1991/11/20

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衆院・商工委員会  サンタクルス事件とODA四原則について


○江田委員 渡部通産大臣、御就任おめでとうございます。たしか私がまだ参議院の時代ですから今から十二、三年前でしょうか、近畿地方の大学の教育のシンポジウムか何かで御一緒させていただいたことがありまして、以来大臣には先輩としていろいろ御指導を賜りたいと思っておりました。今回の大臣御就任、大変期待をしておりますので、ひとつぜひ頑張っていたださたいと思います。

 最初の質問ですので通商産業行政全体にわたって議論させていただきたいのですが、時間が余りありません。いや、これは文句を言っているのではなくて、委員長や同僚の委員の皆さんの御配慮で二十分という貴重な時間をお与えいただいているので感謝をしておるのですが、それときょうは緊急の問題がありますので、もう早速テーマを絞らせていただきたいと思います。

 実は前の国会の終わりごろ、九月の二十七日にこの商工委員会で私は当時の中尾通産大臣に政府のいわゆるODA四原則、平成三年四月十日参議院予算委員会における海部総理の答弁要旨というものが私の手元にありますが、ここにあるODA四原則について質問をいたしました。被援助国の軍事支出の動向、兵器の開発、製造等の動向、武器輸出入の動向、そして四番目に被援助国の民主化の促進及び市場指向型経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況、こういった点に十分注意を払いつつ援助を行う。もちろん概括的な二国間関係とか安全保障環境を含めた国際情勢とかいろいろ総合勘案するわけですが、私はこの環境の原則もこの中に加えたらよかったんじゃないかということをつけ加えたわけですが、特に基本的人権と自由の保障状況について伺いました。そしてこれに対して中尾大臣からは基本的に賛成だ、その上十分なる草の根の調査が必要である、十分なる資料と十分なる情報によって初めて的確なる判断が下される、こういうことをおっしゃられたわけですが、この点について渡部新大臣の基本的なお考えをまず承っておきたいと思います。

○渡部国務大臣 今江田先生からお話しの四原則、基本的に同様でございます。

○江田委員 さまざまな資料を十分に把握した上でその基本的人権あるいは自由、民主化、こうしたことについての判断を下さなきゃならぬ。そういう十分な資料、情報ということの中で中尾前大臣は草の根の調査あるいは草の根運動的に調査をする、こういう言い方をされたわけで、これは草の根というのが何を意味しておるかはそれ以上時間がなかったので詰めておりませんが、恐らく単に政府間の情報だけでなくてNGOといいますか非政府組織あるいは人権団体、市民団体あるいは個人レベルの情報、その情報価値はそれはいろいろですけれども、そうした情報をきちんととにかく受けとめるという姿勢で的確なODAを行うために努力をする、こういう趣旨だったと思うのですが、この点も渡部大臣は同じお考えだと伺いたいんですが、よろしいですか。

○渡部国務大臣 今江田先生お話しの考え方、私も同様でございます。

○江田委員 お答えが簡単で時間が節約できて大変助かっております。

 そこで、実はきょう私は朝、委員会を時々抜けて大変忙しい思いをしたんですが、それは一つはミャンマーですね、ミャンマー、ビルマ。アウン・サン・スー・チーさんが率いる党が選挙で大勝したのに実は議会が招集されない。アウン・サン・スー・チーさんはノーベル賞を受けた。しかし自宅軟禁で出てこれない。もしノーベル平和賞をもらいにオスロヘ行ったらもう帰ってくることができないといった状況ですね。まあこれは象徴的な事例ですが、これについての勉強会を一つ行いました。十二時からは今度は東チモールの問題について記者会見を行いまして、非常に忙しかったんですが、この東チモールです。これは、一九七五年にインドネシアに武力侵攻されて、その後インドネシアの占領下にある東チモールという場所で最近重大な人権侵害事件がどうも起きた。インドネシア国軍による武力弾圧事件があったわけです。きのうの夜の九時のNHKの「ニュース21」のトップニュースで報道されまして私も見ましたが、これは大臣ごらんになったでしょうか。きのうの夜の九時の「ニュース21」

○渡部国務大臣 ちょっとその時間テレビを見ておりませんでした。

○江田委員 それは大変残念で、だけれども、私もいつもテレビ見ているわけじゃないからそのことがどうというんじゃありませんけれども、ごらんになっておれば大臣もきっとびっくりされたと思いますよ。墓地の門のようなものがあるのですよね。その門のところへ人がばあっと逃げてくるわけです、門の中から。銃の音がバンパンバンと聞こえるという、まさにたまたま門があるので第二の天安門事件じゃないかなんて、冗談言っている場合じゃないのですけれども、そういう事件です。私は、これは先日宮澤総理が所信表明演説で、今「新しい世界平和の秩序を構築する時代の始まり」だ、そして日本は「国際社会において名誉ある地位を占め、国民が誇りを感ずることができる品格ある国となるようこ頑張る、こういうことをおっしゃったわけですが、もし大臣がこのテレビをごらんになったら、こういう状態の国に、日本のODAはインドネシアに一番たくさん行っているわけです。インドネシアから見ると日本から来ているODAが一番大きいわけです。これでいいのだろうかということを感ずるべき、そこから先どうするかは別ですよ、感ずるべきそういう映像だったような気がするのですが、どうです大臣、ちょっとそのビデオをもう一遍見てみようという気になられませんか。

○渡部国務大臣 ぜひ取り寄せて拝見させていただこうと思います。

○江田委員 ぜひひとつこれはごらんになっていただきたい。ODA四原則から見ても看過できない事件だと思うのです。

 そこでこれは、事実関係の究明というのは外務省のまずは第一次的なお仕事かと思いますので、外務省、事実関係をどう把握しており、またこれにどう対応されたか、これからどうされようとしておるか、これを説明していただきたいと思います。

○林説明員 お答え申し上げます。
 全体としてまだ調査中という前提で手短にお話しさせていただきます。
 この十二日の朝、東チモールのジリ市におきまして、去る十月二十八日に別の騒擾事件で死亡いたしました二名の青年の埋葬されております墓地に集まっておりました群集と治安部隊が衝突を起こしました。軍の発砲等によりまして、インドネシア政府の発表によりますれば、死者二十名及び負傷者九十名以上に上る惨事となった由でございます。

 これに対しまして我が国といたしましては、十四日にインドネシア政府に対しまして、一つ、かかる事件の発生は遺憾であり、二つ、事実関係の究明と情報の提供を求めたい、また三つ、かかる事件の再発防止とこれ以上の流血回避を希望する旨の我が国政府の考え方を申し入れいたしました。この申し入れは、東京でアジア局参事官から在京の公使、在京インドネシア大使館の公使を招致して行うとともに、念のためジャカルタにおいても外務省に対して行っております。さらに、十四日から三日間、在インドネシア大使館の館員二名を現地に急遽派遣いたしました等、みずからも情報の収集に努めております。このことは我が国の本件に対します関心の高さを示すものというふうに私どもとしては考えております。

 これに対しましてインドネシア政府でございますけれども、十七日、インドネシア政府はスハルト大統領の指示に基づきまして、最高裁判事をリーダーとし外務、内務、法務各省、国軍、最高諮問会議及び国会の代表、いわば国を挙げての調査委員会を設置いたしまして、本件事件の真相究明のため徹底的な調査を行う旨、また政府としては本件を深く遺憾と考える旨を明らかにしております。

 いずれにいたしましても、我が国といたしましては、こうした調査委員会の活動を通じまして十分な調査が行われて早急に事件の真相究明がなされること、及びこれを踏まえましてインドネシア政府がしかるべき措置をとることを期待しておる次第でございます。
 以上でございます。

○江田委員 比較的早い段階での迅速な措置に感謝をいたしますが、そこで、私たちも事実関係については国際的ネットワークで調査をしておりますが、十二日の事件だけでなくてその後今度は十四日には逮捕者が、六十人にもわたって逮捕されている者が銃殺をされたという、裁判なき処刑ですね。これは事実かどうかの確認ということになると難しいですけれども、そういう報道まで出てくるという大変に心配な状態になっている。死体はもう運び去られているのではないかとか、インドネシア政府は、今二十人というようなお答えだったのですが、報道によると十九人と発表したということですが、百十五人という死者が、いやいや百八十人じゃないかというようないろいろな情報があるわけです。相当な数に上っていることは間違いない。しかもこの後なおいろいろなことが起きてくるということが心配されるわけです。

 そこで外務省にちょっと伺っておくのですが、私どもがこの東チモールのことについてどうなっていますかというと、もう再三の質問に常に、いや状況はだんだんよくなっています、次第に安定してきております、そういうお答えだったのですが、そういう、状況がだんだんよくなって次第に安定していって、そこへ突然ぽんと起きたのか、それともやはりこれは深い深い内攻した不満あるいは深い事件の背景、根があるのか、どう認識されておるのでしょうか。

○林説明員 お答えいたします。
 外務省といたしましては、累次現地東チモールに在インドネシア大使館の館員等を派遣しておりまして、昨年の五月及び十月にも、これは在ジャカルタの外交団と共同でございましたですけれども派遣いたしまして、現地の実情把握というものに努めております。こうした中で私どもとしては、長い目で見ました場合には全体として、八九年からチモールの解放が行われる等事態の改善という方向にあったように受けとめておりました。それだけに、今回の事件の発生というのは非常に残念に思っております。ただ、今回の事件がどういう形、どういう意味合いを持って発生したものであるかということにつきましては、なおインドネシア側で調査を進めておる、これから本格的な調査が行われる段階でございますし、私どもとしても引き続きさまざまな情報を収集してまいりたいと思っております。

○江田委員 やはり事実というものを知る方法について、もっとさまざまな方法を駆使する必要があると思うんですね。これは通産大臣もひとつぜひ聞いておいていただきたいのですけれども、在外公館から向こうの政府を通じて手に入れた資料、あるいは在外公館の人間が現地に行って見てくる、それだけで事がわからないケースというのはいっぱいあるので、私どもがいろいろな草の根資料でこんなこともあるぞ、あんなこともあるぞ、現地の人間はこんなことを不安に思っている、こんなことを心配しているぞということをいろいろ申し上げても、まあそれはなかなか資料的価値としてはいろいろあると思うのですけれども、常に政府は、いやいや平穏無事でございます。今回のような事件は平穏無事だったらそんなにぽんと起きないですよ。私は、やはり今度のこの十二日の事件でも、インドネシア側が設立を決めた真相究明委員会、この出してくる答えだけでなくて、それが本当に確かなのかということを日本の独自の草の根調査で調べていただきたい。向こうが出してくるものをそのままうのみにするのではなくて、日本も日本としてのそういうさまざまな真相究明の努力をするんだというその決意を外務省の方で聞かしていただきたい。

○林説明員 お答えいたします。
 先ほど御説明いたしましたとおり、私どもとしても現地に急速館員を派遣する等独自の情報収集ということについては相応の関心を持っておりまして、現地に参りました館員も、決して政府の関係者だけではございませんで、市井の人々の話も伺う等の形で情報を収集しております。今後とも引き続きあらゆる形での情報収集に努めてまいりたいと思っております。

○江田委員 事前に質問のためのやりとりで伺いましたら、現地の人たちが調査をして帰ってきた報告によると、現地は静ひつであると、どういう言葉でしたかね、穏やかである、そういう報告だったというふうに伺いましたけれども、それは穏やかなんじゃなくて、やはり圧殺されているんじゃないですか、自由な声が。そこまで見抜かなければいけない。

 私どものところに山ほど資料が集まってきて、もう私の部屋のファックスはパンク寸前とはいいませんけれども、随分集まってくるのですが、ひとつぜひ逮捕者とか行方不明者、そういう人の名前も挙がってくると思うので、これらの人々の安否についてインドネシア政府に確認の要請をしていただきたいと思うのです。これはこれからのことですが、いかがですか。

○林説明員 私どもとしては引き続きこのチモールの状況、政治状況というものに対して十分な関心を払ってまいりたいと思います。

○江田委員 私は何もインドネシアをいじめるとか日本が優位に立つとかそんなことで言っているのじゃなくて、そういう関心を示していることが、インドネシア政府が基本的人権というものを大切にしないと国際社会で生きていけないよという認識を持っていく、そういう手だてになると思うから言っているわけで、このODA四原則についても、これは何も日本がお金を出す場合のさじかげんのことの原則じゃなくて、世界から武器をなくしたいあるいは市場経済を確立していきたいあるいは基本的人権や自由を世界に確立したい、こういう日本の意思があるからこそこれをやろうと言っているわけですから、その都度、機会あるごとにそういう発言をやっていくべきだと思うのです。

 そこで通産大臣、これは事実関係がまだ完全に明らかでないので今の段階でどうするという答えは求めませんが、実はもうかなりのところまではインドネシア政府も認めていて、さらにポルトガルはもとよりアメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなども声を上げておりまして、ODA四原則に照らして、この間ハイチヘの援助停止が行われてこれが適用第一号のようですが、事実いかんによってはインドネシアの援助停止を考えるべきだ、こう思います、事実いかんによってはですよ、もちろん。今すぐそうするというのではないですが、そういうこともあり得ますよということを通産大臣、おっしゃるべきだと思いますが、いかがですか。

○渡部国務大臣 ただいまの江田委員と外務省政府委員のやりとり、興味深く聞かせていただきましたので、これから勉強してみたいと思います。

○江田委員 勉強してみたいというお答えをいただきましたが、その瞬間に「質疑持ち時間が終了いたしました」という紙が来たので終わりますが、私はやはり、少なくとも事実関係が明らかになるまでは、実施中のものはともかくとして、新規の援助は中止をしておくべきじゃないか、それだけの大きな事件じゃないかと思います。これは……

○武藤委員長 ちょっと外務省に聞こうか。――それでは最後に、外務省小島調査計画課長。

○小島説明員 お答え申し上げます。
 先ほど来御答弁申し上げておりますとおり、インドネシア政府は調査委員会というものを設置いたしまして調査を行っておるところでございまして、私どもといたしましては早急に事件の真相の究明がなされることを期待しておるわけでございます。したがいまして、当面私どもといたしましてはインドネシア政府の調査の動き、結果、そういうものを見守っていきたいと考えております。

○江田委員 ぜひひとつ、単に見守るとか研究するとかだけじゃなくて、この事件、こういうことを通じて基本的人権を世界に確立するのだという日本の意思を示していただきたいと思いますが、時間になりましたので終わります。
 ありがとうございました。


1991/11/20

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