1982/04/09 |
96 参議院・公害及び交通安全対策特別委員会
日航機の(逆噴射)事故について
○江田五月君 参考人の皆さん、本当に御苦労さまです。
二月九日に日航機の事故が起きて二カ月、この事故は本当に国民全部が、あるいはひょっとしたら世界じゅうの人たちがびっくりした、大変な衝撃を与える事故でありました。二十四人の人が亡くなり、大ぜいの人が大変なけがをしたわけです。その後、たとえば「機長、やめてください」とか、心身症であるとか、逆噴射であるとかいうような言葉が流行語になっている。恐らく日航関係の皆さん大変な痛恨事だと思います。
国会で特にこの事故をテーマにして皆さんにお話を伺うということはこれで終わりになるかもしれませんが、ひとつこういうことがないように、これから本当に真剣な対応をしていただきたいと思いますが、国会でいろいろ具体的な細かなことを伺うということは、実はそう軽々にできることではありません。きょうは参考人としてお見えくださっているわけですから偽証ということはありませんが、しかし、ひょっとしたら参考人としてお話しくださっていることでも刑事責任を左右する際の証拠となる場合もあるわけです。先ほど高木社長は、片桐機長がうつ病であったことは会社としては知らないというお答えでしたが、会社として知らないということは一体何なのか、具体的にどこまで情報が入っていて、どこからとぎれているのかということをもっと具体的に追及していくと、それは刑事責任の有無にも関係してくるわけですから、余りそういうところまでこの場で立ち入るのはどうかなという感じがいたしますが、いずれにしても、これで国会の議論で俎上に上げられることは一応終わりになるというときに当たって、どういうお覚悟でございますか、あるいはどういう感想をお持ちなのか、最初に伺っておきたいと思うんです。
○参考人(高木養根君) 二月九日にあの大変な事故を起こしましてから二カ月経過いたしまして、私にとりましてはこの事故はいまでも昨日起こりましたように本当に痛恨事でございまして、私としては二度とこういう事故を起こしてはならないということを心で誓い、真剣に安全対策に取り組んでいきたいということが一つ。それからもう一つは、私、御遺族の皆様にはお一人お一人お目にかかって本当に心からのおわびを申し上げたいということでまいりましたけれども、本当に誠意を尽くして事後処理をやっていきたいというかたい決意を持っております。
○江田五月君 具体的な話に入ってみたいと思いますが、過去の事実の追及ということではなくて、これからどうするか。まず身体検査ですが、昭和四十四年の四月十日に航空審議会が運輸大臣に提出をしました答申、この中に、これは八ページですが、「航空機乗組員適性検査機関の設置」、これは午前中にも指摘があった点ですが、「航空機乗組員の航空適性を確保し、航空機の安全運航に寄与するためには、国が欧米諸国にみられるように、民間航空に係る航空医学・心理学に関する検査研究機関を早急に設置することが不可欠の要件である。」この検査研究機関というものは設置されておるのですか、おらないのですか。
○政府委員(松井和治君) 諸外国の航空身体検査制度につきましては、四十四年の答申が出ます際に、先ほども御答弁申し上げましたとおり調査団を派遣して実態を把握したわけでございます。米国と欧州の主要国に参りまして、必ずしも実態のつかめなかった国もございますが、主要な国についての調査をしてまいりました。その際に、検査研究機関でございますが、欧米諸国の実態は先ほども申し上げましたが、研究機関でございまして、しかもそれはここに書いてあります「国が」というのは必ずしも全各国がそうだという意味ではございませんで、アメリカと西独は民間の研究所がございます。それから英国、フランス、カナダ、イタリア等は軍と民の、何と申しますか、一緒になりました形での研究所が存在する、こういう実態でございます。
○江田五月君 私はここに書いてある、「検査研究機関を早急に認置することが不可欠の要件である。」とある検査研究機関は、設置されているのですか、されていないのですかと聞いたのです。
○政府委員(松井和治君) 設置されておりません。
○江田五月君 これは運輸大臣、ひとつ真剣に考えていただく必要があると思うのです。航空医学も、私は全然素人ですから知りませんが、宇宙にまで人が行って帰ってくるような時代ですから、恐らく非常に日進月歩のものがあろうと思うんです。しかも国際的にも日進月歩のものがある。国内でも恐らく大変な進歩がこの十年来ずっと続けられてきているのじゃないかと思うんです。こういう航空医学とか心理学とかの最高の水準、一番最近最新の水準を踏まえた身体検査というものが航空機乗組員の皆さんには適用されてしかるべきであるし、それはいわば航空機を安全に運航させていくという事務に携わる者の一つの責任じゃないかと思うのです。国内においても単に運輸省の関係というだけではなくて、たとえば文部省であるとか厚生省であるとか、各大学であるとか、そういうところとも連絡を密にしていく、あるいは国際的にも連絡を密にしていって、現在の航空医学の水準、あるいは身体検査の実情、こういうものについて情報収集の体制をきちんととり、研究の体制もきちんととって、身体検査という点からも航空機の安全運航を確保していく、このことをひとつ真剣に考えていただきたいと思いますが、大臣いかがですか。
○国務大臣(小坂徳三郎君) いろいろと今日までの事態の中では、こうした高度の研究あるいは高度の診断にふさわしい技術者と申しますか、まことに得がたいということなんです。それはそれといたしましても、そう完璧なことを期待する前に、やはりできるだけの現在可能な範囲でのあれをやろうと言っておるんです。ただ、すでに航空局長の諮問機関といたしまして、この道の専門家と言われる方々の委員会をつくっておるわけであります。それがここで言われておる「国が」というのはなかなかできないので、運輸省限りのそうした委員会をつくっておりまして、そこでいろいろと本格的に取り組む場合のことや、また、いろいろな問題が起こっておることについての諮問に応じていただくという組織にはなっておるのであります。今回の事故でその点なお十分に作動する必要を痛切に感じておりますので、前向きに進めていきたいというふうに考えております。
○江田五月君 ひとつよろしくお願いします。
これは、特に航空医学などに通じた人を得るのはなかなかむずかしいことだという大臣のお話も、そのとおりだと思いますが、しかし一方で、日本の国内でも各大学などにも協力を求めれば人はいるんだという話もありまして、運輸省限りでなくて、そういう関係省庁の協力もひとつ取りつけることを大臣にお願いをしておきたいと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(小坂徳三郎君) そうした努力もひとつやってみたいと思います。
○江田五月君 身体検査の手続について、これは恐らく改善すべき点がたくさんこれから出てくるのじゃないかと思います。たとえば先ほども指摘がありましたような、会社の中のお医者さんと運輸省サイドのお医者さんとが同じ人だというようなことではこれはどうしようもないわけで、身体検査の手続上なるべく多くの医師が判断に関与をしていくということも必要だろうと思いますし、あるいはまた身体検査基準にしても、基準自体が、基準というのは大体こんなものですけれども、細かなところまで詳細に規定されているわけではない。マニュアルがあるわけですけれども、マニュアルもそんなに細かなものになっているわけではありません。
大体、私も医学はよくわかりませんが、病名ですね、病名というのはある意味では一つの価値判断みたいなものなんですね。うつ病といっても、うつ病というのは一つのタイトルでして、うつ病の中にもいろんなものがあるわけで、ボーダーラインになると、うつ病の方へ転ぶのか、それともそこまでは至らない、単に神経衰弱という程度の方になるのかというあたりになると、これはわからないわけですね。ですから、病名だけでマニュアルをつくってみても、本当に実際に機能するかどうかというのはわからないわけで、身体検査を受ける者が年間一万人ぐらいいるわけですね。そうしますと、やはりそこにいろいろな判断例があると思うんです。そういうたくさんの判断例を集積させて、そして身体検査マニュアルも豊富にしていく、中身を詰めていく、そういうフィードバックのシステムというようなものを考えていく必要があると思いますが、身体検査制度の改善といいますか、こういうことを一体どうお考えか、これも時間がありませんから簡単にお答え願います。
○政府委員(松井和治君) ただいまの江田先生の御指摘まことにごもっともでございまして、私どもも今度の事故をきっかけにいたしまして、制度に改善を要する点がないかどうかということを直ちに専門の医師にいわば諮問の形で投げかけまして、ただいま先生御指摘のマニュアルを豊富にするということにつきましても、現在そうすべきだという方向で、それじゃそれを具体的にどうするかというところまですでに進んでおります。
たとえば一例だけ申し上げますと、マニュアルの中に診断の方法まで記入したらどうかというような御意見もございます。たとえば心臓の診断をする場合の負荷のかけ方をどういうふうにするか、ただ一定の負荷をかけてというのではなくて、きっちりした診断方法まで記入したらどうかと、いろんな御意見が出ております。したがいまして、過去の十年間の貴重な実例を取り込むということと、もう一つ、ICAOの国際的な基準が現在改正の作業が進んでおります。早ければ五月にも一部改正が行われる予定でございます。その改正の案も私どもとしては参照させていただきまして、この際全面的な見直しをしたいというふうに考えております。
○江田五月君 この航空機乗組員の皆さんの健康管理の問題については、四十四年の答申もありますが、その前に三十九年九月十一日、航空審議会委員長から運輸大臣に対して答申がなされておりまして、その答申の中に、たとえばこれは十六ページになるんですが、「各会社における健康管理の完全実施」というような非常に細かな項目にわたったものがありまして、その中には「操縦士の家族ぐるみのカウンセリング」というようなものも入っているんですね。三十九年にこういう「家族ぐるみのカウンセリング」という答申が出ながら、これは各航空会社にそういうことをやれという答申になっているわけですが、その後なかなかこういう家族ぐるみのカウンセリングなどができるような体制にはなっていないように見受けられますが、この実情はどういうことになっておりますか、運輸省はどう把握をされておりますか、日航の方はどういう実態になっておりますか、伺います。
○政府委員(松井和治君) 御指摘の点につきましては、まず実態を申し上げますと、日本航空におきましては主として健康管理室の医師がいわばカウンセラーを兼ねておるという形で運用されておりまして、また全日空につきましては医師以外に二名の調査役を、これは医師の資格を持っておらない人でございますが、健康管理室に配置いたしましてカウンセリングに当たっておるというのが実態でございます。
今回の事故にかんがみまして、本日日本航空から提出されました回答の中に、お気づきかと思いますが、さらにカウンセリングの体制を充実するよう先輩乗員、機長の経験者を二名さらにカウンセラーとして配置するという報告をきょういただいたところでございます。
○参考人(野田親則君) 三十九年のあの審議会の答申に対して、申しわけございませんが、私自身も非常に認識が薄うございまして、会社の中で関係のある者に確かめました範囲で、この項目にかんがみて具体的に会社が行動をとったということはまだわかっておりません。したがいまして、非常にその点に関しては不完全な状態であります。
○江田五月君 特にパイロットあるいはコーパイその他、乗務員の健康の問題というのは多くの人の命にかかわる問題なので、私はこの乗務員の皆さんの厚い待遇のことなども考えれば、産業医、それから指定医、あるいは主治医あるいはその人がかかった医者、どこであってもこういう医師が得た情報というものが、医療法とか医師法とかの制約なしにどこかで集中的に管理されるような制度は一度検討してみなければならぬのじゃないか、これはなかなかむずかしい点もありますが、というような気がしますが、この点はお答えいただくまでもないので提案だけしておいて、次に移ります。
今回のこの事故は、機長管理職制度というものが元凶なんだというふうに言われる場合もありまして、果たしてそうなのかどうなのか、よくわからないのですが、管理職というのは、日航の場合は機長が全員管理職になっているわけですが、機長は管理職として一体何をするわけですか、あるいは何をするように求められているわけですか。
○参考人(高木養根君) お答えをいたします。
この機長管理職制度につきましては、いままで何回もここで話が出まして、いろいろお答えをしておるわけでございますが、基本的には機長というものが法律上も社会上もあるいは経営上も与えられているその非常に大きな権限と責任、これから見て、まず第一に処遇上管理職にするのが当然ではないかということが一つあるわけでございます。
それから、ただいま先生から御質問のありました、管理職という面で一体会社は何を期待しているのかということにつきましては、いま申し上げましたように、機長自体の職務がすでに管理職としての内容を持っているということのほかに、普通の意味における管理職としての職能といいますと、たとえば人事の問題、人事管理の問題につきましては、これは意見を求められればということが主になりますけれども、グループリーダーを通じて他の乗員の人事考課について意見を具申するというようなこと、あるいはこれは航空法にも関係がございますけども、いわゆる勤務管理ということにつきまして、そのフライト中に勤務時間その他の問題について問題が出ましたときに、他の乗員の意見も聞きながら機長が決定をするというような勤務管理上の要請もございます。
それから経営上のいろいろな問題につきましても、機長としていろいろな機会に会議その他に参加することによりまして、経営上のいろいろな問題について参画をするというようなことが求められております。
○江田五月君 その機長というのが、法律上もあるいは実際のフライトの実務の上からも大きな最終的な責任を負う、そしていろいろな判断はやはり機長が最終的に行っていく。コックピットの中あるいは客室の方も含めて、乗務員すべてを機長が指揮して、監督していかなければならぬ。しかもその指揮監督というのは、一つの何というのですか、人格的なリーダーシップでもって人を引っ張っていかなければならぬ。そういうようなことを考えますと、管理職という名前がいいのかどうかはわかりませんが、やはり一つのフライトを行うチームの中のトップだ、一番責任があるんだということを機長に要求するのは、これは当然のことだと思うんです。仮に会社が、何かいま国鉄では現場協議とかなんとかというようなことがしきりにあるようですけれども、フライトの最中でも、いつも労使の対立のことが問題になって、そしてその場で機長が会社側として何か行動しなければならぬというようなことを機長に要求されておるのならば、またこれはちょっと話は違うんですが、そんなようなことがあるのですか、どうですか。
○参考人(高木養根君) お答えいたします。
私どもとしては、別の機会にも申し上げたことでございますけれども、フライト中は、やはり機長、それからコーパイロット、副操縦士、あるいは航空機関士、セカンドオフィサーという名であらわされますように、実際にフライト中の仕事について、一方が管理職で一方が組合員というような問題は起こっておらないというふうに理解しております。フライト中はあくまで機長であり、副操縦士であり、航空機関士である。それぞれの協力によってフライトの業務が行われておるというふうに承知しております。
○江田五月君 一部には、機長が組合員でないから、だから仲間意識を機長と共有することができない、したがって機長の側からもほかの人にいろいろ相談できないし、ほかの者も機長をどうも煙たがるというようなことがあるんだというわけですが、しかし、フライト中のそれぞれの職務の分掌というのは、これは組合員か組合員でないかというようなことで左右されてははなはだ困るわけでして、フライトの職務に携わっている仲間だという、そういう仲間意識というのは、組合員の組合員であるという仲間意識を共有するかどうかによってつくられるものではなくて、やはり一つのフライトをお互いに担当しているというところから仲間意識を持っていただくことになっていかなければいけないのじゃないかと思いますが、その点、本当に顧みて全く心配ないと言い得るのかどうか。何となくちょっと落ち度があったのじゃないかという感じもするのですが、ひとつ改善願いたいところですが、いかがですか。
○参考人(野田親則君) 本日運輸大臣にお答え申し上げました七項目の一つが、いまの御指摘に大変関連があると思います。乗員組織というくだりでございまして、具体的に申しておりますことは、まず乗員のグループというものは機種で分かれておる、これが一番大きな分かれ方。その中が路線で分かれておる、ヨーロッパとか等々。その中がまたグループというものに分かれておる。そして、そのグループというのが普通で言う適当なサイズのグループ、集団でありまして、これがうまく働いてくれるということが、いま先生御指摘の乗員としての仲間意識が醸成されるとか、意思の疎通ができるとか、キーポイントはそこにあると思うのですが、そこの働きが不十分だということも会社は認識いたしております。
その辺をいかに改良していくかということが、今回の事故にかんがみてとる対策のうちの一つの目玉であるというふうに考えておりますので、これは現状の足らざる点を認識するとともにここに大いに力を入れて今後努力をしたいということを申し上げます。
○江田五月君 これでもう最後にしますが、機長が管理職であるかどうかは別として、機長というのはやはり航空機を運航していく技量の点でもすぐれていなければならないし、しかしそれだけではなくて、判断力についても偏った判断でなくて、やはりしっかりした判断ができなければいけない、冷静でなければならない、沈着でなければならない、人格的にもすぐれていなければならないというようなことが要請されると思うんですね。そう考えてみますと、どうも非常に残念ですが、片桐機長の場合は、管理職であるかどうかは別として、管理職ならなおさらのこと、機長たるにふさわしくなかったのではないか、今から考えてみて。
いま日航の機長は、なかなかお答えにくいかもしれませんが、一体機長たるにふさわしい人ばかりできちんとでき上がっているのかどうか、もう一遍念には念を入れてよく点検をしていただきたい。この機長が、日航の業務の運航上、経済性の観点から、これだけの人間がいるからというので粗製乱造で機長にどんどんしてしまうということのないように、ひとつ念には念を入れた運営をしていただきたいと思います。その覚悟だけ伺って質問を終わります。
○参考人(高木養根君) 確かにまさに先生の御指摘のように、機長というのはフライトの最終の責任者であり、指揮者でありますので、これは技能はもちろん統率力、判断力その他において、どんな危急の場合でも正しい間違わない判断ができるような人間性をやはり持っていなければならぬということでございまして、私どももそういう意味では現在の日本航空の機長を、確かにこの間の事故を起こしたような問題はありましたけれども、一般的に言いまして信頼しておるわけでございますが、ただ健康的な理由で現在、実は乗務を降りてもらっている機長が何人かおります。そういう特に健康管理面につきましては、先般の事故の例もこれあり、今後ますます万全の配慮をしていきたいと、このように考えております。
1982/04/09 |