民主党 参議院議員 江田五月著 国会議員― わかる政治への提言 | ホーム/目次 |
第1章 国会議員の実像 |
難産の末、劇的に成立
昭和五十年、第七十五国会で、両改正案は、まさに車の両輪として二案セットで審議された。
「公選法改正案」は、自民、社会、民社党が賛成なのに対し、共産、公明両党は反対。不思議なわかれ方だが、組織的なビラ活動を得意とする公、共両党が「党の死活にかかわる」と色めき立ったのも無理はなかった。参議院の廊下で、共、公両党の議員や秘書がスクラム組んで、委員会室前を封鎖するという珍しい写真が新聞に掲載されたりしたが、数の上から見れば勝敗は初めからわかっていて、「公選法改正案」は衆参ともに賛成多数で可決された。ところが「政治資金規正法」の方は、全野党反対で自民党のみ賛成。しかも自民党内にすら反対の声は高かったから、与野党伯仲の当時のこと、なりゆきが注目された。
いったい各党は、政治資金規正法改正案のどこの部分に反対したのか……。
今まで無制限だった各種の寄付に前述のとおり枠がつくられた結果、どんな巨大企業でもマンモス労組でも、一億円を最高としてそれ以上の寄付は禁止されることになったので、大労組出身者の多い社会、民社両党が、資金源に不安を感じ、ベストとは言えないまでもベターである同改正案に反対したのだ。企業献金を資金源とする自民党内から反対の声が上がるのも無理のないことだった。
それだけに私は、三木首相の決断に感服した。「寄らば大樹の陰」と大スポンサーに甘える議員の体質を改めるには、大樹からの糧道を自らの手で細めなくてはならない。スポンサーへの気がねが消えて初めて、大所高所からの判断もできるものだし、政治浄化への第一歩も踏み出せるのではなかろうか。
結局、「政治資金規正法改正案」は、第七十五国会最終日に参議院本会議で可決されるのだが、可否同数で、河野謙三議長が「可と決します」と議長裁決権を行使する劇的な幕切れとなった。
多数決で事を決する時、可否同数だと、議長が一票を行使してどちらかに決める。これが「議長裁決」だが、なにぶん憲政史上初めてのことであり、私が裁判官として勤めていた千葉地裁でも大いに話題になったから、今でも鮮明に記憶している。学説としては、議長は現状維持の側に軍配を上げなければならないという説が多い。そうすると河野議長の裁決はおかしいことになるが、もっと高い立場からの判断をしたということだろう。こうした難産の末誕生した「政治資金規正法改正案」 の下、国会議員の政治資金のやりくりの仕方もかなり変化した。
第1章 国会議員の実像 |
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