平成13年(分)第2号
決 定
福岡高等裁判所判事
被申立人
土 肥 章 大
上記被申立人に対し福岡高等裁判所から裁判官分限法6条の規定による申立てがあったので,当裁判所は,被申立人に陳述の機会を与えた上,次のとおり決定する。
主 文
被申立人を戒告する。
理 由
1 被申立人は,福岡高等裁判所判事で,平成10年4月6日から福岡高等裁判所事務局長の職にある者である。
平成12年12月13日,福岡簡易裁判所に対し,古川龍一福岡高等裁判所判事の妻である古川園子を被疑者とする差押許可状の請求があった。担当書記官は,被疑者が古川判事の妻であることに気付き,上司である渡辺仁士福岡地方裁判所刑事首席書記官にその旨の報告をした。同首席書記官は,担当書記官に指示して,令状請求関係書類のすべてをコピーさせた上,松元和博福岡地方裁判所事務局長に上記令状請求があり令状が発付された旨の報告をしたところ,同事務局長から依頼を受け更に2部のコピーをとって同事務局長に交付した。同事務局長は,コピー1部を小長光馨一福岡地方裁判所長に渡して報告した(コピーは,即日,同事務局長に返還された。)上,同所長の了解を得て,被申立人にコピーを1部交付し,報告した。被申立人は,コピーを受領し,保管した。
その後も平成12年12月22日,同13年1月9日,同月29日及び同月31日に園子を被疑者とする令状請求があり,渡辺首席書記官は,自ら令状請求関係書類の相当部分を3部コピーし,松元事務局長がコピー2部を受け取った上,1部を被申立人に交付し,報告した。
被申立人は,この間,松元事務局長に対し,令状請求関係資料のコピーをとって報告することの問題性を指摘せず,受領を続けた上,これを是正するための措置を執らなかった。
以上の事実は,(1) 被申立人の履歴書,(2) 被申立人の陳述書,(3) 最高裁判所調査委員会作成の調査報告書により,これを認める。
2 以上の事実に基づき,被申立人の行為が裁判所法49条に該当するか否かを検討する。本件の事実関係の下においては,司法行政上執るべき措置を検討する目的で,令状の請求及び発付があった事実,被疑者名,被疑者が福岡高等裁判所判事の妻である事実,被疑事実の概要等を報告すること自体は,許容されるものであるが,令状請求関係書類のすべてないしは相当部分をコピーして報告したことは,報告に正確を期するためであったとはいえ,それが高度の密行性が要請される捜査情報であることにかんがみると,量的な観点からみても,コピーという永続性のある方法での伝達は情報漏れが起こりやすいという観点からみても,不適切であったといわざるを得ない。
福岡高等裁判所には福岡地方裁判所の職員を監督する権限と責務があり(裁判所法80条2号),被申立人は,福岡高等裁判所の事務局長として福岡地方裁判所から司法行政上の報告を受け必要な措置を執る職責を有するところ,令状請求関係書類のコピーを漫然と受領していたものである。これによれば,被申立人は,福岡地方裁判所職員による事務処理の不適切さを認識し,松元事務局長に対しその問題性を指摘するとともに,これを是正すべく,福岡高等裁判所の監督権が発動されるよう適切な措置を執るべきであったのに,これを怠ったものといわざるを得ない。その結果,国民から裁判所職員が捜査情報を漏らしたのではないかという疑惑を抱かれる事態を招き,司法に対する国民の信頼が著しく傷つけられたものである。
以上によれば,被申立人の上記行為は,裁判所法49条に該当する。
よって,裁判官分限法2条の規定により被申立人を戒告することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
平成13年3月16日
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 山 口 繁
裁判官 千 種 秀 夫
裁判官 河 合 伸 一
裁判官 井 嶋 一 友
裁判官 福 田 博
裁判官 藤 井 正 雄
裁判官 元 原 利 文
裁判官 大 出 峻 郎
裁判官 金 谷 利 廣
裁判官 北 川 弘 治
裁判官 亀 山 継 夫
裁判官 奥 田 昌 道
裁判官 梶 谷 玄
裁判官 町 田 顯
裁判官 深 澤 武 久