1989/06/21

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114 衆議院・文教委員会


○江田委員 著作権法の一部を改正する法律案の質疑でございますが、大臣の所信をいただいて、その所信に対する質疑が行われていない。今国会、これが最後の当委員会の質疑になるということですので、大臣の所信に対する質疑を同僚の中西委員にお願いをすることにして、著作権法の一部改正法案の質疑をごくごく手短に行いたいと思いますので、ひとつ簡潔な答弁をお願いしたいと思います。

 今回のこの改正ですが、これは長く待たれておつだ実演家等保護条約の締結に伴う国内法の整備、随分このいわゆる隣接権条約、実演家等保護条約ですか、締結に時間がかかりまして、当委員会でも、何度も附帯決議なども行ったりしていて、やっと関係者間で合意もでき上がったということですが、なぜ一体こんなに随分かかったのか、これも聞きたいところですが、そんなこと聞いておりますと時間がなくなりますので、ずばりと幾つかの問題点に入っていきたいと思います。

 一つは、この日本における著作権秩序の中には、いわゆる貸与権という法秩序が一つつくられているわけで、これは一時大変な社会問題にもなりかけたレコードレンタルに関する円満な法秩序をつくっていこうということで、貸与権というものをつくった。それで、この貸与権については、今回の実演家等保護条約によって保護されるべき権利に、貸与権はこの保護が与えられていない、そういう立て方になっておるわけですね。これはちょっと考えようによっては、貸与権についてのみ実演家等保護条約を留保しているというような見方もできるかと思いますが、それはそういうことになるのですか、留保とはまた別のことになるのですか。

○遠山政府委員 今の御指摘の点は、留保には当ならないというふうに考えております。つまり、今回の実演家等保護条約の加入に際しまして、実演家あるいはレコード製作者に与えられている貸与に関する権利を、内国民待遇として外国の権利者にも認める義務があるのではないかという考え方もあるわけでございますけれども、実演家等保護条約には、この権利は明記されていないわけでございます。そのために、このことについては、留保する必要はなく、現在の日本の現行の著作権法の中での保護は、国内の貸与権というものについて有効であるというふうに考えております、

 ついでながら、この貸与権について、条約加盟国で定めている国はフランスーカ国のみでございますけれども、この国でも、国内で固定されたレコードにその効力を限定いたしております。

 そのようなことから、今回はいろいろな事情もまだ整っていないということもございまして、貸与権については、明確に条約上の義務としてこれを定めることをしなかったということでございます。

○江田委員 論理の組み立て方によっては、実演家等保護条約は、貸与権という制度を認識しないまま一つの法秩序をつくっておる。国内法の体系が別にあって、この国際法体系を国内法に持ってくるときに、その貸与権のところだけ外しちゃうわけです。ですから、留保かなというふうにも見られるのかと思いますが、いずれにしても、今回は貸与権のところまで実演家等保護条約による保護を与えていないことになっているわけですが、これは、著作権審議会第一小委員会の審議結果の報告を読ましていただきますと、レコード保護条約、それから今回の実演家等保護条約、こういうところでは、貸与権は保護しなきゃならぬ、そういう権利になっていない。しかしながら、日本では、この貸与権をめぐって一つの法秩序が形成されているので、この貸与権に関しても、保護を認める方向に行くべきである。しかし、内外の関係者間で、貸与に関する円満な利用秩序が維持、形成されていないので、その形成の方向を、しっかり見通しを立てて導入をしなきゃならぬ、そういう理解になっているようですが、これは文部省、文化庁の理解と同じと考えていいですか。

○遠山政府委員 先生の今のお話しのとおりでございまして、これは将来的には、著作権審議会第一小委員会の審議結果に示されておりますように、いろんな条件整備が整いました場合には、これを国内におきましても、外国にかかわる貸与権について認めていく方向であることは確かでございます。

○江田委員 ただいまの条件整備と言われる内容ですが、二つあると思うのですね。
 国内における貸与権の法秩序がいまだきちんと整備をされていないので、そこへいきなり外国の権利まで持ってきちゃったら混乱に混乱を重ねるだけになるからというそういうことと、それから国外の権利者と国内の秩序とがうまく整合していないということと、二つあろうかと思いますが、これはどちらになるのですか。

○遠山政府委員 国内的にも円満な利用秩序が形成されている必要があるわけでございますけれども、現在この権利をめぐりまして日本の国内で数件の訴訟が係属しているわけでございます。すなわち貸しレコードをめぐる争いにつきましては、レコードメーカー、貸しレコード業者、双方から数件の仮処分申請及び本訴が提訴されているところでございまして、いまだ円満に利用秩序が形成されたと言えない段階でございます。

 国際的な利用秩序ということの形成ももちろん大事でございますが、少なくとも国内での利用秩序が円滑に形成された後に、国際的な方向につきましては既に幾つかの話し合いが行われており、形成の見通しもあるわけでございますけれども、国内問題の解決というものをまず行わなくてはならないというふうに考えております。

○江田委員 ただいまの答弁は、国内における権利関係の調整の秩序が整備をされれば、外国との関係の権利関係の秩序の形成は、例えば商業レコードの二次使用料の支払い関係などの秩序が既にできているから、これを前提としてやっていけば比較的容易にできる。そこで国内における秩序形成といいますか、一遍秩序はできていたわけですが、それが途中で壊れたわけですが、この修復に全力を挙げる、そういうふうに聞いていいんでしょうか。

○遠山政府委員 先生の御指摘のとおりかと存じます。
 ただ係争中ではあると申し上げましたけれども、本年の三月にある決定が出たこともございまして、当事者間の話し合いによって解決を図ろうとする空気も強まっておりまして、両者の話し合いも行われているというふうなことで、国内的な秩序形成についてもある程度の見通しが立ちつつあるというふうな段階でございます。

○江田委員 その問題に深入りしていきますと時間がかかって仕方がないので、これはこの程度で終わりますが、やはり当委員会で貸与権について著作権法の改正を行った際にいろいろ質疑をした、そのときには、集団的権利処理関係がきちんとできている、そういうことを大切にしてその集団的権利処理関係をほかの分野にもずっと広げていく形で秩序をこれからつくっていこう。そこで、レコード関係ですといろいろな権利者がいるわけですが、実際の作曲家、作詞家あるいは実演家がそれほど異議を唱えていないのにレコード製作者が特に強い異を唱えて、このでき上がった秩序に対してもう一度混乱を持ち込んでいるという事態で、私はそれを非常に遺憾に思いますので、ひとつ文化庁としての強力なリーダーシップをお願いしたいと思います。

 ところで、実演家等保護条約、これはアメリカが締約国でないというのは国際的にはどういうことになるのでしょうか。いささか問題だという気もしますが、アメリカの著作権問題についての交渉、日本は西岡大臣ということなのでしょうが、アメリカの方はどういうことになって、そしてこれまでどういうような経過があるのでしょうか、そのあたりのことをちょっと教えてください。

○遠山政府委員 実演家等保護条約に米国は加入していないわけでございますけれども、その理由は、アメリカにつきましては、レコードを著作物としてレコード製作者を保護しているわけでございますが、実演と放送にかかわる保護がないわけでございまして、国内体制ができていないということで条約に加入していないわけでございます。

 このことに関しまして、アメリカの著作権の問題に関しましては、米国の議会図書館の中に著作権局というのがございまして、そこが担当するわけでございますが、この問題に関しましては日米間の貿易の問題にかかわりますワーキンググループにおいても取り上げておりまして、私どもといたしましては、アメリカに著作権条約に入っていないことについての問題点を指摘したりしている経緯がございます。

○江田委員 ひとつ率直に、これはもう西岡大臣、政治家として機会をとらえてアメリカとお話しになったらどうかと思うのです。

 それと同時に、先ほども同僚委員の質問にございましたが、録音・録画機材に対する賦課金制度ですね。一般にコピーというものに対する集団的な権利処理関係をきちんとつくっていく、いよいよ最後に録音・録画機材に対する賦課金制度の導入というのが残っておるという感じがするのですが、こういう問題について深い見識と、そして同時に大変な政治力をお持ちの西岡大臣が、ひとうここは大いに張り切って、この録音・録画等々に関する最終的な解決を図っていくというためにリーダーシップを発揮される場面かと思うのですが、大臣の覚悟のほどをひとつお聞かせ願いたいと思います。

○西岡国務大臣 お答え申し上げます。
 先ほどアメリカとの関係につきましては遠山次長からお答えを申し上げましたように、実際問題としてはアメリカの国内問題というふうなとらえ方をせざるを得ないわけでございまして、政治的にぜひアメリカも加入されるべきであるということをいろいろな場面で申し上げるということについては、委員御指摘のとおり、やぶさかではないわけでございますけれども、そこのアメリカの内政の問題であるということを前提としてぜひ御理解をいただきたいと思いますし、先ほど次長から御説明申し上げましたように、次長もこのメンバーに加わっておりまして、ワーキンググループ等でもそうしたことについての議論がなされているというわけでございますので、そうしたことを十分見守りながら、委員御指摘のとおり、アメリカについても積極的にこの問題への解決をしてもらいたいということを強く希望をしてまいりたいと考えております。

 それと、委員御指摘のとおり、この著作権の問題はやはり三十条の問題が最終的には残っているわけでございまして、私自身も今日までこの問題に文部大臣に就任いたします前から実は取り組んできているところでございます。ただ、この問題は非常に厄介な点は、もちろん対外的な関係もございますけれども、国内的には、御承知のとおりに我が国がハードとソフトのメーカーが親と子というような関係もございますし、そうしたところでなかなか利害の関係がすっきりしないということもございまして、文部省、文化庁といたしましてもある場面でかなり積極的に動かなければいけないであろう。もちろん著作権審議会での御審議をいただいているわけでございますので、そうしたところできちっとした議論をしていただいたことを前提といたしまして、一方においては、場合によっては委員の皆様方のお力もいただきながら、それぞれの利害が対立する関係団体に対して説得していくという努力もしなければいけない。そして、やはり三十条の問題についてきちっとけりをつけなければ著作権の問題については、先ほど御質問のございました出版の問題とこの問題とが最後に残った問題になるのではないかと考えておりますので、今後とも努力をしてまいりたいと存じます。

○江田委員 終わります。


1989/06/21

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