1978/04/27

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84 参議院・法務委員会 仮登記担保契約に関する法律案について

専門知識を駆使して質問

 債権担保の方法としての抵当権がなかなか活用しにくいこともあって、高利貸等を中心に、債務不履行の時に、家や土地をすぐに取り上げてしまうという事が行われていました。裁判所は、判例により、こういうやり方を細かく規制してきましたが、それを法律にして、債務者の保護をさらに徹底するため、仮登記担保法が立案されました。江田五月議員は、法務委員会で専門知識を駆使して、政府との間で、質の高い議論をしました。


○江田五月君 この仮登記担保契約のもとでは、まず被担保債権の弁済期が来て、そしてその後に契約において所有権を取得するものとされている日の後に債務者に対して通知をし、通知到達から清算期間経過後にその目的物の所有権が移転し、そして同時に清算金支払い債務と所有権移転登記義務及び引き渡し義務が生ずる、そういう理解でよろしいわけですね。

○政府委員(香川保一君) そのとおりでございます。

○江田五月君 この引き渡し債務、それから移転登記義務と、これは契約の効果として契約上生ずるのか、それともその移転された所有権に基づく請求権として生ずるのかというようなことはどうなんでしょうか。つまり、時効との関係は一体どういうことになるのでしょうか。

○政府委員(香川保一君) これはやっぱり所有権を取得したことによっての所有権に基づく引き渡し請求権、それから移転登記請求権というふうに考えるべきだろうと思うのであります。

○江田五月君 で、その清算金債務と所有権移転登記義務、引き渡し義務、これが同時履行の関係になるということはいいわけですが、その所有権の移転の効果は、この二条一項によりますと、通知の到達の日から二カ月を経過したときということになるのですが、これは契約上変更することができるというお考えですか、できないわけでしょうか。

○政府委員(香川保一君) 事前の契約でこれを短縮するということは債務者にとって不利益でございますので、したがって、この法案の三条三項の規定によりまして、無効になるわけでございますが、伸長することは特約でやっても差し支えないだろうというふうに考えております。

○江田五月君 三条三項というのはお間違いじゃございませんか。三条三項は「前二項の規定」ですから、三条の一項、二項が無効であるということを言っているのであって、二条の方については何も触れてないのじゃありませんか。

○政府委員(香川保一君) 三条二項は清算金の支払いと移転登記、引き渡しの同時履行の規定でございますが、所有権が取得されるといたしますと、この所有権の移転の時期を縮めるという関係になりました場合には、つまりそれだけ所有権移転が債権者に早くいくわけでございますから、したがって清算金の支払いの方も早く受けられるということになるわけでございますけれども、やはり同時履行の関係に立っておる面から考えまして、短くするということは許されないと、こういうふうに解釈しておるわけでございます。

○江田五月君 いや、二条一項、二項ともにいわば公序に属する規定であるわけで、三条三項の規定によって債務者に不利であるから無効だということではなくて、この規定自体から強行法規性が認められるのじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。
○政府委員(香川保一君) 二条一項、二項はまさに強行法規でございます。そのような意味でこれを変更することは原則的には無効なんでございますけれども、長くする方まで無効としなきゃならぬかどうかという意味におきまして、三条の三項を持ってきて御答弁申し上げたわけであります。

○江田五月君 所有権の移転、それから移転登記、引き渡し、それと清算金債務、これはよろしいのですが、被担保債権いつ消滅するというお考えですか。

○政府委員(香川保一君) 清算期間の満了と同時に消滅するという解釈でございます。

○江田五月君 それは条文上の根拠とすれば、たとえば九条、それから十一条の括弧書きなんかがあるようですが、まあそれを前提にした規定というように読めなくもないということであって、はっきりした根拠はあるのかどうか多少疑問の余地もあろうかと思いますが、いかがですか。

○政府委員(香川保一君) ただいまお示しの条文が一つの解釈の根拠規定になろうかと思いますけれども、たとえば三条で清算金を支払うときの算定時期の問題があるわけでございますが、このときに本来の担保されておる債務が消滅いたしませんと清算金の支払いという関係が出てこないわけでございますから、そういうところを根拠にいたしまして、清算期間の満了時に本来の債務が消滅する、こういう解釈が当然出てこようかと、こう考えております。

○江田五月君 清算期間が満了したら清算が終わるわけじゃないわけですね。清算が終わった段階で被担保債権が消滅するという考え方も成り立ち得るのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○政府委員(香川保一君) 清算金の支払い債務が発生する時点というのが、まさに逆に申しますと、担保されておる債務の消滅時期ということになろうかと思うのであります。それが二カ月を経過したとき、つまり清算期間が満了したときから清算金の支払い債務が発生するということになっておりますので、その時点で債務が消滅するというふうに解釈するのが一番妥当だろう、こういうことでございます。

○江田五月君 そうしますと、通常民法上の代物弁済の場合には、対抗要件も具備させた段階で弁済の効果が生ずるというのが普通の考え方、これは争いか恐らくないのだと思いますが――と、この法律の成り立ち、仕組みとは異なるということになるわけですね。

○政府委員(香川保一君) 一般に不動産を代物弁済に提供した場合の債務の消滅時期につきまして、あれはたしか大審院時代の古い判例だと思いますが、所有権移転登記がされたときに債務が消滅するということになっておるわけであります。あの当時の、あの当時といいますか、こういう清算というふうなことを法律上明確にしない時期におきましては、代物弁済の効果というのは、消滅する債務がいかほどであったって問題にならないわけでございますから、債務者にとっては何ら痛痒を感じないわけでございます。しかし、清算するというふうなことを考えますと、移転登記の時期に債務が消滅すると申しますと、それまでの期間は、つまり利息あるいは遅延損害金が増加するわけでございますから、したがって、差し引かれる方の債務がそれだけふえる、そういうことになりますと、結局何らかの事情で登記がおくれておればおくれておるほど債務者にとっては酷な結果になってくるわけでございますので、そういうことを考えますと、やはり債務の消滅は一般的には不動産の場合の移転登記というその原則を修正して、清算期間の満了時というふうにいたしませんと、債務者の保護に欠けるのじゃないか、こういうふうな立法趣旨でございます。

○江田五月君 そこで、清算期間が満了して、目的物の所有権が債権者に移転をした後に、債務者による引き渡しなり移転登記なりが行われるより前に目的物が滅失した場合の危険負担は、債権者の方になると考えてよろしいわけですか。

○政府委員(香川保一君) 民法の危険負担の原則どおり、債権者が危険を負担するということでございます。

○江田五月君 この清算型の代物弁済の考え方が出てくる以前ですと、旧債務が消滅をしていないわけですから、対抗要件具備までの間に目的物が滅失しても、それは債務者の負担になるということであったわけですね。

○政府委員(香川保一君) そのとおりでございます。

○江田五月君 その点については、本法によって債務者の利益が普通の民法上の原則よりも大分拡大されたということになると考えていいわけですか。

○政府委員(香川保一君) 債務の消滅時期を先ほど申しましたような時点にいたしましたのも、そういうことを考えてのことでございます。

○江田五月君 それで、この二条一項の通知なんですが、これは二条一項によりますと、清算金の見積額を通知するということでありますから、先般の大臣の提案理由の説明の第一のところにあります所有権取得の旨を通知するということとは異っているわけですが、これは見積額を通知するという、条文がそうでありますから、そう考えてよろしいわけですね。

○政府委員(香川保一君) 実質は同じことなんでございますが、条文上は見積額を通知するということでございます。

○江田五月君 実質が多少違う場合も恐らく実際の問題としては出てこようかと思いますが、金額だけを通知するというので、もう最小限の要件としては満たされていることに条文上はなるわけでありませんか。

○政府委員(香川保一君) 通知が正当であるという意味ではお説のとおりでございます。しかしその趣旨は所有権を取るぞということでございます。

○江田五月君 次に受け戻しですが、この受戻権の行使によって――これはこの受戻権というのは形成権と考えてよろしいわけでしょうね。

○政府委員(香川保一君) いわゆる形成権でございます。

○江田五月君 受戻権を行使したら、目的物の所有権等はもとに戻って、結局債権者に移転しなかったことになるのか、それともその行使の時期にもう一度債権者から債務者にあるいは第三者に移転することになるのか、どちらでしょう。

○政府委員(香川保一君) 実体的には、一たん債権者に移った所有権が債権者から債務者に戻ってくる、再度移転があるというふうに考えております。

○江田五月君 そうしますと、たとえばその間の使用損害金とか引き渡し債務の履行遅滞に基づく損害金なども、そういう債務も当然発生するということになりましょうか。

○政府委員(香川保一君) そういうことになります。

○江田五月君 それからやはり先般の大臣の説明の中にあります「第一」と書いてあるところの登記の無効ですが、所有権移転登記が無効になる場合というのはどういう場合ですか。

○政府委員(香川保一君) 今日におきましては、こういう担保仮登記を利用する金融の通常の形態としまして、金を貸すときに移転登記に必要な一切の書類をとっておく。そうして債務不履行になりますと、債務者の知らぬうちに移転登記がされてしまう、こういうことになるわけでありますが、それの弊害がいろいろございますので、今回の法案で先ほども御議論のありました二条の規定を設けて、通知をして明確に所有権を取得するという意思表示を含んだ清算金の見積額の通知ということを絶対的な要件にいたしまして、その弊害を防止しようということでございますが、そういう通知を全然しないで、今日と同じようなやり方で、あらかじめとっておった書類で移転登記をしてしまったというふうな場合はこの登記は無効だと、こういうことになろうかと思います。

○江田五月君 そうしますと、契約において所有権を取得するものとされている日の後、通知が到達して二カ月以内、二カ月の清算期間が満了する、満了した後にはもう所有権が移転しているわけでありますから、したがって、その満了した後に仮に清算金の支払い、債務の履行をしていなくても、何らかの理由で移転登記が行われますと、その登記は有効と考えざるを得ないことになりましょうか。

○政府委員(香川保一君) 現在の判例理論では実体に合った登記ということに相なりますので、登記は有効ということになるわけでございます。

○江田五月君 次に、清算期間満了より前に移転登記が行われた場合は、これは所有権がまだ移転していないわけですから無効ですけれども、その状態のままで清算期間を経過すると、やはり無効な登記ではあったけれども、期間経過後は実体関係に符合してしまうわけですから有効と考えざるを得ないことになりましょうか。

○政府委員(香川保一君) 現在の判例では、登記がされた時点では実体関係が伴ってないことで無効であっても、後に実体関係が伴うことになればその登記は有効になると、こういうふうに言っておるわけでございます。そういう判例理論をとりますれば、お説のような結果になろうかと思います。

○江田五月君 その場合には清算期間内に登記がなされた場合でなくても、それよりさらに前、通知の前あるいは弁済期の前であっても、やはりその後に弁済期が到来し、通知が到達して二カ月たてば、やはり登記は有効になってしまうということになってしまうわけですか。

○政府委員(香川保一君) 判例理論の基本的な考え方が変わらなければそういうことになるわけなんでございますけれども、私は個人的にはその判例理論そのものに若干疑問があるのではないかと……。この法案ができました場合に、先ほどもおっしゃいましたように、二条の規定というのは、これは強行法規だということを考えますと、強行法規違反のそういう登記がされて、しかも、後日実体が伴ってきたからといって、その登記を有効というふうに解釈するのはいかがかという感じはいたしますけれども、現在の判例理論のもとではそういうことにはなるだろうというふうに考えます。

○江田五月君 いずれにしても三条の同時履行の関係で登記が有効になったり、無効になったりするということはないわけですね。

○政府委員(香川保一君) これは実体には関係ない、いわば手続的な側面でございますので、この点は同時履行に反してやったからといって、登記が有効無効というふうな議論はないと思います。

○江田五月君 そうしますと、ちょっと心配になるのが、せっかく同時履行で、同時履行自体は結構なんですが、実際にはなかなか債権者、債務者の力関係あるいはいろいろな法律知識あるいは経験の問題等を考えますと、債務者の方が適当にちょろまかされて登記だけはやられてしまうということを防ぐために、余り同時履行というのは目覚ましい効果、実効性を持たないのじゃないかという心配があるのですが、どうでしょう。

○政府委員(香川保一君) 債務者は金を借りるときにはいわば弱者的な地位にございますので、債権者の無理も聞かなきゃならぬというふうなこと、やむを得ない面があろうかと思うのでありますが、しかし、この段階になってきて、移転登記をするという場合におきましては、必ずしも債務者は弱者的な地位にあるとは言えないわけでございまして、それをしも、しかし債務者が何でも債権者の言うなりになるということでありますれば、これはもう法律をもってしてもいかんともしがたいわけでございまして、私どもそういうことも考えますと、先ほど二カ月の期間が問題になりましたけれども現在の登記実務におきましては、法令上、所有権移転登記をする際には印鑑証明書が要ることになっております。これはその有効期間が三カ月ということになっておりますので、そうしますと通常の金を借りる場合にその段階で印鑑証明書をとる、そうしまして弁済期まで大体不動産の仮登記担保を使うような場合というのは、どんなに少なくたって一月くらいの弁済期間があるはずでございますから、そうしますとさらにプラス二カ月でございますから最小限三カ月はかかるわけでございまして、したがって、もう一度印鑑証明書を債務者に要求しなけりゃならぬということになってくるわけでございます。そういうことによって債務者の同時履行の抗弁権の行使が容易になってくると、こういうふうにこれは法律論じゃございませんけれども、実際問題としてそう相なるだろうというふうに考えておるわけでございまして、それ以上の債務者の保護ということは法律をもってしては無理なことではなかろうかと思います。

○江田五月君 それから、この代物弁済予約あるいは停止条件付代物弁済契約というものは、合理性を持つ場合に民法九十条違反ということで無効になってきたのがそもそものスタートで、その後に九十条違反から進んで清算義務があるのだという判例理論が出てまいりまして、清算義務があるというそういう構成が確立した段階で九十条違反ということはもうなくなったわけですね。で、その清算義務があるという法律構成をする最初のころは、恐らくたしか著しく債権額と不動産の価格が均衡を失しているというような要件があったかと思いますが、その要件がだんだんとなくなっていると、いまこの法律になってまいりますと清算金が全然ない場合にも金銭債務の担保目的で権利の移転を目的としてなされた契約で、そしてその権利について仮登記、仮登録の制度がある場合というのが、すべて仮担保契約、仮登記担保契約に入ってしまうわけで、そうすると先ほどの危険負担の債権者主義を回避しようというような形で債権額にちょうど見合う物件をとって、民法上の代物弁済の典型的な、典型的といいますか民法上予定されているそのままの形の代物弁済予約なり停止条件付代物弁済契約なりをしようということはもうできなくなったと考えてよろしいわけですか。

○政府委員(香川保一君) 法律的にできなくなったということまでは言わなくてもいいかと思いますけれども、不動産の価格の変動がない時期におきまして、目いっぱいの債権で不動産をとるということは非常に、何といいますか、債権者としては使いづらくなるということは確かにあろうかと思います。

○江田五月君 それから、いまの危険負担の関係ですが、目的物の滅失ではなくて、何かの関係でこの移転登記義務とか引き渡し義務とかが履行不能になった場合、まあちょっと細かく検討しないと事例としてはわかりませんけれども、たとえば第三者の方に移って、そして第三者の、また関係のない第三者に移って先に登記がなされてしまって、仮登記をもってしても負けてしまうというような場合には、被担保債権は消滅はしないのでしょうね。

○政府委員(香川保一君) 仮登記がされていません場合には、おっしゃるように第三者に先に移転登記がされて、それが実体を伴っているものであれば、まさに対抗要件の問題として債権者は負けるわけでございますから、これはおっしゃるとおりの結果になるわけでございます。仮登記がしてございますれば、その後で第三者に所有権移転登記がされましても、これは債権者は法律的には一向痛痒を感じない、つまり所有権を取得して本登記をいたしますれば、第三者の所有権取得が無効になってしまうわけでございますから、したがって履行不能ということにはならないだろうと思います。

○江田五月君 何かの関係で履行不能が起こった場合という、ちょっとその事例をいま思い浮かべる暇がないのですが、たとえばその仮登記担保に係る仮登記より前に普通の仮登記があって、それが本登記になったとかですね……。

○政府委員(香川保一君) 先順位の仮登記があってそれが先に登記されますと、その後順位の仮登記も消滅して消されてしまうわけでございますから、その場合にはまさに履行不能といえば履行不能になるわけでございますが、ちょっと危険負担の問題として債権者負担にならない場合の履行不能というのはちょっと私、事例としてただいま思いつかないのでございますが……。

○江田五月君 本法は判例によってでき上がった一つの法律体系を判例法のままではいろいろ手当てもできない、不十分であるということから、立法府がそれに呼応する形で判例理論を法律の形に仕上げようという、そういうものであろうと思いますが、そういうふうに判例ででき上がってきているいろいろな法律体系を立法府が常に注意をして見ていて、それに呼応する形で立法的手当てが必要な場合にはしなければいけないということは、まさしくその法の支配のもとで必要なことだと思いますが、大臣にひとつ伺っておきたいのですが、この法律もそうですけれども、もっと判例あるいは最高裁の判決に立法府が速やかに対応していかなきゃいけないものとして、やはり最高裁判所によって違憲であると判断された場合のことがあろうかと思いますが、刑法二百条の関係というのは一体どういうふうになさるおつもりであるのか、伺いたいと思います。

○国務大臣(瀬戸山三男君) おっしゃるように、法律の最終判断は最高裁判所で判決がありますと、もし違憲等の判決があれば、この裁判所の判断を尊重して、それに合致するように法律を改正する、これが政府なり立法府の責務であろうかと思います。

 そこで、おっしゃる刑法二百条尊属殺の規定でございますが、これについて昭和四十八年だったと思いますが、憲法十四条の規定から見て尊属殺を重く罰しておるのは違憲である、こういうことで、その事案については、二百条の規定でなくて、百九十九条一般殺人罪の規定で判決があったわけでございます。法務省といたしましては、その判決の趣旨を受けて刑法の改正をしなければならない、こういう考え方から検討いたしたわけでありますが、ただ最高裁の判決の趣旨が、二百条の尊属殺が憲法十四条の法のもとにおける平等、この原則に直接的に反するという趣旨にも解せられない。問題は一般殺人の死刑、無期または三年以上というのを尊属殺に限って死刑、無期だけに限定して重い刑を予定しておる、これが実態の尊属殺の場合、いろいろなケースがあるわけでございますが、当該の事件については、死刑、無期の範囲だけで処罰をするということはいかにも実態に合わないといいますか、酷過ぎるという趣旨の裁判であったと思います。その際に尊属というもの、親を尊重するというこの人倫の道を間違っているわけじゃないけれども、余りに、ただ親であるからというだけで殺人の場合に無期以上でなければ処罰の方法がないというのは、憲法の法のもとにおける平等の趣旨にそぐわない、こういう趣旨だと私、解しておるのです。それはそれとして法務省はその判決を受けて、いま申し上げましたように二百条の改正をしなければならない、と同時に二百条の改正というよりも二百条を削除する。同時に、尊属に関するほかに尊属傷害致死とか、あるいは尊属遺棄とかあるいは尊属の逮捕、監禁、親に対する子としての不当な行為を罰する規定は御承知のとおりありますが、それまでも削除する意味の法案を用意いたしまして、七十一国会に提案を準備したのであります、実際は。ところが、いま申し上げましたように、問題は法理論的に考えますと、御承知のとおり現行刑法は裁判所の裁量の余地が非常にありますから、実際の事案の処理については法務省が考えたとおりでいいと思うのですけれども、ただこの際、刑法の尊属の観念を削除してしまう、この点については、大きなまた別に異論がありまして、それでは人倫の道というものが、親子の人倫の道といいますか、親に対する報恩、感謝の念、尊重の念、こういうものを法律上から抹殺するということは、わが国の国民感情といいますか、社会感情からいってきわめて不適当じゃないかという有力な意見もまたあるわけでございます。そういうことで最終決定をしかねて今日に至っておる、このことは適当でないと思います。でありますから、各方面の意見を十分に調整をして早く最高裁の判決に適合する改正をしなきゃならない、かように思っております。思っておりますが、実際の裁判で江田さん御承知のとおり、少なくとも尊属殺については最高裁の判決の判例に従って実際裁判が行われておるという、直ちにいま不都合はないという問題もありまして、ややおくれたのは、これはまことに恐縮でありますが、できるだけ早く実定法の上で改正をしたい、かように考えておるわけでございます。

○江田五月君 終わります。


1978/04/27

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