1993/12/15

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参院・予算委員会

○沓掛哲男君 次に移ります。

 エリツィン・ロシア大統領が来日後間もない十月十六日ロシアが日本海に放射性廃棄物を投棄したことがグリーンピースによって伝えられたと、翌日十七日の各紙が伝えております。政府は知らなかったとのことですが、この種情報の収集はどうなっているのか。今回の米と同じく、内閣は蚊帳の外に置かれているのでしょうか。――外務大臣にお聞きしたかったんだけれども、外務大臣いないですか。
 
○政府委員(柳井俊二君) 事実関係につきましてまず私の方からお答えさせていただきたいと存じます。

 ただいま御指摘のロシアによる放射性廃棄物の海洋投棄に関しましては、従来から我が方といたしまして大変重要な関心事でございましたので、在外公館を通じまして関係国あるいは国際機関との間で情報交換等を行ってまいりました。ただ、十月十七日に行われました海洋投棄につきましては遺憾ながら事前に情報を入手することができなかった次第でございます。
 
 ただ、本件の発生後におきまして、外務省といたしましては直ちに関係の在外公館に対しまして情報収集体制の一層の強化を指示いたしますとともに、日ロの専門家会合あるいは作業部会、さらには韓国も交えまして三国・日韓ロの三国の専門家会合というような機会も通じましてその後情報収集を強化しているところでございます。
 
○沓掛哲男君 ロシアによる日本海への放射性廃棄物の投棄はロンドン条約に関する特別決議に違反しているんでしょうか。

○政府委員(柳井俊二君) お答え申し上げます。
 ロンドン条約そのものにつきましては、放射性廃棄物を含む放射性物質を高いレベルの放射性物質とそれ以外の放射性物質とに分けて規定しております。いわゆるそれ以外の放射性物質というのは、通常、低レベルの放射性物質と呼ばれているものでございます。そして、高いレベルの放射性物質の海洋投棄につきましてはこれを禁止するということになっておりまして、他方、低レベルの海洋投棄につきましては、事前の申請に基づきまして締約国の政府当局がその都度判断いたしまして付与する特別許可にかからしめているわけでございます。
 
 したがいまして、今回のような低レベルの放射性物質の海洋投棄はロンドン条約そのものでは禁止されているものではございませんけれども、御案内のとおり、一九八三年の会議及び八五年の会議におきまして採択されました決議におきましては、放射性物質の海洋投棄に関する問題の検討が終了するまですべての放射性物質の海洋投棄を停止するということが決議されたわけでございます。
 
 したがいまして、今回ロシア側は低レベルの放射性物質の海洋投棄を行ったと言っているわけでございますが、ロシア側の発表によりますと、関係省庁間の会議を行って許可をしたというふうに言っております。ただ、いずれにいたしましてもただいま申し上げましたような決議には反するということが言えると存じます。
 
○沓掛哲男君 ロシア政府は国際原子力機構に投棄の十一日前の十月五日に日本海投棄を伝えたとのことです。この機関には日本の政府職員が二十数名いるんですけれども、情報が得られなかったというのはなぜでしょうか。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま先生御指摘されましたとおり、ロシア政府は国際原子力機関、IAEAに通報したというふうに承知しております。ただ、この放射性物質の海洋投棄につきましての国際機関への通報は、IAEAではなくてロンドンにございます国際海事機関、いわゆるIMOと言っておりますが、そちらの方に通報すべきものでございます。

 その後確認いたしましたところ、ロンドンの国際海事機関の方には通報はなかったということが一つ事実関係としてございます。そして、IAEA事務局に確認いたしましたところ、IAEAの方は、得た情報を締約国に通報する義務を有していないということから通報を行わなかったというふうに回答をしております。
 
 いずれにいたしましても、この種の通報を仮にIAEAが自主的に行うといたしますと、これはいわばその責任者すなわち事務局長の裁量によるところでございまして、国際公務員として勤務しております一人一人の職員の裁量にゆだねられるということにはならないと存じます。
 
 ただ、そういうことはございますけれども、我が方といたしましてはこのIAEAの事務局に対しまして今後いろいろな関係の情報はぜひよく教えてほしいということを申し入れまして、協力をしたいという回答を得ております。
 
 先ほど御指摘になりました我が国から行っております二十数名の職員でございますけれども、これはいろいろな部署におるわけでございます。ただ、この問題の通報を取り扱っております部署には我が国からの職員はいなかったというふうに承知しております。
 繰り返しになりますけれども、いずれにいたしましてもIAEAはこういう情報を通報する法的な義務はないということでございます。にもかかわらず、今後の問題といたしましては、できるだけ知り得た情報は教えてほしいということをお願いしているところでございます。
 
○沓掛哲男君 外務大臣にお願いしたいんですが、IMOに連絡しなければ伝えなくてもいい、伝えないんだ、それをできるだけお願いしている、そういうことじゃ困るんじゃないんですか。外国へ行っている限りある日本の政府職員ですから、重大なこういう問題があったらすぐ本国に連絡する、そういうようにしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(羽田孜君) 今度こういうようなことがありまして、日本の職員の方からこちらになかったということでありまして、それは残念でありましたけれども、今お話がありましたように、その人たちがそれぞれの部署にいなくてそういったものを知り得る機会がなかったんだろうと思いますけれども、今後こういった問題等もあることでございますから、私どもの方としてもそれぞれの皆さんにお願いをしておきたいと存じます。

○沓掛哲男君 お願いします。
 次に科技庁にお願いします。
 今までに旧ソ連、ロシアが日本海に投棄した放射性廃棄物について説明してください。
 
○国務大臣(江田五月君) 二つに分けて御説明をしたいと思います。

 一つは今議論になっております十月十七日にロシアが日本海において行った投棄でございますが、これは原子力潜水艦の解体等の作業により発生した放射性液体廃棄物で、投棄量九百立方メートル、総放射能量が〇・三八キュリーあると、これはロシアの方の発表でございますが、されております。当初は一・ちょっと上のキュリー数でしたが、正確に後ほど訂正されて〇・三八ということでございます。それが一つです。
 
 もう一つ、それ以前の投棄につきましては、これは本年の四月にロシア政府が公表した白書に概要が記載されておりまして、それによりますと、これは大きくまず言いますと、旧ソ連、ロシアが日本海、オホーツク海、カムチャッカ沖、極東海域において五九年から九二年まで、総放射能量にして約一万二千三百キュリーの液体廃棄物及び約六千二百キュリーの固体廃棄物を投棄する、このうち特に日本に関係あるものとしては、日本海においてウラジオストク沖の六つの投棄地点で約一万二千キュリーの液体廃棄物と三千八百キュリーの固体廃棄物を投棄した、こういう発表でございます。
 
○沓掛哲男君 高レベル放射性廃棄物も捨てていますか。

○国務大臣(江田五月君) 高レベル放射性廃棄物は捨てられていないと承知をしております。

○沓掛哲男君 大臣が今言われたその報告書の中に、日本海には原子炉が二基投棄されておりますが、それは御存じですか。

○国務大臣(江田五月君) そういう記載になっておることは承知をしております。

○沓掛哲男君 原子炉は高レベル放射性廃棄物ではないんでしょうか。

○国務大臣(江田五月君) 必ずしもそうではありません。

○沓掛哲男君 なぜですか。

○国務大臣(江田五月君) 原子炉の中に核燃料を入れてあるわけです。しかし、その核燃料を全部抜き出してしまいますと原子炉自体が核燃料から出てくる中性子によって放射化されておりますが、しかしこれは誘導放射能というものでございまして、原子炉二基の誘導放射能が約四十六キュリーということでございまして、これは高レベル放射性廃棄物とは言っておらない、こういう理解をしております。

○沓掛哲男君 原子炉ですよ。そんな簡単な話じゃないと思います。現にこれは厚い鉛で覆ってそれを捨てているんで、鉛で覆ったからそれから出てくるレベルが低いということじゃないんですか。

○国務大臣(江田五月君) 一般にどういうものを高レベル放射性廃棄物と呼ぶかということなんですが、使用済み燃料とか、あるいは再処理から抽出される核分裂生成物を含む廃液、これを高レベル放射性廃棄物と呼ぶことが多いわけでございまして、そういうものには当たらないということでございます。だから安全だとかだからいいんだとか、そういうことを言っているわけではありません。

○沓掛哲男君 それでは、原子炉をそこへ持ってきて低レベルと同じように扱うことができると思っておられますか。

○国務大臣(江田五月君) ですから、申しましたように、原子炉というものを安全だとかどう扱ってもいいとかそういうふうに言っているわけではありませんということで、高レベル放射性廃棄物に含まれるものではないということをお答えをしただけでございます。

○沓掛哲男君 じゃ、それは低レベルですか。

○国務大臣(江田五月君) これも定義の問題なんですけれども、高レベル放射性廃棄物というものは一つの定義がありますが、低レベルの放射性廃棄物というのは特別の定義が特にないわけでございまして、高レベルでないものをまあ低レベルと言うならそうだということでございますが、しかしそれぞれにいろんなグレードがありますから、原子炉というものは原子炉としてのきちんとした処理の仕方をしなければいかぬものだと思います。

○沓掛哲男君 そういう簡単な考えじゃ困ると思いますよ。今までちゃんとやって、非常に、いわゆる放射能化されたものを低レベルだという扱いでできるんならそれでもいいんだという考えで簡単にみんな取り扱ってもらっては大変なことになると思いますよ。

○国務大臣(江田五月君) 簡単に扱うというふうにしていいと思っているわけではありません。

○沓掛哲男君 ロシアには今二百三十五隻の原子力艦船があるんです。それには四百七基の原子炉が用いられているんです。世界の船舶用原子炉の六〇%も占めているんです。

 この原子炉の耐用年数はどのくらいと考えていますか科学技術庁。
 
○国務大臣(江田五月君) ただいまの御質問は、軍用の原子力潜水艦原子炉についての耐用年数という御質問ですね。

○沓掛哲男君 そうです。

○国務大臣(江田五月君) これは科学技術庁としては、原子炉の種類とか構造あるいは設計、またどういうふうに運転されているか、こういうものについて、軍用のものについては残念ながら情報を科学技術庁としては有していないのであって、これらの原子炉の耐用年数についてはこれは科学技術庁としてはわかりません。申しわけありません。

○沓掛哲男君 常識的に考えて軍用物というのは安全率を低くするんですよ。したがって、原子力発電所というのは大体三十年から四十年ですから、私の感じでは大体その半分ぐらいだと思います、十五年から二十年。

 そうすると、あと十年がちょっとでこの四百何個の原子炉が全部出てくるんですよ。そして、そんなものは大したことない、おおそんな低レベルだと。日本海に四百個の原子炉をほうり込まれたら、あなた、どうなると思いますか。
 
○国務大臣(江田五月君) 先ほどから申し上げておるように、大したことないというふうに思っているわけじゃないんで、ただ、日本海に捨てられている二つの原子炉については核燃料を抜き去ったものだという白書の報告ですから、そういうふうに申し上げただけなんでございます。

 四十年前後というお話ございましたが、商業用の原子炉から類推をするというそういうある種の類推はできるかもしれませんが、しかし原子炉はそれぞれの使い方がございますので、軍用のものについて私どもがこの耐用年数幾らかということはなかなか申し上げにくいということでございます。
 
○沓掛哲男君 十月の初めにエリツィン大統領が来日した際、日本海への放射性廃棄物の投棄について話題にはならなかったのですか、総理大臣。

○国務大臣(細川護煕君) 日ロ首脳会談は十月の十二日、十三日でございましたが、このときに私の方からは、放射性廃棄物の海洋投棄ということは日ロ双方にとって大変重要な問題である旨を指摘いたしまして、日本側として従来からこのような海洋投棄の即時停止を求めてきたということを強調をいたしました。その上で、まず日本海における共同調査をできれば年内、遅くとも来年早々には実施したい旨を提案をしたところでございます。
 それに対しましてエリツィン大統領の方からは、日本側の立場というものを全面的に支持する旨の発言があったということでございます。
 
○沓掛哲男君 皆さん方は、政治改革のみで頭がいっぱいでは困るんです。景気対策も日本海への放射性廃棄物への対応もタイミングを失すると重大な結果を招くことになります。どうか的確な対処をひとつお願いしたいと思います。

 環境庁、科学技術庁、外務、総理の答弁をお願いします。
 
○国務大臣(広中和歌子君) お答えいたします。
 旧ソ連、ロシアが多年にわたりまして我が国周辺に大量の放射性廃棄物を投棄していた問題に関しましては、近隣諸国への配慮を欠く行為だと非常に遺憾に思っているところでございます。
 
 今回の投棄問題につきましては、私も地球環境問題を担当する大臣といたしまして直接あちら側の環境大臣ダニリアン氏に抗議の手紙を送るとともに、今後こうした問題が起こらないようにということをお願いしたわけでございます。
 
 我が国といたしましては、この問題というのは科学技術庁が中心となりまして、そして放射能対策本部が中心となりまして、政府一体となって取り組んでいるところでございます。環境庁はこの放射能対策本部を構成するメンバーの一員ではございませんが、オブザーバーといたしまして積極的にこの問題に協力していきたい、そのように思っているところでございます。
 
○国務大臣(江田五月君) おっしゃるとおり、この問題は大変重要な課題でございます。

 細川総理とエリツィン大統領との話で問題が提起されたにもかかわらず、大統領帰国後、余り日を置かずに投棄がなされたというようなことでございまして、私どもはこれはとても看過するわけにもちろんいかないわけでございまして、直ちに抗議もし、同時にその直後にミハイロフ原子力大臣がお見えになりましたので私はお会いをして、そして先ほど外務省の政府委員から答弁ございましたとおり、これがモラトリアム決議違反であること、あるいはIAEAのガイドラインにも反した投棄の仕方なんで、ですから、そういうことも強く申しまして遺憾の意を表明し直ちにやめるようにと、それから捨てたものは一体どういうものであるのかということを核種に至るまでちゃんとこちらへ教えるようにと、そういうことを厳重に申し入れをいたしました。
 
 あるいはまた、その前にIAEAのブリックス事務局長と日本でお会いをする機会もありましたので、前にウィーンでお会いもしておりましたし、ブリックス事務局長にも、条約上そういう義務がなくてもいろんな情報を我が国にすぐに教えてくれるようにということも強く申し上げました。
 
 ミハイロフ大臣にはいろんな説明もいただきましたし、また今後の情報の提供も約束をし、同時に今後中止をするという約束もいただきましたが、しかしそれだけで十分じゃございませんので、一つはいろんな調査をきっちりとやりたい、こういうことで、日本とロシアとさらに話し合いの結果、韓国にも入っていただきIAEAにも入っていただいて、来年一月の中旬以降になるかと思いますが、共同で現に捨てた場所の調査をきっちりいたしましょうと、こういう取り組みを今進めているところでございます。
 
 さらに、中止とは言っているけれどもまだこれから捨てるということがあるかもしれない、そういうことがないようにするために、これはもちろん廃棄物の問題ですからロシアが第一義的には処理をしてもらわなきゃいけないものではございますが、私どもとしてもいろいろな技術的な協力もできるかどうかその検討を今鋭意やっているところでございます。

○国務大臣(羽田孜君) この海洋投棄が行われたその後の我々のロシアに対する対応というのは、もう既に御案内のとおりであります。そして、特にその後、日ロ専門家の会合あるいは第二回のロシアとの合同作業部会、また十一月二十九日から十二月一日までは日韓ロの専門家の会合というものを開催いたしました。その結果、日韓ロ三国の共同調査を来年早々に日本海の投棄海域で行うことにつきましてロシア側と合意をいたしたところであります。

 このほかにも、IAEAの総会等におきましても、こういった問題について今後こういうことがないように我々として話をしておりますと同時に、またアメリカあるいは欧州の国々、こういった皆様方ともこういった問題が再び起こらないように今有効な手だてをいたしておるところであります。

 また、放射性廃棄物の処理、処置は、一義的にはロシア側の自助努力でなされるべきでございますけれども、ロシアの放射性廃棄物の海洋投棄問題を根本的に解決するためには、ロシア国内の廃棄物の貯蔵管理、処理能力を高めていく必要があろうという現実的な問題があるわけでございます。

 我が国といたしましては、どのような対応を行っていくべきか、これからもさまざまな協議というものを通じながら有効な手当てをしていきたいというふうに思っております。いついかなるあれがありましてもこういったものをおろそかにするということはないことだけは、はっきりと申し上げさせていただきます。

○国務大臣(細川護煕君) 各大臣から御答弁があったとおりでございまして、関係各国あるいは国際機関ともよく連携をとりながら、重大な問題でございますから的確に適切に対応していかなければなるまいと思っております。

1993/12/15

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