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sirius.jpg (6256 バイト) 総合政策誌 シリウス II 1993年6月発行

巻頭言 アメリカ「市民民主主義」と「シリウス」が果たす役割 江田五月

特集T 政権交代へのプログラム

鼎談 動く、動かす日本の政治----政権移行の条件
    江田五月vs羽田孜vs細川護煕 聞き手=小宮悦子

    提唱「政権移行委員会」--日本をになう政治組織の結成へ 江田五月

    政治改革と政界再編 菅 直人

    社会党は、どこへ行くのか? 粟森 喬

シリウスの政策提案
   ●安保・外交チーム ●経済・生活チーム ●政治改革チーム
   ●珊境・エネルギーチーム ●文化・教育チーム ●福祉チーム

    参議院改革  北村哲男

  自治体が望む政界再編 佐川一信 高橋清
  政界再編を期待する  鈴木永二 脇田直枝 森毅
  市民発!メッセージ
   五十嵐敬喜 横田克巳 横山すみ子 イーデス・八ンソン 黒岩卓夫

特集II 男女共生社会の実現のために 川名英子 木下雅子 高村昌枝

シリウスの政策擬案 ●女性政策チーム

討論 女性の社会進出と政治参加
    江原由美子 江田五月 小林正 鈴木喜久子 はせゆり子

講演 フェミニズム入門  江原由美子
講演 「連合」の女性政策 松本惟子

シリウス応援団・私の政策提案



巻頭言 アメリカ「市民民主主義」と「シリウス」が果たす役割

 百年に一度という雪嵐の中、アメリカ東海岸を訪ねました。三月一四日のニューヨーク・ケネディ空港は、雪で埋まり大混乱。奇跡的にキャンセルを免れたわがフライトは、特に私はエコノミーですから、席を求めて血眼の人々で大混雑。スペイン語や中国語の怒鳴り声で溢れていました。

 私の訪米目的は二つ。一つは、変革 (チェンジ)を旗印に登場したクリントン新政権が、何をどう変えようとしているかを、この目で確かめること。もう一つは、あのカネマールで世界に悪名を馳せたわが国の利権政治がどう変わるかを、野党の政治家の口で直接、アメリカの人々に語ることでした。

 ちなみに私は、利権政治を、Tribal Politicsと呼んでみました。Tribeは部族。族議員を指したつもりで、この表現で、酋長さんのところに簿外の貢ぎ物が山と集まる状況を、ひと言で理解してもらえると思ったのです。

 アメリカは、冷戦終結から新しい現代史へ、平和、環境、人権・・・と、新しい価値観が躍動し始めているのを実感しました。

 例えば、今年のジュネーブでの国連人権委員会。インドネシアの東ティモールに対する人権侵害について、ついにアメリカが、ECとともに、非難決議の共同提案国になりました。日本は相変わらずの、アジアの特殊性とか静かな外交とかで、棄権です。

 人権委員会アメリカ代表のリチヤード・シフター氏を訪ねました。前の人権担当国務次官補で、私も旧知です。彼は、この態度表明は、クリントン政権内部で熟慮の結果、決定された政策変更を受けたもので、その先駆けと考えていただきたいと言うのです。聞けば、次にこの次官補の席に座るのは、前のアムネスティ・インターナショナル・アメリカ支部の役員だった人に内定しているとのこと。大胆に断定すれば、市民運動が国務省に乗り込んでいっているのです。

 もちろん、役割の違いはあるし、社会事象には必ず、日なたがあれば陰があるものですから、喜んでばかりはいられませんが、アジア・ウォッチはじめ、人権団体の皆さんが、大変元気になっているのは、うれしいことです。

 冷戦時代のアメリカは、国内は保守二党。自ら東側の選択をするはずはなく、当然のことです。そして外には、親米であれば、人権侵害も政治腐敗も目をつぶり、陰謀や暗殺までやったのです。対東側がすべてに優先でした。しかし今、資本主義対社会主義の選択が終わり、市民が、まだ十分自覚してはいないけれど、自らの手で、新しい選択肢を創造しつつあるのだと思います。

 クリントン民主党政権の選択は、二〇世紀の保革の選択肢を越えた、二一世紀に向けた「新しい民主主義」の選択です。それはまた、飛行機で乗り合わせた少数民族や、黒人や女性や弱小州や、弱者に共感を寄せる多くのアメリカ市民による手造りの模索でもあります。だからこれを、「市民民主主義」と呼んでもいいでしょう。

 冷戦後の変革を着々と進めつつあるアメリカ。ひるがえってわが国は、「保革の超克」はおろか、抜本的政治改革さえ覚束ないのでは、新グローバル・パートナーシップを語ることはできません。「シリウス」は責任重大です。



「政権移行委員会」 日本をになう政治組織の結成へ

 羽田、細川両氏との鼎談は四月一五日。二ヵ月近く前で、その後、政権交代への具体的プロセスについて、政権交代の協議機関の提唱が、細川氏、私、公明党の市川書記長からと相次いだ。社会党の「緊急改革政権」の構想もある。そこで私の考え方を略述する。

 自民党政権は実質上終了した。彼らが自ら脱皮し改革することは不可能である。政治腐敗の根絶と政治不信の一掃のため、真の豊かさを実感できる社会の創造のため、および冷戦後の世界で指導性を発揮し世界に欠かせない国となるためには政権交代が不可欠である。

 政権交代を行わなければ、まず国民の政治離れは極限に達する。政治が機能することなしに今の転換期を曲がりきれないことを考えると、国民の政治離れは、国民が自らの未来を失うことを意味する。また、成長の過程での厖大な負の蓄積を考えれば、このままでは一気に経済は失速、社会は混沌となるかもしれない。さらに、日本が世界に占めている位置を考えれば、世界が歴史的転換期を曲がりきれず、冷戦後の混乱の長期化により疲弊してしまうかもしれない。

 これらを考えると、日本の政治の当面する最大の課題は、一日も早い政権交代の実現であり、他のすべての政治課題についても、政権交代の追求に照準を合わせてその取組みを考えなければならないことが首肯できよう。

 目下の最大の政治課題は、政治改革であるから、その進捗に合わせて政権交代を展望しよう。政治改革は、中選挙区制廃止を伴う選挙制度改革も一括し、今国会で、互譲による合意によって実現し、次の総選挙からこれを実施することが必要である。

 社会・公明・社民連の併用案グループは、党や議員の利害を超越しても歴史的使命を認識して改革実現に挺身する用意ありと信ずる。民社党、民主改革連合、日本新党も志は同じであり、自民党からも、離党して行を共にする者が少なからずいると思われる。以上の改革グループが結束すれば、政治改革法案の成立は十分可能である。

 しかし、それだけで本当に政治が良くなるのか、国民はなお疑問であろう。そこで改革グループは、国民に対し政権構想を示し、これを実現する責任を負う。そのため改革グループによる政権交代のための協議機関(私は「政権移行委員会」と呼びたい)を設置することを提唱する。この委員会は、目指す政権の人的骨格(ニューキャビネット)、その理念と政策、その実現のための総選挙の取組み方を示さなければならない。これをやりきれは、一気の政権交代も視野に入ってくる。自民党離党組を過度にあてにしてはならないが、新政権の安定性についての国民の信頼の有無を考えると、政権担当経験者の参加の意義を過小評価することもできない。その可能性があれば最大限追求すべきである。社会党が全体として参加できるかどうかは、自らの併用案に固執せず選挙制度を含む政治改革を実現できるか、および九三宣言により政権政党に脱皮できるかにかかっている。

 この委員会は、従来の野党連合政権協議と質的に異なる。具体的政治課題への取組みを基礎に構想され、すでに現実的課題となっている政権移行をもその作業対象とするからである。

 しかも政権交代は万年与党・万年野党セットの構造の終了に由来するのだから、既成野党の合従連衡ではなく、その再編成と新党への脱皮が不可欠であることも明らかである。したがってこの委員会の作業は、その作業の性格も持つ。

 改革グループは必ずしも単一の新党になるとは限らない。これはその後の展開による。


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