2001年5月25日 人権救済制度の在り方について(答申) | 戻る/答申目次/情報目次 |
我が国における人権侵害の現状と被害者救済制度の実情 |
第2 1 |
我が国における人権侵害の現状と被害者救済制度の実情 人権侵害の現状 本審議会は,諮問第1号に対する先の答申において,人権教育・啓発の在り方を検討する前提として,女性,子ども,高齢者,障害者,同和関係者,アイヌの人々,外国人,HIV感染者やハンセン病患者,刑を終えて出所した人,犯罪被害者等に対する人権侵害の現状についての認識を明らかにした(第1,1「人権に関する現状」)。諮問第2号に関する本格的な調査審議を開始した平成11年9月以降は,人権救済制度の在り方を検討する観点から,我が国における人権侵害の現状やこれに対する救済の実情に関する認識を深めるため,改めて関係団体からヒアリングを行うとともに,関係行政機関から説明を求めるなどしてきた。 人々が生存と自由を確保し,幸福を追求する権利としての人権は,人間の尊厳に基づく固有の権利であって,歴史的には国家を始めとする公権力からの不当な侵害を抑制する原理として発展してきたものであるが,今日においては,公権力による人権侵害のみならず,広範かつ多様な差別,虐待事案等にみられるように私人間における人権侵害も深刻な社会問題として広く認識されるに至っており,国は,このような私人間の人権侵害についても,その被害者を救済する施策を推進する責務を有している(人権擁護施策推進法2条)。 そこで,我が国における人権侵害の現状を概観すると,まず,加害者のいかんを問わず,差別,虐待の問題が極めて顕著な問題となっており,これを私人間についてみると,次のとおりである。 |
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○ | 差別の関係では,女性・高齢者・障害者・同和関係者・アイヌの人々・外国人・HIV感染者・同性愛者等に対する雇用における差別的取扱い,ハンセン病患者・外国人等に対する商品・サービス・施設の提供等における差別的取扱い,同和関係者・アイヌの人々等に対する結婚・交際における差別,セクシュアルハラスメント,アイヌの人々・外国人・同性愛者等に対する嫌がらせ,同和関係者・外国人・同性愛者等に関する差別表現(注5)等の問題がある。 |
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○ | 虐待の関係では,夫・パートナーやストーカー等による女性に対する暴力,家庭内・施設内における児童・高齢者・障害者に対する虐待,学校における体罰,学校・職場等におけるいじめ等の問題があり,これらの問題はその性質上潜在化しやすいことから,深刻化しているものが少なくない。 次に,歴史的にも,また現在でも看過することのできない公権力による人権侵害についてみると,まず,差別,虐待の問題としては,各種の国営・公営の事業等における差別的取扱いや虐待等,私人間におけるものと基本的に同じ態様の問題に加え,捜査手続や拘禁・収容施設内における暴行その他の虐待等,固有の問題がある。このほか,公権力による人権侵害としては,違法な各種行政処分による人権侵害や,いわゆる冤罪や国等がかかわる公害・薬害等に至るまで様々な問題がある。 また,近時,社会問題化しているものとして,マスメディアによる犯罪被害者等に対する報道によるプライバシー侵害,名誉毀損,過剰な取材による私生活の平穏の侵害等の問題があるほか,その他のメディアを利用した人権侵害として,インターネットを悪用した差別表現の流布や少年被疑者等のプライバシー侵害等の問題がある。 そのほか,高齢者・障害者にかかわる家族等によるその財産の不正使用や悪質な訪問販売・悪徳商法による財産権侵害の問題等,様々な問題がある。 |
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2 | 被害者救済制度の実情 法務省の人権擁護機関は,広く人権侵害一般を対象とした人権相談や人権侵犯事件の調査処理を通じて,人権侵害の被害者の救済に一定の役割を果たしているが,現状においては救済の実効性に限界がある。また,被害者の救済に関しては,最終的な紛争解決手段としての裁判制度のほか,行政機関や民間団体等による各種の裁判外紛争処理制度(ADR)等が用意されているが,これらは,実効的な救済という観点からは,それぞれ制約や限界を有している。 |
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(1) | 法務省の人権擁護機関による人権相談及び人権侵犯事件調査処理制度 <1> 法務省人権擁護局,その出先機関である法務局・地方法務局の人権擁護部門と各支局の人権擁護担当職員に加え,各市区町村に配置された全国約1万4,000名の人権擁護委員で構成される法務省の人権擁護機関は,人権相談や人権侵犯事件の調査処理を通じて,人権侵害の被害者の簡易・迅速で柔軟な救済に努めてきた。平成12年に受け付けた人権相談は約65万件,人権侵犯事件は約1万7,000件に上っている。 このうち,人権侵犯事件の調査処理制度は,法務大臣訓令という内規に基づく制度であり,任意調査により人権侵害事実の有無を確認し,これが認められるときは,勧告,説示等の措置をもって加害者を啓発し,人権侵害状態の除去や再発防止を促すなど,専ら任意的手法によって人権侵害事案の解決を図るものである。対象とする人権侵害に特段の限定がないため,その時々に問題となっている人権侵害事象に対して柔軟な対応が可能であり,また加害者に対する啓発を中心としたソフトな手法は,それなりの効果を上げてきた。 <2> しかし,その反面,実効的な救済という観点からは,次のような限界や問題点がある。 ○専ら任意調査に依存しているため,相手方や関係者の協力が得られない場合には,調査に支障を来し,人権侵害の有無の確認が困難となる。 ○専ら啓発的な任意の措置に頼っているため,加害者が確信的であるなど任意に被害者救済のための行動をとることが期待できない場合には,実効性がない。 ○政府の内部部局である法務省の人権擁護局を中心とした制度であり,公権力による人権侵害事案について公正な調査処理が確保される制度的保障に欠けている。 ○人的資源が質・量ともに限られており,専門的対応や迅速な調査処理が困難な場合がある。 ○上記の結果として,国民一般から高い信頼を得ているとは言い難い。 |
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(2) | 司法的救済と各種裁判外紛争処理制度(ADR)等 ア 司法的救済 裁判制度に関しては,国民のより利用しやすい司法の在り方等について,現在,司法制度改革審議会において検討が行われているところであり,本審議会としてもその成果に期待するものである。しかし,裁判制度には,以下に述べるような制約がある。すなわち,[ア]その中心となる訴訟は,法と証拠に基づき権利・義務関係を最終的に確定するものであるため,本質的に厳格な手続を要するものであること(公開性,要式性等)や,現行不法行為法上,採り得る救済措置が限られていること(事後的な損害賠償が中心)などから,簡易・迅速な救済や事案に応じた柔軟な救済が困難な場合がある,[イ]裁判手続を利用するためには,権利侵害を受けた者による申立てと手続の追行が必要であるが,差別や虐待の被害者のように,自らの社会的立場や加害者との力関係から被害を訴えることを思いとどまったり,たとえ訴えようとしても,証拠収集や手続追行の負担に耐えられずにこれを断念せざるを得ない者が少なくなく,そもそも被害意識が希薄な被害者すらいるなど,自らの力で裁判手続を利用することが困難な状況にある被害者がいる,といった問題がある。 イ 各種裁判外紛争処理制度(ADR)等 労働問題,公害,児童虐待等の分野においては,最終的な紛争解決手段である裁判制度を補完する裁判外紛争処理制度(ADR)や被害者保護のための特別の仕組みが設けられており,また,様々な分野で,公私の機関・団体による被害者保護の取組が行われている(別添参考資料4参照)。これらは,それぞれに被害者救済の機能を果たしているが,実効性の観点から限界や問題点を指摘されているものもあり,改善のための取組も行われている。また,これらの制度等は,そもそも総合的な人権救済の視点に立って設置されるなどしたものではないため,救済が必要な分野をすべてカバーしているわけではない。 |
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3 | 人権救済をめぐるその他の情勢 <1> 本審議会設置の一つの契機となった地域改善対策協議会の「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方について(意見具申)」(平成8年5月)においては,各国の取組等国際的な潮流も視野に入れ,21世紀にふさわしい人権侵害救済制度の確立を目指して鋭意検討を進めるべきことが提言されている。また,男女共同参画社会基本法(平成11年6月成立)においては,性差別等による人権侵害の被害救済を図るために必要な措置を講ずべきことが国の責務とされ(17条),主に法務省の人権擁護機関がその任に当たることが期待されている。 <2> 規約人権委員会(注6)は,我が国の報告書に対する最終見解(1998年(平成10年)11月)の中で,人権侵害の申立てに対する調査のための独立した仕組みを設置すること,とりわけ,警察及び出入国管理当局による不適正な処遇について調査及び救済を求める申立てができる独立した機関等を設置することを勧告した。また,児童の権利に関する条約に基づく児童の権利に関する委員会も,我が国の報告書に対する最終見解(同年6月)の中で,独立した監視の仕組みを設置するために必要な措置を講ずることを勧告した。さらに,人種差別撤廃条約(注7)に基づく人種差別の撤廃に関する委員会は,我が国の報告書に対する最終見解(2001年(平成13年)3月)の中で,同条約の規定を国内において完全に実施することを考慮するよう勧告した。 |
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