1975/06/05

戻る会議録目次


75 衆議院・公害対策並びに環境保全特別委員会


○江田委員 水島の三菱石油の事故が起きまして半年たつわけであります。すでに漁業補償も行われ、企業の方は操業の再開を急いでおる、そういう段階に参りまして、これはただ一水島地区の問題というだけでなしに、非常にスケールの大きい問題であり、国会でも取り上げ、政府の方もいろいろおやりになっておるわけですから、最終段階になって政府としてどういうお考えなのか、そのことをお尋ねしたいのであります。

 まず第一に、この事故が起きて以来、政府として直接にどういう措置をおとりになったか、あるいは企業なり地元に対して、どのような指示なり指導をされてきたか、その点からお伺いしたいわけです。

○左藤政府委員 水島で油が流出をいたしましたのが昨年の十二月でございまして、その後、現地対策本部として、政府として本年の一月十三日に岡山県庁の中に対策本部を設置いたしまして、十三省庁から大体四十数名ずつ、現地で関係のいろいろな問題につきまして調査し、視察し、指導に当たったわけでございます。

 そのやり方といたしましては、一つは回収、防除の点、二番目が被害補償対策、それから環境影響調査、そして防災対策と、四つの班に分けまして、それぞれ副本部長を置きまして、積極的な活動を図ったわけでございます。

 具体的な活動といたしましては、まず回収、防除の点につきまして、関係県に自衛隊の支援要請を指導いたしまして、陸上自衛隊、海上自衛隊の御協力を得まして、大規模な流出油の回収作戦というものを展開したわけでございます。さらにまた、三菱石油の会社の方にも督励いたしまして、二次的な浮遊油、それから付着油の原因となりますノリ、ワカメの回収、撤去をしたわけでございます。その他、対策本部が現地にあります間にも、ドラムかんの回収とかバラ油の回収、そういった問題についてそれぞれ努力をいたしたところでございます。

 それから漁業補償につきましては、第二次の内金払いの問題につきまして、四県の各漁連からの要望がございまして、一月三十一日に、当時の四漁連と会社側との間の折衝というものをあっせんをいたしまして、そのときは六十億円の支払いというものをいたしたところでございます。

 さらに間接補償の問題につきましては、これに対応いたします基本方針を会社側に指示いたしまして、関係各県と十分連絡をして、県があっせんするという体制を整備させて、ただいま大部分が、この間接補償の問題についても解決を見ておるところでございます。

 その他環境影響調査の問題、これも水質、底質、水中汚染調査、海岸、河川調査、魚介類等の影響調査、油汚染の人体影響、それから水産物市場等の実態調査、いろいろ十四項目にわたります調査項目ということで、これはすでに第一回の調査を実施いたしまして、ただいま、その整理をやっておる段階でございます。

 それから、そのほか漁業再開に関連いたしまして、油臭魚調査とか、そういったものの調査方法を現地で指導いたしまして、漁連の自主的な調査によって試験操業をして、漁業再開を今日は完全に実施しておるところでございます。

 さらに防災対策といたしまして、これはそれぞれ対策本部員が、それぞれの専門的な見地から検討を加えまして、今国会に提出を予定いたしておりますコンビナート法案の作成のためのいろいろな問題点の検討、さらに、そのほか防災上のいろいろな問題点の指摘ということをしておるところでございます。

 そうした作業というものをいたしまして、現地対策本部といたしましては、被害が非常に範囲が広かったものでございますから、被害各県の窓口の一元化と、それから応急対策という面、各県の連絡調整というものを機能的に行うために設置されたものでありますので、そうした意味におきまして、一応の見通しが立ちました段階で、二月八日をもって組織、人員はそのまま東京に移しまして対策本部といたしまして、その後、引き続いて対策の万全を期して、各県からの連絡も十分受けまして、すでに連絡会議といたしまして三回、対策本部の会議として五回、東京で行っておる。

 以上が、最近までの政府といたしましてのとりました対策の概要でございます。

○江田委員 そこで、先ほど申しましたように、企業の方は再開を急いでおる。再開の許可を申請をしておるというように私は聞いておるのでありますが、この際、再開の許可というのはどこがオーケーをすればいいのか。

 さらに許可するとすれば、どういう条件が整えばいいのか。いままで対策本部としていろいろおやりになったことを、いまお話がありましたが、その調査あるいはいままでの経過から見て、もう許可していい条件になっておるのかどうか、そのことをお聞きいたします。

○左藤政府委員 今回の水島の事故の発生と同時に、倉敷市の消防が、そういった緊急事態の発生と同時に操業停止をいたしておりますので、そうしたことで操業を再開するためには、倉敷市が停止いたしておりますものを解除すると申しますか、ということだけで、法的には操業を再開することができるものと私は考えております。しかしながら、いまお話がございましたような、政府全体まで取り組んで対策を講じなければならなかった非常に大きな事故でもございます。いろいろな影響もございますので、そうした倉敷市だけの判断ということでいいかどうかという問題、これは法的にはそれだけでいいと私は思いますが、実質問題といたしまして、岡山県当局あるいはまた政府の対策本部といたしましても、こうした判断のことにつきまして倉敷市だけでなくて、政府としても十分この問題について指導をしていかなければならない、このように考えております。

 それから現段階におきまして、いまお話がございました水島の製油所の操業再開が、どういった条件が整えば再開していいというふうに政府として判断するかということでございますが、現時点におきましては、まだそうした操業再開をさせてほしいといいますか、というようなことについての政府に対します、対策本部に対します連絡は、現段階におきましてはございません。しかしながら、いろいろ客観情勢といたしまして、二度とそういった事故が起こらないように、そしてまた、安全対策というものが十分行われているかどうかという配慮があって、初めて操業再開することができるのではないかと思います。その点につきましては、対策本部と申しますよりも自治省の消防庁が、十分この問題についての指導をすべきもの、このように考えております。

○江田委員 法的には倉敷市ということになる。しかし問題の性格、その影響の大きさから見て、当然政府が指導をする、こう言われましたが、まずその前に、被害を受けたのが岡山、香川、徳島、兵庫、私は最小限この四県の了承が必要ではないかと思いますし、また、いまおっしゃったような政府の指導――指導というのはいろいろな解釈ができますけれども、四県とともに政府の了承が必要だ、そう考えてよろしゅうございますか。

○左藤政府委員 法的には倉敷市だけでございますけれども、いま申しましたようなことで、了承と申しますか、そういった点の十分の配慮というものが私は必要ではないかと思います。それから四県につきましても、別に法的に四県の同意とかあるいは承認を得るというような性格ではないと思いますけれども、こういった事態につきまして、それぞれの県に十分連絡をとるという必要はあろうかと、このように考えております。

○江田委員 まだ再開の申請はないということでありましたが、倉敷消防本部の方へは申請がされておるのじゃないでしょうか。消防庁の方、連絡はありませんか。

○佐々木政府委員 まだ私どもの方にも倉敷市の消防本部から、再開申請というものが出てきたという連絡はございません。

○江田委員 ないと言えばそれまででありますが、私が先日、水島の工場の方に参りまして、工場の責任者に聞いたところでは、そういう申請をすでにしておるということでございました。さらに岡山県としても、再開にオーケーを与えるとすればどういう条件で認めるべきかということを、すでに県議会の中でも意見の交換がなされておるような状態でありまして、私はいままでの経過から見て、現地対策本部までつくられたのに、そういうあなた方を抜きにして、地元だけでやっているようには思わぬのでありますが、ないと言えばそれで結構でしょう。なければないでよろしいが、もし申請があったならば、どれだけの条件が満たされればいいというようにお考えになるか、それを明らかにしてください。

○左藤政府委員 これは連絡会議を開会、開催いたしまして、国としてどういうふうに検討すべきかということについては、連絡会議の結論によって国の立場を決定すべき性格のものであろうと考えておりますが、国の立場ということを離れまして、私個人ということでいま考えて、いろいろ考えられる問題の一、二点を申し上げさせていただきたいと思います。

 それは流出事故が発生いたしました三菱石油の責任というものはきわめて大きいことは申すまでもございませんが、その後のいろいろな状況を見てみまして、ただいままでのところ、油の回収とか、それに伴います清掃の完了とか、漁業補償その他の補償が大方終わっているとか、そういった一つの客観的な事実がございます。それからもう一点は、倉敷市とただいま防災協定を結ぶという問題が進んでいるように聞いております。この内容の問題。それから会社側が自主的な防災体制を整備いたしております。それが妥当かどうかという問題。それから過日、約一カ月にわたりまして点検運転をいたしました。それで安全の確認と補修をいたしましたが、その結果をもう少しいろいろと調べてみたい。そういった問題などを考えました上で、安全性は確保されているかどうかとか、そういった問題を十分配慮した上で決定すべきものであろう、このように考えております。

○江田委員 いまおっしゃったことについて若干疑問がありますので、お尋ねしますが、まず、流出した油の回収という問題でございます。

 これは、たとえば岩の割れ目に油が入っているとか、あるいは砂の深いところに浸透しているとか、そういうものが、気温が上がってまいりますと、だんだんと出てまいるわけです。現にまた出つつあるわけであって、完了はしていないと思うのですが、そういうことは一体どうされようとするのか。あるいは、もう一つもっと大きな問題は、流れたC重油がかたまりになって海底に沈でんしているのではないかということが言われておるのであります。これについては先ほどの環境影響総合調査の中でも取り上げられておると思うのでありますが、これは一体どうなっておるのか。環境影響調査の方は近く発表される、整理中だということでありましたが、いまの段階において海底にC重油は沈でんしておるのかいないのか、これはもうはっきりしていると思うのであります。そういう点はどうなっておるのか。

○大場政府委員 環境庁が中心になりまして、環境影響調査をかなり広範な項目にわたって実施して、いまちょうど生データを集計中で、この十九日ごろに学者諸先生に集まっていただきまして、いろいろ検討を加えていただき、評価していただきまして、月末までには発表いたしたい、かように作業を進めている段階でございます。

 いま先生からお尋ねがありました底質はどうなっているかということでありますが、これは環境庁、海上保安庁、水産庁というぐあいに共同で調査しております。私どものところで聞いている限りでは、まだ断定的なことは申し上げられない段階でございますが、かなり広範囲にわたって底質というものは油によって汚染されている、しかし、これはかなりむらがありまして、一面べたにということではございません、非常にむらがあるという形であります。

 それから、今回の水島流出事故との関係はどうかということにつきましては、われわれも一番気にしているところでございますけれども、残念ながら現在までの知見では、どの程度流出重油が底質汚染に影響があったかということについては、判然としたデータは出ていません。たとえば流出域と思われる以外のところにもかなり高い底質の汚染がある。具体的に申し上げれば、大阪湾とかそういったところにもあるようでございます。そういったことで、水島との関係で底質の汚染がどのような形になっているかということにつきましては、もう少し、これは先生のお知恵をお借りして判定いたしたいと思っているわけであります。

○左藤政府委員 いまお話ございました気温が上昇してきてから、砂浜とかあるいはテトラポットの中から油がにじみ出てくるのではないかということでございます。

 大体清掃のめどがつきました三月十日から四日間、対策本部といたしまして四県を回りまして、清掃状況の現地視察を行いまして、清掃の不徹底な部分を具体的に指摘いたしまして再清掃させましたが、その後、御指摘のような気温の上昇とともに流出する油の監視につきましては、パトロール隊を会社側と四県にそれぞれ編成させまして、ずっと月に二回、三回という頻度でもって巡回させております。そして応急措置を講じておりますほかに、さらに砂浜におきましては、ボーリングをさせまして油の状況を調べさせて、その徹底的な防除、回収に努力しているところでございます。

○江田委員 瀬戸内海に沈でんしている油の問題について、水島と関係のない大阪湾の方にもある、そんなことは言わぬでもわかった話なのであって、あの水島の油が流れた範囲というのはわかっているのですから、その範囲内でそういうようなことがあるのかないのかということをはっきりしてもらえばいいのである。そんなことについて先生のお知恵をお借りしたいなんて、ふざけたことをおっしゃらない方がいいと思うのです。とにかくあることははっきりしているのですが、そういうものが残っていることについては、今後だれの責任で、どういうようにしようとするのか、これをはっきりしてください。

○大場政府委員 水島の油が流出した範囲におきましての底質につきましては、底質の汚染状況は、一面べたということではございませんで、むらがあるという形で汚染されている。しかし、ただいま申し上げましたように、それが果たして今回の水島油による汚染であるかどうかということにつきましては、まだはっきりと断定ができないということでございますので、そこは今後の検討にまたなければならないということを申し上げたわけであります。

○江田委員 そのことについては後でまた触れますが、先ほど政務次官のお話では、防災体制を会社がとった、それが妥当かどうかということをおっしゃいましたが、この防災体制というのは、倉敷市消防本部、それとつながりのある消防庁が指導してやられたのではないですか。

○佐々木政府委員 防災体制につきましては、現在倉敷市の消防本部とそれから岡山県とで協議をしながら、防災協定の内容の検討を行っております。

 その内容につきましても、現在、草案的なものが私どもの方にも参っておりますので、私どもの意見も、県の方から正式に上がってまいりました場合には、申し上げるつもりでございます。ただ、この防災協定の内容は、現行法のもとにおいて可能な限りの防災体制をとらせるというような内容のものでございますので、いま私どもの方でこれから提案いたそうと思っておりますコンビナート災害防止法の制定ができました段階におきましては、そのコンビナート防災法の規定に基づく必要な防災体制は追加せざるを得ないのではないかという感じがいたしております。

○江田委員 何とも歯がゆい思いですが、あの事故が起きて、現行法には大きな欠陥があるということははっきりしたわけでしょう。そこで法律の改正をしなければならぬということになったわけでしょう。それをいま防災体制をつくるのに現行法の範囲内でつくらしておる。そんなことで一体住民感情が許すかどうかということなのであります。しかし、私は後からまたもっと触れますが、先へ進みます。

 被害の補償というものは、漁業組合とは四県おのおの成立をしたわけです。そのほか、たとえばおすし屋さんとか、ノリの施設をつくっている人とか、いろいろな間接的な補償というのが行われておりますが、瀬戸内海で海水浴をしたり瀬戸内海へ釣りに行ったりする沿岸の住民に対する補償というものは一体考える必要はないのか。私は従来いつも疑問に思うのでありますが、たとえば海の埋め立てをするという場合に、漁業組合とは補償の話し合いがあるけれども、住民に対しては何もない。しかし、住民は実は大きな被害を受けるわけなのであります。これは非常にむずかしい問題であります。むずかしい問題だけれども、沿岸住民全体に対して何らかの形で――一人一人に金を出すといってもできるものではないですが、何らかの形でそういうことを配慮しなければ、本当に被害補償をしたことにはならないのではないかという感じがいたしますが、現地対策本部としては、その点はどういうようにお考えになったのか。

○左藤政府委員 いまのお尋ねは非常にむずかしい問題で、客観的にたとえば金で補償することができるかどうかとかいうことになりますと、その算出根拠はどうなるのかということで、非常にむずかしい問題であると思います。三菱石油会社としては誠意をもって、とにかく今日までは一応努力してきたことは、当然のことではありますけれども、また、ある程度の評価が与えられるだろうと思いますけれども、いまお話がございましたような全体的ないろいろな問題につきましては、現段階においては会社としましても、油の回収、防除そして漁業補償、あるいはいま御指摘のございました間接補償というものを支払うだけで精いっぱいではないかというふうに私は思います。具体的に今後、会社自体がどういうふうにするかということにつきましては、さらにいま御指摘のようなことも十分考慮した配慮というものが必要かもしれませんけれども、現段階におきましては、非常にむずかしいのではないか、このように私は考えております。

○江田委員 いままでそういうことをやってはいないのですけれども、しかし、埋め立てられて海水浴ができなくなった住民に対しては、いままで何の補償というか償いもなかったわけなので、それは私は間違っておると思うのです。何も海というものは、そこで漁業を生業にしている人だけの海ではないのであって、もっと多くの人の共有財産だ。そのことがはっきりされなければ、今後もどうも環境の問題を扱うのに大きな手落ちができるのではないのか。この際、漁業補償だけで三百億円というようなことになって、会社の台所の苦しいことはよくわかりますけれども、私は金額の問題を言っているのでなしに、そういうことについてこの機会に、将来のためにもきっちりとした方向が示さるべきではないかと思うのです。これは環境庁長官はどういうようにお考えになりますか。

○小沢国務大臣 江田先生の御指摘の点は、まさに私どもの気持ちとしても理解をいたしますけれども、何分どうも補償という概念には、権利、義務の関係から見ましてなかなかずばり当てはまってこない。しかし一方において、おっしゃるように当然広範にわたって、そういう海水浴ができなくなるとか、大事な海岸、砂浜がなくなるとかということに間接的に影響を受ける、住民のいわば潜在的な権利といいますか、そういうことに対して全く考慮しないということは、確かにおっしゃるようにどうも何らかの不満感といいますか、そういうものが残ることは事実でございますので、非常にめんどうな問題でございますが、なおそういう気持ちを一緒にしながら、検討させていただかなければならぬ。いま的確にお答えするものを持っておりませんので、その気持ちだけを申し上げておきたいと思います。

○江田委員 そういう気持ちで検討してみてください。たとえばこの事故を記念と言ってはおかしいけれども、この事故にかんがみて三菱石油が、従業員のためのではなしに、一般大衆のための海水浴場を開発するということであるとか、あるいは皆さんのためにひとつ環境のいい釣り場をつくりましょうということであるとか、いろいろな行き方が私はあるのではないのか、そういうことをこの際、一歩前進をすべきではないかと考えます。

 そこで、先ほど底へ沈でんしているC重油のことがまだわからぬということでありましたが、漁業補償協定の第三条で、一応これで話はついた、こうなっておるが、その三条のただし書きに、「現在国が実施中の水島重油流出事故関係環境影響総合調査の結果により漁業に永続的影響があることが明らかになった場合及び将来本件重油流出事故に起因する予測できない重大な漁業被害が発生した場合は、甲乙協議する。」ということになっておりますが、私は実はこういうことをつくる前に、環境影響調査の方のデータがはっきり出てくればよかったと思うのです。何だかこの協定ができてしまって、そういうデータが出されるというのは、いかにも漁業者諸君には納得がいかないのではないかと思います。たとえば油がたまっておる、そこでイカナゴのようなものが産卵しない、イカナゴが減る、そうなるとイカナゴをえさにする回遊魚は減ってくるというようなことになってくるわけで、永続的な影響というものがこれから出てくるのではないかと思いますが、そのようなことが多少あったところで、もうこの漁業協定で万事終わったという解釈をされておりますかどうですか。

○佐々木説明員 いま御指摘の永続的な影響につきましては、当然そういうこともあり得るという前提でいろいろな調査を進めているわけですけれども、かなり調査に期間を要します。いろいろな生態系の中での変化を追跡しなければいけませんので、当面のはっきりした被害について、漁業者のいろいろな経営上の問題もございますので、まず始末をつけた上で、今後の調査結果によって因果関係が非常に明確になった場合には、やはり当然それについても当事者間で話し合って善処をする、こういう趣旨でただし書きを特に加えた、こういうふうに私どもも報告を受けております。

○江田委員 当委員会においても赤潮の問題が取り上げられておるのでありますが、学者の中には、あの流出した油によって赤潮の発生が今後大きくなるのではないかということを指摘されておる人もありますが、そういう問題についてはどういうお考えでしょうか。もし、そんなことで赤潮が多発して、漁業に被害があった場合には、やはり第三条ただし書きによって、両者の協議の対象になると考えていいですか。

○佐々木説明員 香川大学等で、油の流出と赤潮との関係について因果関係があるのではないか、そういう疑いをもって検討すべきだということの御意見を出されているのは、私どもも承知をいたしております。ただ、従来の経験で言いますと、むしろ油そのものがいろいろなプランクトンの増殖に有害なのではないかということで、実験結果等ではマイナス効果が出ている場合の方が、むしろ普通でございましたし、それから同時に、わが国周辺の海域で、毎年、残念なことですけれども百件以上の油の流出事故がございます。それについて、その後に直接、油との因果関係で赤潮の発生なり、それによる漁業被害が出たという経験を、いままで実は余り持ち合わせておりません。しかし、私どもとしては、そういう新しい実験に基づくいろいろな提言があれば、これは当然検討しなければいけないということで、今回の影響調査の中にその問題も織り込んで、環境庁を中心に検討してまいりたい、かように考えております。その結果で、もし、はっきりした因果関係がつかめれば、当然先ほどのただし書きの適用の問題になってくる、こういうふうに考えております。

○江田委員 そうすると、いまのところ、この補償協定がなされる段階においては、赤潮との関係は一応わからぬけれども、まずないという前提でできているわけですね。それから、先ほど私が具体的な例として触れましたようなことも、今後、調査をしてみなければわからない、生態系の問題は時間を要するのだということで、それらのことが出てくれば、当然再交渉の問題になるわけですね。そうでしょうね。

○佐々木説明員 いま御指摘のように私どもも考えておりますが、ただ一言つけ加えさせていただきたいのは、たとえばイカナゴなどのいろいろな資源の変動にしましても、過去にも自然条件の変化で、年々かなり大きな変動がございます。それから、赤潮の発生につきましても、基本的には富栄養化が基盤になっていると思いますけれども、自然条件なりいろいろな刺激物質の効果といったことが複雑に絡まり合っておりますので、その中で一体どの程度、油による影響が分離できるかということは、相当むずかしい問題があると思いますけれども、そういったことが客観的に詰められた場合には、当然いまのようなただし書きで当事者間で協議をすべきものである、こういうふうに考えております。

○江田委員 なかなかそうきっぱりと答えは出はしないので、今度の徳山湾の問題を見ても、何かあいまいな形で事件を解決しなければならぬということなのですが、少なくとも水産庁は魚のことを本気で考えてくださいよ。問題をあいまいにすることを本旨としないように。

 それから、この補償の問題について、四県自治体ではこの問題について相当金がかかったわけなのでありますが、その中には会社が補償したものもありますが、しかし、まだ補償できない多くの問題があるわけで、間接、直接に自治体としては影響を受けているわけですが、そういうことについては、政府として何らかの穴埋めをなさるお考えですか。どうでしょう。

○左藤政府委員 過般、こういった性格のものについては、直接に今回の流出事故のために県が支出したものであるというふうに考えられるものは、大体こういうグループのものではなかろうかというようなものについての一応の指導と申しますか、そういう形のものはいたしました。ただ全般的な、間接的に今回の事故が影響いたしまして、民生の安定というようなものに府県が支出いたしたものにつきましては、そういった会社側からの請求の対象にはしていないということで、そこにつきましては一応の指導をいたしまして、区分をしておるところでございまして、現時点におきまして、これ以上どうするかということについては考えておりません。

○江田委員 問題はいろいろあるのですが、時間の制約もありますから、もう少しほかの問題をお尋ねします。

 工場の方では再開に備えて安全点検をされたわけですが、その安全点検の中で、タンクの安全点検というのはやったのかやらぬのか、やるとすればどういう方法でやるのか。ただ異常沈下があるとか、バルブが漏れているとかいうようなことならば簡単にできるわけでありますが、問題はそれだけではないのでありまして、たとえば事故原因調査の木原さんが中心になっておやりになっているあの中間報告を読んでみましても、いろいろ問題が出ているわけです。軟弱地盤の上にAPIの基準のタンクをつくったところで、それは非常に不安があるということ、あるいは基礎工事にも不完全な面があるとか、あるいは直立階段を設置しましたあのことについても欠陥があるとか、いろいろ触れられておるのでありますが、今度の安全点検に当たって、消防の方ではタンクの点検をどれだけの角度からおやりになったのか、そのことをお聞かせください。

○佐々木政府委員 昨年の暮れに全国の消防本部に指示いたしまして、緊急な点検を実施をいたしたわけであります。その点検項目は、タンクにつきましては漏洩の有無と不等沈下の検査、それから防油堤につきましては亀裂、破損の状況あるいはまたパイプの貫通部の埋め戻しの状況、あるいはまた従業員の保安教育ないしその実施の状況、その他、消火設備なり配管等の状況の検査、こういうことで点検を実施いたしまして、一万キロリッター以上のタンクにつきましては、すでに報告を受理しておるわけでありますが、この結果といたしまして、タンクの本体及び付属物について不良個所のあったものが三十一、不等沈下の特に著しいものが百九基、防油堤に亀裂などの不良個所がありましたものが三百十八という報告が出ておるわけであります。

 この結果に基づきまして、防油堤等に欠陥がありました部分につきましては、直ちにその補修を行わせたわけでありますが、タンク自体につきまして、特に不等沈下が二百分の一以上ございましたタンクにつきましては、その内部を開放して非破壊検査等の検査を行わせたわけでございます。そうした不等沈下が二百分の一未満であるタンク、それからまた開放して検査を行った結果、異常のなかったものにつきましては、使用をさせておりますが、それ以上のタンクにつきましては地盤修正。並びに底板等に非常に著しい不等沈下がありましたものあるいは腐食のありましたものにつきましては、底板の取りかえ並びに底板の取りかえと関連いたしまして地盤の修正ということを行わせておるのでございます。

 この三菱石油の水島製油所におきましては、緊急点検を行いました一万キロリットル以上のタンクは、その対象が八十四基あったわけでありますが、そのうち十基につきまして不等沈下が非常に著しいというものがございましたので、これにつきましては内部の開放検査を行わせております。この十基のうち四基につきましては、すでに内部点検が、非破壊検査等の検査が終了いたしまして、これにつきましては異常が認められなかったのでございます。二基につきましては、現在内部の非破壊検査を実施中でございます。それからまた四基につきましては、内部の開放が終わりまして、いまクリーニングを終わりまして、明日ごろから非破壊検査を開始をする、こういうふうな予定になっております。

○江田委員 そうすると、その点検の終わらないものについては、操業再開になっても使用をさせないということですね。そうですね。それはそれでいいのですけれども、ところが一体、消防庁にタンクの安全性を言い切るだけの自信があるのかどうかということが、私は問題だと思うのでありまして、この木原委員会の中間報告を消防庁の方でももちろんお読みになっておるわけでありますが、これを読んでみるというと、とにかく軟弱地盤の上に不完全な基礎工事をし、APIの規格を入れて建設されているタンクに対して、いろいろ不安が表明をされておるわけです。これは最終的に九月か十月に報告書が出るのでしょうが、いま二百分の一とかなんとか、それにパスするとかしないとかいってみたところで、将来地震もあり得ることなので、いままでのあなた方がおやりになっている水漏れ一点張りの検査ではどうにもならぬ、もっと大きな課題が、すでにこの中間報告で出ておるわけなのでありまして、これを一体どういうようにお考えなのか。現行法の範囲内で防災体制をすればいい、いままでやってきておることだからこれでいいではないかというようにあなた方はお考えになっておるのか。さらに今後、この中間報告なり、あるいはやがて出てくる本報告を受けて、タンクのあり方についてもっと抜本的な再検討をされようとしておるのかどうかということなのです。

○佐々木政府委員 タンクの安全性という問題につきまして、現在の消防法令の規定というものが非常にあいまいであり、そしてその安全性の追求に欠けておったという点は、私ども深く反省をいたしております。この事故の結果、この事故調査委員会の結論にも基づきまして、私ども、いまタンクの技術基準についての再検討を、いわば基本的な検討のし直しを行っております。このタンクの技術基準の改正の作業は恐らく一年半ぐらいかかるのではないだろうかというような感じがいたしておりますので、その間に、さらに現在の消防法令の規定の改正を行いますまでの間のつなぎといたしまして、タンクにつきましては特に地盤の問題、基礎工事の状況を中心にいたしまして、その規制の強化を図っていきたいというふうに考えております。現在のようにタンクが特に埋め立て等の非常に軟弱地盤の上に建設される事例が多いという観点から、特に地盤につきましては相当厳しい規制を今後行ってまいりたい、こういうふうに考えておりまして、近く、その技術基準が制度化される前におきましても、その地盤についての工事方法等についての指導を行ってまいりたいというふうに考えております。

○江田委員 それから、この防災体制の問題でありますが、これは現行法の範囲内で指導している、将来国会に提出されるであろうコンビナート防災法が通れば、また、そのときに手直しをするのだということでありましたが、私どもが非常に不安に思うことは、現在の防災の法律にいたしましても、あるいは今度新しくつくられようという法律にいたしましても、陸上の防災と海上の防災というものが、何らつながっておらぬということなのであって、きのうもああいう東京湾の事故がありました。あるいは鹿島においてでも、あるいはその他においてでも、今後も絶えず事故を心配しなければならぬのでありまして、一たび港内で油事故が起きて、それが火災でも起きたならば、下手をすると、その周辺のコンビナートというのは全滅するのではないでしょうか。そういうことについて今度のコンビナート防災法も十分問題を取り上げておられないことを残念に思うのでありますが、あるいは私の勘違いであって、そういうこともかっちりおやりになろうとしておるのか。

 私がことしの予算委員会でお尋ねしたのも、陸と海とのつながりがないではないかということを言っておるのでありまして、縦割り行政の弊というものがはっきり出ているではないか。そのことについては政府の方も同意を表されたわけでありますから、私は当然コンビナート防災法にはそのことが取り入れられるものだと思って、今日まで期待をしておるわけです。海で油が燃えたところで、それは海上保安庁だ、消防庁は知ったことではない、あるいは陸の企業は、海で油の事故が起きても手をかざして見ておるということでいいのかどうなのか。これだけの事故が起きたのを契機に、やはりここの一番の欠陥というものを是正しなければ、かっこうだけ法律をつくったところで何にもならぬのではありませんか。

 さらに、私ども非常に不安に思うのは、あの大型タンカーの問題なので、東京湾の問題については、いずれ同僚議員から後で質問がありますから、私は触れませんが、一体三菱石油の六号桟橋というのは何トンの船を許可されておるのですか。実際には何トンの船があそこへ入るのか、あそこの代表的な桟橋、六号桟橋はどうなっておるのか。海上と陸上とのつながりをどうするのかということとあわせて、いまの六号桟橋のことについてお聞きしておきたい。

○佐々木政府委員 今度の水島事故におきましては、陸と海との関係というものが非常につながりに欠陥があったということは、御指摘のとおりだったと思います。

 今回私どもがコンビナート等災害防止法ということで立案いたしました法案の中では、海上の部分につきましては特に触れておりませんけれども、まず基本的には、陸上における災害というものを海の上に及ぼさないということを前提にして、これを一つの基本にして、防災施設等についての規定を行ったわけであります。しかしながら、やはり災害でありますから、どういう事態が起こるかもわからないというようなことで、海との関係におきましては、自衛防災組織あるいは共同防災組織等に備えるべき防災資器材というものの中に、油回収船でありますとかあるいはオイルフェンスというような、海上における防災のための資器材を含めるということにいたしますと同時に、こうした防災資器材の整備内容あるいは防災組織の内容というものは、常に海上保安官署に連絡をする、あるいはまた事故が起きました場合には、海上との綿密な連絡を行う、あるいはまた自衛防災組織等が海上における防災活動を実施する場合には、海上保安官署の長が必要な指示を行うというようなことにいたしまして、できる限り海上と陸上の接点の防災というものにつきまして、十分対処し得るように考えたわけでございます。

 なおまた、海上自体だけの災害発生というものにつきましては、現在、運輸省におきまして海上防災法というものの立案化を準備されておるということを伺っておりますので、さらにそうした新しい立法の段階におきまして、コンビナート等災害防止法の規定との調整を十分行ってまいりまして、陸と海との間において、いわば防災面における欠陥のないように対処していきたいと考えております。

○江田委員 時間がありませんから、いずれその問題は、今後コンビナート防災法が提出されたときに、さらに触れたいと思うのでありますが、いまのようなことはちょっとお上手過ぎますよ。恐らく海上保安庁だって、今度の法律でいいとは考えておらぬだろうし、消防庁だってそうではないのですか。それがなかなか思うようにいかぬから、適当な逃げ口上を言っているだけだというように私には聞こえるわけであります。
 ところで、さっきの桟橋はどうなっているのか。

○鮫島説明員 お答えいたします。
 設置の際に考えておりましたのは、十万トンクラスの船を対象としての設計がございます。その後二回にわたりまして桟橋の北側及び南側のドルフィンの補強をしておりますけれども、現在でき上がっております形の結果といたしましては、船の接岸の速度が十五センチメーター以下であれば十分に安全だというふうに考えられます。そこで、現実には桟橋に接岸する速度をはかります接岸の速度計というものをつけておりまして、それによりまして着桟の指導をしているというふうに聞いております。

○江田委員 何トンの船が着いているのか。

○鮫島説明員 現実には二十万トンを超える船も着いております。
 これはちょっと技術的にわたって恐縮でございますけれども、桟橋の強さというものは、まず船の長さ、それから喫水、重量というようなものに関係をするわけでございますけれども、この桟橋の使用に当たりましては、積み荷を途中でおろしまして、喫水を浅くして入っているわけでございます。一方……。

○江田委員 いいです。とにかく二十万トンの船が入っているのですよね。あるいはもっと大きい二十三万トンの船が入っているのではないですか。そこで、二十三万トンなら、喫水の関係からフルに油を積んでおってはどうにもならないので、途中の川崎かどこかでおろして入れているわけでしょう。それも十五メーターですか、いま何とか言われましたね。

○鮫島説明員 一秒に十五センチの速度でございます。

○江田委員 とにかく途中で油を抜いて、ぎりぎりの船を入れようとしているわけですよ。そこに今度の東京湾の事故と同じような問題が出てくるのではないのか。ここは深い、しかし、ちょっとへりへ寄ったら浅瀬へ乗り上げるのだ。ぎりぎりの船を持ってきて、向こうから船が来たり何かすると、あそこだって岩礁もあれば浅瀬もあるのですよ、同じことが起きるのではないかということです。もともと十万トン設計のところを、少々掘ったとかなんとかいったところで、あの辺の海全体が掘れるわけではないのですから、そういう大型タンカーのいままでの航行の仕方というものを根本的に改めなければいけないのではないか。この東京湾の問題に絡んで、大型タンカーの規制ということが当然問題にされなければならぬと私は思いますが、同時に水島においても同じことだと思う。そんなことを抜きにしておいて、陸の上のことは陸の上でやります、お互いに防災体制をきちんとやるのだと言ったところで、なかなか納得はできないわけです。

 そこで、私はいろいろなことを聞きたいけれども、時間がありませんから飛ばしまして、最後にもう一つお聞きしたいのは、この問題について刑事責任ということがいろいろ言われてまいりましたが、これはどうなったのか。刑事責任というものはないのか。一般の庶民感情からすれば、あれだけ迷惑をかけた事故で、だれ一人刑事責任を問われないというのは不思議な気がするのでありますが、これは一体どうなったのか。あるいはこれに絡んで法改正の必要があるとお考えになっているのか。そのことだけ最後にお聞きしておきます。

○荒木政府委員 お答えいたします。
 本年当初の予算委員会において、江田先生の御質問に対して国家公安委員長の福田大臣が、刑事責任の問題につきましては一罰百戒、今後このような事故が起こらないように、こういうようなたてまえでお答えをいたしておるわけでございます。警察といたしましてもそういう立場に立ちまして、水質汚濁の問題あるいは消防法の問題、漁業調整規則の問題等、いわゆる罰則を適用できる構成要件等について、現在、実情を調査しております。御承知のとおり、政府の行っております事故原因の調査結果が出ました段階において、どこに事故原因があるかということを明確にしながら、その結論が出せるものと思っております。関係者からの事情聴取あるいは警察官の実情調査の報告書等、相当多数整理しておりますので、御了承をいただきたいと思います。

○江田委員 いろいろ問題がありますけれども、私の与えられた時間がなくなりましたから、これで終わりますが、最初の政務次官のお答えだと、操業再開の申請が出たとはまだ聞いていないということでありまして、そういうものが出てくれば、政府としても、指導というのでありますか何というのでありますか、とにかくタッチされるということのように聞きましたが、そういうように受け取っていいわけですね。この申請が出たら最終的に、まあ法律上のオーケーではありませんけれども、実務的には政府の方がこれでよろしかろうということにならなければ、再開はされないというように受け取っていいわけでしょう。

○左藤政府委員 冒頭にもお答え申し上げましたとおり、法律的には倉敷市が消防の問題といたしまして操業再開を許可するという形になると思いますが、いまお話ございました点、政府といたしましても対策本部としてどうするかということで、十分その状況を調査いたしまして、その上で指導をしていく、その指導によって倉敷市が判断をして、最終的な決定をするということになろうと思います。

○江田委員 終わります。


1975/06/05

戻る会議録目次