衆院・商工委員会
○武藤委員長 江田五月君。
○江田委員 両先生には大変貴重なお時間を我々のために割いてくださいまして、ありがとうございます。
同僚委員からいろいろな御質問がございまして論点はもう尽きているかと思うのですが、私の持ち時間十分ですので、告発の問題に限ってちょっと教えていただきたい、質問したいと思います。
この埼玉の談合事件のことなんですが、結局告発をしないという公取の決定になった。これは普通の国民から見ると、何ともまあおかしなことだということだと思うのですね。ここにこの独禁法違反があるじゃないか、それについて勧告まで出しているじゃないか、それなのになぜ告発できないんだと先日この委員会で尋ねましたら、公正取引委員長は、行為者が特定できないんだ、したがって告発できないんだ、こういうことなんですが、告訴、告発の法理論というのは、私も随分前ですが若干刑法も勉強したことがあるのですが、そのときの記憶を思い出すと、犯人というものを特定までする必要はないんだ、犯罪事実を特定して、そして処罰を求める意思を明らかにすれば告訴も告発も成り立つんだ、こういうふうに理解をしていたのですが、独禁法の告発だけは違うということも私はないんだろうと思うのですね。その点ではそれは同じことで、目の前に人が倒れている、死んでいる、しかも胸にナイフが刺さっている、だけれども、だれがやったかわからない、何月何日、それもちょっとわからない、そこで一一〇番しないというのは、これはいかにもおかしな話で、しかも、公正取引委員会とこういう談合という関係になりますと、これはその公正取引委員会にとっては、公正な競争が行われているということはいわば自分の子供みたいなもので、子供が刺されて胸にナイフが突き刺さっている、死んでいる、なのに親がだれがやったかわからないから一一〇番しないと言っているような、そんな感じを私は国民から見ると受けると思うのですよ。
そこで、まあ具体的事実になりますとなかなか先生方も発言しにくいというのはよくわかりますので、一般論でお伺いしますが、公正取引委員会の言うように、行為者が特定できないんだということで告発をしないということでいいんだろうか。行為者が特定できないというのは、どうしてそんなことが必要なのかと言うと、いやいややっぱりという例の刑法理論、これはもう私もよくわかっていますから、それは言っていただくことはないので、そして、その行為者について構成要件、違法性、責任、これをちゃんと判断しなければ犯罪があると思料できないんだ、こういうことなんですけれども、じゃ大きな矛盾に突き当たるんじゃないでしょうかね。
この「勧告書」、これが手元にあるのですが、事実を認定して、「六六社は、共同して、埼玉県発注の特定土木工事について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、埼玉県発注の特定土木工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、これは、独占禁止法第二条第六頂に規定する不当な取引制限に該当し、同法第三条の規定に違反する」、こう言い切っているわけです。したがってと、こうなっているわけです。じゃ一体公正取引委員会はさらに何を調べることがそもそもできるのかということですね。
独禁法の四十六条、四十条が「調査のための強制権限」ですが、四十六条に強制処分権がありますが、この強制処分権は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。」こうなっているわけですね。ここまで公正取引委員会が行政処分として排除の勧告ができて、それ以上さらに何かをするために公正取引委員会は調査をすることがそもそもできない、こうなっているわけですね。にもかかわらず、さらに調査をして告発をしなさい、資料を集めなさいというのはこの法律と矛盾するんじゃないかと私は思うのですね。
既にもうあと五分前という紙が来るわけで……。
そこで、これは一般論ですが、犯罪があると思料するということの意味なんですけれども、行為者を特定する、その行為者について構成要件、違法性、責任まで判断するだけの資料を集め、そういう構成要件、該当性や違法性、責任、これがすべて認められる、こうなって初めて犯罪があると思料するということになるのか、そうではなくて、普通の告訴、告発理論と同様、犯罪の事実が特定できて、これは処罰を求める必要がある、こう判断すればそれで告発ということは成り立つものなのか、この点も明快に答えていただきたい。これは刑法理論ですので、芝原先生にお答えいただきたいと思います。
○芝原参考人 大変難しい問題で、私も、いろいろ考えてみなきゃならないことだと思います。
ただ、今、排除措置はできるのにということがありましたが、それは排除措置は、前に申しましたが、そういう違法状態があればそれを排除することが行政措置としてはできると思うのですね。ですから、同じ構成要件のように見えても、その意味というのは、行政措置の前提となる構成要件と犯罪処罰のための構成要件というのはやはり違うんだと思うのです。
それでは、ここの七十三条一項にあるのは、これは明らかに「この法律の規定に違反する犯罪があると思料するとき」というふうになっておりますので、これは刑法上の処罰を前提とする意味での構成要件だと思うのですね。そうなりますと、これは行政措置の前提になるのと違って、やはり個人の行為というのがある程度特定して、それから法人の刑事責任を問うという形になりますから、当然それをクリアして初めてその犯罪が存在したというふうに言えるんじゃないかと思うのです。殺人なんかで、今の例ですと、それは見たところ明らかに殺人が行われている、あるいはらしいということがわかるわけですけれども、経済法規違反のような場合には、そもそも、その犯罪が成立しているかどうかということをある程度の証拠をもって立証するということ自身が難しいわけです。
それで、排除措置をしているからもうこれは犯罪が成立しているではないかということは言えないということは今申しました。そういうことになりますので、これは解釈として今の段階で私が考えていますことは、今のような設定での事例を前提とすると、これは、いまだこの法律の規定に違反する犯罪があると公正取引委は思料していない、厳密に考えるとそう考えざるを得ないわけです。ですから、犯罪行為はあるじゃないかというけれども、それは行政措置の前提となる構成要件は満たすとしても、その犯罪の処罰の前提となる構成要件を満たすということまでの心証を公取が収集した証拠では判断できない、そういうことになるのではないかと思います。
それからその証拠の問題ですが、これは、その告発の段階ですべて有罪判決をもたらすだけの証拠を公取が集めなきゃならないというわけではありませんけれども、告発するには、今この独禁法における告発ということの意義を考えた場合には、ある程度その後の検察の捜査を含めて有罪判決の見通しがあるというものに限って告発をすべきであるということであります。ですから、解釈論としても、この「犯罪があると思料する」というふうに言えるかどうかというところに問題があると私自身は思っております。
○江田委員 公取委の説明では、この「犯罪ありと思料し告発を相当とする具体的事実を認めるに至らなかった。」と書いてあるのですけれども、具体的事実ですからそれはちょっと幅が広いのですが、ここでお答えになったときには、行為者を特定できなかったとお答えになったので、行為者を特定できないから、だから告発できないというのは、理論として、理屈としてちょっとおかしいんじゃないかと私は思うのですが、もう時間が来ましたというので、最後に、同じ質問なんですが、正田先生、そういうことでいいのか、つまり、行為者を特定できなかったということで、だから告発できなかったということでいいのか、抽象論として、本件特殊の事案じゃなくて、行為者が特定できないから告発できないというのは、そういう答案を学生が書いたらマルだということになるのですか、それともこれはだめだということになるのですか、そのことだけ最後にお伺いします。
○正田参考人 どちらでもマルをつける、バツをつけると思いますが、私は少なくとも現在の刑事法の仕組みの中で考えると、芝原教授がおっしゃるようなことになるのかなと思っております。ただ、独禁法違反行為ができるのは事業者だという基本的なところの問題というのはこれからやはりよく刑法の先生方の御意見も伺いながら勉強しなければならないなと思っておりまして、やはり常に個人にまず必ず結びつけなければいけないということについて、果たしてそれでいいのだろうかという疑問は持っております。
○江田委員 どうもありがとうございました。
○武藤委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。