1990/04/18 |
118 衆議院・商工委員会
日米構造協議について
○江田委員 大臣、大変なときに重要なポストにおつぎになられまして、大変御苦労さんでございます。構造協議、大店法、独禁法、エネルギー、地球環境、消費者重視などなど、商工委員会の抱えるテーマはまさに重要なものばかりで、私は参議院から衆議院にかわりましてこれまで六年間文教委員会でずっと教育改革に取り組んでまいりましたが、このたびは商工委員会初めてでございまして、ベテランの皆さんの御指導をいただきながら張り切って質間いたしたいと思いますので、ひとつよろしくお願いします。
当面する日米構造協議に絞って、しかもその総論だけの質問をさしていただきたいと思います。
一体この構造協議というのは何だろうかということですが、既にもうお話ありましたように、経緯からすれば、日米間に多額の貿易経常収支のインバランスがある、これはもうどうしようもないのでいろいろの手を講じなきゃならぬというので、いろいろなことをやってきた。いずれもどうもなかなかはかばかしくいかない。そこでいよいよそれぞれの国の、まあアメリカの方にも問題ありますが、特に日本の社会や経済の構造に手をつけていこうというような話に次第になってきたんだと思います。
経緯はそういうことですが、もっと根本には、これはアメリカに言われるまでもなく、日本の戦後の、いや戦後だけでなくて、もっと言えば明治維新以来、日本の近代史、現代史の経済や社会の発展や展開の型、その転換、日本がこれまでつくり上げてきた日本的な構造の転換をしていかなきゃならぬ、これは日本自身がやっていかなきゃならぬ、そういう問題だということに私たちは気がつかなきゃならぬのではないかと思っておる。
それがなかなか今まで日本自身にうまくいかなかった面があって、そしていわば先送りの形でここへ来て一気に噴き出しているからかなり重大な課題として起きてきておりますが、やはりそういう問題で、いわば日本はおくれて近代という時代に入って、戦後は今度廃墟の中から再スタートを切って、欲しがりません勝つまでは、ではありませんけれども、極端に言えばあらゆるものを犠牲にして経済の成長をしようと努力をしてきたと言えると思うのですね。労働時間は長いまま、住居は狭いまま、もちろんそれなりに改善はありますけれども、しかし欧米の改善の速度と比べたら随分遅い。通勤時間は長い、わびしい老後、すさまじい受験競争あるいは自然環境の問題もある。こういう人間の生きがいというものを、仕事が生きがい、仕事一本やりに絞ってキャッチアップを目指してやってきて、それで今GNP第二位ということになっている。しかし、何か今までのやり方というのがもう習い性となって、いわば車を回すハツカネズミのようにくるくる回ってとまらなくなっちゃった、どっかで何とかしなきゃ、そういうところに来ているのだと思うのですね。
先進諸外国はもっと生活というところに重点を置いている。達成された経済力を上手に使いこなして、生活しやすいシステム、社会構造というものを、人生のあらゆる段階でそれぞれ生きがいを持った選択ができるようにやってきた。ところが、日本はどうもそれをきちんとやることができていなくて、そこで、その日本の社会や経済の核の部分、構造の核の部分にメスを入れなきゃならぬということになってきた。アメリカもずばりそういうことはなかなか言えません。それは内政干渉とかいろいろある。しかし、いろんなこのたくさんなテーマの中で、行き着くところはそういうところになっているんじゃないか。
私は、日米間でいえば確かにストラクチュァルインペディメンツ、障害ですけれども、それについてイニシアチブを発揮しよう、しかし、我が国にとったらストラクチュアルリフォームじゃないか、構造改革ではないかという気がいたしております。私は今どうも悪名高い二世議員の一人でございますけれども、私の父は構造改革ということを、もう既に何十年前でしょうか、言っておったのですが、親子二代で構造改革ということなんですが、そういう構造改革をやらなきゃいけない、そういうような思いで、問題意識で取り組まなきゃならぬ課題を含んでおる問題だと思っておるのです。
そういう意味で私たちは、これは与野党ということでなくて、心ある政治家、この構造協議という問題については牽引力になっていかなきゃいかぬし、私どももこの構造協議の問題については、もちろん変なことをやってはいけませんよ、ちゃんとそういう意味の私の問題意識に合致する方向でなきゃ困りますが、そういう意味であれば、我々も与党になっていきたいという気さえしておるのです。もちろん、痛みを伴う改革がありますから、そういうところにはきちんと思いを寄せて、温かい手も差し伸べながらですが、そういう問題だと思っているのです。大臣の問題意識をまず伺っておきたいと思います。
○武藤国務大臣 大変、やはり幾ら小なりといえども一つの政党の代表だけの御意見を拝承しておりましたけれども、正直、今お話しのように日米構造障壁協議、これは貿易インバランスの問題から出てきた発想であり、そしてたまたまお互いの経済構造をもう少し改革していくところがあるんじゃないかという話になってきたわけでございますが、今御指摘のとおり、日本の今置かれている立場から見れば、従来の経済政策、通商産業政策を大変思い切って変えていかなきゃならない時期に来ていると私は思います。
例えば、地球環境の問題などは余り今まで、私ども日本の国内の公害対策というものには真剣に取り組んでまいりましたけれども、地球全体の環境保全をしていくというような考え方は、正直新しい考え方だろうと思います。それから、ややもすればやはり生産重視という考え方がなかったといえばうそでございまして、もちろん消費者のことも考えてまいりましたけれども、しかし、ここまで日本の経済が大きくなれば、やはりその恩恵が当然国民一人一人に及ばなきゃいけないのじゃないか。そういう点で、国民一人一人にゆとりと豊かさを持っていただくような社会をつくっていかなきゃならないのじゃないか。私はこれもやはり従来とはいささか産業政策を変えていかなきゃならぬことだろうと思っております。
あるいはまた、貿易の面においても、なかなかこのインバランスはなくならないといえばなくならないかもしれませんけれども、しかし今世界の国々からは、日本という国はどうも自分の国だけがよければいいのか、こういうような批判もいただきつつあるわけでございまして、やはり今後は本当に国際社会に貢献できる日本になっていかなきゃならない。そういう点では、例えばODAを初め海外に対するいろいろな協力というのは、思い切ってふやしていかなきゃならないのじゃないだろうか。しかもそれは実効のある、またそれぞれの国が本当に喜んでくれる、そういうものをこれからやっていかなきゃならないのじゃないか。
いろいろ考えてまいりますと、たまたま今は日米構造障壁協議ということになっておりますけれども、全体的に一体これからの二十一世紀に向かって日本の経済をどういう方向に持っていったらいいのか、その中で少なくとも通商産業政策はどうあるべきなのかということは真剣に考えるべきでありまして、たまたま実は私ども産横審で、今そういう二十一世紀に向けてのこれからの通商産業政策のあり方というものを検討をしていただいております。大体ことしじゅうにはまとまるのじゃないかと思っておりますけれども、今御指摘のとおりだと、私自身も本当に一つの大きな転換期の中で新しい通商産業政策を打ち立てなきゃならない、こういうふうに考えております。
○江田委員 構造協議というのをそういうふうにとらえれば、これは本当に多岐にわたる。アメリカに指摘をされて、まだ指摘をされていない問題もいろいろあるだろう、例えば労働時間の短縮問題などはそれほど強くは出ていないですね。しかし、恐らく今後の日本の経済社会の構造からいえば、大問題になってくると思います。
あるいは市場の競争性の確保といったこれなども、日本の市場は別に競争がないわけじゃないので、非常に激しい競争もある。しかし、その競争は、限られた、選別されたものだけで競争をやっていて、ほかのものが参入しにくいというのは、外国にだけじゃなくて日本の中にだってある。そうしたことも改めていくとか、あるいは企業も個人も政府も、経済の主体としてのビヘービアを改めていかなければならぬといったこともありまして、多岐にわたる。しかし、このインバランスの改善につながるものであっても、インバランスの改善ということ自体には有利であっても、日本の経済や社会が持っているすばらしい特質までなくしてしまってはいけない。
これは別にインペディメンツじゃないので、日本のストラクチュァルキャラクタリスティックスであっても、インペディメンツと考える必要はない。それは何であるかというのは人によっていろいろ、例えばそれが日本の経営の人事管理のあり方とか労働組合のあり方とか、そういうことを挙げる人もいるでしょうし、それはいろいろあると思いますけれどもね。したがって、そうした日本自身が抱えている構造的課題を解決する、それはインバランス改善に役に立つかもしれないし、立たないかもしれない。しかし、やらなければならぬことだという意味で、この構造協議を誠実に実行していって、しかしインバランスは改善されなくても、それはそれで理解を得られるという言い方もあるでしょう。しかし、経緯からするとインバランスの問題から出てきているわけですから、インバランスに何か出てこなかったら、やはりこれは問題解決にならないということもあるでしょう。その辺で大臣も、先ほどから答弁をお聞きしておりますと、なかなか微妙な言い回しをされております。
私は、いずれにしても、そういう微妙な問題ですので、日米間に認識のギャップがあってはいけないと思うのですね。これは交渉当事者の中にギャップがあってはいけないだけでなくて、アメリカの世論あるいは日本の世論、両方の世論の中にギャップが起こるようなことはしちゃいけないと思っておるのです。まして、両方のいろいろな交渉事を言葉の問題でうまく小手先でごまかすようなことがあっては、これはとんでもない話だと思います。どっちが翻訳だか知りませんが、インベディメンツというのを「問題」という日本語で使う、日本には「問題」ということで、日本国民全部これをとらえる。アメリカの方ではインペディメンツという言葉でとらえるというのは、何か認識のギャップにつながるような気がするのですが、先般のレポートを拝見しますと、もっといろいろ出てくるのです。
例えば「(日本の中間報告に対する米国代表団のコメント)」というのがあるのですが、アメリカ側のもので言えば、その中に、これは通告してありますからすぐおわかりだと思いますが、最初のパラグラフです。「Many
of the measures in the interim report should contribute to the goals of opening
markets' reducing trade and current account imbalances' and prompting consumer
interests'」「ゴールズ」という言葉が入っているのです。ところが、日本の「日米構造問題協議(日本の中間報告に対する米国代表団のコメント)」の中には、「市場開放、貿易及び経常収支不均衡の削減、及び消費者利益の増進に資すべきものである。」「ゴールズ」というのが抜けちゃうというのは、どうして「ゴールズ」を抜かしたのですか、「ゴールズ」というのはなくても日本語として通じるのですか、どうですか。
○畠山(襄)政府委員 確かに御指摘のように、今のところは「市場開放のゴールに資する」と、リポートが「シュドゥコントリビュートトゥーザゴールズオブオープニングマーケッツ」、こう書いてございますのに、翻訳の方は「増進に資すべきものである。」こうなっているわけでございますが、これは必ずしも私ども通産省が責任を持って翻訳したものではないので恐縮でございますけれども、想像いたしますに、「コントリビュートトゥーザゴールズ」というのが非常に訳しにくかった、「目的に貢献する」というところがそのままだとちょっと訳しにくかったということで、それをいわば意訳したということであろうと思います。御指摘のように、「ゴールズ」というのに相当な思いを込めて向こう側は言っているわけでございましょうから、あるいはその「ゴールズ」というのをはっきり出した方がよかったかもしれないと思いますが、理由は恐らく、「目的に貢献する」というのが日本語として何となくこなれてないなというふうに考えてこうやったのだろうと思います。
○江田委員 善解をするやり方もあるけれども、誤解を生む取り扱いでもあると思います。アメリカ側は、「市場開放、貿易及び経常収支不均衡の削減、及び消費者利益の増進」ということを「目的」だ、「ゴールズ」だと明確に策定をして、その達成に資するのだというように言っているのに、何かその辺を意訳して、こなれないからとかなんとかと言ったのじゃ、向こうは明確にゴールを持っている、日本の方はゴールを持ってないということになるのじゃありませんか。私は、その辺のギャップがあってはいけないということを言いたいのです。
大臣にお聞きしてもお答えしにくいでしょうから結構ですけれども、今の場合はアメリカのコメントを日本が翻訳したということで、これは翻訳はだれですか。
○藪中説明員 お答えいたします。
外務省の方で関係省庁と御相談しながら翻訳したものでございます。
ただいま委員御指摘の点につきましては、米側のコメントというものの翻訳でございますけれども、ただいまの答弁にもありましたように、できるだけこなれた表現にしようということでございます。同様のことは、日米で共同記者発表というのをそのときに出しておりますけれども、そのときの中にほぼ同様の趣旨が書かれてございますが、そこでは必ずしも「ゴールズ」という言葉が使われておりませんで、いずれにせよ、こういう開放された市場であるとか競争力の強化に貢献する、あるいは資するという表現が共同記者発表にも使われておりまして、全体で読めばそういう意味でよりこなれた表現ということで使わせていただいた次第でございます。
○江田委員 もっと言いましょうか。日本側がこういうことをやりますというものを出したレポートがありますね。「排他的取引慣行」というところなんですが、これはどちらがもとでどちらが翻訳なのかよくわかりませんけれども、アメリカの方では、Iが「ベイシック・レコグニション」、IIが「メジャーズ・トゥー・ビー・テイクン」そのIIの1の(1)の後段のところには、「In
addition' an Ombudsman system will be newly estableshed in the FTC to
deal promptly with information and complaints from foreign businessmen and
foreign firms concerning such cases as violation of the Antimonopoly Act.」FTCというのは公正取引委員会です。オンブズマン制度を新たに設立すると書いてあるのですが、日本でどうなっているかといいますと、「外国事業者からの独占禁止法の違反事案等に関する通報、苦情の申し出について、公正取引委員会に相談・苦情窓口を設置し、迅速な処理を行う。」これなどは意識した誤訳ではないかという感じさえいたしますが、いかがですか。
○藪中説明員 ただいま御指摘の点は、まさに「公正取引委員会に相談・苦情窓口」というのが、日本語が正文でございます。それで、その正文を英訳いたします際に、できるだけ英語としてもこなれて外国から見てもわかりやすい表現にしたいということを心がけまして、関係省庁とも緊密に相談して作業した次第でございます。
そこで、今の「オンブズマン・システム」という表現を用いましたのは、一つには、それが民間と行政の中立性を維持するという形で苦情処理を行うという、この目的に合致した英語ということで言えばわかりやすいという判断がございまして、ちなみに、経企庁に設置されておりますOTOのオフィスもオンブズマンシステムという、オンブズマンという表現を用いたこともございまして、比較的なじんでいるということで使わせていただいた次第でございます。
○江田委員 向こうの人にわかりやすいといったって、誤解を持ってわかられても困るわけでしょう。そういうことが重なって変なミスマッチが起きているのじゃありませんか。私どもは日本にオンブズマン制度をつくれつくれと言って、日本では、政府の皆さんやなんかはつくらないつくらないと言っているのでしょう。それが、外国へ行って、オンブズマンが日本にあるなんというようなことをやったら、それは変なことになるのじゃないですか。
もう時間がなくなっていますのでこれ以上申し上げることができないのですが、ほかにもいろいろありまして、例えば審議会などにメンバーを加えることは、英語では「ゾーズ フー キャン エフェクティブリー リプレゼント コンシューマー インタレスツ」、つまり、消費者の利益を有効に代表し得る、そういう人をメンバーに加える。素直に読めば、これは消費者運動などの代表者を加えるという趣旨だと思いますが、これが日本語では「消費者利益を効果的に反映する者をメンバーとする」。「効果的に反映」なんというと、何か通産省のだれかでも入れておけばいいというようなことになってしまうような、そういうことをしてはいけないと思うのです。
ですから私は、いろいろな話し合いの過程あるいは中身からもっと自由闊達にだれにでもわかるようにやらなければいかぬ、構造協議は日本の中でも痛みを伴う部分にまでメスを入れなければならぬところもあるわけですから、国民的な理解も得ながら進めていかなければならぬことですから、ぜひこのすべてのことを国民に透明に公開してやっていかなければならぬ、こういう課題だと思うのですが、最後に、大臣にその点だけを伺って終わります。
○武藤国務大臣 御指摘のことはごもっともでございまして、私どもは、これからこの日米構造協議に関する問題については、国民各層の御理解をいただくためのPRと申しますか、努力をしていかなければならぬことは当然でございますので、その点についてはわかりやすく、同時に間違い、誤解を受けないように、英文については日本語ができるだけ忠実に訳されていくように、また日本語は英文に忠実に訳されていくように、外務省は外務省で努力したと思いますけれども、今後国民の皆さんにお話をするときには、その辺は誤解を招かないようにしていくことは当然だと思いますので、政府としてそのような努力をさせていただきます。
○江田委員 終わります。
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