1978/05/12 |
84 参議院・運輸、地方行政、法務委員会連合審査会
新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法案について
成田新法の危険性を指摘
いわゆる成田新立法について江田議員も発言の機会を得ました。
江田氏はこのなかで、過激派の行動に対処する必要は認めるが、出されてきた法案は日本の法体系の調和を乱している、と指摘。とくに、この法案に規定されている。“禁止命令”が出されると、通常の法が適用されるべき地域が、突然戒厳令か、あるいは恐怖と強権が支配する空間に変わってしまう可能性もある、と主張、立法の行き過ぎを追求し、政府の民主主義に反する姿勢を批判しました。
○江田五月君 本法についての先ほどからの審議を聞いておりますと、提案者の方はともすればこの団結小屋を使っての過激派のああいう行動がけしからぬと、これについて何らかの対処をすべきであるということをおっしゃり、そこに戻られるわけでありまして、私どももやはりそういう必要は決して否定するものではないわけであります。
ただまあ、このいまの成田をめぐる紛争あるいはこの問題の中で、そうした方向だけが必要な手段であるのかどうか、もっと違った手段がいろいろと必要なんじゃないだろうか、それがまだ十分尽くされていないんではないだろうかという気はしておるわけでありますが、いずれにしてもいま行われようとしている不法事犯に対する対処というのは必要がないというわけにはいかない。ただ問題は、必要というのはこれは発明の母であることは間違いありませんが、父ではないわけでありまして、母の盲目的愛で適当な発明をつくってしまってはいけない。やはり父の冷静な心がなければいけないと思うわけであります。
この法律は、どうも必要を確保するためにいろいろなところからいろいろな手段を集めまして、非常によく検討されてたくさんのものを持ってきているという点は敬服すべきであろうと思いますが、余りにもあれも便利がいい、これも便利がいいとたくさんのものを持ってき過ぎているために、本当に日本の法体系の中で調和のとれた法になっているかというと、相当に調和を乱していると言わざるを得ないのではないかと思います。
どうも本法ではキーワードが三条一項の禁止命令でありまして、この禁止命令が出されますと、通常の法が適用されるべき地域が突然戒厳令かあるいは恐怖と強権が支配する空間に変わってしまうというような、そこまで言うと大げさと思われるかもしれませんが、あるいはそういう可能性もあるということを感ずるわけであります。
具体的な点で伺いますが、この三条三項の「質問」ですけれども、これは何か立ち入りとか質問とか手続を予定されているんでしょうか、提案者いかがですか。
○衆議院議員(足立篤郎君) その前に当然に運輸大臣の禁止命令が出るわけでありまして、それをどうして告知するかという問題は、先ほど寺田さんからもしつこくお話がございました。なかなかむずかしい点はあると思いますが、その命令が遵守されているかどうかという調査だけの問題でございますから、その調査についてまだ使われておると、禁止命令が守られてないという現状を確認するための質問、行政質問に限られるわけでございますから、私はその質問について、これは犯罪捜査ではございませんので、別段そのための手続を特に設けなきゃならぬというふうには考えておりません。
○江田五月君 そうしますと、この質問の場合に、一体どういうことを質問するかということになりますが、この命令の履行の確保のために必要な質問をなさるわけでありますから、そうすると当然、一体この多数の暴力主義的破壊活動者が集合したのかどうかと、あるいは何か火炎びん等を保管しておるのではないかとかいうようなことを質問するのが最も直截でありまして、それはすなわちこの九条一項によりまして、三条一項違反の罪に関する質問をすることになるのじゃないだろうか、あるいはその質問をする、質問を受ける者についての限定が関係者というだけしかないわけでありまして、禁止命令の名あて人だけに質問ができるわけじゃない。もっと大ぜいの関係者といいますと何が関係者になるのかわかりませんが、非常に広がるおそれがある。あるいは質問ができる場所的、時間的限界というようなものも何も規定をしていない。
そうしますと、この禁止命令が一度出ますとその周辺、周辺にあるいは限らないかもしれない、何かちょっと関係者と疑われるような者については、皆いつ質問が来るかわからない。きのうどこへ泊まったかというような質問が来る、その質問に答えないというだけですでに九条の二項の方でこれで犯罪になる。この犯罪が行われましたら、これで現行犯逮捕をされるというようなことになるわけでありまして、どうもこの非常な問題であろうと思います。
で、税法の質問の規定を恐らく参考にされておるのであろうと思いますが、税法関係のものが辛うじて合憲という最高裁の判決はあるわけでありますけれども、税法の場合と全然違って、事項も特定されていないとか、あるいは質問される相手が広がってしまうとか、どうもこれが憲法三十八条に適合するというのは非常にむずかしいんではないかと思うんですが、いかがでしょう。簡単に願います。
○衆議院法制局参事(大竹清一君) お答えいたします。
大体この規定は行政関係法規におきまする一般的規定でございまして、先生の揚げ足をとって悪いようですが、先ほどおっしゃいました、きのうどこで泊まったかというようなことは、ここで問題になるはずがない。この禁止命令、その建物の使い方が禁止命令に違反しているかどうか、その限りにおいて行政庁の職員がやります。
それともう一点、憲法三十九条、もう私が申し上げるまでもなく、あれは要するに刑事手続における保障である。こちらは行政関係でございます。
○江田五月君 きのうどこに泊まったかというのは関係ないとおっしゃいますけれども、多数の暴力主義的破壊活動者がどこに集合しているかということを聞く、その質問になるんじゃありませんか。それから憲法三十八条一項の保障というのは、刑事手続だけでなくて、実質上刑事責任追及のための資料の取得、収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には等しく及ぶというのが最高裁の判例であることは、御存じないとは思いませんが、そういう答弁をいただくとは思いませんでした。
そのほかに――時間がもう全くありませんので、聞くことはたくさんあるんですが、たとえば「損失の補償」の問題にしてもあるいは除却の問題、この三条の九項あるいは六項、このあたりは禁止命令を受けた名あて人以外の者にどんどん広がっていくわけです。その近辺の人たち、あるいはそこに電力とかガスとか水道とかを供給している業者の人たち、あるいは近辺に限らず、たとえば外の方の道路からそこに至るまでの間の土地を持っている、建物を持っている人たち、そういう人たちにどんどん及んで、そうした物が除却されるというような危険がこの三条の六項、九項あたりで出てくるわけであります。
そういうことを考えますと、戦争前に非常に日本にたくさんあったといわれる直接強制を戦後私たちは重大な反省をして大幅に取り除いたわけでありますけれども、それをここで再び大幅に導入する、しかも戦前以上に導入してくる。しかもこの「規制区域」というのは新東京国際空港の周辺だけという、当面はそのおつもりだということでありますが、二条三項二号によりますと、その外側、たとえばパイプラインはもちろんレーダーサイトとかあるいは考え方によっては京葉道路、首都高速、それから京成電鉄すべて入ってしまうことも可能じゃないかというようなことになろうかと思うんで、相当な大変な問題だと思いますが、法務大臣、一言だけ御答弁を願いたいんですが、どうもこういうことで、必要から直ちにどんどん広がってすさまじい法律をつくるというようなことになりますと、やっぱり後世、民主主義というのは衆愚政治だというふうに言われるようなおそれが出てくるんじゃないだろうか。
なかなか行政官庁の方々は、さすがしっかりした認識を持っていらっしゃいますから、御自分では提出をされませんが、議会の方に任して提出をさせてしまうというような、そういう民主主義に非常に反するような結果になっていくんじゃないだろうか。
民主主義というのはやはり寛容の思想というのがその基本になければいけないんで、あるいはじっくりと物事をよく考えていって、そうして落ちついて事案を検討していく、そういう姿勢が基本になければいけないんで、そういうものがなくてどんどんどんどん何か直接強制を大幅に取り入れたという、そういうそしりを将来受けるようなことになって、果たして法務行政の責任を負っていらっしゃる法務大臣としてよろしいんですか、どうですか。それを伺って私の質問を終わります。
○国務大臣(瀬戸山三男君) これは先ほど来質疑応答がありましたが、国会の議員提案として数党が共同されて提案されておるものでございます。したがって、それを中心に国会で議論をされておるわけでございまして、政府の立場で私はとやかく申し上げたくはございません。ただ、無制限に広がるというような御懸念がありますけれども、この法律の内容自体を見ますると私はさようには――懸念するということは私は非常にいいことだと思います。やはり懸念をしないと注意を怠ることになりますから、国会等で議論をされて懸念の点を指摘しておかれるということはきわめて結構であると思いますが、この条文そのものを見ましてそういう懸念があるとは思いません。範囲も三キロ以内というふうにちゃんとしてありますし、問題は、空港の安全と運航の確保を図ろう、これを破壊しようというグループがあるわけでございます、現にあるわけでございます。それに対しては、いかに民主主義といえども、私は民主主義であるからこそそういうものは排除しなければならない、かように考えておるわけでございます。
1978/05/12 |