1988/05/13 |
112 衆議院・文教委員会
○江田委員 参考人の皆さんには、本日、お忙しい中、お時間をお割きくださいましてありがとうございます。私は社会民主連合の江田五月でございますが、きょうは社会党・護憲共同という会派の一人として質問させていただきます。
もう皆さんから、待ちに待った法案で一日も早くというお話がございまして、亀井さんからは、もう業界の皆さんは一日千秋の思いで待っておられるという言葉もございました。私も、我が会派でこの法律案の担当を命ぜられまして、張り切って四月の二十日には質問をと思っておりましたら、ほかの法案が先だというので延びてしまいまして、この間の事情は皆さんそれぞれ伺っておられるかもしれませんが、私どものどうも非力を皆さんにおわびをしなきゃならぬし、この国会でもまだいろいろ不安要素もあるような次第で、申しわけなく思っておりますが、今後とも、我々も一日も早い立法を目指して頑張ることをまずお約束をしたいと思います。
ところで二、三伺いたいのですが、まず亀井参考人に伺いますが、この海賊版、確かに大変なことで、この立法によって摘発の実が上がり、海賊版が市場からなくなるということをぜひ果たしていかなきゃならぬと思いますが、しかし、現実にはなかなか人間の知恵というのは大変でして、何かやるとまたいろいろなものが出てきてやるわけですね。
私は、一つの方法としてはビデオのレンタル業界の秩序形成、今回は海賊版を対象にして法改正をするわけですが、やはりそれだけではなくて、現在一万五千店から二万店というビデオレンタル店がある、しかし、この協会加盟で許諾を得てレンタル業を営んでいる業者というのは、そのうちのどのくらい、恐らく五千店ぐらいでしょうか、残りがいわば無秩序のままでやっているわけで、レンタル業界としてはできるだけたくさんの、できればすべてのビデオレンタル店というものをひとつきちっと協会に加盟させて、協会主導のもとで一つの秩序をつくっていくということを目指さなければならぬと思うのですが、そういうことについて現状と見通しを、時間が余りありませんので、ひとつ簡潔にお答え願いたいと思います。
○亀井参考人 まことにごもっともな御意見でございます。
まず、協会加盟約五千五百店ぐらいになりました。全国のレンタル店の数が実際にわかりませんので、何分の一になるかちょっとわかりませんけれども、急速に今加盟店がふえております。なぜかといいますと、実は我々の方で流通正常化特別委員会というのを昨年の秋に設置いたしました。実は海賊版を置いてある店にも正規の商品が流れ込んでしまっているわけです。これは我々の力で何とか阻止しなければならないわけですけれども、普通の正規のビデオ販売店から小売で買ってきてそれで海賊業者も店頭に置く、こういうことまではなかなか阻止しがたいわけですけれども、通常は営業として仕入れる場合のルートというのはある程度管理されなければならないわけですが、幸いに頒布権がございます。今まで海賊海賊で海賊一筋に来ましたので、どうも頒布権の方の対応がおくれてしまいましたけれども、まず流通ルートをきちっと整備する、そのためには商品の供給契約をこの際きちっとする。
具体的に多少例を申しますと、まず契約をメーカー、店直接契約にする。中間流通業者が介在する場合は三者契約にする。三者契約が困難な場合は、中間流通業者にその小店のリストを提出させて、末端の配給ルートまで把握できるように供給側はする。同時に、契約のないところにはとにかく商品を流さないということでございます。
東映の場合でございますが、六月からもう既に実施に入りますが、物流だけは、商品倉庫から中間業者を経由する取引であっても直接ショップの方に流す、中間流通業者から横流れがないということです。末端のディーラーまで直接メーカーの方から商品を供給いたしますので、そこからまた横流れということになりますとこれはもう問題でございますけれども、大体取引額というのはその店の規模によってある程度のレベルが出てきておりますので、過大な注文があれば発見できるというような状況でございます。
そういうことで、契約がなければ商品が入手できないというような状況をもう一つつくりましたのは、現在セルとレンタルと両方のルートがございます。どうもそのセルの方のルートからレンタルルートに横流れがある。邦画作品につきましてはセル用とレンタル用と峻別して取引をしておりますが、昨年来東宝がプリシード方式というのを採用しまして実施いたしまして、レンタル店にだけ二週間ないし最近では半月と言っていますが、先行して商品を供給する。今のビデオソフトの消費市場というのはやはりレンタル中心でございますので、レンタル店にお客が行くわけですね。そこで商品がなければどうしても正規の店へ行くということになります。したがって、商品がなければ商売ができないような状況にするには、まず正規の店だけに商品を先行して供給するという、そういうシステムも同時に実施しております。
最近では、協会のレンタルシステム加盟店の申請が、従来月に二百件ぐらいでございましたけれども、三百件ぐらいのペースにふえてまいりました。ことしじゅうには八千件あるいは九千件近くになるんではなかろうか。その間に海賊版業者は撲滅して、少なくなっていくであろうというようなことでいろいろと考えております。
○江田委員 ありがとうございます。芥川参考人でしたか、自動車の排気ガスみたいなもので、一つ一つは小さいけれども全部集まったら大変だというお話で、やはりこういう権利についての秩序をきちっとするには、集中的な権利処理機構というのをいろいろな形でつくらなければどうしようもないので、その意味では業界秩序というものも大切なポイントだろうと思うので、ぜひひとつ業界代表者として皆さんの御努力をお願いしたいのです。
ちょっと話は変わるのですけれども、小泉参考人から、実演家としてはとにかく自分の芸の場がたくさんあることが本当は大切なんだというお話がございましたが、芸の場をたくさん設けることはもちろん基本でしょうが、同時にやはり、こういう今のような芸というものがある物に化体をするといいますか、物に集約をされて、その物が出回っていくというような時代に、それらのビデオ著作物に実演家の権利というものがないですね。これは一体、こういうことで満足ということでは恐らくないのだろうと思うのですが、ビデオ著作物に実演化の権利をどういうふうに求めていくのか。恐らく、小泉参考人の芸能実演家の皆さんの立場とそれから逆に今度はビデオ協会の亀井参考人の方の立場と、これは相反することにひょっとしたらなるのかという気がしますが、御両人から、さらに原著作者のビデオ著作物に対する権利ということを芥川参考人の方から、あるいはそれぞれ皆さんニュアンスが違う、立場が違うお答えになるのかと思いますけれども、その順番でひとつ、ビデオ著作物に対する原著作者、それから実演家の権利についてどういうお立場であるかを聞かせてください。簡単で結構ですよ。
○小泉参考人 江田委員の御質問にお答えいたします。
ビデオ著作物というものが著作権法上でははっきり位置づけられているわけではございません。これが全部映画的著作物ということで位置づけられてしまっているというところで、私どもは、先ほど申し上げたような問題提起をしているわけでございます。ですから、かつての劇場用映画を想定した形での映画的著作物というもので、すべての権利が映画製作者というところに集められて強力な頒布権を持っているという状況でございます。これが最近は、例えば放送の場合には隣接権がございまして、それの録音録画物とかというようなものが使われた場合には報酬請求権があるのですが、映画の場合にはそれが全く映画製作者に帰属しているためにだめであるということ、それからテレビ映画の場合にもそれが言えるというようなことでございまして、その点については、放送の著作物か映画の著作物かということは私どもにとっては大きな違いが生じている。それの非常にあいまいな部分、放送局が下請業者に出すためにあいまいな部分が生じてしまっているという不都合なことが起きております。ですから、これはやはりそれに基づいてお互いの契約慣行といいますか、そういうものがきちんと交わされなければいけないだろうということなんですが、現在のような強い形でぴしっと決められておりますと、それに対しての交渉を幾ら持っていっても、既に既得権として握っているわけですから、そこのところは、例えば立法府の先生方なり何なりがそういうことをどうしたらいいのだろうということで取り上げているというような状況がございませんと、なかなか相手もあることで難しいという状況がございます。ですから、そういう上で、ぜひ皆さんの間でその問題を取り上げていただけるようなことになると、それに基づいて私どもの方でも、そういう問題があるからということで、契約慣行をきちんとしようというような動きに持っていけるのではないかというふうに期待をしているわけでございます。
そのようなことでお答えになるかどうかわかりませんが……。
○亀井参考人 映画の製作段階で了解していたことが、ビデオというような媒体が新しく出て、極端に言いますと目的外使用ではないかというようなそういう議論だと思います。
私はもともと市場流通の面からどうも見がちなんでございますけれども、権利者はできるだけ一本化して許諾手続ができるようにということが望ましいのではなかろうかと思っております。したがって、映画のように参加者が極めて多い著作物の場合は、やはりどこかで一本化されていくことが全体としてうまくいくのではないか。ただし、実演家、まあ監督さんもそうだし、照明さんもそうだと思いますけれども、やはり製作者との間の契約の問題でこれは片づけられないのかなというふうにかねがね思っております。
それから、映画というのは劇場で上映されるということが一つイメージされるわけでございますけれども、ビデオも、フィルムがビデオにかわっただけで、劇場で上映される時代というのはもう既に間近に来ております。既にビデオシアターという形態での業務がありますし、ハイビジョン時代になりますともうそれこそビデオテープでどんどん業務用にそれが使われる。現在でもCCTV、いわゆるホテル内の上映等業務用に市販のビデオと全く同じものが使われているわけでございますね。そういうような状況でございますので、レコードが個人向け、ホームユースというところから最初はスタートし、レンタルという業務用が出ていろいろと問題になったのと違って、もともと映像というのは業務利用が多かったいきさつがございますので、その辺もあって事業経営側の立場もいろいろと状況は変わってきていると思いますけれども、やはり流通の面を考えながら協議をしていったらどうかなというふうに私は思っております。
○芥川参考人 時間がないようでございますので簡単にお答えしますと、ビデオの原著作者の権利につきましては大体保護されておりまして、今のところそれほど問題はございません。
○江田委員 松田委員から、どうやったらこの著作権思想が普及できるかというようなお話がございまして、私も、例えばここは文教委員会で、この問題は文部省が管轄をしておりまして、教科書の中などで、もう少し子供のころから著作権あるいは知的所有権の問題なども扱っていかなきゃというようなことについて、参考人の皆さんの御意見も伺いたかったのですが、時間が参りましたのでこれで終わります。ありがとうございました。
中村委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
質疑を続行いたします。江田五月君。
○江田委員 著作権法の一部を改正する法律案の質疑をさせていただきます。
先ほど参考人お三方からいろいろ意見を聴取いたしましたが、皆さん待ちに待った法案で、一日も早く成立させてほしいということを申されまして、とりわけ亀井参考人のお言葉ですと、一日千秋の思いで待っている、こういうことでございました。私どもも一日も早くということで、四月二十日の委員会に私はもう質問を用意いたしまして、「委員長」とこう手を挙げるところまでいっておったのですが、ほかの法案が先だということで、まことにきょうの関係者の皆さんには申しわけなく、私ども社会党・護憲共同所属の議員の力のなさを恥じておりまして、ひとつ委員会の皆さん、一日も早いこの法案の成立に御努力をいただきたいと思っておる次第です。
参考人質疑の中で、やはり亀井参考人の話ですが、アメリカなどでは著作権法違反というものは非常に社会的に非難も厳しいし、刑罰も重い、日本ではまるで軽い、こんなお話がありまして、今回は、百十三条の刑罰の関係では改正ということになりまして、百十九条は改正になりませんので、「三年以下の懲役又は百万円以下の罰金」ということは変わらないわけですが、「三年以下の懲役又は百万円以下の罰金」というのが重いか軽いか、これはいろいろ議論のあるところと思いますが、この刑罰が重いか軽いかというのはある意味では法律によるわけです。しかし、社会的な非難の程度を超えて刑罰だけを重くするというわけにもいかない。社会的に非難が強ければそれに伴って刑罰も重くなるのでありまして、法律に書いてある法定刑をそれだけ取り上げて、これは重いか軽いかという議論はやはりできないのだろうと思います。やはり著作権というものがどれだけ社会の中で重んじられておるか、著作権思想というものがどれだけ普及徹底しておるかということにかかわってくることだと思うのですね。それで、「三年以下の懲役又は百万円以下の罰金」が仮に軽いとするならば、それは我が国で著作権思想というものが十分普及徹底していないからで、著作権思想あるいはもっと広げて知的所有権、人間の知的な創造力というものに対する評価、その財産的価値、こういうものの思想の普及徹底というものを一層行っていかなければいけないことだと思っております。
この点はいろいろな方法が考えられると思いますし、きょうも、参考人の意見陳述の中でも質問の中でも出ておりましたが、私はちょっと問題提起だけをしたのですが、さまざまな方法の中で、その一つとして、例えば学校教育の中で著作権思想あるいは私的所有権、工業所有権、無体財産権、こういうものに対する重視を徹底させていく、定着させていくということはこれから大変大切になってくるだろうと思います。貿易摩擦という観点からも、著作権あるいは工業所有権の貿易摩擦ということも既に随分問題にもなっておりますし、これからますます問題になっていくわけです。また、各団体からも強い要請があって、例えば著作権関係でいえばJASRACあるいは芸団協、レコード協会その他の皆さんからも要請がある。けさほどの参考人質疑では芥川参考人から、とりわけ長い間自分は教科書でとにかく取り上げてくれという要請をしてきたけれども、全然そのことに、この言葉は使われていないと思いますけれども、のれんに腕押しで反応がないというような趣旨の、いら立ちの言葉もあったわけです。また工業所有権関係でいえば、これは文部省所管じゃありませんけれども、特許庁とか弁理士会、発明協会、特許協会その他、いろいろ要請が続いておりまして、私自身もこの委員会で何度も質疑でお尋ねをいたしております。また、著作権関係の法案の質疑の際には、附帯決議で著作権思想の普及徹底、これは必ず登場してくるとか、さらには、最近でいえば、六十二年十月十六日の「著作権審議会第一小委員会の審議結果について(ビデオ海賊版関係)」の4その他の(2)にも、「海賊版の作成・頒布の問題は、3に示した対策を構じることにより直ちに解決するものではなく、今後とも、著作権思想の普及・徹底や権利侵害に対する取締りの強化をはじめ、」云々、こういうことでございまして、大変大きな課題になっていると思います。
そこで、これは既に以前にも私はこの委員会で聞いたことですが、現在、著作権思想の普及徹底が学校教育の中でどういうふうに取り扱われているかということについてまず伺います。
○中島国務大臣 著作権改正案を御審議いただくに当たりまして、江田委員から、冒頭に、一日千秋の思いという言葉をお使いなって御鞭撻をいただきました。ありがたく思っております。
基本的なことだけ申し上げておきますが、おっしゃるように、著作者の権利を保護することによりまして知的創作活動を促進する、いわゆる文化活動を一層促進するために重要な位置づけをされておる法律でありますし、著作権思想の普及徹底というものも宿題になっておるわけでございます。具体にはこれから初中局長からお答えさせますが、高校の一部では、商業学校などでは教科書の中にもこれが記載されておるようでございます。あとは中学、小学校でも、例えば小学校でどの程度のことが言えるかは別といたしまして、文化人を育てるという意味では社会人を育てることにも通じるわけでございますから、いわゆる道徳という面で、個の大切さあるいは他人の権利の大切さというものを何らかの形で、思想普及の一端として取り上げる道はあるだろうし、それは現在でも行われておる。中学、高校でどのようにこれを取り上げていけるか、私も一生懸命勉強してみたいと思っております。
今の事実と今後の推移については初中局長からお答えをさせます。
○西崎政府委員 著作権問題に関しましての学校教育上の扱いの現状を、簡単に申し上げたいと思う次第でございます。
一つは学校教育の中でどこまで盛り込めるかという問題、それから発達段階で著作権の問題をどういうふうに扱うか。これは江田先生十分御承知でございますが、現在高等学校におきまして「政治・経済」、それから「現代社会」において権利という形で財産権という取り上げ方はございますが、財産権の中身として著作権があるという事柄は取り上げられていないというのが現状でございます。しかし、高等学校の「商業法規」では財産権を細かく分けまして無体財産権とし、無体財産権の中で著作権と工業所有権に分ける、工業所有権をさらに細分化して、著作権も教科書で申しますと約半ページぐらい取り上げられているという点は、先生も御案内のとおりでございます。中学校につきましては、やはり財産権の保護という観点での財産権という言葉は出てくるわけでございますが、この財産権の中身として無体財産権、著作権という取り扱いは、指導要領なり教科書には出てまいらない。それから小学校は、ただいま大臣からのお答えにありましたように、他人の権利を保護する、他人の権利を尊重するという教育を道徳教育の中で行う。社会科でも若干そういう他人の権利を尊重するというふうな問題としての考え方は教育としてございますけれども、やはり発達段階から著作権まで踏み込むということは現状としてなかなか難しい。
現状の御説明を申し上げれば、以上のようなところでございます。
○江田委員 大臣の方から、冒頭に、大切な課題なのでしっかり勉強してみたいというお話がございました。今、局長からの答弁をお聞きのとおり、現実は著作権とかこういう知的所有権というものの扱いは、高等学校のそれも普通科でなくて工業科ということになるのですか、この一部で取り扱われているにすぎないのですね。財産権というと、それだけぽっと出すと、具体的な物に対する権利、土地とか建物とか金の貸し借りとか、知的所産に対する権利性というものはすぐには出てこないのだと思います。ですから、人のまねをしてはいけないよ、人が自分で考えたことは大切なことなのですよ、自分が自分で考えたことも人にまねをされないということは自分で言えるのですよ。そんなことをずっと教えていかなければいけないのじゃないかと思います。
教科書が今学習指導要領に基づいてつくられておって、検定制度が、このこと自体には議論はいろいろありますし、私もそれなりの批判を持っていないわけではありませんが、それはきょうのところはさておき、やはり次の指導要領改訂の段階で、長い懸案ですから、この問題はぜひ真っ正面からひとつ取り組むべきだと思うのですが、大臣いかがですか。
○中島国務大臣 おっしゃるように、この知的創作権と申しますか、他の権利を尊重する、また創作のとうとさを知る、この点は著作権の思想の普及の一端でございますから、いろいろ勉強してみたいと申し上げましたのは、まさに指導書あたりにどう盛り込んでいけるか、この点を具体に事務的に研究してみたい、こう思っております。それによりまして、おっしゃるように教科書その他に知的段階に沿ってどのように盛り込めるか、その第一段階としてまず指導書にどのように書けるか。盛り込めるか、その辺からも研究をしてみたい、そういう意味を含めてさっき申し上げたところでございます。
○江田委員 その指導書の中でどう盛り込めるか研究してみたいという、それは大切なことなんですが、もう長いんですね、随分前から言われているんですね。今始まったことなら「さあ、これから研究してみたい」で済むんですけれども、そうじゃないんで、もう本来随分研究も進んでなきゃいけないんですね。局長いかがですか。これまでどういう研究、勉強がなされてきたか、そのあたりをひとつ御説明ください。
○西崎政府委員 先生御案内のとおり、教育課程審議会は三年余にわたりましていろいろと教育課程の中身を検討してまいりまして、その間において私どもとしては、例えば工業所有権、特許権等各方面から陳情、要望が出てまいっておりますので、それらの陳情、要望は教育課程審議会に提出をいたしまして、こういう知的所有権等の知的財産権の問題もいろいろ各方面から御要望があるということは、教育課程審議会にも御披露しておるわけでございます。
教育課程審議会は、相当詰めた議論をしていただいたわけでございますけれども、特にこの知的所有権の問題を個別に取り上げて審議するところまではまいりませんでした。しかし、昨年末の答申におきまして、幼児児童生徒の生活とか意識の変容というものが今後予想される、これから社会の変化もいろいろと予想される、そういう社会の変化なり児童生徒の意識の変容、生活の変化に対応できるような教育課程、教育があるべきだ、情報化社会、国際化の問題もございますけれども、そういう取りまとめをいただいておりますので、この知的な財産権の問題についても私どもはその一環として文部省としての検討がゆだねられているというのが現状だ、こう理解しております。したがいまして、ただいま大臣からのお答えがありましたように、今各教科・科目別に協力者会議を開いて一年余をかけて指導要領の作成を作業として行うわけでございますので、例えば中学校の公民科であるとか高等学校の「現代社会」とか「政治・経済」等の科目において、このような財産権問題を指導要領でどこまで取り上げられるか、しかしこれは大臣からのお答えにもありましたように、指導要領自体は先生御案内のように非常に短い、精選されたものでございますから、いろいろ財産権の個々具体まで書き込むことはなかなか至難ではないか、さすれば、先ほどもお話しありましたように、それらを敷衍した形での指導書なり指導の実際の問題として、知的な財産権の問題をどの辺まで扱えるか、この辺を私どもは現在の研究課題として取り組んでまいりたい、こういうふうに思っているわけでございますので、若干そういうふうな作業をこれから鋭意進めてまいりたい、こんな考えでおる次第でございます。
○江田委員 そうですね。教育課程審議会に陳情、要望があるのは著作権、知的所有権のことだけじゃないと思うのですね。いろいろな要望がいろいろとあって、応接にいとまがないという状態かとも思いますけれども、各方面の御要望の中でも、それはどれも皆あれですが、とりわけこれはということになるのでしょうけれども、しかし、今局長がちょっとおっしゃった情報化とか国際化とかを考えますと、とりわけこういう知的所産に対する価値の尊重ということはこれからの日本の社会の発展のいわば基礎の一部をなすものだと考えなければならぬわけでして、これはほかのものもたくさんありますからその中でということではなくて、ひとつ本格的に考えていただきたい。三年以下の懲役、百万円以下の罰金というのでは軽いな、もうちょっとこの部分には法定刑を重くしなければならぬなと社会が思うようなそういう社会を、刑が重いばかりがいいわけじゃないですけれども、海賊版、最近は質もいいのができて、別に海賊版だからといってぼけているわけでも何でもなくて、安いからいいじゃないか、何が悪いというような社会通念というのが、著作権思想の普及によってそういう社会通念が変わっていくというところまで持っていかなければいけないわけですから、もう一度ひとつしつこいようですが大臣の覚悟を聞いておきたいと思います。
○中島国務大臣 先生のおっしゃる思想の普及というものはまさに大事なことだ、このように思いますので、心して進めてまいりたいと思いますし、たまたま私も、政府委員からも、指導書の中で書く方がむしろしっかり書けるかもしらぬ、そういうことも含めまして具体に進めてまいりたいと思っております。
○江田委員 ぜひひとつ、これはもう与党、野党なんという問題ではありませんので、努力をして、私たちも努力をしてまいりたいと思いますし、よろしくお願いを申し上げます。
さて、今回の改正は、今もちょっと触れました百十三条の海賊版ビデオに対する取り締まりの改正と、それから著作隣接権の存続期間を長くするという、そういう二つがあるわけですが、まず便宜、海賊版ビデオのことについて伺ってまいります。
午前中も参考人の方々から意見をお聞きしたんですが、その際にも現在の摘発の実態、その苦労、こうしたことについて亀井参考人からのお話がございましたが、果たして今どういう摘発の実態になっているのか、あるいは被害額というものは一体どのくらいと予測をされるのか、こういう現状というもの、この法改正が必要に至る現実の姿というものをひとつ明らかにしてください。
○横瀬政府委員 まずビデオの海賊版にかかわります現在までの摘発の状況でございますが、これは、邦画に係るビデオソフトにつきましては、関係権利者団体が五十九年の十月にビデオ著作権保護・監視機構というものをつくりまして、そこで侵害行為の監視、それから摘発の告訴をするというようなことをやっているわけでございます。邦画に係りますそうしたその機構関係の六十二年度中の告訴件数は十九件でございました。それから一方、洋画に係りますビデオソフトにつきましては、アメリカの映画会社の団体でございますアメリカ映画協会が、六十一年の二月に日本支社を設立いたしまして、そこで侵害行為に対する同様の調査・摘発を行っているわけでございますが、そちらの方の、アメリカ映画関係の六十二年度中の告訴件数は六十九件でございました。この二つ、十九件と六十九件、合計八十八件というのが六十二年度中の告訴件数ということになろうかと思います。
それから、次に市場に出回っているビデオ海賊版の数量でございますが、これは権利者団体が昭和六十二年の四月に調査をいたしまして推計をしたわけでございますが、これによりますと、六十二年の四月の段階におきまして五百五十万本、これは価格にいたしますと六百億円相当のものが出回っているというような推測をしているところでございます。ビデオ全体の数量と申しますと、およそ適法のものが千二百五十万本ぐらいというふうに言われておりますので、五百五十万本といいますと全体の流通の三〇%程度に当たろうかというふうに思っております。
○江田委員 今、適法なものが千二百五十万本、それにさらに海賊版と言われるものが五百五十万本という、そういう趣旨でよろしいのですね。だから、五百五十万本というのは千八百万本の三〇%、そういう趣旨ですね。
○横瀬政府委員 そのとおりでございます。
○江田委員 邦画十九件、洋画六十九件。洋画というのはアメリカの映画協会の日本支社が監視をし告訴をされたということだと思いますが、アメリカだけですか、その他の国はどうなんですか。
○横瀬政府委員 ビデオソフトに関しましては、言ってみますとアメリカの映画、メジャーの映画会社のものについては、先ほど申しましたアメリカ映画協会の日本支社というものが扱っている、それ以外のものは一応、邦画が大部分でございますけれども、ビデオ著作権保護・監視機構というものが扱っている、こういうふうに考えていただければと思います。
○江田委員 アメリカの映画を除く洋画も含む邦画が十九件で、洋画・アメリカ映画が六十九件というのは、何か随分数字に隔たりがあるようですが、これはその海賊版の実態というものを反映をしているのですか。
○横瀬政府委員 先ほど申し上げました海賊版の五百五十万本の内訳のようなものでございますが、洋・邦の割合というのは大体五対五ぐらいになっているというふうに言われております。ただ、先ほど申しましたように、アメリカ映画会社というのはアメリカ映画のメジャーのものでございますので、洋画の全部ではございませんので、洋画の部分がかえって少ないくらいだというふうに考えております。したがいまして、この十九件と六十九件というのは、ある程度そのときの、大量にレンタル店でそういうことが行われているというようなことがわかった件数のようなものでございますので、全体とすればごくわずかなものでございますから、そういういわば偶然性のものがある程度重なったものだというふうに思っております。
○江田委員 十九件対六十九件というのは、別に、適法、違法も含めてビデオ全体の洋画・邦画の分布を反映しているわけでもないし、海賊版が出回っているその量を反映しているわけでもなくて、たまたま六十二年にそういう件数であったということですね。そうすると、その海賊版の本数ですね。これは、件数は本数とは違うわけでしょう。ですから、一件当たり一体どのくらいのバラエティーがあって、平均何本ぐらいになるのですか。
○横瀬政府委員 済みません。今その平均の数を持っておりませんが、今の告発、告訴を受けまして警察当局が押収したその本数を申し上げますと、邦画のビデオが二万一千本、それから洋画のビデオが四万六千本ということになっております。そういたしますとそれを件数で割っていけば出てくるわけでございますが、大体それで申しますと、邦画の方が一件当たり千本でございましょうか、それから洋画ビデオの方は千本弱ということになりましょうか。
○江田委員 押収をしたものが六万七千本、これが業界の調査ですが、海賊版として出回っているのが全部で五百五十万本、この差は非常に大きい、こういうことになって、何とかしなきゃ、こういうことになるのでしょうがね。この押収ですが、これはどういう押収の仕方をしているのですか。
○横瀬政府委員 これは告訴を受けまして、警察がそこに内偵をして、そして、これが間違いないということになりますとそこで強制捜査に入るわけでございます。そして、告訴を受けた会社といいますか、厳密に言えば権利者でございますが、
権利者のそのビデオ、それだけを押さえることができるということで、現在のこの「頒布」について罰しているというだけですと、どうしてもそういうふうに、実際に頒布が起こって告訴を受けたその会社のものだけしか、ほかのものは海賊版であっても押収ができない、そういう関係になるわけでございます。そういった意味で、摘発をいたしても海賊版全部を押収することができないという意味で、その取り締まりの実が上がらないというような実態になっているわけでございます。
○江田委員 押収した物件は最終的にどうなっていますか。
○横瀬政府委員 これは廃棄をしているということだそうでございます。
○江田委員 任意提出で領置で、そして所有権放棄で結局廃棄と。つまり犯罪を組成するものとして押収をして、判決で没収をして廃棄という手続ではないんじゃないかと思いますけれども、いかがですか。
○横瀬政府委員 先ほど申しましたのは、押収したものでございますのでこれはそのように警察の方で廃棄をしているわけでございますが、そのほかに今おっしゃった、お互いに相談をした上で任意に提出をするといったものでございますが、それがございまして、六十二年度中のそうした回収本数といいますか、それは邦画関係のものが五万二千本、それからアメリカの映画関係のものが十一万六千本というような実績があります。
○江田委員 なるほどね。それにしても、五百五十万本からすればまだ微々たる数量だということですね。
さて、改正をいたしますと一体この数字がどの程度改善されますか。恐らく押収とか任意提出、領置とかいう数字もずっとふえるだろうけれども、それよりも、五百五十万本という方の数量が減ることの方が効果として重要だろうと思いますが、その辺の見通しというものは何かありますか。
○横瀬政府委員 その辺の数値は推定はなかなか難しいものでございますので、私どもも具体的には押さえておりませんが、おっしゃいますように、頒布目的による所持ということで構成要件が該当するようになるわけでございますので、レンタル店でもって強制捜査に入ったときに、そこにその海賊版があればそれは所持ということにおおよそなるというふうに考えられます。そこで今までの実態からすればかなり前進するだろうというふうに考えているわけでございますが、今の、現在の制度によりまして頒布の行為についてだけ取り締まりをやっております経過から見ましても、先ほど申し上げましたように六十二年度は五百五十万本という海賊版の数でございますが、これは六十一年度は七百万本ぐらいあったというふうに言われておりますので、これも相当にその取り締まりをやった結果としてそういうふうな効果が全体として出てきている、そういうふうに考えるわけでございます。したがいましてこれも、今おっしゃいましたように、これを「所持」という今回の法改正を行えば、全体に出回る海賊版の数には相当の効果が出てこようというふうに考えております。
○江田委員 まあ数字は難しいですから、何ともお答えいただくのも困難だろうかと思いますので、それはいいのですが、今のお話の中で、頒布目的の所持であればもうそれで構成要件が該当とおっしゃるのですが、私は、そう簡単でもないんじゃないかという気がするのですね。それは、文理解釈をちょっと聞いておきたいのですが、百十三条一項の二号ですね。「著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物を情を知つて頒布し、又は頒布の目的をもつて所持する行為」で、「頒布の目的をもつて所持する」というのは、やはり「情を知つて」でなければいけないのでしょう。「情を知つて」というのは「頒布し」だけにかかるわけではないと思うのですが、いかがですか。
○横瀬政府委員 おっしゃるとおりでございます。先ほど非常に簡単に申し上げまして誤解を生じ、申しわけございませんでした。「情を知つて」、海賊版であることを知って「頒布の目的をもつて所持する」、これが全体の構成要件かと思います。
○江田委員 したがって、店に並べてあればそれは頒布の目的の所持だ、そこまでは簡単に、合理的に、疑いを入れない程度にだれでも推測できますよね。しかし、それが海賊版であるということをまずは立証しなければならぬし、さらに、海賊版であることを所持しておる者が知っていたということも立証しなければならぬ。午前中の参考人の意見の中には立証責任転換というような意見もありましたけれども、これは立法論としてはいろいろあるかもしれませんが、今回の立法で立証責任転換まで考えるというようなことは到底ないのだろうと思いますので、そういう要件はやはり摘発をする側で立証しなければならぬものだと思いますが、この点はいかがですか。
○横瀬政府委員 その点もおっしゃるとおりだと思います。午前中に参考人の方からもいろいろと説明がございましたけれども、押収といいますか、一たん強制捜査によってレンタル店から持ってきた海賊版と思われるビデオについて、それぞれ海賊版であることの証明をいたしまして、その結果で次の手続を進めるということになろうと思います。ですから、もちろんそういう手順を踏むわけでございますけれども、全体として見れば、これまでのように頒布をしたという証拠のあるものだけについて回収できるのではなくて、店に置いてある、所持されておるもの、もちろん先ほど申しましたように「情を知つて」、「頒布の目的をもつて」の所持でございますけれども、そういったものであれば今の「頒布」以上に、広く回収することができる、そういう効果を持っているというふうに申し上げたいと思います。
○江田委員 午前中、亀井参考人から、監視をしてあそこは怪しいというのを見つけた、しかし会員でなければ借りられない、しかも会員になるには住所なども身分証明書とか運転免許証とかで確認をされるから、よその者が行ってもすぐに身分がばれてしまってとか、いろいろ苦労して借り出しても返さなくてはいけなくて、そこでこれをダビングしてなど、非常に面倒くさい手続がいろいろとあってなかなか大変なんだ、こういうお話がありましたね。頒布目的の所持ということに構成要件が広がっても、その部分はなかなか容易になるわけではないし、また、確かに捜査の便宜ということは大切ではあるけれども、一方で、捜査の便宜だけに事が流れるというのは危険なことでもあるわけです。したがって、そういう摘発の苦労が何もなしに、どんどん店へ入って罰することができてというのがいいのかというと、これまた別の障害が出てくるわけですし、そういう摘発の苦労が今のような点でそんなに軽減されるわけではないのじゃないかと思いますが、いかがでしょう。
○横瀬政府委員 その店が海賊版を持っているというところまでの立証過程といいますか探索過程といった点については、おっしゃるように慎重にしなければいけませんから、その点について、まず海賊版があるということを知るというところまでは、今までとそれほど変わらないと思います。ただ、その後の、頒布の行為を立証するということと、それからその店に海賊版が所持されているということの立証の仕方は、随分違ってくると思います。そこのところは非常に簡単になるというふうに思っております。
○江田委員 繰り返しますが、海賊版であること、これも亀井参考人が言っていましたね、一々もとの物といいますか真正な物を確かめて、それとの対比で海賊版の方もきちっと提示をして、そしてその両方の真贋を鑑定し、どこが違うかということをきちっと明らかにして海賊版であることを証明しなければならぬ、これもなかなか大変な苦労だ、しかも一本一本と。たくさんあれば以下同じということで処理できるかもしれませんが、少なくともこれは一種類ずつ鑑定しなければいけないですね。そういう手間は変わらない。あるいはまた、そういう店を探し出して海賊版であることを知っているということを証明する、さらにそれを頒布の目的をもって置いていることの証明、これはある程度の間接的な事実から推論することができるかと思いますが、そうしたことを立証する手間は今までと変わることはなくて、ただ、頒布目的の所持ということでその部分がかなり容易になり、また摘発の範囲も広がる、こういうことだと理解をしたいのですが、いかがですか。
○横瀬政府委員 今回の改正で御提案を申し上げております点は、まさに「頒布する行為」ということに「情を知つて」、「頒布の目的をもつて所持する行為」を加えたいということだけでございますので、おっしゃいますように、最初の海賊版であるかどうかという判断については同じ構成要件でございますので、同じように慎重でなければいけないし、同じような手間がかかるというふうに思います。
○江田委員 陳列罪にしようと思ったら、箱だけ置いておくとかかばんに詰めて歩くとか通信販売とか、いろいろなことができて、法の網の目をくぐる形態が一般に出てきた、そこで「所持」ということにされた、そういう参考人の説明がありましたが、これはそういう説明でいいですか。
それから、それでは「所持」というものはどういうものとお考えか。具体的な対応が幾つか例示的にあると思いますが、それをお知らせください。
○横瀬政府委員 先ほども出ておりましたけれども、当初、第一小委員会では、その点につきましては「陳列する等の行為」というふうになっていたわけでございます。これは「等」というのが入っておりますので全体を含んでいると思いますけれども、仮に「陳列」ということだけにいたしますと、先ほども例が出ておりましたように、例えば化粧箱のみを陳列いたしましてカセット本体については陳列をしないというようなもの、それから訪問販売とか通信販売というような、そもそも店に陳列をしない販売方法のもの、こういったものは処罰の対象にならないということになってまいりましたし、またそういった事例が非常に多いということがだんだんわかってまいりました。ビデオ協会の方でも、単に「陳列」では困るというような話も出てまいりまして、それでいろいろな検討をした結果、この「所持」ということになったわけでございます。
そこで、この「所持」とは何かということでございますが、これは構成要件として考える場合には、支配の意思で事実上財物を自己の支配下に置く状況だということでございまして、単に物を把握したりあるいは身につけているということでなくてもよい、社会通念上支配があると考えられる状態であれば足りるというふうに考えられております。
例えばどんなことかということでございますが、レンタル店における状況に即して申し上げますと、例えばレンタル店でカウンター内とかあるいは倉庫に所持保管をする行為、それから、ユーザーに宅配方式でレンタルするために訪問販売をするときに事務所等に保管をする行為、それから、レンタル店に販売をしたり貸与をしたりするときに、いわゆるカバン屋と称する者がおるわけでございますが、そういう運んでいるときの携帯する行為、こういったものが所持に含まれるというふうに考えております。
○江田委員 「陳列等」というのでしたら「所持」に変えてよかったと思いますが、「陳列等」だと「等」は何かというので、ちょっと構成要件として刑罰法規の罪刑法定主義に反するような感じがしますね、「等」といいますといかにも漠然として。ですから「所持」の方がはっきりしておりますが、その「所持」でもぎりぎりのボーダーラインというものはあると思うのですが、今おっしゃるようなことはすべて「所持」に当たると思います。例えば海賊版のビデオを売買契約した、それだけで「所持」になりますか。質問をちょっと加えますと、お店がそれをつくった人間と売買契約したわけですよ、販売するために。それだけで「所持」になるか。
○横瀬政府委員 先ほど御説明申しましたが、自己の支配下に事実上財物を置くという、論理的に申しましてそういう定義をしているわけでございます。それで申しますと、今の契約しただけだということはまだ引き渡しを受けていないという意味だとすれば、それはまだ「所持」のうちに入らないというふうに思います。
○江田委員 日本の民法では意思主義ですから、契約だけで所有権は移るという解釈になるのでしょうけれども、したがって、所持というのは所有とは違う、しかし、自分で握っているという握特とも違う、管理下に置いているという状態であるということですね。これはちょっと細かなことですが。
ところで、頒布目的で所持するということに構成要件がなると、非常に大きな違いは、頒布する行為という場合には、頒布する行為に供されたものだけが犯罪を組成したものになるわけですね。したがって、判決の手続によって没収できるものというのは非常に限られてしまう。しかし「頒布の目的をもって所持する行為」になりますと、所持されているものはすべて犯罪を組成するものになるから、したがって、強制捜査の段階から、押収できる範囲も任意提出などいただかなくてもぐっと広がるし、また没収できる範囲もぐっと広がって、その意味で業者にとっては大打撃、摘発する側にとっては大きな武器になる、どんとまとめて面倒見ようというわけで没収できるということになって、この点は非常に大きな違いが出てくると思いますが、いかがですか。
○横瀬政府委員 私が先ほどからお答え申し上げております趣旨も大体そういうことに則しておりまして、そのとおりだと思います。
○江田委員 こういう法改正で、海賊版をひとつ大いに取り締まるということにしていただきたいと思います。
一方で海賊版というものがこうやって取り締まられていっても、きょうの午前中の質疑でもちょっと伺ったのですが、いろいろな形で人間はいろいろ知恵を出してきますね。また何が出てくるやら予想もつかぬようなことを考えつくということもよくあることでして、そこで、こうした海賊版が出回っていかないということを考える場合に何が必要か。今例えば技術の水準が大変に上がったことによって、海賊版であるから質が悪い、自分はそんな演技をしたんじゃない、そういう演奏をしたんじゃない、海賊版だから随分自分の演技や演奏と違って質の悪いものが出回って、これはけしからぬと、そうとばかり言えないような、非常に質のいい、質がいいというとちょっと言い方が変ですが、そういう海賊版が恐らく今出回っているはずですね。そこで、海賊版という言い方がいいのか悪いのかわからないけれども、いろんな形でのダビングをされたりしたケースでも、本来のもとのマスターテープ、あるいはマスターテープから、権利者がつくる販売用あるいはレンタル用のテープ以外に、いろいろなところでつくられていくわけでして、模倣のものであっても模倣と言えないほど質がよくなってしまうわけですから、そういうものにも権利者の権利がかぶさっていって、そしてきちんと著作権料がそこから入っていく、そういう業界秩序というものがきちんとできればそれはそれでいいわけで、海賊版を一方では取り締まり法規で取り締まっていくと同時に、権利者の権利がきちんと隅々まで及んでいく、そして著作権料というものがきちんと権利者のところに届いていく、そういう業界秩序なりあるいは著作権、本件の場合ですとビデオテープレコーダーというものをめぐる秩序ができ上がっていくことが大切だというふうに思うのですが、そうした取り締まりとはまた別の観点からのビデオテープレコーダーをめぐる販売、頒布、貸与、こういうものについての秩序というものをどういうふうに形成されようとお考えでしょうか。
○横瀬政府委員 ただいまの御質問はいわゆる無許諾レンタルのことだと思いますが、現在邦画につきましては日本ビデオ協会が窓口になりまして、加盟各社の頒布権の行使についての事務を代行して、それで個々のレンタル店とレンタルについて許諾契約を結んでいるというようなやり方をとっているわけでございます。これが先ほど御説明がありましたように全国で一万五千店というふうに推定されるわけで、これは一万五千店以上かもしれませんが、一応その程度に推定されるビデオレンタル店のうちで、適法にそういう契約を行ってレンタルを行っている、そういう店が約五千五百だというふうに言っておりまして、したがいまして、残りの一万店あるいはそれ以上の店が現在のところまだ無許諾レンタルということになっているわけでございます。これは、無許諾ということも当然頒布権を侵害する行為でございますので違法なことであるということで、これをぜひ早くレンタルの契約がなされるようにしていくということが非常に大事だということでございます。
そこで、先ほども御説明がありましたように、ビデオ協会としてはいろいろな特別委員会を設けまして、いろいろな方法でこれが促進されるように努力をしているということでございまして、文化庁としてもそうしたことで必要があれば指導もしていくというやり方でこれを促進していきたいというふうに思っているわけでございます。
○江田委員 これはなかなか業界の実態がいろいろ複雑で、私なども聞いてはすぐ忘れるので、今も聞いてきたばかりなんですけれども、例えばビデオからビデオへと、テープからテープへという、そういうダビングですとこれはだんだんぼけてくる、悪くなる。しかし、最近では例のカラオケなんかによくあるレーザーディスクですね、レーザーディスクがマスターテープ、テープじゃないわけですけれどもマスターソフトで、そこに入っている映画をビデオテープにダビングをするというような形ですと、もう質としてはそんなに質の落ちるものではない、非常にいいものがどんどんダビングでできてくるというようなことになっているわけですね。そういう実態をひとつよく踏まえてやる必要がある。
あるいはまた「先ほどの亀井参考人のお話ですと、これからどんどん協会に加盟の業者がふえてくるだろうというお話ですが、これもいろいろあって、一方で貸しレコードの商業組合というのがありますね。この貸しレコード商業組合は、レコードだけでなくてコンパクトディスクも自分のところで扱っておる。貸しレコードの方はもう既にいろいろな手当てがなされておりますから、貸しレコード商業組合に入らないと安定した適正な商売ができない、そういう業界秩序が一応できて、まだいろいろな問題は御承知のとおりありますけれども、それはもう置いておいていいわけですね、一応できましたからね。そういう業界が一方にあって、そしてビデオレンタルの方は、例えばコンパクトディスクを扱いたい、そうすると、コンパクトディスクは貸しレコード商業組合が取り仕切っておりますから、貸しレコード商業組合の方に入らなければいけない。貸しレコード商業組合は、コンパクトディスクを扱うビデオレンタル店に対しては、ビデオレンタルの協会に加盟をするものでなければ自分のところは自分の商業組合の会員と認めない。そういうようなことをやっていることも一つあって、協会に入る会員の数が最近ぐっとふえてきているという実態もあるやに聞くのですが、そうしたことをひとつ十分調査認識の上、業界の正常な、適正な安定した秩序形成のために文化庁として努力をされるべきだと思いますが、いかがでしょう。
○横瀬政府委員 ビデオソフトのレンタル店につきましては、貸しレコードにおける日本レコードレンタル商業組合のような組織というものがまだできてないところでございます。先ほどの日本ビデオ協会のレンタル契約を結んでいる店というような形でしかいわば一つのまとまりというものがないというような状態になっておりまして、これは通産省といった関係省庁とも十分連絡をしながら考えていかなければならない問題だと思いますけれども、おっしゃいましたように、そういう秩序をつくっていくためにはどうしてもある種の全体的な把握ができるような形というものが必要だというふうにも思いますので、十分そういった認識を持って関係方面の動向についても見守っていきたいと考えております。
○江田委員 一つまた別な話を伺いたいのですが、この百十三条一項二号と百十九条、このビデオ海賊版に対する取り締まり規定の保護法益は何でしょう。
○横瀬政府委員 改正する部分というのは百十三条の一項二号の方でございますが、いずれにいたしましても「侵害する行為とみなす」場合でございます。これはそれ自体、例えば「侵害する行為によって作成された物を情を知って頒布する行為」というもの自体は、それはその本物をつくった著作権を持っている人の権利を直接侵すものではないけれども、しかし形としてはその権利を侵害するものと同じであるということから、「みなす」という規定をつくっているわけでございます。したがいまして、この保護法益と申しますとちょっと難しくて確としたことが申せませんけれども、やはり全体として著作権、著作人格権等々の権利そのものだというふうに思います。
○江田委員 ちょっと質問が丁寧でなくて申しわけなかったのですが、百十三条は「当該著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為」云々、こうなっているわけですから、これが保護法益だというふうに理解をするのだろうと思うのですが、そうしますとこの規定によって著作者人格権も保護されておる。ビデオソフトというのは映画的著作物だ。映画的著作物というのには著作者人格権というのは一体どこにあるのか。つまり映画のもとにある例えば製作者、まあ製作者は原著作者ですからいいけれども、出演者の著作者人格権というのも、頒布権だけでなくてこの百十三条に言う保護法益に入っておるのかどうかということをちょっと伺いたかったのです。
○横瀬政府委員 映画の著作者というものにつきましては著作権法第十六条に挙がっておりまして、これは、そのもとになった小説とか脚本とか音楽の著作物の著作者を除き、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」というふうになっておりまして、これらが著作者である。別に二十九条でございますかに、それらの著作者が著作者であるけれども、著作権の帰属は原則的には「映画製作者に帰属する」という特別の規定が別にあるわけでございます。そこで、あくまでも著作者は今申し上げました制作、監督等々の方々も入るわけでございますが、映画の著作者人格権は、私が今申し上げましたこの十六条のそれぞれの方々についてそれぞれ認められると考えるわけでございます。
ところで、出演された方とおっしゃいましたけれども、実演家につきましては、これは隣接権ということになりますので、隣接権については御存じのように人格権が規定されておりませんので、それは入らないというのがこの解釈だと思います。
○江田委員 百十三条は著作隣接権も特別に書いてあるわけなので、今著作者人格権というのを言いましたが、著作隣接権というのもあって、実演家は隣接権者ですから、ですから映画的著作物については著作隣接権というのはどうなるのかという問題があって、これはそのほかも全部包含して書いているということで、映画の場合のことを特に頭に入れて書いておるというわけではないのだということなのかもしれませんが、それはいいです。
次に、二十年から三十年という方もちょっと伺っておきたいのですが、この二十年から三十年は、けさの芥川参考人の御意見ですと、例えばアメリカは七十五年、これは日本では望むべくもないかもしれないが、英、仏、オーストラリア、カナダでしたか、ちょっと国名は忘れましたが、それらは五十年、ですから段階的にひとつ三十年ぐらいでというのは当を得ておると考えているわけで、三十年で満足できると思っているわけではない、そういう趣旨の御意見がありましたが、なぜ一体三十年なんですか。三十年でこれはいいのですかという質問だと、どうお答えになりますか。
○横瀬政府委員 今回提案をいたしましたこの著作隣接権の保護期間の延長につきましては、御存じのように著作権審議会の第一小委員会という専門家の委員会に審議をお願いいたしまして、そこで結論が出たものを法案化しているわけでございます。したがいまして、なぜ三十年にしたのかということにつきましてはこの第一小委員会の審議の結果ということでございますが、第一小委員会の審議におきましては、保護期間を著作権と同じ五十年にするということにつきましては、やはり著作隣接権者というものは著作者、著作権そのものではなくて、著作物の公衆への伝達媒体としての役割というものを重視して認められている、著作権に隣接する権利である。文字どおりそういうことになるわけでございまして、そこで著作権と同じ程度の保護を認めるということにつきましては、この専門家の委員会の中で消極論が非常に強かったということで、三十年までの延長にするということが適当だという結論が出たわけでございますが、これは、国際的な約束でございますベルヌ条約の基準でも著作権は五十年になっておりますが、ローマ条約では二十年、これはいずれも最低基準でございますけれども、基準的にいいましても、国際的にも、そういうふうに著作権と著作隣接権の間に差があるというようなことも一つの認識だというふうに思います。
それから、先生が今お挙げになりました国際的な状況でございますけれども、これも著作権の方につきましてはベルヌ条約同盟の国におきましては五十年というのが国際的な大勢でございますけれども、隣接権につきましてはさまざまでございます。
例えば主要国について申し上げますと、西ドイツとかフィンランドとかノルウェーというような国は二十五年、イタリアはレコードについて三十年、実演について二十年というような大変短い国もございますし、フランスとかスウェーデンは五十年、イギリスにつきましてはレコードについてだけ認められておりますが、五十年というような長い方の国もございます。それからアメリカでございますが、アメリカ合衆国は実は著作隣接権制度を認めていない国でございまして、したがって隣接権条約の締約国ではないわけでございます。先ほど七十五年と申しましたのは、あれはレコードを著作物として認めておりましてそれで七十五年という、これは著作権の一つとして認めているわけでございます。
そういったことでございまして、そういう国内とか国際的な動向というものも見まして三十年という決め方をしたわけでございますが、先ほどの御意見にもございましたように、実演家の団体とかレコード製作者の団体は今回の三十年に延長するということにつきましては大変評価をしていただいておりますけれども、将来的にはさらにその延長されることを希望しているということは伺っております。そこで、著作権の第一小委員会の審議結果の中にも、今後とも著作物の利用手段の発達とか利用実態の推移とか国際的な状況の変化とか、そういう著作権制度あるいは隣接権制度をめぐる環境の変化というものが起こってきた場合には、そういった動向を踏まえて必要に応じて検討を行うことが必要であるというような、審議の報告の中にわざわざそういう一項をつけ加えておりますので、文化庁といたしましては、そうした御意見を踏まえまして、今後必要に応じてこの著作隣接権の保護期間のあり方につきましても検討をしていきたいというように考えております。
○江田委員 著作権、著作隣接権に関係する技術水準というものは、今大変な勢いで進歩をしている、まさにその進歩の真っただ中にある時期ですね。しかも国際的な動向というものは、これは私はそう知りませんけれども、まだまだ広い幅でいろいろな国々があってそれが今まだ動いている状況じゃないか。そういう技術進歩あるいは国際的な流れというものが動いている状況ですので、二十年を三十年に今回延ばすこと自体は各関係者とも皆歓迎をするところであることは間違いないわけですが、しかしこれで十分であるかというと、今後の推移を見ておかないとまた不十分ということにすぐなるかもしれない。そこで、今の小委員会の報告にもあったということですけれども、やはり事態の推移をよく見きわめながら、我が国がこうした著作権、著作隣接権の保護について国際的に見劣りのするようなことにならないように、別に世界を気にしなくていいといえばしなくていいのかもしらぬけれども、しかし、その世界の文化水準にきちんと合った、いや本当を言えばそれよりもっとずっと上の文化水準にいかなければならぬ国ですから、ひとつその点は間違いない対応をお願いしたいと思うのです。
さらに、今後の隣接権条約への加入の問題、これももう随分長い間の課題でして、もう本当に解決をしなければならぬことであります。諸団体の意見調整、利害の調整といいますが、きょうの午前中の意見陳述でも、とにかく踏み出せばそれなりに利害の調整もできてくる、そういうお話もありましたし、やはりある時期で強いリーダーシップが期待される部門だろうと思います。
また、私的録音・録画の機器やテープに賦課金を課すというような形での報酬請求権の問題ですね。これも随分長き議論になっておりますし、また書物の関係の出版者の保護、こうしたことももう議論になって久しいわけで、こういう時期ですので、ひとつこの著作権というもの、我が国にとってこれから非常に重要な背骨の一つになる権利思想なので、文部大臣、これは大臣の強いリーダーシップが期待をされている部門じゃないだろうかと私は思います。
どうも嫌みを言うようですが、最近文部省は違うところで何かリーダーシップを発揮されようとしておるようで気にかかるのです。それもありますが、こういう文化というところで本当にしっかりしたリーダーシップを大いに発揮をして、国際的な文化水準にそれこそ追いつき追い越せということで頑張ってほしいと思いますが、最後に大臣の意気込みを聞かせていただいて、質問を終わります。
○中島国務大臣 おっしゃいますように著作権の問題は、先ほどの御質疑にもありましたように著作権思想の普及も含めまして努力をしてまいりますし、また、これは知的創作活動の促進に資するものでございますから、今おっしゃいますように隣接権条約の加入につきましても、それぞれ外国の著作権の機関、それから我が国の機関、その間の調整その他、円満な秩序が保たれるという面を見きわめましたら速やかに加入をすべきである、このように考えておりますし、先生がお触れになりましたこれからの三点も、まさに第八、第九、第十小委員会で今検討をいただいているところでございます。出版物の問題ですとかコンピューター創作物の関係あるいは私的録音・録画関係、これもおまとめを得つつ精力的に進めてまいりたい、このように考えておりまして、御質疑の大要は、御鞭撻と受け取りましてしっかり進めてまいりたいと思います。
○江田委員 終わります。
1988/05/13 |