1985/05/17 |
102 衆議院・文教委員会
著作権法の一部を改正する法律案について
○江田委員 著作権法の一部を改正する法律案についてお尋ねをいたしますが、コンピュータープログラムについては著作権法がこれをカバーしているんだ、コンピュータープログラムに著作権が成立するんだというのが、これはもう国内の判例でもありますし、また国際的にも一致をしておるんだろうと思いますが、今回の著作権法改正案も、これもそのことを確認するんだ、念のためにそういうことをはっきりさせるんだという、そういう改正だというわけですが、一体なぜ今改正しなければならぬのか、改正しなければならぬほどいろんな問題が生じてきているのか。いろんな問題が生じてきているからということなんだろうと思いますが、期間の問題も五十年というのに別に手を加えるわけではない、使用権創設などをするわけでもないし、強制許諾というようなことをやるわけでもないし、どういう問題が起こったから今回改正しなければならぬのだというあたりを、ひとつわかりやすく教えていただきたいと思います。
○加戸政府委員 コンピュータープログラムの法的な保護の問題につきましては、いろいろ議論のあり得るところでございます。したがいまして、昭和四十七、八年の段階におきましても、通産省並びに文化庁両省庁におきまして、それぞれ審議会あるいは検討委員会等で議論をした経緯もございます。国際的にもやはり議論のあり得たところでございまして、一般的な傾向は大勢として、先生おっしゃいますように、各国でも判例が積み重ねられ、あるいは政府の姿勢も明らかになってまいりましたけれども、それは完全にそのとおりだということで固定、確定しているわけではございません。既に立法いたしました国といたしましてはアメリカ、ハンガリー、インド、それからオースーラリア・この四カ国がございますし、それから、著作権法の改正案が審議されている国としましては西ドイツとイギリスがございます。そのほか相当多くの先進国におきまして、著作権法を改正してコンピュータープログラムの保護を明記しようとする動きが各国でございます。
ということは、とりもなおさず、解釈上あるいは判例上あるいは政府の意向としてそうであったとしましても、やはり従来の伝統的な著作物というイメージの強い考え方に対しまして、新しいメディアとして出てまいりましたコンピュータープログラムは著作物であるという旨の例示をすることによりましてその法的整備を図ることが、いわゆる法制度の明確化でもございますし、また国民に信頼性を与えるゆえんでもあるという観点のものが、基本的な今回提案を申し上げた理由でございます。
と同時に、コンピュータープログラムが著作物であるといたしましても、著作権法をそのままストレートに適用してよいかどうかという問題があるわけでございまして、コンピュータープログラムの特性に見合った、それなりの利用実態に即応した法制度という観点で規定の整備をする必要がある、その二点から、今回提案を申し上げたわけでございます。
○江田委員 あれこれと詳しく調べてみると、うん、確かにコンピュータープログラムは著作権法の守備範囲内だということがわかる。しかし、そんな議論がいろいろあるのをそのままにしておくのは法的安定に資するゆえんではない、そこでしっかりと、確認的ということではあるけれども、法を整備しよう、そういう意味合いと、多少法律問題もいろいろ起こっていますからこれに対応しようということだと思いますが、法律問題だけでなくて、コンピューターソフトをめぐる問題というのは実にさまざまな多岐にわたっているんだろうと思うのですね。
そこで、文部省、文化庁の側は、著作権法という法律とコンピューターソフトとの関係をどう調整をとっていくのかということを所管をされておるのだと思いますが、そのことに限らず、さらに広くコンピューターソフトの産業、社会の実情といいますか、コンピューターソフト産業が一体今どういう現状にあって、どんな問題点を抱えているのかという、そういう見方もまたこの法律の審議の上には必要だろうと思うので、ひとつそのあたり、コンピューターソフト産業の現状と問題点というと膨大になりますが、なるべく簡単に通産省の方からお答えを願いたいと思います。
○越智説明員 ソフトウェア産業の実態でございますが、網羅的な統計が必ずしも整備されておりませんけれども、例えば、私どもの特定サービス産業実態調査等を基本として考えますと、例えば年商売上高で約三千八百億、企業数として四百三十四企業というようなことになっておりまして、そのうち三分の二ぐらいが従業員五十人以下の中小のソフトウェア企業というふうなことになっております。また、以上はソフトウェア開発を主たる業務としております企業に関するものでございまして、ソフトウェア開発につきましてはそのほかに、御承知のようにコンピューターメーカーとか、情報サービス企業、コンピューターユーザー企業等、いろいろなレベルで開発をしておりまして、全体の開発規模としては、先ほど申し上げましたものの数倍に及ぶものと考えております。
それで、最近における情報化の急速な進展に伴いまして、これらのソフトウェアの供給をしておるわけでございますけれども、需要が急速に拡大している関係上、供給が十分これに対応できない状況になっておりまして、この需給ギャップの拡大が今後の高度情報化社会の建設にとって障害となるのではないかという問題意識を持っておりまして、こういうソフトウェア企業の開発力の向上というのが緊急の課題となっております。そのために、例えば現在手作業で行われておりますソフトウェアの生産のコンピューター化を図る等によります生産性の向上でございますとか、汎用プログラムの開発、流通の促進、それから情報処理技術者の育成、確保等が必要と考えております。
こうしたソフトウェア産業の克服すべき課題の中で、このプログラムに適切な法的保護が確保されるべきであるというのも一つの課題でございまして、プログラム開発者にその開発利益を確保し、取引の適正化等を通じまして利用者の利益の確保にも資するというふうに考えておる次第でございます。
○江田委員 コンピューターソフトを主として扱っている企業が、これは感じですからはっきりわかりませんが、通産省の方でしっかりつかんでいらっしゃるのかどうか伺いたいのですが、恐らく今、群小の企業が林立をして、それがまことに、電話一本に机一つと言うとちょっと言い過ぎかもしれませんが、小さなものが次から次へと生まれて、これが大変な競争をしておる。競争の活力という点ではそれもいいのかもしれないけれども、どうもこの業界が安定的でない、生き馬の目を抜くというのが行き過ぎる、そして一見詐欺まがいと言うと語弊があるかもしれませんが、企業活動の倫理性のようなものが必ずしもきちんと確保されていないというような、そんなこともあるのではないかと心配されるのですが、こういう点はいかがですか。
○越智説明員 御指摘のように、ソフトウェアの開発に携わっております企業は、先ほども申し上げましたように、従業員規模で見まして五十人以下の事業所が全体の三分の二を占めるというようなことで、かなりつぶれたりあるいは急速に拡大したりというような実情があるのは事実でございます。そのこと自体は、産業社会の活力というようなことで、格別問題にしているわけではございませんけれども、先ほどのソフトウェアの開発技術あるいはそういうものの安定性という観点からは、企業基盤の確立しました企業が安定的に開発していくことが重要でございますので、そういう観点から所要の対策を講じているところでございます。
○江田委員 その所要の対策というのは、簡単に言うとどういうことになりますか。
○越智説明員 例えば、情報処理振興事業協会というのがございますが、そういう事業を通じまして、先進的汎用的プログラムの開発普及の促進でございますとか、民間企業のプログラム開発資金あるいは技術者の育成資金等の借り入れに当たっての債務保証、あるいは日本情報処理開発協会というのがございますが、そういうところにおきます情報処理技術者の研修等を行っているわけでございます。
○江田委員 新しい産業分野が急速に登場してきておって、その歴史的な一時期に特殊な混乱というのも恐らくあるんだと思いますが、それだけでなくて、例えば先ほどおっしゃっておった汎用プログラムがどうも日本は弱いとか、あるいは汎用プログラムが弱いということのもっと前にソフトの開発力が全体として弱いのではないかというようなこと至言われておるようですが、どうも産業秩序だけでなくて、コンピューターソフトに関して日本人の能力というか、そう言い切ってしまうとまた問題かもしれませんが、我々ちょっと苦手とするんじゃないかというような意見もあるのですが、そのあたりをどう認識されておって、これからどうこれを克服しようとなさっておるか、お聞かせください。
○越智説明員 御指摘のように、例えば一般に流通します汎用プログラムの比率というのは、我が国では約一割ぐらいと言われておりまして、これは例えばアメリカでは五割を超えているというようなことを言われておりますので、そういう面から汎用ソフトウェアの開発力が弱いという問題がございます。これはいろいろな原因があろうかと思いますが、先生御指摘のように、現在の形態はいろいろな企業のニーズにこたえまして個別にプログラムを積み上げていくというような方向でございますが、大量の製品を高品質に維持するというようなのは得意な日本といたしましては、端的に言ってやや不得手な分野でございますし、歴史的に、アメリカ等に比較しますと出発がおくれているというような問題もあって、現在の状況に至っているというふうに認識をしております。
これらの問題に対しましては、先ほど申し上げましたような対策のほかに、今年度、情報処理振興事業協会等に関する法律の改正を行いまして、ソフトウェアの生産性向上に関しまして、ソフトウェア生産工業化システムに着手するとか、情報処理技術者の育成確保につきまして助成を拡充するとか、あるいは汎用プログラムの開発、流通の促進につきまして、汎用プログラム準備金制度という税制がございますが、そういうものの延長をする等、積極的に対処をしたいというふうに考えておる次第でございます。
○江田委員 汎用プログラム率が低いということなんですが、これは、コンピューターというものが最近は随分行き渡ってまいりましたけれども、しかし、アメリカなどに比べるとまだハード自体が十分に普及をしていると言えないので、いろいろな種類の汎用プログラムをつくってもそれがマーケットをなかなか十分に得られないから、汎用プログラムの開発がおくれる、汎用プログラム率が低いということがあって、ハードの方がもっと完全に普及をすると汎用プログラムの占める率も上がってくるというようなことは言えないのですか。
○越智説明員 これは事態の見方としてなかなか断定しがたい面がございますけれども、コンピューターの台数としては例えば十万台程度は普及しているわけでございまして、もちろんそのすべてについて調査はちょっとできないのでございますけれども、二割程度カバーする調査を私どもでも実施した結果でまいりまして、その保有しているプログラムのうちの汎用プログラムは七から一〇%ぐらいにすぎないという実態でございまして、これは基本ソフトウェアと、いわゆるアプリケーションといいますか応用のソフトウェアで比率は違いますけれども、電算機メーカーとか、あるいはアプリケーションでございますと自社開発の比重が非常に高いというのが現状でございます。ハードの普及がおくれているから汎用がうまく育たないというよりも、やはり汎用をつくる側の技術力、開発力に問題があるし、使う側の方もそういう汎用のをどんどん活用しようというところへなかなかいっていないということかというふうに考えております。
○江田委員 そうすると、やはり基本的にソフトというものに対する能力というか適応性というか、それがまた十分なところまできていないということが、汎用プログラム率の低いことの原因になっている。五、六年前ごろまでは、やはりハードがもうちょっと行き渡らないと汎用プログラムを開発したところでそれが十分市場を持たないからというような意見もあったようですが、どうもなかなかそううまくいかないようですね。
そこで、コンピューターというとどうも何か人間が機械に使われるようで、だんだん人間が画一化し均質化して、人間の個性なんというのはなくなってしまうのじゃないか。コンピューターで結婚相手まで全部決めてしまったとかいろいろ言われますが、どうもそうでなくて、やはりコンピューターを本当に使いこなすには我々ももっともっと創意性を持ってこなければならぬ、個性というものを発揮していかなければならぬということの方が重要だ。日本人のそういう創意制や個性の点における若干の立ちおくれが、コンピューターを完全に使いこなすということについての我我の立ちおくれの原因になっているという指摘の方がどうも当たっているようですが、これは文部大臣、今の日本の教育全体のあり方を反省してみて、こういうコンピューターということについて、コンピューターソフトということについてあらわれている我々の弱点というものをどうお考えですか。
○松永国務大臣 人間にはそれぞれ個性があるわけでありまして、コンピューターとか数字とか、そういったものを扱わせれば非常に能力を発揮する人もありますれば、あるいは文学の方に進んで能力を発揮する者もあれば、あるいは法律学や経済学の方で能力を発揮する人もあるというふうに、それぞれ独特の分野で能力を発揮するというのはその人その人の特性があるような感じがするわけでして、そうした能力、特性というのを比較的早い段階に見出して、同時にまた、本人の意欲もあるわけでありますが、それをうまく結合させながら人づくりを進めていくということは大事なことであろうというふうに思います。江田先生の場合には恐らく法律の方に進んで行かれたのだと思いますけれども、もし江田先生が高等学校の時代あたりから、法律の方に進むのじゃなくして技術の分野の方へ進んでいらっしゃったならば、あるいはコンピューター関係でもすばらしい能力を発揮される人材になっていらっしゃったかもしれません。私もそうなんでありますが、私の場合は先生と比べればはるかに能力は劣りますけれども、三十何年前に法律だけやっておったものですから、今のコンピューターのことをいろいろ専門家から話を聞きましてもなかなか頭に入りませんし、実は去年は二泊三日でIBMの研修センターに泊まり込みで勉強したこともあるのでありますけれども、わかったようなつもりでも帰ってくるときには八割くらい頭の中から抜けておりました。やはり若いときからそこになじんでいくことによってその分野で能力が発揮されるというふうになってくるんじゃないかと思うのでありまして、その意味では、高校あるいは大学の時代あたりからそれぞれの個性を見出してその能力を伸ばしていくような、そういう教育も考える必要があるというふうに思うわけでありまして、日本人自身の能力は、決してコンピューターとかそういう分野に能力の発揮できない、そんな劣っている国民とは私は思ってないのでありまして、やはり教育のあり方かなというふうに思っている次第でございます。
○江田委員 私は、高校三年卒業するまで理科系の科目を選択をいたしておりまして、大学を受けるときにさあどっちにしようかと大分悩んで文科系の方に入ったのですが、それでも法律の勉強は初めはずっとやらずにいろいろほかのことばかりやったり、大学へ来なくてもよいとか言われたりしておったわけですが、御心配いただきましてありがとうございます。余り理科の方の能力はなかったのだと思いますが、そういう分野別の能力ではなくて、分野を共通して欠けておる点、それが創意性とか個性とかというところじゃないかという反省が今実はあるのじゃないか。別にコンピューターという分野があるのじゃないので、法律学にしても経済学にしても、すべてコンピューターというものとこれからかかわりを持ってくる時代になってくるわけですね。法律にしても経済にしても、どうも横を縦に直せばそれで学問として成り立つなんというのがずっと続いてきた我が国で、別に日本人が劣るとか日本人がすぐれているとかいう話じゃなくて、今、これからの二十一世紀を支える、あすを担う国民を育てていこうと思うと、やはりコンピューターソフトの問題でもあらわれているように、論理性と、ただ論理を一一細かく追い求めていくだけでは乗り越えられない一つの発想の飛躍をなし得るような創意性、こういうものが必要なんだということが今の反省なのじゃないかと思うのですが、いかがですか。
○松永国務大臣 先生の見解、ごもっともだと思います。要するに、教育の目標としては、教育基本法に人格の完成を目指すというふうに書いてあるわけでありますが、私は、人格の完成というのは、その人その人が持っておるいろいろな能力があるわけでありますが、その能力を伸ばしていくというのが人格の完成であろうかと思うのでありまして、その人その人それぞれ個性がありますし独特の能力を持っているわけでありますから、その個性を伸ばしていくような教育が今後は望まれるわけでありまして、画一的なものよりは、個性を尊重し重視するという形の教育をしていかなければならぬというふうに考えるわけでございます。
○江田委員 どうも議論がコンピューターソフトから離れて教育論になってしまいましたが、このコンピューターソフトに関する法的整備というのは、一体なぜ文部省の所管ということになるのか。著作権法改正だから文部省所管ということなのか、それとももっと何かもとのところがあるのか、文部省所管になるべくして文部省所管になっているのだというゆえんが何かあると思うのですが、これはいかがお考えですか。
○加戸政府委員 著作権法はいわゆる財産権と呼ばれておりますうちの無体財産権、それが工業所有権と著作権の大きい二つの領域に分けられると思いますが、その無体財産権の一、大きな有力な態様でございます著作権の分野につきましては、文部省が所管することとなっておりまして、戦前は内務省で所管されておりましたものが、戦後文部省へ移管されたわけでございます。そういう意味で、文部省が所管するゆえんは、教育、学術、文化といった所掌事項のうち、まさに文化の大基本法というような考え方で文化庁が著作権を所管しておるわけでございます。
今回のコンピュータープログラムの保護制度につきましては、一昨年来いろいろ議論のあったところでございますが、国際的な動向に即応いたしまして、著作権制度の枠の中でコンピュータープログラムの法的保護を図るということで、政府部内の調整ができたわけでございますので、著作権法の改正を文化庁、文部省から提案申し上げたという次第でございます。
○江田委員 論議の過程で通産省と文部省でいろいろな議論があった。これを一部には縄張り争い的におもしろおかしく見ておったり、あるいは日米経済戦争の代理戦争風に観察をしておったりというような向きもあるようですが、そういう点もあるかもしれないけれども、やはりいろいろな議論が政府部内で活発に闘わされて、それを調整をしてきたというので、私はそれはよかったのじゃないかと思いますが、この点だけ伺っておきたいのは、果たして本当に縄張り争い約あるいは権限争い的なものがどの程度あるのか。コンピューターソフトの産業秩序を管轄をしていくという点で通産省が持っておる権限が、コンピューターソフトを著作権法で扱うことによっていささかでも傷つけられるとか小さくなるとかいうようなことがあるのですか、どうですか、通産省の方でお答えください。
○越智説明員 一昨年来議論になっておりましたのは、コンピュータープログラムのよりよい権利の保護のあり方として、著作権法によるアプローチがいいのか、工業所有権的なアプローチがよいのかということで議論をしていたわけでございまして、それが今回著作権法改正という形で決着をしたわけでございまして、このプログラムの法的保護が文化庁の担当となったということをもちまして、ソフトウェア産業の所管省としての当省の任務自体に変更があったわけでは全くございませんので、今後、プログラムに関する著作権法の運用につきましても、これは産業の状況に密接な関係がございますものですから、文化庁とも十分に連絡協力をしてまいりたいというふうに考えている次第でございます。
○江田委員 「コンピュータ・プログラムの法的保護について」という六十年三月十八日の通産省の文書があります。もう一つ「コンピュータ・プログラムの保護のための著作権法の改正について」という同日付の文部省の文書もありまして、ここでどちらも文部省と通産省とが合意に達したということを発表されているわけですが、その合意の中身が、通産省の方は、コンピュータープログラムのよりよい権利保護のあり方は今後とも中長期的観点から検討を続ける。当面は著作権法の改正を行って対応する。文部省の方は、コンピュータープログラム保護について著作権法改正を行う。コンピュータープログラムのよりよい権利保護のあり方については今後とも中長期的観点から両省協力する。こう二つの事柄が両省で順番が逆になっているわけで、これはやはり、両省の考え方の違いというか姿勢の違いというか、まあ、加戸次長のお言葉ではニュアンスの違いということかと思いますが、なぜこういう違いになってくるのでしょうか。
○加戸政府委員 文部、通産両省庁間で合意に達したのが一つでございます。その内容は全く同じでございます。
ただ、発表ぶりの違いといたしましては、文化庁サイドは、自分の所管する著作権法の改正案を今回出すことということが通産省の合意が得られたというのがもちろんアクセントが強いわけでございまして、したがって、第二点の方では、両省庁間で今後協力しながら中長期的観点の検討という立て方になったわけでございます。
通産省の方は、通産の方からお答えいただけば結構でございましょうが、著作権法を出すことになったというのは文化庁マターでございまして通産省マターでございませんから、それはウエートとしては二番目になるのではないか。特に、懸案事項でありました課題についての、今後両省庁間が中長期的に検討するというのがアクセントとして一番目に並んだという意味で、発表の場合のそれぞれの両省の考え方というのは、微妙なニュアンスの差といいますか、感覚の差はございますけれども、両省庁間で合意に達した内容は全く基本的に同一でございます。
○越智説明員 たまたま発表する文書の順番までは合意しなかっただけでございまして、基本的な内容は全く同じでございまして、今文化庁から答弁があったとおりでございます。
○江田委員 そこで、大臣、政治家の大先輩としてお答えを願いたいのですが、私は、こういう違いがあって、これは非常にいいことではないかと思うのですね。文部省の側は著作権法というものについて、この人間の知的活動の所産に対する権利性というものを、時代の変化に常に対応できるようにいつも配慮をめぐらせておく、一生懸命に著作権法に遺漏なきように努力していく。たまたまそこにプログラムというものがあらわれてきた、これについてどうするかというので、著作権法という光を人間のさまざまな活動に当てながら検討を加えていく。どうしたってそれは著作権法が表に出てくるのは当たり前ですね。したがって、このコンピューターソフトについては将来は著作権法がカバーしていくかどうかも白紙ですよなんというような考えにならないのは当然のことで、一方、通産省の方は、また物の考え方が違うわけで、コンピューター関連についての産業がうまく発展をし、秩序をきちんと持っていくように、行政として対策に遺漏なきように努力していく。たまたまそこに法的な問題が起きてきて、どういうふうな法的保護がいいのかということを検討して、いろいろやって著作権法ということになったけれども、これから先も著作権法でいいかどうかまで別に配慮が縛られるわけじゃないので、大いに産業政策上の見地から努力していくということで、発表の順序まで合意をしなかったというのはまことに結構で、これからもそういうふうに行政部内で大いに、違うところは違う、争うところは争う、衝突するところは衝突するでやっていっていただく方がいいんじゃないかと思うのですが、いかがですか。
○松永国務大臣 コンピュータープログラムの適正な法的保護の問題について、文部、通産両方の間で大変なけんかが行われたみたいなマスコミその他の報道があったわけでありますが、基本的に一致していることは、コンピュータープログラムについて適正な法律をつくって保護の対象にすべきだ、この点については意見は一致しておったわけであります。
ただ、文部省の方では、コンピュータープログラムは学術的思想の創作的表現であるから、当然著作権法で保護すべきものであるという考え方で対処をしてきておりましたし、また著作権審議会でもそのような答申をいただいた。先生御承知のとおり、幾つかの裁判例でもこれは著作権法の保護の対象であるべきだという判例もある。そしてまた、アメリカその他欧米諸国の間でも、著作権法の保護の対象である著作物として保護の対象にすべきであるという、そういうことでありました。そういったことで文部省、文化庁としては対応すべく法案の準備を進めておったわけであります。
一方、通産省の方では、私も実は閣僚になるまではいわゆる商工部会の一メンバーでありましたから、ある意味では通産省の意見をよく理解する議員の一人であったわけでありますけれども、美術とか芸術に関する著作物とは少し違う面があるわけでありまして、このプログラムを活用して新たな経済財を生み出すという効用がある著作物であるわけでありますから、美術や芸術の著作物とは少し性質が異なる、ある意味では工業所有権的なあるいは特許権みたような、そういったもののようなにおいが大いにするわけでありまして、恐らく通産省の方では、そういう側をとらえて、工業所有権的な法体系で保護するのが望ましいという考え方であったと思うのでありまして、それはそれなりに理解できるわけでありますが、先ほど言ったような諸外国の事情あるいは裁判例等々がありましたので、通産省の方も、文部省の所管する著作権法の中に取り入れてそして保護するということに了承していただいたものだと思うわけであります。
なお、コンピュータープログラムを製作する業界等の指導その他につきましては、これは主として通産省がおやりになることが適当だと思われるわけでありまして、その方面に文部省が出ていこうなどという気持ちは実はないわけであります。産業の育成はまさに通産省の任務なんでありますから、それは通産省でやっていただくべき事柄であろう、こういうふうに思うわけであります。
しかし、コンピュータープログラムにつきましては、この法律を通していただきましたならば、著作権法の保護する著作物として今後取り扱っていくわけでありますけれども、事柄が事柄でありますので、今後とも適正な保護をしていく、時代の進展に合わせていくためには、常々業界を所管するあるいは経済の発展を主たる任務としていらっしゃる通産省とも十分連絡をとりながら、適切な対応をしていかなければならぬというふうに考えている次第でございます。
○江田委員 ちょっとポイントを外してお答えになったようでございますが、私は、やはりこういう時代ですから、一億心を一つにしてなんというようなことはもうだめなんで、いろいろな人が心を別にしてそれぞれ努力するということがいいのだ、そういう、みんながいろいろな議論をやって大いにけんかをして――けんかと言うとおかしいですが、ということがこれからの日本の活力になってくるのだということは、政治家としてきちんと押さえておいていただきたいと思います。
さて、時間も大分経過をしましたが、通産省の方には随分産業界からの声が届いていると思うのですね。そこで、プログラム権法ということでひとつ法的保護を考えてはどうかということを検討されたのではないか。そのプログラム権法で実現したらどうかと検討されておった課題、あるいは産業界からの要請、例えば使用権の創設であるとか、あるいは五十年というのでは長過ぎる、十五年ぐらいがいいのではないかとか、それから、許諾に関して強制的なあるいは裁定的な制度をつくるというようなこと、これは今回入れられなかったわけですが、それはそれでよろしいのですか。それとも、やはり何か不満が残るという形があるのでしょうか。いかがですか。
○越智説明員 産業界の要望等のうち、今回の著作権条約の枠内という制限のもとに、対応できるものについては最大限対応していただいたというふうに考えておりますが、そういう制約上対応し切れなかった問題として、幾つかの問題点について、さらによりよい権利保護のあり方について中長期的視点から検討を続けていくというふうに合意した次第でございまして、その一つとして、先ほど来議論になっております保護期間の問題があるわけでございます。これは、繰り返しになりますが、著作権条約との関係もあり、直ちにその短縮を図るということは困難でございまして、中長期的検討課題の中でも最も重要なものの一つとして、国の内外において検討を続けていくべきであるというふうに考えております。
それから、さらに、プログラムの使用の権利化という問題がございまして、これは今回の著作権法改正案の中で、情を知って違法複製物を使用する場合にみなし侵害の規定を設けまして、一歩前進が図られたというふうに考えておりますけれども、より一般的な使用の権利化につきましては、さらに検討を続けるべきだというふうに考えております。
さらに、いろいろ国際的にも議論になりました強制許諾といいますか、私どもは裁定制度と呼んでおりますけれども、それについては特許法等にも前例があった制度なのでございますけれども、米国におきまして誤解がありまして、趣旨が必ずしも明確に伝わらなかったのは残念だというふうに考えておりますけれども、これは著作権条約との関係におきましても、産構審の中間答申にありましたような裁定制度を設けるというのはなかなか困難と考えられまして、今後中長期的にその必要性を含め慎重に議論してまいりたいというふうに考えております。
○江田委員 法律の細かな点をちょっとだけ聞きますが、今もお話のあった、使用権を創設するのではないが、しかし、悪意の複製物の使用に対して権利侵害性を認めるという百十三条の二項ですか、これは著作権関係についても善意取得的な法制度を導入するというそこまでのお考えが根底にあるのですか、そんなことでもないのですか。いかがですか。
○加戸政府委員 善意取得の制度を導入したという考え方ではございません。基本的には使用権を認めるかどうか、これは大きな課題として今後の検討にまつことになっておりますけれども、今世界の大勢がそういう方向では現時点ではないという観点で、とりあえず今何が困るのかといった場合に、本来著作権法は手を出していない使用権という分野については触れないといたしました場合に、ゲームセンター等で海賊版のソフトがインベーダーゲーム等で大いに使われている。もちろん頒布は押さえられるのですけれども、現場で使っている場合に、頒布業者がアングラ業者でつかまえられない場合に、かといって、当然、海賊版プログラムが堂々と白昼公然と使われていいのかという問題もございまして、そういうものを押さえるためには、清を知ったいわゆるそれを知りながら海賊版プログラムを使う行為のみを、とりあえず百十三条二項のみなし侵害でとめようという考え方で出たわけでございます。
○江田委員 現実に起こってきているいろいろな不都合にとりあえず対応するための措置である。そのことが将来持ってくるかもしれない法理論上の発展というものはこれからの検討にまつ、そう理解してよろしいのですかね。
それから、登録制度ですが、これは権利発生を要式行為に係らせるということは条約上無理だとしても、権利の対抗要件としての登録制度とか、あるいは訴訟要件としての登録制度とか、あるいは権利の中身を推定させるような効力を登録に持たせるとか、いろいろあると思うのですが、なぜ一体、権利発生の年月日についての推定を登録に係らせるというような制度にされたのですか。これは何かそうなる法理論上の当然の論拠というものがあるのですか。
それと、この登録制度というのは、これからどのような形で登録制度の法を整備されようとするのか、どういう手続でこれから立法作業をお進めになるのか、その際おおむねこんなことがもう決まっておりますよということがあれば、それもあわせてお知らせください。
○加戸政府委員 第七十六条の二の条文を新設いたしまして、創作年月日登録の制度の提案をいたしておりますのは、一般の著作物につきましては、第一発行年月日登録あるいは第一公表年月日登録という形で、いつ世に送り出したかということを登録する制度がございます。ところが、コンピュータープログラムなどにつきましては、通常、大部分は企業内部等で使われるというようなものでございまして、外部に市販するあるいは公表するというような性格のものが少のうございます。したがって、この第一公表年月日登録、第一発行年月日登録が利用できない。その結果として、権利の発生要件ではございませんが、登録の推定効果として、このプログラムあるいは著作物が先にできていてこれは後発部隊であるというような、そういう推定手段として利用できないための問題点を解消する制度として考えたということでございます。このことは、条約に抵触をしない範囲の、いわゆる権利の変動、発生には影響のない行為として規定したわけでございます。
と同時に、通産省がプログラム権法構想で考えておりましたいわゆる登録、公示制度、その結果として例えば重複投資の防止とかいうようなことが図られるメリットも、この創作年月日登録制度を創設することによりまして、その活用あるいは制度の仕組み自体によりましては、プログラムの流通の促進とかあるいは重複投資の防止というようなことも事実上図られるであろうという、その付随的な効果も考慮した結果の制度でございます。
なお、別の法律で定めることを予定しております内容は、まだこれから関係省庁、関係業界と調整しなければなりませんが、現在のところは、例えば登録手続あるいは登録すべきプログラムの複製物の内容、それから登録されましたプログラムの内容といいますか概要の公示といいますか、どの程度のものを公示するかといったような、そういった手続関係のものをこれから十分詰めていきたいと考えております。
○江田委員 半導体チップスの法的保護の法律が今衆議院は通って参議院の方へ回っておりますが、これと、コンピューターソフトを著作権法で保護するということとの間にそごが生ずるようなことはありませんか。
○加戸政府委員 ただいま商工委員会の方で御審議になっております半導体集積回路の回路配置に関する法律案でございますが、そこでは、いわゆる半導体チップの回路といいますか、回路配置というその仕組みを保護するわけでございます。したがって、その保護の対象となりますものが例えばROMでございますれば、ROMの中に入っておりますコンピュータープログラムは当然にプログラムの著作物でございますので、回路配置権とは全く別個独立の著作権法によって保護されるものでございます。したがって、回路配置権が十年で消滅いたしましても、中に入っておりますROMに集録されておるプログラムの著作物は当然に五十年保護が続くということでございます。
○江田委員 終わります。
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