でもって進んでおるのでございますから、さような契約を長期にわたって結ぶといったようなことは、やるつもりはございません。
○江田委員 いまの大臣のお答えのように、そういうことは、長期にわたって契約栽培などはしない。しかし、あなたのおことばの中にもありましたように、米の需要ということ、この要請にこたえていかなければならぬと言われておるわけでありますが、一体日本の米というものは、今後どういうことになっていくのか。また米審が始まりますけれども、ややもすると、この米価審議会などあると、一般の国民の受け取り方は、米というものはいつまでも安心して食えるのだということが前提になっておるのじゃないかと思うのです。そこから、米価についても、その角度からの発言が多いように思うのでありますが、いま私が申すまでもなく、この二、三年来米の収穫は減っております。これは一体なぜ減ってきたのか。気象条件が悪かったということで解釈していいのか、そうでないのか。いまのお話のように、東南アジアからの輸入はできないということ、韓国にしても飢餓輸出の状態だということ、中国で米の増産ができたところで、中国自身が膨大な小麦を外国から輸入しておるということ、アメリカは事情が違いますけれども、しかし、あなたはアメリカと長期契約輸入なんかはする意思がないということ、そういう中で、一体日本の食糧需給はどうなるのかということを、ひとつ確信のある答えをしていただきたい。
○坂田国務大臣 現在、根本的には、少なくとも米は日本の国内で自給するという方向に努力を進めてまいりたい、かように存じます。しかし、いま直ちにそれは不可能であることは言うまでもございません。しかし、大体において、年によると九八%、最近は九六%を下回っておるという実態でございますので、現在のところは、どうしてもこれはやはり準内地米の輸入によるほかはございません。そういう点で、この輸入という問題を進めておるわけでございます。現在、準内地米として輸入し得る量というものが、普通の場合でございますが、大体のところ、百七十万トン程度のものが輸入のものとしてあるわけでございまして、日本は今年はわりあい多量の輸入をいたしております。大体八十二万トンの輸入の予定でございまして、そのうち、大体七十三万トンの輸入をいまいたしておるわけでございます。現実の状態としてはさようなことでございますが、米についてはどうしても国内の自給をはかりたい、またその方向でもって進みたい、かように存じておる次第でございます。
○江田委員 人口は申すまでもなく年々ふえていくわけです。そして一方において最近の情勢を見ると、耕地は、新しくできるよりもつぶれるほうが多いわけです。そういうことを考えたときに、ことしの輸入計画が八十二万トンだと言われますが、この八十二万トンというのは、あなたの考え方では、特に昨年度気象条件が悪かったから八十二万トンになったのだという考え方なのか、それとも今後この程度のものは続く、あるいは人口増なり耕地の壊廃によってこれはふえるという考えなのか、ただばく然と努力をするとかつとめますとかいうことでなしに、もっと具体的に答えていただきたい。
○坂田国務大臣 もちろん、具体的にそれを考えておるわけでございまして、さればこそ、現在直ちに自給はできない、しかし、その方向に努力はいたしておるわけでございます。その方向と申しますならば、それは第一には土地改良についての十カ年計画をやっております。それによって、水田その他農地の増強、いわゆる十カ年間に三十五万町歩、それから草地で四十万町歩というものを目的にしてのそういう方向も一つの道であります。それからこれらの生産についての技術問題、あるいは反収をふやすという問題、その他について、こまごまとして、いろいろ重要な問題も含めてそれぞれ施策を講じておるわけでございます。
○江田委員 あなたは農林省がこういうことをやっておるという自慢をされたところで、これはどうでもいいのです。なかなか実績があがっていないということは、だれも承知しているわけです。私がお尋ねをしているのは、昨年及び本年度の八十万トンとか九十万トンとかという輸入量というものは、異常なことであって、これは今後減るのだという見方なのか、今後さらにふえるのだという見方なのか、その点、はっきりしていただきたいというのです。
○坂田国務大臣 全体の米の消費の問題から申しますと、一人当たりの消費は最近微減、少しばかり減っておる状況でございます。人口がふえておりますから、微増と申し上げたほうがよかろうと思うのですが、人口等がふえておるということから微増、一人当たりの消費量は微減、こういう現在の状態でございます。もっとも、これはここ三年間ばかりの情勢から見ての話でございますが、さような状況に相なっておるわけでございます。したがって、これらに対する全体の需給関係を見計らって、そして増産の問題を進めていく、こういう方向で、両々相まってこれらの目的を達成しようという考え方でございます。
○江田委員 日本の食糧問題を心配される人々の中には、昨年及び本年度の輸入量というものは、気象条件が悪かったからこういうことになったんだ、したがって、将来は輸入量がもっと減るのだという見方もあるわけです。そういう見方をする場合、そうでない見方をする場合、食糧政策のあり方、したがってまた、農業政策のあり方というものは、大きく変わってこなければならぬ問題でありますから、私はその点をはっきりと答えていただきたいと言っておるのでありまして、ただ、いまのような答弁では、われわれとしてはまことに不満足な印象しか受けないわけであります。大臣も農業と長く取っ組んでこられたお方なんですから、もう少し自信を持ってはっきりと答えていただきたい。
○坂田国務大臣 これは分解すると、二つばかりあると思います。一つは、昨年の天候が非常に悪い、すなわち、昨年の四月ごろは天明以来の飢饉になるのじゃないかという大騒ぎであった。これは御存じのとおりであります。天候が非常に悪かった。しかし、天候が悪いわりに、この程度の、千二百四十万トン程度の作ができたということでございます。非常に天候が悪かったにしてはよくとれたというのは御存じの状況でございます。したがいまして、将来の問題はどうなるか、こういう御質問じゃないかと思うのでございますが、それらについて断片的に申し上げて恐縮でありますが、一つは、生産技術その他いわゆる増産の施策が現実に達成されますからして、そういう意味において増産ができ得る。一面は、先ほど申しましたように、米の消費はいままでのようではなしに、一人当たりにすると微減する、全体としては、人口がふえるから、これは少しばかりふえるという消費の面がありますから、両々相まってこれは考察する必要があるわけでございますが、私の考えでは、したがってこれは努力は必要でございますが、自給はでき得るという確信を持っておるわけでございます。
○江田委員 あなた方は野党にしっぽでもつかまれてはならぬという配慮かどうか知りませんけれども、いつも楽観的なことを言われるわけです。しかし、日本の農業問題というものは、そういう楽観を許さない条件が出ていると私は思うのでありまして、とにもかくにも昨年度食糧とえさとで一千万トンの輸入をしたということは、これは全くたいへんな問題だと思うのです。しかもそういう中において、経済同友会のように比較的進歩的な経営者の団体といわれる諸君も、まだ現在の自給度を下げていいんじゃないか、イギリスの四五%までにはいかないけれども、もっと下げてもいいんじゃないかというような考え方がある。しかし、先ほど来東南アジアや韓国の情勢を聞いてみましても、そう簡単に外国食糧の輸入ということはできるものじゃないということもあなたは考えておられるわけです。一体、これからの世界の食糧事情というものをどのように考えておられるのか。御承知のように、国連の食糧会議において、低開発国のいわゆる飢え死にからの自由ということが問題になりまして、長期にわたって低開発国の人口増を考えれば、十年後には世界食糧が絶対的に不足するというような専門家の答えも出ておるわけです。さらに、そういう中において、一体食糧の価格がどうなるかという問題も出てくるわけです。私は、現在のソ連や中国の食糧輸入というものは一時的なものじゃないと思っておるわけです。ソ連の食生活というものは、われわれの知った範囲によると、でん粉食率が七七%というような、まだきわめて低い食生活の内容です。そういうことを考えていけば、どんなにソ連が農業開発をやっても、あそこの食糧輸入は減らないだろうと思う。中国にしたってそうだと思う。だから、そういうことをもっと真剣に考えて、緻密な計画を立てていかなければ、われわれの食うものがどうなるかということになってくるわけなんでして、いま大臣の答えでは、昨年は天明以来の飢饉というような条件もあったということですが、一昨年はどうだったのですか。一昨年は神武以来の飢饉だったのです。しかも一昨年九十万トン以上の米を輸入したじゃありませんか。そういう気象条件というもので考えていいのかどうか。あなたのほうで出されている農業白書を見ましても、米の生産の漸減ということは、単に気象条件だけじゃないのだ、異常気象というだけじゃなくて、耕地の減少、労働力の急減、兼業化の進展、革新的技術の未熟、そういう問題を出されておるわけでありまして、今後日本の経済がいわゆる近代資本主義として進んでいきますならば、これらの条件の中の耕地の減少にしても、労働力の急減にしても、兼業化の進展にしても、食糧生産という面から見れば、マイナスの条件のほうが多いんじゃありませんか。そういうことを考えても、あなたは日本の食糧自給は心配ないという考え方なのか。もしそうでなしに、現在の八十万トンというものをさらに輸入量をふやしていかなければならぬといった場合に、国際市場に出回っているところの準内地米の絶対量から見て、完全なる売り手市場であるところのこういう条件の中で、われわれは一体幾らの米を買うようなことになるのか、そういうことについて、もう少し具体的に答えてもらいたい。
○坂田国務大臣 江田さんのいまお話しのとおり、私が昨年の災害の問題を申しましたけれども、それだけではもちろんございませんので、この食糧の減るという問題についてのいろいろの事柄については申し上げなかっただけでございまして、それは御存じのとおりでありますから、繰り返して申しませんが、さような関係でございまするので、食糧というものの自給をはかることは、そうたやすいことであるとは考えておりません。したがいまして、私どもといたしましては、第一に土地改良十カ年計画、それによって圃場整備等をやりますこと、その圃場整備にいたしましても、いわゆる地力をよくするということ以外に、やっぱり労働力が減りますので、それらの労働力に対応しての問題も考えながら、それらの問題もやる、なお、耕地の造成も、先ほど申しましたようにやってまいる、こういういわゆる土地問題、これの大きな躍進をはかってまいりたいということが一つでございます。それからなお、それのみならず、構造改善の問題は、引き続いてもちろんこれは進めてまいるのでございます。それから価格政策にいたしましても、やはり小農でございますものを直ちに大経営のようなわけにいきませんので、でき得る限りそういう面を考えつつも、やはり価格政策というものは、ある程度これは考えていかなければならぬことは言うまでもございませんので、それらの点については、常に連絡の上で、また皆さんにも御協力を得て進めておることは、御存じのとおりでございます。これらについていろいろございますけれども、江田委員もよく御存じのことでございますので、長くは言う必要もないと思いますが、それらのことを進めてまいる。それから一つは、これも繰り返して言う必要はございませんが、消費の面についても、いま申しましたように、一人当たりの米の消費は微減しておる、こういう関係もある。しかし、人口がふえるので、ここしばらく統計で見ましても、若干総量において微増というような問題もございます。そういうようないろいろな問題を見まして、私どもとしては、でき得る限りこれらの施策を充実せしめて、そして食糧のうちの大宗である米については、少なくともこれは自給の方向へ持ってまいりたい。しかし、家畜等も、これは非常に需要がふえるのでございまして、同じ食糧であっても、家畜、それから野菜といったようなものも、これは自給せざるを得ない。家畜についてはそこまでいきませんけれども、これらの問題については、家畜については御存じのとおりえさが要るわけで、飼料問題ということになります。飼料までも完全に自給できるかというと、草のほうは自給することに努力はいたしますけれども、草以外の濃厚飼料になりますと、ことごとくこれを自給によって達成するということは、私は困難であるというふうに考えております。そういう意味から、そういうえさの面については、やはり東南アジアその他の方面にずっと長くこれは期待せざるを得ないであろう、こういうふうに考えておるわけでございます。
○江田委員 これから十カ年で土地改良をやるということなんですが、十カ年ではたしてどれだけのものができるのかということです。さらに、新しい耕地をつくるんだといったところで、現に、農林省が干拓として開いたところが、いつの間にか工業用地と変わっておるようなところがたくさんあるじゃありませんか。鉄道の沿線から見ても、どれだけの耕地がつぶれておるかということを考えたときに、あなた方のそういうような考え方は、希望的観測としてはあっても、現実の問題としてはなかなか出てこないのです。農林省というものがあって、日本の農業技術の進歩なりあるいは生産の拡大なりにいままで努力されたと思うのですが、せんだって当委員会においてあなた方の発表によると、単位面積当たりの米の粒数はふえているけれども、重量は減ってきたんだということを言われましたが、まことに重大な問題でありまして、この一つの事実をもってしても、今日までの農林行政というものは完全に失敗しておったのだということをお認めになりますか。そういうことをお認めになるということになると、いまの希望的観測だって、また例によって例ということを判断せざるを得ぬわけです。
○坂田国務大臣 少なくとも米に関しては、最近のいろいろの情勢は江田委員のおっしゃるとおりでございまして、われわれはこれらの問題に対処していくことについては、より以上の努力は払わなきゃならぬということについては、江田委員と同じ考え方でございますが、しかし、米についてのいままでの努力というものは、これは相当なものでございまして、たとえば終戦後、いまから十年前といまとはたいへんな違いでございます。十年前は六千四百万石くらいが平年作、こういわれておったものが、現在は八千三百万石前後が平年作、こういう非常な大きな問題、ここに増産が実現されておるということでございまして、日本の米作の問題ということについては、努力次第によってかなり進み得るという確信を持っておるわけでございます。
○江田委員 終戦当時幾らで、いま幾らになったというようなことを言われたところで、それじゃ一体工業生産のほうはどういう率かということを考えてみられたら、そんなに大きなことは言えないじゃありませんか。それよりも、あなたが担当しておられるこの二、三年来は、米の収穫は減っているんですよ。隆々として米の生産が伸びて日本の農業が発展しているなら、こういう条件は起きなかったはずでしょう。現に減っているという事実をどう判断されているのですか。
○坂田国務大臣 本年の非常な不作という問題は、これは先ほど申しましたような天明以来の大不作、大凶作であり、非常な問題でございましたが、これは東北地方、北陸地帯あるいは北海道等の官民相協力しての努力というものがこれを防いで、今日現在の程度に上げられましたことは、私ども農村の皆さんに非常に感謝しておるようなわけでございます。しかし、現在、ここ数年間若干の減少を示しておるのはおっしゃるとおり事実でございます。これらの問題について、いま申しましたように、気象という問題もございますが、なお一面においては、労働人口の非常な減少ということもございます。そのほか、いわゆる第二種兼業といって、御存じのとおり、兼業を主にしたそういうものが増加しておる状態、そういう面も加わりまして、若干の減少を見ておることは、お説のとおりでございます。さような関係でございますし、なおまた一面、水田はそのわりに減りませんけれども、それも合わせまして、水田及び畑が他の方面に転換いたしまして減少いたしておる、こういうことも大きな原因であろうかと思います。そういういろいろの原因がありまして、それらが一緒になって若干の減少を見ておる、そういう姿であろうか、こう思います。したがいまして、それらの原因に即応して、それぞれの政策を立ててまいる、こういうことでございまして、一つは、いわゆる水田あるいは畑の減少に向かっては、草地を加えて十カ年間に七十五万町歩の増強をはかる。それから労働力の不足、いろいろの問題がありますから、圃場の整備ということによりまして、労働力が少なくても、機械等によってこれらの問題を整備していけるようにしていこう、これは江田さんがよく御存じのことばかりだから、あまりに重複して申し上げることもいかがかと思うのですが、そういうようなこと、それから水管理の問題については、今度は特別の施設もやってまいりたいということで、いろいろの技術問題、それから労働問題、すべてにわたってこれらの問題を解決してまいりたい、かように存じておるわけでございます。
○江田委員 私が知っておろうと知っていまいと、あなたの信念は申し述べられたらけっこうだと思う。ただ、ことばの羅列だけでは困るのでして、もっと的確な答えをしていただかなければならぬと思うのです。
いま大臣があげられた、また農業白書にも触れておるところの、たとえば兼業化の問題というのは、最近の農林統計を見ても、ふえているのでしょう。条件は悪くなるということなんでしょう。労働力が減るということも、日本の資本主義が発展するという前提に立てば、これまた農業にはマイナスの条件が出てくるわけでしょう。しかし、あなたのほうは、たとえば機械によって省力農業をやると言われますけれども、いまあなた方は、日本の大型機械による一貫経営というものは、一体どういう機械を組み合わせたらできるのだという自信があるのですか。構造改善で買った大型機械を倉庫の中にはこりまみれにしている事例が幾らもあるじゃありませんか。あなた方がこれならば機械化一貫作業ができるという確信を持って指導しておるのではなしに、農民の危険と犠牲の上に立って試験研究をやらせているのではありませんか。官僚的な思いつきと無責任な放言だけでやられたのではたまったものじゃないと思うのです。そういう問題は幾らやっても押し問答になりますから、ただ私は、そういうことについてはもっと根本的に反省してもらいたいと思うことだけつけ加えておきます。
もう一つ、次に聞きたいのは、米の消費というものは、わずかではあるけれども、減っていくのだ、他の食糧がふえるのだということを言われましたが、たとえば長期の見通しにおいて、あなた方が何年を、十年後でも十五年後でも想定されてよろしいが、そのときの日本の食生活の構造というものはどういう形になっておるのか、どこへ持っていこうとしておられるのか、そういうことがはっきりしなければ、ただ農業政策はその日その日のお天気次第でこう薬ばりに終わってしまうわけなんです。だから、たとえば十年先なり十五年先なりにおいて、日本の食生活の構造というものをどう考えておられるのか。たとえばでん粉食率というものをどのくらいに考えるのか、これを答えていただきたい。
○大口政府委員 先ほど来の御質問、主として米の問題が中心でございましたので、私どもいろいろな角度で米の消費の過去の実績なり、それから農林省でまとめました農産物の需要と生産の長期見通しにおいてはどういうふうに見ておったかというようなこと、その後それを中間的に検討いたしました際にどうだったかというようなことから、まず申し上げてみたいと思うのです。
先ほど来大臣が申されておりますとおりに、最近の二、三年の間におきましては、一人当たりの米の消費量はわずかながら減っております。数字で申し上げますと、三十七年が年間一人当たり百十七キロ、三十八年が百十六・三キロ、三十九年が百十四・七キロ、こういうふうに微減いたしておるのでありますが、いま私が申しました年度の前には、三十四年から三十七年までの間は、むしろ逆に一人当たりの消費量はふえた時代があったのであります。したがいまして、いまの時点で直ちに、米の一人当たりの消費量の微減傾向が今後も必ず続くのだということを一〇〇%の自信を持って断定するには、やや材料が不足だと思いますが、ただ、食糧の構成が、最近の経済の成長に伴いまして、非常に食生活の構造がいわゆる高度化をしておる。でん粉質食糧の割合が逐次減って、西欧諸国が過去においてたどりました方向と同じ方向を食生活の面でたどっておることは、事実でございまして、その意味で、野菜、果物、肉類、乳製品等の需要量が最近飛躍的に伸びておることも、そのことを物語っておると思うのでございます。ただ、でん粉質食糧が減りましても、その中に占める米の割合というものが、日本人の粒食に対する非常な執着等を考え合わせますと、でん粉質食糧が減っても、米の消費がそれと同じような角度で減らないのではないかというふうな見方も成り立ち得るのでございます。何年か先の食糧構造を想定いたします際に、その間における経済成長率がどういう数字になるのか、それに伴って国民の所得水準がどういうふうに上がっていくかということ、それからまた所得弾性値を幾らに置くべきかということ等がございますので、いろいろな前提を置いて計算をする必要がありますことは御承知のとおりでございますが、私ども三十七年に発表いたしました長期見通しにおきましては、米の需要と生産のバランスの問題は、一人当たりの消費量が、過去に示しましたよりももっとよけいな減り方を示すけれども、耕地面積等は大体横ばいで、米の生産量と消費量とは、大体昭和四十六年ぐらいになれば、気象条件の変化というものを一応捨象して考えますと、大体バランスがとれるんじゃないかという計算をしておったことは事実でございますが、その後、昨年の秋に、中間検討ということで、過去を振り返って実績とその長期見通しの際の数字とつき合わしてみたわけでございますが、その結果、生産面におきましては、米の単位面積当たりの収量が最近三年間ばかり減っておる。面積の関係はそれほど大きな動きはなかったのでありますが、そういうことと気象条件その他からいたしまして、米の生産が、長期見通しを策定いたしました当時よりはどうも少ないということは、先ほど来大臣が申されましたが、需要の面で申しますと、長期見通しをやりました際に考えましたほどは一人当たりの消費量が減らない。それから加工需要は意外に伸びておる。それから人口の増加は大体一%ぐらいの人口増加率でございますから、それらを勘案いたしました需要量というものが、どうも長期見通しで考えておったほど減らないのではないかというふうな反省を昨年の秋の中間検討ではいたしたのでございますが、最近、中期経済計画の改定作業とかいろいろな作業が現在経済企画庁で進行中でございますので、経済成長率の前提その他の的確な数字がまだございませんが、一応仮の計算をいたしますと、昭和五十年ごろには、大体一人当たりの米の消費量が、現在の百十四・七キロに対しまして大体百三、四キログラムぐらいになるのではないかという数字を部内の純然たる作業用の数字として持っております。そのような一人当たりの消費量を前提として、人口増加率を考えてみました場合の米の需要量というものは、大体千三百五十万トンから千四百万トンをちょっとこすくらいの数字が、昭和五十年の米の需要ではなかろうかという数字を部内の全くの作業の結果として私どもつかんでおりますが、生産の問題は、最近の単位面積当たりの収量の減をいろいろな技術の面でこれを補ってまいりたいということを考えておりますので、現在の単位面積当たりの収量は全国平均で大体四百キロを少し割ったところでございますが、これが大体一割ぐらい十年間に伸ばし得たならば、先ほど大臣が申されましたような国内の自給というものが、よほどの天候の異変がない限り達成できるんじゃないかという試算は持っております。
○江田委員 官房長のいまのお答えの中で、食糧政策というものを考え直していかなければならぬ、かつて農業基本法のときに、これからの成長部門は果樹や畜産であって、米のごときはもうたいしたことはないのだというような指導をなさいましたけれども、これを大きく変えていかなければならぬという反省をされておることはけっこうだと思うのですが、ただ、それに伴うところの政策の裏づけがあるのかどうかということが問題になってくるわけです。私は、そういうようなことについては、もっと国民に実態を知らすべきだと思うのです。多くの国民は、まだ米というものはどこからでも買えるのだ、心配ないんだというような認識を持っている。そこから農業政策について誤った圧力がかかってくるわけです。あまりそういうことについて知識のない諸君だけでなしに、経済同友会あたりの考え方の中にも同じようなものが出てきているわけです。どうもそういう点について、農林省は国民とともにものを考えるということを忘れているのではないかという気がするわけでございますが、それはそれとして、いまの官房長の説明によって米のことはわかりますが、そのときの日本のでん粉の食率はどのくらいになるという計算になっているのですか。
○大口政府委員 いまのでん粉質食糧の割合は、昭和三十九年の数字しかここに持っておりませんが、六四・六の数字でございますが、これは農業白書にも載っておりますが、先ほどの計算をいたしました計算の方法が少し違いますので、ちょっといまの江田委員の御質問に的確にお答えできないのでございます。と申しますのは、先ほど私が申しました昭和五十年の部内の試算と申しますのは、一応過去の傾向をある程度将来に投影をする方法をとっておりますので、でん粉質食糧の食率を幾らにして、その中の米を幾らというふうな、将来の食生活の構成から逆にスタートした計算をいたしておりませんので、その点が、ちょっといまの私が申しました数字と見合う性格のでん粉質食糧の比率が幾らかという数字を手元に持っておりませんが、少なくとも最近五カ年間のでん粉質食糧の比率は、三十五年度六九・八から六四・六まで減ってきておりますので、その趨勢をたどってまいりますと、六〇を割ったような数字がでん粉質食糧の比率として想定されるのではないかというふうに考えております。
○江田委員 六〇を割るということになるのは、これは当然のことなんでありますが、常識的には、食生活の高度化というものは、でん粉食率が下がることというように一般的にはいわれておるわけでしょう。そういう中において、たとえばアメリカのごときは二四%ぐらいになっておる。米を食いなれた日本人がアメリカの食生活にそのままいくとは私は思いませんけれども、大体現在のヨーロッパあたりで、ほとんどの国が五〇%あるいはそれ以下のところにいっておるわけで、西ドイツにしても三八%というような数字が出ておるわけであります。したがって、日本が経済が成長して、いわゆる先進国だというようなことがいわれる段階になれば、しかも昭和五十年ということを考えていけば、当然日本のでん粉食率も五〇%前後にならなければならぬはずだと思うわけです。そういうことになってきたときに、一体、これだけでなしに、動物たん白なりその他いろいろな問題が出てくるわけでありますが、それらについて、あなた方のほうは自信のある計画、プランがあるわけですか、その点はどうでしょう。
○坂田国務大臣 これは畜産の問題につきましては、すなわち、牛乳の問題、それから肉の問題等について、これから現在の情勢を見まして、大体肉については二倍から二倍強というところに増強するということを目当てにいたしまして、それに対する問題を処理してまいる。それから牛乳につきましても、将来はでき得る限りいわゆる飲用牛乳に主眼を置くということで進みたいと思うのでございます。しかし、牛につきましては、大体いわゆる飼料、草の生産に努力してまいるのでございまして、それらについての計画を立てて進めておるわけでございます。ただ、豚あるいは鶏等の肉についての飼料につきましては、これはやはり草というわけにいきませんので、穀物その他の飼料が要るという問題になります。この点については、全部国内で自給するということは、これは非常にむずかしいということを考えておるわけでございます。これらについての問題等は、詳細をまた官房長から……。
○江田委員 大臣の答弁は、発音は聞こえるのですけれども、意味はよくわからぬので、別に無理して答えていただかなくていいです。事務当局でいいですから。
そこで、官房長は、でん粉食率を六〇%以下ということを言われましたが、私は、近代国家ならば、どうしたところで五〇%前後にいかなければならぬと思うわけであります。そのときに、一体土地生産物の総カロリーというものは、どうなるのか。現在の六四%として、一人の一日当たりのいわゆるオリジナル・カロリーが三千四百幾らになっておると思うのですが、それが五〇%あるいはその前後ということになると、その倍以上の総熱量が必要になってくるわけでしょう。それが一体どこまで日本で生産できるのか。ただ希望的観測だけでなしに、そういうことを考えたならば、いまのような行き方をする限りは、全く答えは出てこないのではないか。現在のオリジナル・カロリーが倍になったときに、日本の食糧及びえさの総輸入量はどのくらいになるとお考えですか。
○大口政府委員 先ほど大臣がお答えになりましたように、かりに昭和五十年ぐらいの時点で考えますと、牛乳、乳製品が大体現在の二倍半くらい、それから肉の需要が大体二倍くらいというような見当を私どももつけておりますが、その際の増加するえさの要輸入量がどのくらいになるかということは、私どもいろいろいま畜産局においても部内で検討いたしております。ただ、きわめてはっきりいたしておることは、先ほど来大臣が申されておりますように、重要な食糧である米でありますとか、あるいは輸入が非常に困難な肉等については、つとめて国内自給につとめるという方向で生産対策をやりましても、濃厚飼料の輸入量というものの増加することは、現在の時点で考えます限り、やや避けられないのではないかというふうに考えております。ただ、昭和五十年のいまの二倍半の牛乳、乳製品の生産とか需要とか、あるいは肉が二倍になったときに、えさの輸入量が具体的に幾らになるかという数字は、非常に計算がむずかしいので、部内でもいろいろな方法で計算をいたしておりますので、いまここで、きわめて責任ある答えとして、数字が幾らぐらいということを申し上げることがちょっとできないのでございますが、ただ、現在のえさの輸入量と比較をいたしますと、相当大きな率での増加が避けられないのではないかというふうに考えております。
○江田委員 さっきも申しましたように、土地生産物の総熱量というものは、ほとんど現在の倍にならなければ計算は合ってこないと思うのです。そういうときに、昨年のえさと食糧の輸入量が二十億ドルということ、この数字でも私はなかなかゆるがせにできないことだと思いますけれども、将来、いま申しましたような、ほとんど倍以上の総熱量が要るという段階になると、たいへんな輸入量になってくるのじゃないか。しかも、そのときには、世界の食糧市場というものは、完全な売り手市場になっておると思うのです。あるいは東南アジアあたりでえさをつくりましても、御承知のように、世界の貿易開発会議において、いわゆる南北問題からして、低開発国の第一次産品の買い上げ価格の引き上げということが強い要請として出てきているわけだし、しかも、一方において、世界の食糧全体が絶対不足をするのではないかということがいわれ、あるいは中国が米を三十万トン売ってくれたからといって、中国の経済が軌道に乗ったときに、値のいい米を売って、安い小麦を買うというようなことをいつまでも続けていくのかどうかということが問題になってくる。そうなると、残るところは、アメリカだけということになってくるのではないか。私は、何も食糧問題についてアウタルキーでいいという考え方じゃありませんけれども、しかし、膨大な食糧あるいはえさの輸入というものが、アメリカという一国の政策に完全に寄りかかっていかなければならぬということは、非常に危険なことだと思うのです。
あなた方は、一体昭和五十年においては、的確な答えでなくともよろしいけれども、輸入量というものは、おおよそ何億ドルになるという推算をされましたか。しかも、売り手市場ですから、単価は上がっていくわけですから、どういう数字を持っておられますか。
○大口政府委員 先ほど申し上げましたように、まだ的確な責任ある数字をつかんでおりませんが、ごく大ざっぱに申し上げますと、これはえさの需要量からだけ見た数字でございますが、昭和五十年くらいには、現在の倍近い数量を輸入しなければならないのではないかというふうに考えております。
それから、単価の問題でお尋ねでございますが、現在の時点で外国市場の単価の見通しをつけるということは、いまの数量以上にむずかしいことと思いますので、その点は的確に計算をまだいたしておりません。
○江田委員 現在の倍程度の輸入量というものは、私はきわめて甘い考え方だと思うわけです。大臣あたりが宣伝されるところの国内農業の近代化がいわれるようにできても、それでもなかなかそういう数字ではおさまらぬと思うのです。もっと大きなものになってこざるを得ぬと思うのです。何しろ国民の食べることなんです。しかも農業というものは、ことし方針を変えたからといって、すぐに実りがあるものでもないことは言うまでもないわけでありまして、そういう点については、もっとはっきりとした見通しを持ち、そういう真相を十分に国民に納得させる中で、政策を立てていただかなければ、から回りに終わると思うわけです。
私は、なおいろんな問題を質問したいわけで、たとえば牛肉の問題にしても、やがてはこれがカズノコ並みになるのではないかといわれる。そういう中において、それでは、一体農林省の指導されておるところの食肉の生産政策というものは当を得ているのかどうか。残念ながら、私は当を得ているとは思わぬのです。あるいはその他の問題についても多くの問題がありますけれども、時間が来ましたからやめますけれども、ただ私は、この際、農林大臣というか、政府というか、農業の問題を、そのときどきのこう薬張りでなしに、もっと根本的に考えていただきたいということをお願いしたいと思うのです。したがって、当委員会におきましても、そういう問題をもっと十分時間をかけて掘り下げて、長期の日本の食糧政策というものをどうするかということを方向を出すように、政府当局のほうも委員長のほうも、御努力願いたいと思うわけであります。急にどうといってできるものじゃないのですから。どうも見ておりますと、そういう根本問題が置き忘れになって、ただ目先だけの、やれ近代化資金であるとか何だとかいうような、そういうことだけに追われて、長い目で見たところの政策というものについて、一つも的確な答えをお出しになっていないように思うのであります。
そのことをお願いしまして、私の質問を終わります。
1966/04/05 |