1976/07/28 |
77 衆議院・外務委員会
○江田委員 いまロッキードで大変混迷した状況が起きておるわけでありますが、このことが日本の政治にとって非常に大きなウエートがある課題であるということは言うまでもありません。しかし同時に、政治なり外交、多くの課題は進行しつつあるわけであります。その中で私どもが特に心配しますことは、外交関係で何かつまずきが起きるとその立て直しというものは非常にむずかしくなるということであります。われわれが当面する外交課題はいろいろありますが、その中の一番大きな課題は、私はやはり中国との関係だと思います。
最近、中国との問題に関連しましていわゆる宮澤発言というものが行われた。宮澤さんはどういう意図で言われたのか、あるいは正確にどう言われたのか、これは私たちにはよくわかりませんが、しかしこれが大きな波紋を生んでおることだけは事実でありまして、下手をするとこのことが今後の日中関係に取り返しのつかない大きなみぞをつくることにもなってきはしないかと思うのであります。そこで、後でまた宮澤さんにもお尋ねしたいのでありますが、この際、総理の考え方をお聞きしたいのであります。
私が言うまでもなく、日中共同声明が成立いたしましたのは約四年前でありまして、自来共同声明に課題として挙げられた問題は、貿易や海運あるいは航空、漁業、この四つの実務協定はすでに締結をされたわけでありますし、その他の問題も、過去の追認というようなものもありますから、おおむね処理されてきておる。しかし、肝心の平和友好条約の締結は依然として進まないわけであります。これはなぜ進まないのか、どうも私たちにはよくわからないのでありまして、日中の平和友好条約の締結は三木内閣にとっても重要な課題の一つであったはずであります。現にことし年頭の記者会見で総理は、ことしは条約締結の年としたい、こうはっきり言われておるわけであります。また、周恩来首相が亡くなられましたその直後におきましても、二月二日の衆議院予算委員会で、日中両国が永遠の友好関係を締結する決意は変わらない、こう言われておるのでありまして、首相が言明された線は一貫していると思うのであります。それでは中国の方が変わってきたのかといえば、これまたたとえば四月の二十七日に喬冠華外相が小川大使と会見されたとき、中国の対日施策は一貫しており、変更はないと言われておりますし、その後も二、三の副首相が日本から行った人と会われたときの談話も同じように一貫しておるのでありまして、日本の総理大臣の主張が一貫しておる、中国の見解も一貫しておる、にもかかわらずいまなお平和友好条約が進まないというのはどこに問題があるのか。総理はその点をどのように認識しておられるか、まずお聞きをしたい。
○三木内閣総理大臣 日中平和友好条約の締結を促進したいという考え方は、私は変わらないのであります。また、そのためには日中共同声明、この取り決められた共同声明を基礎にして日中の友好関係を推進しなければならぬという考え方も変わらない。そういう見地に立って三木内閣として日中平和友好条約の締結ということを推進してまいっておる。去年の九月に宮澤外務大臣と喬冠華外相との間で国連の場において二回にわたって会談が行われている。表面上は非常に進展するのではないかと見られたのですが、その後、周総理の死去などということもございまして、われわれが予定したよりも相当日中平和友好条約の締結というものが遅延をしておるわけです。
これは両国とも、政治体制も違いますし、いろいろな点で一層理解を深め、もし誤解があるとしたならば誤解を解く努力を双方でしなければならぬと思いますが、そういう点で今後一段と相互の理解を深め、もし誤解があるとするならば誤解を解いて、日中平和友好条約の締結の機運を高めていかなければならぬ。中国側も早く締結をしたいという熱意は変わらないし、日本も熱意を持っておるのですから、その間、相互の理解を深めて妥結に持っていきたいと考えておるわけであります。あるいは外相その他政府の責任者が直接いろいろ話し合うような機会というものを考えてみてもいいのではないかと考えておる次第でございます。
○江田委員 条約の締結には熱意を持っておる、あるいは双方の間に誤解があるかもわからないので、双方の責任者が話し合うことを考えてもいい、こう言われましたことは一歩前進だと思いますが、なぜ交渉が進まないのか。いろいろな見方があると思いますが、私は最近、機会があって中国へ参りました。中国の李先念副首相その他の人といろいろ話してみましたが、問題は非常に簡単だという理解をいたしました。それは共同声明の第七項、いわゆる覇権条項の扱いをどうするのか、この一点にかかっておるように思うのであります。その点は外務大臣が昨年国連総会の前後に喬冠華外務大臣との会談の中で話されたこともその一点だったと私は理解しておるわけです。
そこで、そういうところに問題があるのだろうと思いましたから、私が中国へ参ります前に、三木総理に、総理としてはこの覇権条項をどう扱うべきと考えておられるか、そのことについてお聞きしたことがあります。先方の言うのは非常に簡単でありまして、第七項は変な注釈をつけないでそのまま条約の中に入れ込めばいいではないかということであり、総理も、細かい技術的なことは別にいたしまして、そのことについて御異存はないように私は理解したのでありまして、それなら問題は非常に簡単じゃないかと思うのであります。何か第七項の覇権条項について、そのまま入れるということについて総理の方で受け入れられない理論的根拠あるいは事情があるのでしょうか。それをお伺いしたい。総理はそれでいいというように言われたと私は理解しておるので――。
○三木内閣総理大臣 日本は過去の苦い経験からしましても覇権を求めない、これはアジア・太平洋地域ばかりでない、世界のどこの地域においてもみずから覇権を求めないということがやはり日本の平和外交の基本的な姿勢の一つだと私は思うのですが、そのことが共同声明の中においても第七項ですか、日中両国はみずから覇権を求めず、覇権を求めようとする国または集団の行為に対しても反対するという共同声明になっておるわけですから、覇権に反対である、こういう一つの原則は何ら日本の方針と抵触するとは思っていないわけで、これが、条約を結ぶ場合に条約上にどういう取り扱いをするかということは条約の技術上の問題であって、基本的にはそういうものに対して、日本の方針と何ら反するとは思っていないわけでございます。
○江田委員 覇権を求めない、また他国の覇権にも反対するということについての総理の御見解をいま述べられましたが、この覇権の問題について考えなければならぬことは、過去において私たちはアジア・太平洋地域において覇権を行使して諸国に大変な迷惑をかけたわけであります。その反省の上に立って戦後日本が始まったわけで、われわれの憲法の精神、戦後日本のわれわれの進むべき道というのは、日本は二度と再び覇権を行使しないのだ、それが原点になっておると思うのです。したがって、この共同声明七項に覇権条項が入れられたということは、ただ上海コミュニケにおいてアメリカと中国との間に同じような合意ができたからというのでなしに、それがどうあろうと、日本として新しい戦後のわれわれの進むべき道はここだということを、ただ中国と約束をするというにとどまらずして、世界に対する日本の誓いだ、それだけの重さを持っているものだと思うのでありまして、それでこそ初めてアジア・太平洋地域におきましても、また多くの発展途上国に対しましても、日本が信頼を寄せられる条件が生まれると思うのであります。
そういう覇権を行使しないというのがわれわれの原点であるということがまず第一なんであって、その上に立って、当然他国に対しても覇権を行使することに反対するというそういう論理が出てくると思うのであります。したがって、私たちから考えますならば、他の国がこの覇権条項についてどう解釈しようと、あるいはどのような見解を持とうとそれはおかまいのないことであって、日本は日本として進むべき道を毅然として進めばいいのだと思います。またそうでなければ今後、複雑な国際環境の中における日本の安定した前進はあり得ないと思うのであります。
私は、総理が自民党総裁になられる前、あの田中内閣に訣別されたときに、ある雑誌に載せられた論文をいまでも忘れることができない。それは何かと言えば、国の大きな路線というものは政治家が決定するのだ、官僚は政治家が決定した路線を実務的に処理するんだ、それが崩れてくるから混乱があるのだという意味のことを書かれておりました。さすがに長く議会政治に籍を置かれた三木さんの言葉であると、非常に深い印象を受けたのであります。
私が見ておりますというと、いまの日中問題というのは、総理がそういう政治家こそが基本的路線を決めるのだという認識に立たれるかどうか、その上に立って行動されるかどうかということに尽きていると思うのであります。私は何も外務大臣を政治家でないとは申しません。ただ、あなたは総理大臣であります。最も基本的な路線はあなたが政治家として決定されなければならぬことでありまして、あなたがこの覇権条項について反対でないのならば――反対でないというのがそもそもおかしいのであって、これこそが戦後日本の進むべき道だという前向きの認識で、積極的に中国へ対してもその他の国へ対しても呼びかけていかれるべきではないかと思うのであります。それがぐらぐらしておりますというと、いろいろ他の国からあれこれの、邪魔とは申しませんけれども、いろいろな行動が出てくるわけでありまして、要は私たちが、これこそ日本の進むべき原点である、その認識に立って、毅然として進むかどうか。しかし、それは政治家三木武夫の決めることでありまして、そういう考え方に立ってあなたが反対でないというなら、そこまでの積極的な態度に出られる用意がありますか。いまあなたは、その問題について両国の責任者の会談もと言われましたが、へっぴり腰の会談では何にもなりません。もっと積極的にやっていかれるのかどうか、その信念をお聞きしたい。
○三木内閣総理大臣 覇権反対ということは、日本の平和外交の基本姿勢であるということを申しました。江田君も御指摘のように、過去の苦い経験から日本が得た教訓が、その外交の基本姿勢の中になっておるわけでございますから、したがって、こういう日本の基本姿勢というものは、日本自身が自主的に決めるものでありまして、第三国から干渉を受ける性質のものではない。ただしかし、国際関係はできるだけ誤解を生じないための努力をしなければならぬ。日本の真意というものが、これはアジア・太平洋地域に限らず、覇権反対は普遍的な平和原則の一つであるという認識のもとに、どこにおいてでも反対するわけですから、しかもあらかじめ敵対国をつくって、そうしてそれに対抗する手段として言っておるのではないわけです。日本の平和外交の基本姿勢として言っておるのですから、これに対して日本は自主的にその主張の魂を貫いていけばいいと考えてるわけでございまして、この考え方は、私は一貫した考えでございます。したがって、今後そういう考え方の上に立って日中平和友好条約の処理に当たりたい。私自身も、これに対しては余りにも長期にこの問題は時間がかかり過ぎておりますから、やはりこの問題の促進をするために、これは私自身も大いに責任を感じておる次第でございます。
○江田委員 私ども中国でいろいろな人と意見の交換をしたわけでありますが、率直に申しまして、どうも平和友好条約は田中内閣の末期においてすでに基本的にはまとまっておったのだ、それが三木内閣になって停滞しておるというような発言もございました。そこから、これまた率直に言わせてもらいますならば、三木総理の行動力というものについての意見もありました。しかし、そういうような見方をするのは好ましくないのではないか、少なくとも一国の総理大臣が、野党の幹部であるわれわれに対して、共同声明七項、この大精神というものを条約に入れ込むことに反対はないと言っておるので、主観的にはどういう評価があろうと、一国の総理大臣が野党の幹部に対してそれだけのことを言っておるなら、それを積極的に受けて立つということが真の国交改善のために必要ではないのかという私たちの主張に対しまして、李先念副総理も賛成である、こう言われておるのでありまして、あなたがいま責任者同士の接触を図る用意のあることを言われたことは私は一歩前進であると思いますが、ただ日中関係、日中平和友好条約というものはもちろん他の国に対しても影響があるわけでありますが、私たちは、これは先ほど申しましたように日本の戦後外交の大精神であって、これこそ毅然として進めばいいことであり、しかも中国側にいたしましてもかれこれ注釈や条件をつけないで、四年前の共同声明で使われた言葉をそのまま使えばいいではないか、こう言っておるのであって、基本姿勢が決まって問題を処理する気になればそんなに時間がかかることではないはずなんであります。
総理は前向きなことを言われますけれども、私たちが心配するのは、そこでストップされるのではないのか。いまの答弁でストップされるのではないのか。三木内閣がどれだけ続くのかわかりません。あるいはその後がどうなるのかわかりません。しかし外交というものは継続されるものでありますから、三木内閣のときにこれこれのことができたということは、当然次の政権にかわったところで継承されるものに違いないのでありますから、いまおっしゃったことをもうひとつ積極的に具体的にこうこうするのだというようには表明できませんでしょうか。もう少し、もう一歩はっきりさしていただきたいと思う。
○三木内閣総理大臣 日中平和条約というものは日本のためのみばかりでない、中国目身も日中関係というものを一層安定さすことは、中国の利益にも合致するわけなんです。日中双国のために、平和友好条約は締結をすることが好ましいことは言うまでもないわけですから、外交関係というのは双方がやはり努力をしなければならぬわけですね。そういう点で中国側にしても熱意を持っておるわけですから、こちらの方もいろいろな理由で停滞をしたけれども、これを促進したいというわけですから、これは両方が熱意を持って何とか早くこの妥結をしたいというならば、これは促進されなければならないはずでございます。また、私が政府の責任者同士で話し合うような方法を考えたいと申しておることについて、この問題を具体化ということでございますが、これはいまのこの段階でこうこうすると、相手もあることでございますから、ここで一方的に私が申すことは差し控えますけれども、しかしそういう機会も持ちたいと考えておることは事実である、そういうことでございます。
○江田委員 先ほど申しましたように、私が今回中国へ参って中国の李先念副首相なりその他の皆さんと話ししたその印象からいきますと、李先念副首相も条約を早く締結する方がいい、こう言っておられるのでありますし、その他の諸国も同じような考え方なんであって、相手のあることということはわかります。しかし、三木さんの考え方はいまおっしゃったとおり、少なくとも私が接触した範囲においては、中国側の見解はいま申したとおりなんでありまして、私は相手もそれを受けて立つ用意があると思います。日本が積極的な態度をとるなら、中国も積極的な態度をとるかという質問に対して、李先念副首相は賛成だ、こう言っておられるのでありまして、私は、いま三木さんの言われる双方の責任者の接触ということをまさに始めるべきチャンスではないかと思うのであります。まだそこに何かひっかかるものがあるのでしょうか。どうもそういう点になってくると、先般の宮澤外務大臣の発言というものは、外務大臣はどういう意図で何を言われたのかわかりませんけれども、あの発言をめぐっての日本の国内あるいは中国、ソ連、台湾あるいはアメリカ、その反響というものは非常に大きいようなものがあります。
宮澤外務大臣は私は非常に聡明な人だと思っておるのでありまして、自分が何か言えばその反響がどうなるかということは、いつもきちんと計算をされておる人だと私は今日まで思ってまいりました。とんでもないことなんだ、自分の真意ではないのだ、自分の真意はこうだ、後でそういうことを言う人ではないと考えるのでありまして、私はどうも、いま総理が両国間の責任者が接触する必要はあるが、相手もあることだと言うことの中には、あるいは宮澤外務大臣と三木総理との間に意見の食い違いがあるのじゃないのか、そうでなければ、三木さんが先ほど来述べられたことであるならば、責任者同士が接触することに何の問題もないはずであります。まさかそういう意見の相違はあるとは思いませんが、しかし国内及び外国での宮澤発言というものの扱いを見るというと、どうも総理大臣と外務大臣との間の主張には隔たりがあるのかなという印象を受けるのでありますが、その点はどうでしょう。
○三木内閣総理大臣 外務大臣と私との間にいささかも外交の基本方針に対して考えの違いはありません。宮澤外務大臣は三木内閣の有力な閣員として、三木内閣の外交方針に沿うて外交を今日まで推進をしておるわけでございます。この間にいささかも考え方の食い違いはないと信じております。
○江田委員 世上、宮澤外務大臣はこの次か、次か、その次か知りませんが、やがて日本の総理大臣になる人であろう、こういうような評価もある人でありますから、それだけに外務大臣の発言というものはウエートが大きいと思うのです。私がさっき申しましたように、外務大臣は自分がこういう発言をすればどうなるという計算のわからない人ではないし、また絶えずそういう計算をしておられると思う。けれども、今回どうでしょう、北方領土の問題については、ただ中国とソ連との対立関係をエスカレートしただけじゃありませんか。どういう国益があったのか、あるいは台湾をめぐるマンスフィールド上院議員との考え方にしても、いち早く台湾はこれを歓迎と現地の新聞が大きく報道する、中国はとんでもないと言う、アメリカでも国務省の記者会見でこれが問題になる、一体宮澤外務大臣は何を考えて、どういう発言をされたのか、またいま総理から日中平和友好条約に対する総理の所信表明がありましたが、外務大臣はどのようにお考えになっているのか、この際この委員会におきまして、誤解なら誤解、真意はこうならこう、もっと明確にされることが必要なんじゃないでしょうか。
この間十三日の当委員会におきまして大臣はいろいろ述べておられます。しかし、にもかかわらず、その後外務大臣の真意はここにあるのじゃないのか、中には外務大臣の発言というものは台湾との深い関係があるのじゃないかとか、いろいろなことが言われておるのでありまして、外交問題は一歩誤ったら後で修正がきかない問題なんでありますから、世上伝えることが間違いであるならば、あなたの信念というものをここで明確にしていただきたい。
○宮澤国務大臣 私とマンスフィールド米上院議員との会話、私的な会話でございますが、その内容をめぐりましての問題につきましては、先般の当委員会でも申し上げましたので、煩を避けましてごく簡単に要点だけを申し上げますと、サイゴン以後の東南アジアにおける情勢というものについて、マンスフィールド議員から質問がありまして、ショックから徐々に立ち直りつつあって、東南アジアの諸国は、この地域における大国の幾つかの勢力の間でバランスを図りながら、自分の国の独立を全うしていく方向に動いているように思う、そういう兆しが見えておるということを申しまして、それから質問が米中間の問題に及んだわけでございます。
私は、私的な会談ではあるけれども、米中間の関係は米中間の問題であって、いかに私的といえども私がかれこれ申すべき問題ではないと思うと前提をいたしまして、フォード大統領が最近三木総理大臣にも述べられたところの方針についてどう考えるかというお話でございましたから、これはいろいろなことをお考えの上でのフォード大統領の御発言と思う、私としてはそれは結構なことであると考えますということを申したわけでございます。で、そのことをまた新聞記者諸氏に私自身からブリーフィングをいたしたわけでございます。その間、私としてはそれが台湾の問題に関係をするというふうには考えませんでしたし、また、その台湾という言葉はもちろん一言も出たわけではない、またわが国は日中共同声明という基本的な両国の合意があるわけでございますから、台湾というようなことについて云々することが適当でないということは私もよく存じておったつもりでございます。
で、ブリーフィングで私は別に誤って伝えられたわけではなかったわけでございます。報道に誤りがあったわけではない。しかしながら、私はそう思いましたけれども、結果としてこの問題が台湾について何か私が言及をしたというふうに、そのように受け取られたということが事実でございますから、いかに私がどのような真意で申したとしても、そのような結果になったという事実にかんがみますと、これは私のブリーフィングの仕方が不用意であったというふうに私は思います。
それから北方領土の問題でございますが、これは委員会の速記録に載っておりますとおり、日本国内におきまして、北方領土をめぐって、ソ連あるいは中国等々がいろいろ議論をやりとりしてもらうことは、これは決して好ましいとは思わない、もとよりおのおのの人において、あるいは国際の場、たとえば国連等々において所信を述べられることは、これは当然であるし、私どもがそれについてとやかく言うことのできる問題ではございません。けれども、日本国内で余り両国の間でこの問題を論争してもらうことは、問題を早く解決するのには役立たないように思うということを委員会で申し上げておりまして、この点は、国内でということを、故意でありますか過失でありますか、除いて中国側で受け取られたということは、これはどうも正しい受け取り方ではなかったように思うわけでございます。
最後に、総理の言われました、高いレベルでの接触によるところの日中平和友好条約の問題の解決ということにつきましては、そこはやはり、かつても用いられたことでありますけれども、小異を捨てて大同につくということが、このような条約交渉には最終的には必要なことであろうと思いますので、私は、適当な段階でそのようなことが行われることは意味のあることであるというふうに判断をいたします。
○江田委員 特にマンスフィールド上院議員との対談が必ずしもマスコミに正しく伝わらなかった、あなたはいまそういう意味のことをおっしゃいましたが、とにかくあなたが何を考えておられようと、内外のほとんどの新聞、それが筆をそろえて、あなたがいま言われるような見解とは違うものを伝えてくるのでありまして、私は大変恐ろしい気がするのであります。
こういう問題については、小川大使を通じて中国へも真意の伝達をされたように新聞で見ましたが、同時に、あるニュースによりますと、その際、小川大使は中国のアジア局長から招致された。従来の慣例からいっても、大使が招致される場合には、局長ではない、もう一つ上の人のはずなんだ。それが局長ということになっているのは、それだけでも中国がこの問題について並み並みならぬ関心を持っているということの反映ではないかということがありましたが、私は外交関係はわかりませんから、それをどのように解釈していいかわかりません。ともかくいま何でこれだけの誤解を招くようなことをあなたがおやりになるのか、どうも、何と考えても合点がいかぬのであります。私はもっと積極的に、ただ小川大使から真意を伝える、一片のそういうような行動だけでなしに、もっと実のあることをやって、誤解なら誤解というものを正されるべきではないかと思うのであります。
私も中国のことを詳しくはわかりません。しかし、私の小さな体験、また多くの人の言われることを聞いてみると、中国はやはり原則を非常に大事にするんだ、原則において、大精神において、基本理念において一致があれば、いまあなたの言われる小異を捨てて大同につく、そういう用意のある国柄だというように聞いておるし、また私も大体そうだろうという感じがするのでありまして、どうもそういう点が、はなはだ失礼でありますけれども、私はさっき三木さんに申し上げました、この国の基本路線を決めるのは政治家の仕事だ、私は外務大臣を政治家でないと言うのじゃない、しかしこの際あなたも、次の次の次か何か知らぬけれども、総理の候補に上るような人なら、やはり政治家としてのもっと大局に立った行動をしていただきたいと思うのであります。せっかくのいま前向きにできる条件のあるときに、つまらぬことで障害を来してしまってはならぬということを私は深く考えさせられるのでありまして、この際もう一遍そういう点についてのあなたの見解をお聞きしたい。
○宮澤国務大臣 先ほど申し上げましたことが江田委員にお聞き取りにくかったかもしれませんが、私は誤って報道されたとは思っておりませんので、私のブリーフィングの仕方が不用意であったというふうに考えておるわけでございます。したがって、そのような不用意さが今後の日中平和友好条約の締結の障害にならないことを心から期待をいたすものでございます。
○江田委員 あなたの発言が不用意であったということをお認めになる、その率直な態度に私は敬意を表します。どうかひとつそういう気持ちで、総理も先ほど来前向きのことを言っておられるのでありますから、この際総理及び外務大臣は、事務当局に対しまして、さようなことの行動を強く指示していただいて、関係を前向きにしていただきたいと思うのです。
なおいろいろお聞きしたいこともあるわけです。たとえば台湾についての急激な変化というのはどういうことなんだろうか、米台のあの相互安全保障条約がなくなるということが、それが急激な変化ということになるのだろうかどうだろうか、いろいろお聞きしたいことがありますが、私に与えられた時間が参りましたから、そういう点をよく慎重に考えていただくと同時に、積極的に行動していただくことをお願いして、質問を終わります。
○鯨岡委員長 江田三郎君の質疑は終わりました。
1976/07/28 |