1978/06/07

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84 参議院・決算委員会

行政監察官制度を提唱
 江田議員は、福田首相に対する質問で 「スウェーデンやイギリスなどで定着している、オンブズマン(行政監察官)制度をとり入れるべきだ」と、要旨次のように主張しました。

 国会議員の日常活動に、行政に対する苦情等の処理があり、時には難題を押しつけ、灰色の報酬が動くことも。こうして支持者集団の維持が、議員の立場の全てになり、国民は議会制民主主義に少なからぬ疑惑を抱きます。これは国家機構全体の病理現象。もっと合理的で透明度の高い、公認のシステムが考えられるべきです。


○江田五月君 ちょうど昨年の七月に本院の議員の半数が改選されて、間もなく一年になろうとしているわけでありまして、私はこの一年ほどの間、新人議員として議会の中でわが国の国会議員の活動をわずかではありますが経験をして、幾つかのことを考えたわけであります。そうしたことに関して、余りホットなイシューではありませんし、抽象的な質問になって申しわけありませんが、総理の基本的な物の考え方とか感じ方とかいうようなものを伺っておきたいと思います。いまの日本の議会制民主主義の状態、特にこの議会制民主主義に対する国民の信頼がどうも揺らいでいるんではないかというようなことについての総理の感受性というものをひとつ伺っておきたいからであります。

 私が考えたことの一つに、いわゆる日常活動として、与野党を問わず、多くの議員が行っている行政に関する苦情等の処理の問題があります。多くの議員が選挙民の方々から行政に関して苦情を持ち込まれて、ひとつ口添えをお願いしたいとか、力添えを頼むとかいうようなことを頼まれていると思います。頼まれた議員は、一応その当否を調べはするのでしょうが、よほどのことがない限り、功を奏するかどうかは別として、しかるべき官庁の部局に連絡をするでしょう。これは議員の国民に対するサービスであって、それ自体直ちに悪いことではないのかもしれません。

 しかし、多くの場合は、事はどうもそれほど単純ではないようであって、頼まれた議員は少々無理な要求であっても、支持者の一票のために、強引に、道理が引っ込んでも無理を行政官庁にお願いするというようなことがあるように見受けられる。そして、ときにはその裏に、支持者から議員に対して、あえて黒とは言わなくても、灰色の報酬が動くこともあるように思われます。これは、大はロッキード事件に見られるようなケースでしょうけれども、小さな場合だと、日常の儀礼と変わらないようなものもありましょう。さらに、このようにして支持者の集団を維持しておくことが議員の活動のすべてになってしまうと、国とか国民とかということを考えるいとまがなくなってしまうという場合もどうもあるように見受けられて仕方がない。

 ここにどうも本来国と国民全体のために働くべき議員が一地方だけの実力者となって、その人を頂点として一つの利益の体系を共有する集団ができている場合があるような感じがいたします。

 一方、行政に携わる人々はこうした傾向を苦々しく思いながら、泣く子と地頭には勝てないと、腹で軽べつしながら無理を通しているということがあるように思います。

 このために、多くの人々が議会制民主主義の有効性に少なからぬ疑惑を抱くようになっているのが現状ではないかと思いますけれども、そういう点について、総理、一体どういうふうにお考えになるか、お感じになっておられるか、伺いたいと思います。

○国務大臣(福田赳夫君) 私は、そういう問題につきましては政府は――政府ですよ、政府は毅然として立ち向かわなけりゃならぬだろうと、こういうふうに思います。やっぱり圧力団体から圧力がかかったからそっちの方はうまくさばきができて、声なき声の方はこれは見送られたと、こういうようなことになったんじゃ私は本当の政治にならぬと思うんです。政府の姿勢といたしましては、圧力には屈せず、同時に声なき声には耳を傾けるという姿勢でやっていかなけりゃならぬなあと、そのように思います。

○江田五月君 政府の責任あるいは姿勢ということも大事でありますが、行政庁というだけでなくて、国の統治の機構全体の病理現象として私はいま問題にしたいと思っているわけです。こういう議員のごり押し――ごり押しと言うとちょっと悪いですけれども、議員の活動は、その背後に国政調査権を持っているわけでありますから、そうした日常のサービス的な仕事を圧殺してしまうことは得策ではないと思います。しかし、そうした国会議員が苦情を処理するシステムというものがもっと合理的で、無理を押し通すことのない、しかも透明度の商い、すなわちやみで処理されるのでなくて、一つの公認されたシステムの中で処理されるという方法を考えることができるんじゃないだろうか。

 具体的にはどのような姿になるか、細目は別として、各国で採用されておりますいわゆるオンブズマン制度と言われるもの、つまり議会の授権による独立した行政監察官による苦情処理の制度、こういうものが、いま述べたような議員の活動との関連で言えば、特にイギリスの制度というのは検討に値すると思いますが、あるいはその具体的なことは御存じないとしても、そうしたことを考える必要がいまあるんではないかという点に関していかがお感じになっておられるか、伺いたいと思います。

○国務大臣(福田赳夫君) 私は、いま江田さんの御指摘の問題は、多分にこれは行政庁、それからまた国会、そのモラルというか、そういう問題、まお国会議員は国会議員として本当に適正な職務執行をする、こういう姿勢をとるか、また行政府は行政府としての正しい姿勢で、また勇気ある姿勢で問題に取り組むかと、こういうところに本質論があるんじゃないか、そのような感じがいたしますがね。新しい制度をつくったとて、私は魂を入れなけりゃ何にもならぬと思うのです。屋上屋、そういう弊害は出てきても、問題の解決にはならぬと、このように脅えますが、いま、外国のオンブズマン制、こういう問題に触れられましたが、これはまあ国会でも御検討願いたいと思うんです。思いますけれども、私が強調したい点は、本当に国家統治ですね、そういう立場から議員はどうあるべきか、行政官はどうあるべきかという点について、本当に確固とした、また勇気ある姿勢というものが打ち出されない限り、いかに機構をつくりましても私は無意味であろうと、このように考えます。

○江田五月君 私がオンブズマン制度の導入を検討してみた方がいいんではないかと思っているのは、議員のモラルの問題だけではないんでありまして、いろいろな理由があると思いますが、一つには、法治国家というものは常に何か安全弁がなければいけないということがあろうと思います。

 つまり、法治国家の場合に、言うまでもなく法というのは一般的、抽象的な規範でありまして、それを定立する場合には、およそ予想もしないような事実というのが将来生ずることは当然あり得る。そうした予想もしないような具体的事実に法規範を適用しますと、その結果が、もともとの法が目標としていたものに反するような、あるいはそのもともとの法が目標、目的としていたことを実行するゆえんでないような結果が生ずることがあるんでありまして、合法であり適法ではあっても妥当でないということはしょっちゅう起こるわけです。

 それで国民が、法はいかに冷たいものか、氷のようなものかというようなことを感ずるというケースがあるんでありまして、わが国ではこういう場合に、ともすれば、事が公にならない間なら何とかかんとかうやむやにごまかしてしまう。公になってしまうと、法がそうであるからというので冷たく突き放してしまうという傾向があるんではないかと思うんですが、こういうようなところからも、ひとつ、こうした法治国家の一つの隘路というものを打開していく制度として各国がオンブズマンということを考えているんではないかと思うわけですが、そうした法治国家の現状というものに対する総理の一つの統治の責任者としてのお考えを伺っておきたいと思います。

○国務大臣(福田赳夫君) 政府なり国会なりが、国民の声、それが那辺にあるかということを常に承知しておくことはこれは非常に大事なことであると、このように思うわけです。国会には国政調査権がありまするから、大いにこれを活用して、国民の声、それに耳を傾けてもらいたいし、また行政府におきましては行政相談委員制度というのがあります。これも、私かつて行政管理庁長官脅したこともありまして、ずいぶんこの相談委員の制度を活用したわけでありまするけれども、そういう制度がある。それから、各省庁に行政相談官というものもある。それでありまするから、それらを活用されて、とにかく国民の声というものが役所にもあるいは国会にも入ってきて、みんなそういう声について認識を深めておくということは、私は統治能力という上から見て大変大事なことであろうと、かように考えます。

○江田五月君 行政相談委員の制度というのは、これは確かにある程度の役割りを果たしていることは間違いないと思います。ただ、行政相談委員のたとえば資格の問題であるとか、権限の問題であるとか、やはりいろいろと難点もあろうかと思います。国の運営というのは、特に自由な社会ではいろいろな制度が複雑に絡み合って、多魚釣にチェックをし合いながらバランスを保っていくものでなければならぬのでありまして、あの制度があるから、あれが動けばいいんだからといって、ほかのことを全然考えないというのはどんなものだろうかなという感じがいたすわけであります。

 それはそれとして、ちょっとホットなことについて簡単に何っておきたいんですが、最近、ソ連の海軍が、最近といいますか、ついきのうきょうの問題であるかもしれませんが、捉択島の近海で相当大規模な演習をやっているということがロイター電によって伝えられております。政府は、先週ですか、ラジオ放送によって択捉島近海でソ連海軍が損料をするということが報道された際に抗議をなさったということでありますが、このきのうきょうの動きというのは、さらにそれがどんどん進んで、どうもこれ十分まだ見ていないんですが、相当の規模の部隊が択捉島に上陸をしているというようなことであるのかもしれませんが、事情は十分把握をされているんだと思いますが、総理自身いかなる指揮をおとりになったか、お知らせ願いたいと思います。

○国務大臣(福田赳夫君) そのお話は、私は初耳でございます。先般、日本の漁船が多額の罰金を課せられたという話は聞いておりますが、演習の話は全然聞いておりません。なお調べて善処いたします。

○江田五月君 事実でなければ、誤報であればいいんですが、もし事実だとすると、総理が初耳というのはちょっと困ると思いますので、以後十分よろしくお願いをいたしたいと思います。


1978/06/07

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