1999年6月24日 戻るホーム民主党文書目次

民主党安全保障基本政策

    はじめに

  1. 安全保障環境と日本の基本的対応
    1. 冷戦後の世界
    2. アジア太平洋地域
    3. 日本の近隣地域
  2. 日本国憲法についての基本的考え方
  3. 安全保障体制
    1. 日本の防衛と防衛力のあり方
    2. 日米安全保障体制
    3. アジア太平洋地域の安全保障
    4. 国連の安全保障
  4. おわりに

 

はじめに

21世紀を目前に控え、今後の日本の安全保障政策について、民主党の基本的考え方をまとめたのが本提言である。本提言の前提としている点について、二、三、ここで述べておきたい。

第一に、この提言においては、狭義の安全保障の問題を中心に検討している。いうまでもなく、平和を実現するために最も重要なことは外交であり、外交努力を尽くした後に安全保障の問題となると考えるべきである。民主党は戦争や紛争の芽をあらかじめ摘むことでその発生を未然に防止するための予防外交の必要性を強く認識している。近年顕著となってきた民族や宗教に起因する紛争もその背景には経済的困難があることが多く、経済力に裏付けられた日本の外交能力を更に高め、平和の創造に貢献していくことが必要である。その際、近年重要性が増している非政府組織(NGO)との連携というアプローチも取り入れながら、外交・防衛の総合力向上をめざすべきである。

第二に、この提言は、東西冷戦の終了に伴い、安全保障環境に大きな変化があったという現実を直視するなかで取りまとめられた。民主党は従来のイデオロギー対立に基づく安全保障論議を排し、安全保障面における日米関係の重要性を十分に認識しつつ、日本の主体性ある安全保障政策の確立を目指す。

第三に日本国憲法との関係である。民主党は今後憲法論議が活発になされることを期待するが、日本国憲法が基本原理としている平和主義について今日においても重要視されるべきとの基本的考えに立っている。

 

I 安全保障環境と日本の基本的対応

1.冷戦後の世界

(1)冷戦終結の意義

東西冷戦の時代は、米ソ両超大国が直接に衝突し、大規模な核戦争などにより、人類全体が生存の危機にさらされる可能性に常に直面した時代であった。また共産主義・資本主義というイデオロギーを背景とした超大国の地域代理戦争が発展途上国を中心に数多く発生した。冷戦終結によりこれらの危険は大幅に減少した。

(2)新たな脅威

他方でイデオロギー対立の時代の終了により超大国の重しが取れたことで経済的困難や民族、宗教、資源などを背景とする地域紛争が多発するようになった。また紛争の形態も国家単位の衝突から、宗教・民族グループ等国家以外の主体によるテロリズムやゲリラ活動なども含め多様化してきている。更には、ミサイルの性能向上・拡散や情報システムへの侵入・破壊や戦場以外での生物兵器・化学兵器の局地的使用などの新たな脅威も発生している。世界はこれらの新たな脅威に対し、軍事・非軍事両面で多様な対応を迫られている。

(3)核

インド・パキスタンの核実験は世界が核拡散の危機に直面していることを示した。核兵器の戦争遂行手段としての使用のみならず、核兵器の偶発的使用のリスクを避けるためにも核軍縮と核不拡散の重要性を改めて認識しなければならない。民主党は、インド・パキスタンの核実験を受けて、昨年6月に核軍縮・核不拡散のための提言を行った。提言においては、核軍縮促進のために核保有国に対する核削減義務を強化すること、具体的には、米露両国での核軍縮交渉を加速するとともに、近い将来、全世界の核弾頭数を1000発以内とすることなどを主張したところである。非核保有国であり、かつ唯一の被爆国でもある日本が核の問題により積極的なリーダーシップを発揮する責任があると民主党は考える。

(4)紛争解決のための手段

冷戦の終結は国連の紛争解決能力を高めることを期待させ、実際に国連が紛争解決に大きな役割を果すケースも見られるようになった。しかし、コソボ問題の解決に向けて積極的な役割を果すことが出来ず、また、いまだ正式な国連軍が持てないでいる現状を考えれば、現時点においては、国連の紛争解決能力には大きな限界があるといわざるを得ない。このような状況のもとで残された唯一の超大国である米国が紛争解決に相当な役割を果していることは事実である。もちろんその米国も自らの国益を超越してあらゆる紛争に中立の立場で関与することはあり得ない。このように世界はいまだ有効かつ正当性を持った紛争解決手段を見出しておらず、その意味で新たな国際秩序は確立されていないという状況にある。

2.アジア太平洋地域

(1)基本認識

アジア太平洋地域、とりわけアセアン諸国は金融・通貨不安に端を発する深刻な経済状況に苦しんでいる。このことがいくつかの国で国内政治の不安定化を招いており、例えばインドネシアの今後の情勢などは他への波及を含め重大なインパクトを与える可能性がある。

また中長期的には、領有権問題、ナショナリズム、軍備増強などの不安定な要因が存在しており、平和と安定のための更なる努力が求められる。アジア太平洋経済協力会議(APEC )やアセアン地域フォーラム(ARF)などを通じた信頼醸成のための努力が成果を挙げつつあることは事実であり、このような流れを今後更に加速することが必要である。しかしながら、この地域にはいざ紛争が発生したときにこれを有効に解決するための軍事的強制力を背景にした集団安全保障の仕組みが存在していないことも認識する必要がある。

(2)米国

米国はアジア太平洋地域の平和と安定のため、軍事的なプレゼンスを維持しつつ、この地域に積極的に関与する姿勢を見せている。米国の現実に果たしている役割には大きいものがある。このため、米国の活動が米国の国益確保を背景としたものである事を認識しつつも、民主党は米国の存在がこの地域の平和と安定のため重要であるとの基本認識に立つ。

(3)中国

この地域において米国と並ぶ重要な存在が中国であり、同国は、今後ますます国際社会における存在感を高めていく事になろう。中国が改革開放経済路線を維持し、ARF 等への積極関与をはじめとした協調的な外交を展開しつづける事はアジア太平洋地域の安定にとって大きな意味を持つ。米中、日中それぞれのパートナーシップ強化は地域の平和を促進する重要な要素である。民主党は日米関係と同時に、日中関係の更なる深化を推進していく。

(4)ロシア

かつての超大国ロシアは国内的な困難を抱え、状況がさらに悪化すれば国際社会の不安定要因となる可能性すらある。このような状況のもとでアジア太平洋地域に対する関与は当分の間限られたものになると予想される。但し朝鮮半島問題については重要なアクターの一人であることは言うまでもない。また、日本としては領土問題はあるものの更なる経済交流、民間交流を通じたロシアの安定化に寄与するべきである。

(5)日本の役割

以上を踏まえ、アジア太平洋地域の平和と安定を確保するために当面日本としては以下の役割を果たすべきと民主党は考える。第一に、日本自身がこの地域において果たすべき役割の大きさを自覚しなければならない。この地域において圧倒的な経済規模を持つ国家として市場開放・輸入拡大などの責任を果すとともに、その経済力・技術力を活用してこの地域の人々がより豊かで安全な生活が出来る基盤作りに貢献すること、経済協力や経済再建のための資金援助などを効果的に提供することが重要である。同時にこの地域において民主主義・人権がより根づいたものとなるよう日本が積極的な役割を果たすべきである。第二に、この地域の平和と安定に重要な影響力を持っている日米安保体制を維持するとともに、米国との緊密な協議のもとにその効率的かつバランスを失することのない運用を図っていくことである。またその前提として共通の価値観を持つ民主主義国家である日米両国間の各般の関係を更に深化させていくことが必要である。第三に日中関係の安定化、相互信頼関係の確立に向けてあらゆる面での交流を深めていくとともに、APEC やARFをはじめとしたアジア太平洋地域の安全保障対話に中国がより積極的に関与するよう日本としてもより大きな外交努力を行うことである。

3.日本の近隣地域

(1)基本認識

東西冷戦の終結により日本に対する大規模な直接侵略の脅威は当面大幅に低下した。しかし、北東アジアには、冷戦期の遺産である朝鮮半島情勢など深刻な安全保障問題が存在している。またゲリラ的活動により国内混乱を引き起こすことなど冷戦期には予想しにくかった新たな脅威の可能性も発生している。

現時点では我が国に対し大規模直接侵略がなされる可能性は低い。しかしながら将来において日本周辺国の経済的困難や政治的不安定が日本との軍事的緊張を高める可能性があることを完全には否定することはできない。民主党は日本が過去侵略戦争を起こしたことに対する近隣諸国の不信感を解消する努力とともに、相互理解のためのあらゆるレベルでの交流を深めていくことが重要であると考える。またこのような信頼関係の構築を通じて軍備拡大を相互に抑制するなかで、ミサイルなどの軍備規制や将来的には軍備の縮小を目指すことも視野に置くべきである。

(2)朝鮮半島情勢

朝鮮半島をめぐる状況はかなり深刻である。特に既に弾道ミサイルについて相当程度の技術力を持つ北朝鮮が核武装した場合には日本にとって重大な脅威となり得る。北朝鮮の核疑惑・弾道ミサイル問題は日本自身の危機対処の問題であるとの認識に立って、その解決に向けてより積極的な努力を行うべきである。民主党は本年4 月に北朝鮮問題への対応について、 1.朝鮮半島の平和を確立するため、当面、北朝鮮と韓国との平和共存・南北対話の進展を切望する  2.米国・中国・韓国・ロシア各国と協調して「包括的解決のアプローチ(包括的一括妥結方式)」を重視する  3.日朝国交正常化を実現するため、又、北朝鮮と国際社会との信頼醸成のため、関係諸国や国内政党と連携し、積極的に行動する  4.日朝の政府間交渉の早期再開を働きかける  5.日本、米国、中国、韓国、北朝鮮、ロシアを中心とした北東アジアの安全保障の枠組みを考える の五点の基本的な考え方をまとめたところである。これらの基本的考え方に基づき、民主党は朝鮮半島をめぐる問題に積極的に対処していく。

(3)韓国

韓国との関係は経済面を中心により緊密化しつつある。金大中大統領訪日によって前進した日韓両国の関係の更なる緊密化、より深い信頼関係の構築に向けた真摯な努力が必要である。経済面で相互依存関係をより深めること、文化交流や地域間交流の本格的推進などを加速すべきである。また、朝鮮半島安定後の北東アジアにおける安全保障のあり方を含め、日韓両国が安全保障面での相互交流・対話をすすめることが重要である。なお、両国間に存在する領土問題が将来の大きな火種にならないように、その解決に向けて第三者機関を含めた何らかの話し合いのための枠組みを作ることも検討すべきである。

(4)台湾問題

台湾海峡をめぐり中台間で軍事衝突が発生することを避けることは我が国にとって極めて重要な関心事である。また、台湾海峡をめぐる米中関係の緊張は、アジア全体の不安定化を強めることになる可能性が大きい。民主党は台湾の一方的な独立を支持せず、同時に中国の台湾に対する武力行使に反対するとの基本的な立場に立つ。また、このような台湾海峡をめぐる緊張が生じないように中国・台湾に対するあらゆる予防的働きかけを行うことを日本の外交政策の最重要課題の一つと位置づけることを主張する。その際、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し尊重」するとの1972 年の日中共同声明が前提となることは当然のことである。

 

II 日本国憲法についての基本的考え方

(1)基本認識

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日本国憲法は平和主義をその基本原理として採用し、他国の憲法に見られるような侵略戦争の放棄だけでなく、より踏み込んだ戦争否定の考え方を採用し、自らに制約を課している。これは第二次世界大戦の悲惨な経験を踏まえ、自衛の名のもとに侵略戦争を開始したことに対する深刻な反省に基づいたものである。民主党は今日においてもその基本精神は重要であり、維持されるべきであるとの立場に立つ。

民主党は憲法問題について議論することは重要なことであると考える。一般論として言えば憲法の文言と現実に乖離が生じた場合には、憲法解釈の安易な変更を行うのでなく必要に応じて憲法改正することが成熟した民主主義国家のとるべき道である。従って民主党に設置された憲法調査会や国会に設置が予定されている憲法調査会(仮称)において、安全保障問題も含め幅広く憲法論議が行われることが期待される。今回の以下に述べる結論はこのような本格的な憲法論議に先立って、現時点における民主党としての考え方をまとめたものである。

(2)憲法第9条

憲法制定以後、第9条の解釈については国会や学界における論争において 様々な考え方が示された。しかし現時点において重要なことは半世紀にわたる国会の議論の結果、1. 外国から違法な侵害を受けた場合の個別的自衛権の行使まで放棄したものでないこと 2. 現在の自衛隊が憲法違反の存在でないことの二点については、国民の大多数の間に定着した憲法認識となっているという事実である。

(3)国連軍及び集団安全保障

現時点において直ちに問題となる訳ではないが、国連憲章 第42条、第43 条の特別協定に基づく正式の国連軍やアジア太平洋地域における集団安全保障体制が確立した場合に日本としてどう対応すべきかの問題がある。民主党は後に述べるようにこれらを積極的に評価し、将来日本が参加すべきと考える。ただし、日本が参加する場合に、現行憲法で可能かどうかについては議論があるところであり、今後党の内外において十分検討されるべきである。

(4)多国籍軍

国連安全保障理事会の決議に基づく武力行使を伴なう多国籍軍について、 1.憲法前文の国際協調主義を強調する立場、 2.憲法9条に規定する国権の発動にあたらないとする考え方に基づき、積極的に参加すべきとの意見がある。

しかし 1.多国籍軍はその指揮権は各国が持つことが通常であり、かつ 2.参加するか否かの選択が各国に委ねられている状況において多国籍軍への参加を日本が決定することを考えると、国権の発動にあたらないとは言えない。このため民主党は後に述べるように正式の安保理決議に基づく多国籍軍が現実に果している役割について一定の評価をしつつも、日本が多国籍軍に参加し武力行使を行うことについては憲法第9条が許容していないと考える。

(5)集団的自衛権

政府は憲法第9条が認める自衛権の行使は我が国を防衛するため必要最小限の範囲にとどまるものであり集団的自衛権の行使はその範囲を超えるものであり憲法上許されないとの立場に立っている。集団的自衛権の行使とは「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を行使すること」と定義されるが、この権利行使(武力の行使)を解釈として認めることは重大な解釈の変更になり、また憲法第9条は侵略戦争を禁止しているに過ぎないということになりかねない。以上を踏まえ民主党は、集団的自衛権行使の是否を憲法解釈の変更により行うべきではないと考える。

(6)防衛政策の原則

戦後半世紀を経て、憲法の平和主義のもとにおける以下のような防衛政策の原則が確立されてきた。即ち、1.個別的自衛権の行使を超えた海外における武力行使は行わないこと 2.専守防衛を堅持すること 3.個別的自衛権行使のための必要最小限度の実力を保持すること 4.集団的自衛権を行使しないこと 5.核・化学・生物兵器等の大量破壊兵器を保持しないこと 6.自衛権発動については三要件(急迫不正の侵害があること、他に適当な手段がないこと、必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと)に該当する場合に限られること 7. 徴兵制を採用しないこと 8.文民統制を維持すること 9.武器輸出三原則  10.非核三原則などは国会審議を通じて確立した原則である。民主党はこれらの諸原則は現時点においても尊重されるべきであると考える。


III 安全保障体制

1.日本の防衛と防衛力のあり方

  1. 基本認識
  2. 東西冷戦の終了により、我が国に対し大規模な直接侵略がなされる可能性が低下したことは我が国を取り巻く安全保障環境の最も重要な変化である。一方、テロリズムやゲリラ的活動、生物・化学兵器の使用、領土・領海・領空(領域)への不法侵入、ミサイルや核兵器の拡散など新たな脅威の可能性が生じるなど、北東アジアには警戒を要する状況が残っている。このような安全保障環境の変化に柔軟に対応するためには防衛大綱の機動的な見直しが必要であり、また厳しい財政状況を考慮し、従来型資源配分の見直しや防衛費の抑制も視野に入れた検討がなされるべきである。

    同時に自衛隊に期待される役割そのものが多様化している。上記の多様な脅威への対応に加え、災害派遣、PKO活動などの国際協力活動、周辺事態における日米協力、海外における邦人救出など、自衛隊は重要かつ多様な役割を果すことが期待されている。

  3. 新たな脅威への対応
  4. 以上のような自衛隊をとりまく環境と自衛隊に期待される役割の変化に対応した効率的で質の高い自衛力の確保が必要である。とくに大規模直接侵略を主として想定して構築されてきた自衛隊の装備、配置及び構成について抜本的な見直しを行い、テロリズムやゲリラ的活動などの新たな脅威に、日本が原則として単独で対処できる体制を早急に整備することが重要である。平成7 年に閣議決定された防衛大綱においても東西冷戦の終結に伴い世界的な規模での武力紛争が生起する可能性は遠のいているとの認識が示されてはいるものの、我が国の防衛力の整備に関しては従来の発想を大きく変えるには至っていない。例えば陸上自衛隊について戦車部隊中心主義から、より機動力がありかつゲリラ的活動に対処できる装備にも力点を置くことなど新たな環境に対応した体制整備も急ぐ必要がある。

    我が国に対するテロリズムやゲリラ的活動による主権侵害や破壊工作等に対して法制面での整備も含め検討すべきである。その際、 1.このような主権侵害等に対しては断固とした措置をとるとの政治的意思を明らかにすること、 2.海上保安庁や警察との連携が円滑に行われるよう一元的危機管理体制を整備すること、 3.海上保安庁や警察では対応不可能な状況において、自衛隊が速やかに対応できるようにすること、 4.武器使用基準(ROE)の策定も含め、危機における基準を予め明確に決めておくことで冷静かつ効果的な対処ができる体制を整備すること、 5.シビリアンコントロールを徹底することが重要である。

    また、増大するミサイルの脅威に対し、専守防衛の原則に立ちながら、日米協力も含め、効果的な対応のあり方を早急に検討すべきである。

  5. 緊急事態法制
  6. 自衛隊が出動するような緊急事態が発生した時の自衛隊出動にあたっての要件・手続については、自衛隊法が規定しているところであるが、出動した後の自衛隊の活動のルールについては、法律の規定がほとんど存在していない。現状のままでは、日本に対する直接侵略などの緊急事態において自衛隊の活動が円滑に行われないことで国民の生命・財産に対する侵害が拡大するか、または、自衛隊が超法規的措置を取らざるを得ない可能性がある。このためあらかじめ緊急事態における法律関係について十分な議論を行い法制化しておくことが重要である。具体的には、 1.緊急事態において、日本に対する武力攻撃などに効果的に対処できるようその活動の根拠を与えるとともに、 2.このような緊急事態においても自衛隊などの活動が、シビリアン・コントロールの下にあり、国民に対する必要以上の権利制限とならないよう、国民の権利、とりわけ憲法上認められた基本的人権・表現の自由等を保障することである。

  7. 装備調達
  8. 限られた防衛予算のもとで必要な装備を整備していくためには、従来の陸海空横ならびの考え方から脱却して想定される脅威に対応した予算の編成が必要である。またコスト削減の観点から汎用品についてはその範囲を拡大しつつ、一般競争入札の積極導入を図る。また、随意契約・指名競争入札の対象となる装備などについても、出来る限り透明性・客観性・公正性を担保できるような装備調達方法の改革も不可欠である。技術研究開発における従来の体制についても見直す必要がある。

    従来防衛生産・技術基盤の維持の観点から装備の国産化が行われてきた。しかし、どの範囲までの装備を我が国が国産技術として保持すべきか、そのことの 費用対効果や有事における補充はどうかといった点について今後基本的な議論が必要である。同時に海外からの調達にあたっても、コスト削減の観点から調達先の多様化を検討すべきである。

  9. 情報
  10. 専守防衛を国是とする我が国にとって情報収集・分析・対応能力の向上は喫緊の課題である。我が国が運営する情報収集衛星を保有すること、情報本部の充実を図ることは最優先で取組まれねばならない。今後見込まれるコンピュータ・情報システムの電子的脆弱性についても対応が必要である。

2.日米安全保障体制

  1. 基本認識 戦後、我が国は憲法第9条に基づいて専守防衛を選択しながら米国と同盟を結び、日本の安全保障政策を効果的に追及してきた。民主主義と自由主義経済という価値観を米国と大枠において分かち合い、同国と安全保障・経済両面で緊密な関係を構築してきたことが、戦後我が国の安全と繁栄に大きく貢献してきたことを我々は評価する。国民の安全確保は、国家にとって最も基本的な義務であり、日本の平和と安全を守るためには、日本自身の外交防衛努力が基本となることは言うまでもないが、これと並んで、日米安全保障条約が我が国の安全保障政策の最も重要な柱であるとの認識を我々は持つ。


  2. 新防衛指針 さきに日米間で合意した新ガイドラインは、我が国の平和と安全を確保するために我が国の米軍に対する平素、日本有事、周辺事態における日米防衛協力について定めており、民主党はその必要性を認識している。ただし、周辺事態に対応するための周辺事態安全確保法の運用に際しては周辺事態の認定を含め、日本の主体性を十分に担保するとともに、日本の安全と国民生活に与える影響のバランスに細心の注意を払うべきである。同法については、必要に応じて、国会関与のあり方を含めた不断の見直しを図っていく。

  3. 日本の主体性 従来の日米安保体制は重要な意思決定を米国に委ねるという点で、真の意味での同盟関係とは言いにくい状況にあった。今後日本のとるべき態度は、日本の国益を十分に踏まえつつ米国との緊密な対話・協議を行う姿勢である。日米両国の国益は当然のことながら常に一致するとは限らない。重要なのは、このような場合に率直で質の高い協議を通じてしっかりと調整を行っていくことであり、その前提として求められているのは日本の主体性である。 このような観点から「日米安保条約の第6 条の事態に関する交換公文(1960年)」に基づく事前協議制度をより明確にする必要がある。例えば従来の政府解釈のように「日本国から行われる戦闘作戦行動のための基地使用」を極端に狭く解して艦船の「移動」はすべてこれに該当しないなどの解釈を再考する必要がある。また、日本政府内で事前協議の当事者は誰であり、どのような手続きを経て日本政府としてYes 、Noを判断するのかを国内法令の整備等を通じて明確にすべきである。当然のことながらこれらの問題は米国との緊密な話し合いのうえ実現すべき事柄である。

  4. 米軍基地 在日米軍基地の態様、規模については、不断の見直しが必要である。特に、戦後50 年余が経過している今日、なお、沖縄に米軍基地が集中していて、多くの負担と犠牲を強いている状況にある。民主党は、沖縄の米軍基地の整理・縮小のため、国内外への移設を含め積極的に推進していく。SACO 合意の目玉となっている普天間海兵隊基地については、沖縄県民の意見を十分に踏まえつつ、その移転について早急に結論を出すよう日米両国政府に働き掛けていく。さらに民主党は今後の米軍基地の整理縮小をより推進していく立場から、SACO IIの検討も必要と考える。 将来、朝鮮半島情勢が安定した場合に、現在の在韓米軍の役割がその存続の是否も含めて大きく見直されることが予想され、その際に在日米軍を含めた東アジアの米軍の縮小・再配置が必要となろう。朝鮮半島安定後の極東における米軍のプレゼンスのあり方や、アジア太平洋地域の平和と安定を確保するための拠点として在日米軍基地をどのように位置付けるべきか中長期的な視点に立って基本的な検討が必要である。 民主党は日米地位協定の運用改善を行っていくことは重要な課題であると考える。同時に米国が欧州各国と締結している地位協定を参考としつつ、日米地位協定の見直しについても米国と率直に交渉していく。

3.アジア太平洋地域の安全保障

  1. 日米安保体制の意義
  2. アジア太平洋地域の平和と安定を確保するうえで、日米安保体制が果してきた役割には大きなものがある。この地域において経済的に圧倒的な存在である日米両国が外交・安全保障両面で緊密な協力体制を築いていることは、この地域の安定要因となっている。またアジア太平洋地域における米軍のプレゼンスはNATOのような集団安全保障の枠組みを持たないこの地域の平和と安定に重要な役割を果している。その中で在日米軍は、この地域における米軍全体の中核として機能している。在日米軍がアジア太平洋地域においてこのような役割を果していることは極東及び日本の平和と安定を目的とした日米安保条約が直接規定していないところではあるが、民主党は、当分の間、日米安保体制の実効性を高めることが、アジア太平洋地域の平和と安定のための重要な基盤であると考える。その際、日本として重要なことは同盟国としての信頼関係を構築しつつ、米国の行動が米国の国益にのみ重点を置きバランスを欠いたものとならないように、率直に協議するという姿勢である。

  3. 日本の主体的役割
  4. アジア太平洋地域において、日本が主体的に果すべき役割には重要なものがある。即ち、核拡散等の防止や危機を未然に防止・減少させるための予防外交展開などの広義の安全保障を高めるために、近隣諸国との二国間関係を充実したり、地域的取り組み、国連を通じた取り組みを推進するための積極的な努力が必要である。ただし狭義の安全保障については、近隣諸国の不信感を解消しつつ、慎重に対応する必要があることは言うまでない。このような観点から民主党は自衛隊がアジア太平洋地域において単独で活動することについては、邦人救出など例外的な場合を除いて今後とも慎重であるべきと考える。また周辺事態法に基づく米軍への後方支援を行うにあたってもその範囲が拡大しないよう厳格な運用が必要と考える。

  5. 安全保障対話
  6. APECやARF はアセアン地域の安全保障面の信頼醸成を高めるために重要な役割を果たしてきた。最近のアジアの経済危機の中で、ARF 等が十分に機能するように日本のリーダーシップ発揮が求められている。また、ARF 等の延長線上にアジア太平洋地域における広い意味での多国間安全保障対話の枠組み構築に取り組むことや朝鮮半島問題に関する四者会談を拡大した六者会談を更に発展させ、北東アジアフォーラムを構築することを民主党は主張する。これら多国間協議の場において、安全保障関係者の交流や交換、基地や施設への相互訪問、演習などの事前通報・情報公開や交換、通信連絡手段の設置などの信頼醸成措置を積極的に実現していくことが求められる。また海賊情報も含めて安全保障情報の域内共同管理や情報衛星の共同運営の提案などについても日本としても憲法の枠内で積極的なイニシアティブを果すべきと考える。

    このような広い意味でのアジア太平洋地域における多国間安全保障対話の枠組み構築と日米安保体制は対立するものではなく、両立・補完関係にあり、同地域の平和と安定のため、それぞれ重要な役割を果すことが期待されている。

  7. 集団安全保障
  8. 安全保障対話を更に進め、軍事的強制力を伴う集団安全保障体制がこの地域に構築されることが望まれるが、このためには、解決すべきいくつかの問題があることも事実である。例えば、アジア太平洋地域の安保体制を考える際に、米国と中国両国のいずれかが参加しない集団安保体制は、参加しない国に対抗する同盟的色彩が強くなり、むしろ有害である。また、国連の集団安全保障との役割分担、相互の関係についても検討が必要である。これらの点の検討も含め国内外において更に積極的な議論がなされることが期待される。

4.国連の安全保障

  1. 基本認識
  2. 国際連合は、非効率な運営、軍事的強制手段の不完全性等の問題点を抱えながらも、国際的な平和と安定に重要な役割を果している。コソボ問題は国連の紛争解決能力の限界を示すことになったが、他方で国連にかわるものは現時点で存在しない。重要なことは国連の限界を指摘し、批判することではなく、国連がよりよく機能するよう改革していくことである。民主党は、国連改革を推進する一方で、幅広い国連外交を主体的・積極的に展開することが重要であるとの基本認識に立つ。

  3. PKO活動
  4. 国連憲章は平和を破壊するおそれのある国際的紛争や事態を平和的手段によって調整・解決することをその目的に挙げている。国連が行う国際紛争の解決に向けての交渉、仲介や平和維持活動(PKO )の展開は世界の平和と安定のため重要な役割を果しており、我が国もより積極的に協力する必要がある。とりわけPKO 活動についてはPKO協力法施行後7 年を経過し国民の間にも理解と支持が定着した。PKO 活動を通し、国際的な平和の維持に対する積極的な貢献を行うことを我が国の基本的な政策と位置付けるべきである。また、現在凍結中の紛争停止や武装解除の監視、緩衝地帯における駐留・巡回などのいわゆるPKF 活動についても、その凍結解除に向け、国会審議を開始すべきである。

  5. 国連軍
  6. 国連は平和に対する脅威、平和の破壊、侵略行為があった場合に、世界の平和と安全を維持するための最終的な手段として国連軍の創設を規定している。「国連憲章第42 条、第43条の特別協定に基づく」という意味において正式な国連軍はいまだ編成されたことがなく、当分の間その可能性は低いと考えられる。しかしながら民主党は国連設立時の精神である国連を中心とする集団安全保障体制の確立に向けて真摯な努力を続けるべきと考える。正式な国連軍が編成される場合に日本はこれに参加すべきと考える。

  7. 多国籍軍
  8. 国連軍に類似するものとして安全保障理事会決議に基づく多国籍軍が湾岸戦争において編成された。世界の平和の侵害者が存在し、かつこれに対し最終的には武力をもって対抗せざるを得ないというのが歴史的事実であり、かつ世界の現実である。従って、安保理で議論を尽くした後の正式な決議が行われた場合には、その決議に基づく多国籍軍の役割は評価されるべきである。しかしながら先にも検討したように我が国憲法は多国籍軍への武力行使を伴う参加を禁じていると考えるべきである。

    自衛隊が武力行使を行わない場合には多国籍軍への協力は憲法上は可能である。しかし米国のイラク攻撃のように国連決議が存在しているかどうか微妙な場合もありまた、どこまでが武力行使等であるかの線引きが明確にできない場合も多く想定される。したがって民主党は戦争終了後の協力や資金協力を別とすれば、自衛隊の多国籍軍への協力については慎重を期すべきであると考える。

  9. 国連改革
  10. コソボ紛争において、国連の決議がないままにNATOが武力行使に踏み切った。今回の空爆開始にあたり国連安保理における議論が尽くされたかについては疑問が残るところであるが、仮に国連安保理が機能しないときに国際社会は平和の維持のためどう対応すべきかという基本的問題を提起した事も事実である。国連の安全保障の枠組みが機能しないときに主要国が協力しつつ武力行使によって問題を解決することは今後とも起こり得ることであるが、しかし安易にこれらのことを認めれば国連が形骸化し世界は主権国家がそれぞれの価値判断により無秩序に軍事力を行使することになりかねない。二度の世界大戦に対する反省の結果設立された国際連合が世界の平和を維持するための機関としてよりよく機能するよう安全保障理事会の改革、拒否権行使のあり方について検討すべき時期にきていると民主党は考える。

IV おわりに

安全保障は政治の基本的課題である。複雑かつ予測困難な安全保障環境のもとで、単に受身に対応するのではなく、日本自身が主体性を持ち、自らの構想力によって対処しなければならない。民主党は国民の安全を確保し、かつ世界平和の創造に日本が積極的に貢献するという基本的視点に立って、今後とも安全保障の問題に取り組んでいく。今回の基本政策はそのための第一歩であり、今後更により充実したものとすべく努力を重ねたい。


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