平成15年10月5日 ホーム総目次日誌に戻る

政権政策(マニフェスト)の提案

民主党代表 菅 直人

《マニフェストの意義》
知事選挙など大統領型の選挙では、これまでも有権者は直接「首長=政権」を選ぶことができました。議院内閣制の国でも小選挙区制で2大政党制の国では、有権者は各選挙区でいずれかの党の候補者を選ぶことで事実上、総理大臣を選択することができます。

しかし、日本では野党第1党が選挙で勝って政権を獲得するという、多くの国で普通に行われている政権交代の経験がありません。私がはじめて経験した10年前の政権交代でも、野党第1党の社会党は総選挙で惨敗しましたが、自民党が過半数を割ったことで非自民の7党が連立して細川政権が成立したのです。

細川政権で導入された小選挙区中心の制度の下で行われたその後2度の総選挙でも政権交代は実現しませんでした。仏作って魂入れずの状態です。今度の総選挙で民主党が勝って政権をとれば、野党第1党が選挙で勝って政権交代するという他の国では当たり前のことが、日本ではじめて実現することになります。小選挙区制という仏に政権交代という魂を入れることになります。

「マニフェスト」は政権を争う2大政党がそれぞれ、政権を獲得した時に実行する政策を選挙前に国民に約束する「政権公約」です。従来のような抽象的な選挙公約では、政権成立後に具体的政策を改めて議論することになり、時間がかかるだけでなく、その間に官僚の反対する政策は族議員や大臣の反対で全て骨抜きになってしまうのが通例です。選挙前に期限や財源を明示した具体的政策をその政党の全候補者が合意した上でマニフェストに盛り込み、選挙を行えば、政権獲得後は官僚の意見を聞くことなく、即座に閣議決定して実行に移すことができます。このような本物のマニフェストが提示されれば、有権者は総理大臣を選べるだけでなく、その政権で実行される政策までも直接選択できることになります。

民主党のマニフェストはこのような考えに基づいて立案し、最終的に党内の一任を受けた代表である私の責任で決定したものです。そして、このマニフェストの実行を民主党の全ての候補者が約束し、署名して総選挙に臨みます。自民党も、全党が合意したマニフェストをきちんと掲げて、正々堂々「マニフェスト選挙」を戦って欲しいと思います。

この総選挙で政権交代が実現すれば、日本も本格的な2大政党時代に突入します。そして、自民党も自己改革を迫られ、日本の政党政治も21世紀にふさわしいものに本格的に脱皮してゆくでしょう。

《脱集権、脱官僚》
民主党がめざす国のかたちは、身近な地域で物事が決められる分権型の国、そして官僚が主人公ではなく国民が主人公の国です。今日の日本は地方に対して中央集権国家であり、政治と経済を一般国民でなく官僚が支配している官僚主権国家です。発展途上の時代には、こうした集権・官僚国家の方が早い発展をもたらす面もあります。しかし今や国民の活力をそぐ、大きな原因となっています。この国のかたちを、地方主権、国民主権、そして市場やNPOなど民間主導の国に根本から変えなくては、日本の再生は不可能です。

《最小不幸社会》
私は、政治の目標は「最小不幸社会の実現」と考えています。国民の中には、「不幸」に遭遇している人がいます。そして、人々の「不幸」になる原因は様々です。その原因を政治の力、つまり「権力」で取り除けるものはできるだけ取り除き、不幸を最小化すること、それが政治の目標だと思います。

なぜ「最大幸福」と言わないで「最小不幸」というかと言えば、病気や貧困といった不幸の原因は、相当程度政治の力で取り除くことができますが、「幸福」のかなりの部分は、恋愛や美意識といった政治という「権力」が関与すべきでない分野の問題と考えるからです。一部の人が無理に「幸福」を押し付けようとして権力を使うと、そこには一種の強制や独裁が生まれます。政治権力は、人の生死をも左右する強制力を伴うものだけに、その行使は人々の「不幸」の原因を最小化することを目標とすべきであり、美意識のような個人的選好に属する「価値」の実現を目標とすべきでないというのが、私の政治に対する基本的哲学です。
 
「最小不幸社会」というと何か弱々しいイメージを与えるかもしれません。しかし、私が皆さんにお伝えしたい考えはそういうものではありません。むしろ、多くの人々の不幸を最小化するためには、政治権力を使うことを辞さない決意です。治安と防衛もその一つです。「最小不幸社会」の実現のためには、国民のみなさんを犯罪、侵略、テロから守ることは当然です。最低限の政府の責務といえます。国民の生命と財産を守るためには、国家にとって適切な警察力と防衛力は欠かせません。

また「最小不幸社会」というと「福祉国家」的な大きな政府を連想する人がいるかもしれません。しかしそれも正確ではありません。自立した個人には、規制の緩和された自由な経済市場や社会の中で、その力を存分に発揮していただきたいと思います。しかし、個人の責任ではない原因によって困難な状況に陥った人には、政治の力で手をさしのべるべきだと考えます。そうした観点から、たとえば、天災や犯罪に巻き込まれた被害者の救済などには、積極的に取り組むべきだと思います。

今日の中小企業、零細企業のみなさんの困難な状態や失業者の困窮は、これまでの経済政策の失敗が大きな原因です。したがって、困難と立ち向かい、新たな出発をめざして努力しているみなさんへの支援は、これからの「政権」の大きな責任だと考えています。

雇用問題は単に経済問題であるだけでなく、人間の尊厳を失わせかねない大きな問題です。これからも連合のみなさんとも十分連携をとりながら、取り組んでゆく覚悟です。

私が政権を担当させていただいた場合には、政策を官僚に丸投げする官僚主導の政治を根本から変え、“脱官僚”政権を作り上げ、「最小不幸社会」の実現をめざし、次の「5つの約束」と「2つの提言」を必ず実行します。

【5つの約束】
1.霞ヶ関からの「ひも付き補助金」を全廃します。(4年以内)
2.政治資金は全面的に公開します。
3.道路公団を廃止し、高速道路の料金を無料にします。(3年以内)
4.国会議員の定数と公務員の人件費を、それぞれ1割削減します。(4年以内)
5.無駄な公共事業を中止し、川辺川ダム、諫早湾干拓、吉野川可動堰を直ちに止めます。

【2つの提言】
1.基礎年金の財源には消費税を充て、新しい年金制度を創設します。
2.小学校の30人学級を実現し、学校の週5日制を見直します。

なお、政権公約第1次集約案ではあまり触れられていなかった、年金と消費税、憲法、郵政改革、イラク支援と国連を重視した安全保障については追加して本政権公約に盛り込みました。

以 上


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