2000/02/16

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参院・憲法調査会  

○会長(村上正邦君)日本国憲法に関する調査を議題とし、今後の本調査会の進め方、また委員の皆さん方の憲法観、御見識等々自由にきょうは活発に御意見を賜りたいと存じます。
 明治憲法にいたしましても現憲法にいたしましても、こういう形で憲法が議論されたということは初めてのことだと思いますので、大いに議員のそれぞれのうんちくをひとつ傾けて御披露願えればと、そしてそれを今後の運営に資してまいりたい。そういうことで、きょうは自由討議、議員間同士でやりとりがあれば大いに結構だと私は歓迎をいたします。その運営のあり方については会長に御一任願いたい、こう思います。できればお一人三分ぐらいにまとめていただければ、御協力賜れば幸いであると。一人でも多くの御意見、党代表ということではなくして、きょうはひとつそれぞれの委員の意見をお聞かせ賜りたい、こう思っておりますので、自由に忌憚のない御意見を伺いたいと思っております。

 発言の指名につきましては、それぞれ挙手を願った順番、またはそれぞれ政党にこだわらない、相互を見計らって、これを会長が指名をさせていただきます。
 それでは、御意見のある方は挙手をお願いいたします。順次意見発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
 幹事の優先権を認めさせていただきたいと思いますので、江田幹事から御意見を賜りたいと思います。座ったままで結構です。

○江田五月君 冒頭に御指名いただいたことを会長に感謝を申し上げます。
 私は、民主党としてこの調査会の進め方につき何を期待し、どう取り組もうとしているかについて若干の意見を申し上げます。

 まず、これまでともすれば賛否の激突となって冷静な議論が行われにくかった憲法論議が、こうして国会で行われることになったことを評価いたします。憲法も決して不磨の大典ではなく、時代の変化に伴ってそのあり方が議論されることは何も不思議なことでも憂うべきことでもありません。

 振り返ってみれば、憲法を議論するといえば、初めから現憲法を民族の恥辱とみなしてこれを改めることこそ政治の要諦と主張したり、逆に、初めから時代を逆転させる反動の動きとみなして論難したり、真っ向からの不毛な対立が横行していました。私たちはこのいずれの立場もとりません。初めから憲法改正を目指すことを前提とするのでなく、しかし、絶対に改正をしてはならないという前提を置くのでもなく、憲法とこれを取り巻くあらゆる問題を真っ正面から議論の対象としていきたいと思っております。

 したがって、私たちはいわゆる論憲の立場に立ちますが、これは憲法論議を避けたり先送りしたり、消極的な姿勢をとろうとするものではありません。逆に、二十一世紀を目前にして、世界も日本も大きな変容を遂げていますから、またこれからも一層大変化を経験することは避けられない時代ですから、むしろ積極的に二十一世紀のこの国の形はいかなるものであるべきかにつき議論したいと思っております。

 憲法は国の形そのもの。確かに、古いことわざがあります。チェスのこまと盤だけではチェスは成り立たないので、チェスのルールがあって初めてチェスとなる。同様に、国民、領土、主権といった部分品がそろっただけでは国は成り立たない。その国の形の基本を定めるルール、すなわち国の基本法があって初めて国が成り立つ。しかも、この基本法は国民の側から国家主権に対してたがをはめる、そういうものでなければ、そして主権と国民の間の社会契約の性格を持つものでなければ近代憲法とは言えない。

 そこで私たちは、二十一世紀のこの国の形をどのようなものと構想するかを議論し、その合意を得ることができれば、これがおのずから二十一世紀の憲法を示すことになると思います。これが現在の憲法と同じものであればもちろんそれでいいし、違っていれば新しいこの国の形を実現するために憲法を書きかえることもあり得るということになろうと思います。

 私たちはまた、現在の憲法が基本的原則としている三つのこと、すなわち平和主義、民主主義、基本的人権、これはこれからもこの国の形の原則であり続けると思っています。ですから、その意味では現在の憲法の三原則は変える必要はないし、逆に変えてはならないものと思っております。

 現憲法は、我が国が戦争に敗れて占領されていた時代に制定された。占領下ですから、憲法制定過程に占領権力からの介入があったことはだれも否定はできません。しかし、敗戦と占領ということ自体が大日本帝国憲法を基本法とする当時の我が国の形が引き起こした歴史の展開の帰結であるわけで、制定過程と言うなら、これらの歴史全体を観察しなければなりません。占領権力のこうした民主主義、平和主義、基本的人権といった世界の憲法史の流れにその淵源を有する介入というものがあったということで、第二次世界大戦終了直後という時代における国際社会と我が国との約束というそういう側面もあるわけです。

○会長(村上正邦君) あと一分でおまとめ願います。

○江田五月君 したがって、憲法制定過程を我が国の側からだけ見るのではいけない。一つ一つの出来事を断片的にとらえて論ずるのも妥当でない。現憲法は、帝国議会の審査、審議を経て作成、成立し、その後半世紀にわたってこの国の形を規定する基本法として受け入れられ、機能してきているのであって、制定過程に問題があるから憲法を書き改めなければならないというのは、木を見て森を見ない議論だと思っております。

 二十一世紀のこの形を論ずるには、私たちはまず二十世紀、この憲法とともに歩んだ半世紀及びこの憲法成立までの歩みを振り返ってみなきゃならぬ。その中で、この憲法の三原則を初めとする諸規範がいかに実現されてきたか、あるいはいかに実現されていないか、規範が変容を受けてきたか、こういうことを総括してみなければなりません。その上で二十一世紀の展望を議論しなければなりません。

 そこで私たちは、衆議院では憲法制定過程をまず調査するというようなことも聞こえてきていることでもあり、参議院では、我が国の各界の知識人、碩学の皆さんから、二十世紀の総括と二十一世紀の展望といった大所高所の御意見を伺うことから調査を始めるのが妥当だと思います。

 なお、憲法を論ずるということは画期的な試みであり、国の基本法の議論にふさわしい進め方をしなければなりません。言うまでもありませんが、そのためには、議論の進め方が党利党略に流れたり、十分な議論を欠いた強引なものになってはなりません。憲法論議にふさわしい、歴史と社会に対する深い洞察に基づいた、幅と奥行きのある英知に富んだ議論の展開となりますよう、賢明なる会長、幹事及び委員の皆さんの御努力を心からお願いいたします。


2000/02/16

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