1990/06/13 |
118 衆議院・商工委員会
不正競争防止法の一部を改正する法律案について
○江田委員 先ほどの川端委員の質疑の際に、国民あるいは関係者に本法の趣旨について的確に周知させる等の措置を講じなければならぬ画期的な法律ではありますが、この法律、運用いかんで職業選択が不当に制限されることもあったり、あるいは営業秘密、本来保護され得るのに十分な管理をなされていなかったというようなことがあって、保護されるべき営業秘密であっても保護されないようなことも起きたりというようなこともあり、周知徹底ということが言われまして、局長の方でそういう解説書等をつくって適切な措置を講ずるのだ、こういう答弁があったわけですが、この法律、やはり国民に本当によく知ってもらわなければいけないと思います。
しかし、どうも日本の法律というのは何か国民から遠いという感じがいつもあるのですね。法律自体が非常に持って回ったような言い方をする、法律独特の言い回しをするということもあるけれども、同時に日本の法律のかなりのものがいまだに片仮名表記であるということがあると思うのですが、せっかく分量にして恐らく三分の一からの改正ということになるのでしょうか、従来の不正競争防止法に考えようによっては全く新しいものをつけ加えるわけですね、手法としては従来のものを使うにしても。そこでこの機会に、ひとつこういう法律については平仮名表記に改めて国民の皆さんに親しんでもらえると言ったらちょっと、それなら法律全体の書き方ももっとわかりやすくすればいいじゃないかということになるかもしれませんが、せめて平仮名表記にするぐらいのことはこの際した方がよかったのじゃないかと思いますが、いかがですか。
○武藤国務大臣 法律というのは国民のためにあるはずでありまして、わかりにくいものは決して私は国民のためでないわけでございますから、できるだけ法律というのは国民にわかりやすく書かれるというのは当然のことだと思います。とりわけ今御指摘のように、今度のこの不正競争防止法のように、従来、たしか昭和九年に制定されたものでございますから、その関係で片仮名でずっと来ちゃった、しかしもう現実に今ほとんど日本人というのは片仮名になじみがないわけでありまして、やはり平仮名になじんでいるわけでございますから、この機会に平仮名にしてしまった方がいいのではないかという声は、正直私どもの党の方にもそういう声が非常に強かったことは事実でございまして、ぜひ片仮名を平仮名に改めろという強い要請もございました。早速内閣法制局と相談をいたしたのでございますが、内閣法制局というのは役所の中でも特にかたい役所でございますから、なかなかその辺のところが、従来の一つの法律改正に当たりましての考え方としてのルールを持っているようでございまして、この間の民法第四編のように編から章から款からすべて変えてしまうというようなときにはこれは別といたしまして、確かにボリュームといたしましては相当今度もあるわけでございますが、内容的にそういうつけ加えるものが全体から見ればある程度少ない部分だというものについては片仮名だというのが従来のルールになっているようでございまして、今回のこの特別国会に出されました例えば商法の改正案、これなども片仮名にそのままになっておるわけでございます。
私どもといたしましては、しかし、先ほど来緊急性という形でお願いをいたしておりますけれども、将来においてはやはり法律というものはできるだけ平仮名にしていくというのが私は当然の方向ではなかろうか、ただ時間的にも今間に合わないものでございますから、その点は御理解をいただきたいと思います。
○江田委員 そのことですぐにこの法律に反対だとか賛成だとかということではありませんけれども、やはりいただいた資料を見たりしましても、法律案要綱、第一と、こうすっと頭に入ってきますね。それで法律、こうなりますと、たちまち片仮名で、しかも文章も、何々することができるというやつがスルコトヲ得とか、わからなくなってしまうわけで、これは通商産業省に責任を負う通産大臣ということを離れて、閣僚の一員として、そして政治家として、今片仮名の表記の法律を平仮名に改めようというような機運も多少盛り上がってきているやに聞いておりますので、ぜひこれはそういう方向で大臣にイニシアチブをとっていただきたいと思いますが、いかがですか。
○武藤国務大臣 私はその相談を受けましたときにできるだけ平仮名の方がいいのじゃないかという主張をしたわけでございまして、先ほど来の、物理的に今回の場合はそういうことでやむを得なかったと思うのでございますが、やはり内閣法制局の考え方を少し改めさせていかなければいけないと思うのでございます。
そういう点では、幸い私の方の党もそういう方向で今努力をいたしておりますので、これについては多分与野党で意見の違いはないと思いますから、ぜひひとつ与野党一致して――法律をつくるのは立法府の国会なんでございます。内閣法制局は、あくまで法案をつくる意味においては責任を持っておりますけれども、法案を決定するのは立法府でございますから、その立法府の方から内閣法制局に対してそういう声を強く出していくということは大変いいことではないかと私は思っております。自民党の方はそういう方向を強めていくようでございますから、ぜひ野党の皆様方にも御協力をいただいて、何とかこの機会にそういう方向が確立されれば大変結構なことだと私は思っております。
○江田委員 野党の方も昨今とかく足並みの乱れとかすき間風とかいろいろ言われますが、こういうことでは各党全部一致できると思いますので、ぜひひとつやりたいと思います。不正競争防止法は「ぶどう」という字だけが平仮名なんですね。おもしろいことです。
それから、先ほどからの質疑を聞いておりまして局長の先ほどの答弁でいいのかなということがちょっとあったのです。善意者に関する特例です。質問通告していないのですが、善意者に関する特例については、知らないあるいは知らないことについて重大な過失がないということを取得者側が立証しなければならないという趣旨の答弁をされたのです。しかし民法百九十二条には善意、無過失、平穏、公然に占有を取得した者は権利を取得するんだという規定がございます。これは占有の規定ですが。その百九十二条の善意、無過失、平穏、公然中、善意、平穏、公然については民法百八十六条一項で推定されているわけですね。過失については立証しなければならぬのですが、この善意者の特例は重過失ですからね。ですから、今のところはもしそういうケースが出たときの裁判所の判断におゆだねになっておいた方がいいのではないかという気がいたしますが、どうですか。
○棚橋政府委員 原則として、不法行為の場合の挙証責任が原告にあり、かつ二条の今の救済規定については挙証責任がむしろ善意者の方にあると申し上げましたが、具体的には、委員御指摘のように、確かに裁判所において今後いろいろのケースにおいて御判断されるべき問題だということで申し上げておきたいと思います。
○江田委員 立法の際の挙証責任のあり方などについての議論が訴訟実態と余り離れてしまってもちょっとまずいので、念のために質問させていただきました。
それから、秘密の関係のことについての訴訟ということになりますと、これは訴訟としてはなかなか厄介な訴訟で、もう同僚委員からいろいろな質問もございましたが、司法上いろいろな配慮が必要だ。立証について細かな立証まで求めていると秘密が秘密でなくなる。あるいは訴訟手続の中ですべて記録に残してそれを訴訟記録の公開という形で公開してしまうとこれまた秘密でなくなる。そこで訴訟手続と離れたところでの審理にゆだねて、その結果をうまく工夫をして訴訟手続に乗せて処理をするとかいろいろな方法があるわけでしょうが、そうしたことについて司法上の配慮というのは、これは現実的に何とかやってくださいよということなのか、あるいは最高裁判所規則といったようなことをお考えになっているのか、そういう点はいかがですか。
○棚橋政府委員 この点は率直に申し上げまして、私どもの立場としては大変難しい問題であるわけでございまして、先ほど申し上げましたように、営業秘密を守ろうとして、それが公知になってかえって困るということになれば、本来の権利保護の建前が貫かれないわけでございます。
委員つとに御承知のように民事訴訟法二百八十一条一項三号などの証言拒絶の事由となる場合である程度保護される場合もございましょうし、あるいは場合によると、民事訴訟法の二百六十五条の裁判所外での証拠調べ等においても工夫をして、具体的な訴訟手続上そういう配慮が図られていけばいいがなという期待は持っております。
ただ、この問題は通産省の立場で軽々に申し上げられる問題ではなくて、民事訴訟手続全体、憲法上の原則との兼ね合いでどのようにお考えになるか、いろいろ難しい問題でございますが、私どもとしましてはこの法案が成立をして、その運用状況を見た上でその必要があると判断した場合には、関係方面に場合によるとお願いをする必要性もあるか、このように考えております。
○江田委員 これは将来の検討課題ということですね。
こういう営業秘密ということもあるし、あるいは特許の関係のことなどもあったり、同様の問題で例えば報道の自由と取材源の秘匿といった関係もあったり、裁判は公開ということだけで一本調子で済むかという現代社会に特有の新しい問題が出てきている。個人の権利を守るということと、裁判の公正の担保のための公開との接点。例えばエイズに関するいろいろな訴訟など、これもなかなか難しい問題で新しい問題ですので、これもまたみんなで検討しなければいけません。
それから、この法律で営業秘密について差しとめということをかぶせたわけで、不法行為の救済としては一般には損害賠償、そして特殊に謝罪広告であるとかがあるわけです。それから、例えば人格権とかは差しとめということが不法行為の場合でも許されるのではないかといった議論があって、差しとめということも認められるケースもあるわけですが、この法律で差しとめという規定をつくったから、その反面として、そういう具体的な法規範がないときには不法行為の差しとめによる権利の回復ということは認められないんだ、こういうようなことになると、これはこの法律が本来予想しているところを超えて効果を持ってしまうということになりかねないのですが、そうしたお考えはないんでしょうね。これは念のために伺っておきます。
○棚橋政府委員 御指摘のようなそういう考えは我々の方にはございません。民法七百九条に基づく損害賠償請求権に加えて差しとめ請求権を本法で認めるところにこの法案の骨子があるわけでございまして、不法行為に係る民事的救済の観点からは、基本的には従来の不正競争防止法と民法の関係と全く同様に、民法の不法行為法の特別法として位置づけられているものだと思います。
今委員御指摘のように、不法行為法の中で公害関係だとか人格権の問題だとかで差しとめ請求が認められたケースも従来はあるわけでございますが、そういうものを制約するものであるとは考えておりません。
○江田委員 司法上請求するその内容ですが、不正行為の停止または予防、これが一条の三項関係ですか。それから一条の四項の関係で停止または予防に必要な措置、そういう二つの立て方になっているのですが、これはどういう関係になるのですか。できれば具体的にお示しいただきたいと思います。
○棚橋政府委員 お答えいたします。
不正行為の停止、予防を行う場合の具体的な執行方法につきましてはむしろ委員が一番お詳しいかと存じますけれども、管轄の地方裁判所に対し不正行為の差しとめを求める訴えを提起いたします。裁判所においては、一般的な訴訟手続に従い口頭弁論を行った後に、例えば「原告は別紙目録記載の製造方法を用いた生産を行ってはならない。」等の判決を下すケースがあると思います。また、被告が生産設備等の不正行為の用に供する設備等を有する場合には、使用の停止に附帯して、その設備の廃棄請求を行うこともできるわけであります。
なお、この判決が確定した後に被告がなお判決を無視して生産活動を継続する場合には、民事執行法で定める間接強制あるいは代替執行によって、強制執行の方法によってその履行を確保することとなろうかと思います。
また、取得行為や開示行為が一回的なものであっても、そのような行為の生ずるおそれがある場合には予防的請求が可能であると考えておりまして、この請求が認められた後に被告が不作為を命じた判決を無視して所得や開示を行ってしまった場合には、行為が終了しているため、もはや強制執行はできませんが、損害賠償請求を新たに起こすとともに、その使用や再開示の差しとめを図ることができると考えます。
また、予防請求に附帯いたしまして当該営業秘密が化体した媒体、これはフロッピー等でございますが、それらの廃棄請求を行うこともできますけれども、この場合には代替執行で履行の確保が可能なケースもあると思います。
また、反復継続的な取得、開示行為の場合には、間接強制を行うことも可能と考えます。
それから、不正行為の停止、予防に必要な措置の具体的な例でございますが、具体的には不正行為の組成物とは営業秘密を化体した媒体等でありますが、不正行為により生じたものとは営業秘密を用いて製造された製品等でありまして、不正行為に供した設備とは営業秘密を使用するための製造装置等であります。
営業秘密については、その特質から予防請求のウエートがかなり大きく、かつ予防請求に伴う廃棄・除却請求権が中心的手段になることが予想されますことと、特に営業秘密が固定された媒体により取得、開示されることが多いという特殊性を有しておりますので、不正行為の予防に際し媒体自体の廃棄の必要性が高いこと等の理由から、廃棄・除却請求権の規定を設けておるわけでございます。
○江田委員 教科書的にはそういうことになるのですが、実際にはなかなか難しくていろいろな技術的な考慮が必要、強制執行をするということのためには相当内容が特定してないといけませんので、いろいろ困難だとは思いますが、いずれにしても時間が参りました。終わります。
○浦野委員長 これにて本案に対する質疑は終了いたしました。
─────────────
○浦野委員長 これより討論に入るのでありますが、討論の申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。
不正競争防止法の一部を改正する法律案について採決いたします。
本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○浦野委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。
お諮りいたします。
ただいま議決いたしました本案の委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○浦野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決しました。
1990/06/13 |