司法制度改革推進本部顧問会議(第3回)議事概要
- 1 日 時 平成14年3月7日(木)18:00〜19:30
2 場 所 総理大臣官邸大食堂
3 出席者
- (顧問)
佐藤幸治座長、今井敬顧問、大宅映子顧問、奥島孝康顧問、小島明顧問、佐々木毅顧問、笹森清顧問、志村尚子顧問
(推進本部)
小泉純一郎本部長(内閣総理大臣)、福田康夫副本部長(内閣官房長官)、森山眞弓副本部長(法務大臣)、安倍晋三本部長補佐(内閣官房副長官)、上野公成本部長補佐(内閣官房副長官)
(推進本部事務局)
山崎潮事務局長 他
4 議事次第
- (1) 開会
(2) 内閣総理大臣あいさつ
(3) 司法制度改革推進計画(案)について
(4) 閉会
5 配布資料
- 司法制度改革推進計画(案)
司法制度改革推進計画要綱(案)(最高裁判所)
日本弁護士連合会司法制度改革推進計画(案)(日本弁護士連合会)
6 会議経過
(1) 開会の後,各顧問から以下のとおり発言があった。
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- 小泉内閣による構造改革の柱は,資源を効率の悪い分野から良い分野に再配分することによる経済の活性化であり,次に大事なことが規制緩和である。事前規制型社会から事後チェック型社会に移行するため,司法改革は地味ではあるが一連の改革の仕上げとなるものである。
- 我が国では,土地の収用や駐車違反の取締りなどに見られるように,法律の規定と実際の運用が異なっていることが少なくない。このようなある種のごまかしを認めてしまう国民の法意識が変わる必要があるのではないか。あまり技術的な問題にばかり走らずに,国民の法意識のように根本的な問題も検討してもらいたい。
- 司法制度で一番重要なものは,それを運用する人である。法科大学院でいかに優秀な法曹を育てても,裁判官と検察官の数が足りなくては司法制度は機能しない。推進計画案では裁判官,検察官の「大幅な増員」がうたわれており期待がもてるが,総理からもこの点についてしっかりと決断をいただきたい。
- 政府の一連の改革の目的は,日本社会の競争力を向上させ,経済・社会の活力を増すことである。したがって,司法制度改革を巡って意見の対立があるときは,日本社会の競争力向上という観点から解決することが必要である。弁護士の質の問題については,個人や企業など利用者のニーズに対応するということが最大のポイントである。ハーバード大学ロースクールで開講されている講座を調べたところ,金融法,特許法,租税法など,グローバルな企業活動に必要な分野が数多くあった。我が国のロースクールでも,日本社会の競争力向上の観点から科目を設定してもらいたい。
- 我が国では従来,司法制度が国民の問題解決のために十分に利用されていなかった。しかし,最近では国民の意識が変化してきており,特に若い世代では,当事者間による非公式な解決よりも法律に基づいた解決のほうが説得性を持っている。司法制度改革はこのような国民意識の変化を追い風としているのであり,関係当事者の利害調整に迷い込まないようにしてもらいたい。
- 各種の審議会が多数ある中で,これまでに「改革」という名の付いた審議会は教育改革と司法制度改革の2つだけであり,この改革はそれだけ重要なもので後戻りはできないという認識である。これまで,司法は国民から遠い存在であったが,それではいけない。法曹三者は国民から愛想をつかされていないか反省し,利用しやすい法曹となる必要がある。今までは小さい司法にこだわりすぎていたのではないか。雇用情勢の悪化に伴い労使紛争が増えているが,個々の紛争で個人は無力であることから,労働参審制の導入をお願いしたい。今年は5人の最高裁判事が新たに任命される予定だが,選任過程の透明性を確保するために適切な措置をお願いしたい。
- 司法は,行政,立法に比して,市民社会のあるべき姿を守るという特別に重要な役割を背負っている。この司法制度の改革について適切な提言がなされたと認識しているが,その内容があまりに多岐にわたるので焦点がぶれてしまわないか危惧している。重要な点は,第一に,司法は人が重要であり,すべての法曹が公正,中立で高い倫理観を持つように,広い視野,豊かな人間性,多様な経験を備えた人材を育成すること,第二に,量が足りないので増員をした上で質も確保するということが言われているが,量よりも質を優先するのが正しい姿であるということである。法曹数の人口比が米国の20分の1だと聞いたが,米国は過剰な訴訟社会であり,そこまで行くのは行き過ぎである。極端を排して中庸を行く東洋的な考え方も大切であると考える。
- 司法制度改革には2つの意義がある。第一点は,日本社会の構造改革を支えるベーシックなものであるということで,事前規制型社会から事後チェック型の透明なルールに基づく社会への変革を促すものである。第二点は,司法改革は教育改革の鍵を握っているということである。日本の教育は,特に文系の人材を輩出することについて外国に遅れをとっており,これを取り戻すためには大学のあり方を根本的に変える必要があると認識している。教育改革は人材の養成に大きな力点を置いており,法科大学院はその一つの現れとして改革の突破口となるべきものである。
(2) 小泉本部長から,概要以下のとおりあいさつがなされた。
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- 構造改革が目指す社会は,努力する者が報われる社会である。この司法改革は,正しい者が救われる社会の根幹をなすものであり,最も大事な改革の一つである。以前,「思い出の
事件を裁く
最高裁」という川柳を見たことがあるが,裁判を速くしてほしいという国民の思いを良く表現していると感じた。裁判は速く行われなければいけないのであり,こういう点を踏まえて司法改革に取り組んでいただきたい。顧問の皆様方の意見を尊重していきたいと考えているので,よろしくお願いしたい。
- (3) 山崎事務局長から、司法制度改革推進計画(案)の内容について説明するとともに、付随して以下の説明があった。
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- 今後の日程であるが,本日の議論の結果を踏まえ,本部会合を経て,3月中旬を目途に閣議決定をお願いしたい。
- 先ほど,顧問から,最高裁判所判事の選任についてご意見があったが,最高裁判所判事選任の制度は,その職責の重大性やその任命が内閣の権限であることに鑑み,内閣により人格・識見に優れたものが任命され,任命後は国民審査を受けていると承知している。選任過程の透明性を確保するための措置については,過去の経緯,諸外国の制度を調査するほか,運用面での対応については,事務局において内閣官房とも協議しながら検討することとしたい。
- (4) 最高裁判所から、「司法制度改革推進計画要綱(案)」についての説明があった。
(5) 日弁連から、「日本弁護士連合会司法制度改革推進計画(案)」についての説明があった。
(6) 顧問から、事務局の「司法制度改革推進計画(案)」について、概要次のような質問・意見があった。
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- 最高裁判所判事の選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置を検討すると計画中に記されているが,今年中に5名が退職して新たな者が選任されるのであり,これについて計画中の記述の趣旨が生かされないおそれがある。速やかに対処すべきではないか。
(事務局より,制度面と運用面との検討が必要であり,制度面については過去の経緯や諸外国の制度を調査するなどした上で検討することになるので,速やかにということは性質上困難であるが,運用面については事務局において,官邸,内閣官房とも協議しながら,なるべく早く検討をしたい旨を説明。)
- 「法曹人口の拡大」部分で,総論中では「大幅な増員」とされているが,各論では「大幅」が抜け落ちており,後退した印象を受ける。
(事務局より,総論部分は今後3年間のみならず将来のことも記載しているので「大幅な増員」としているが,各論部分の記述は本部設置期間の3年以内の事項に限られるので「大幅な」がついていないのであり,後退しているわけではない旨を説明。)
- 増員と総定員法との関係はどうなっているのか。司法関係の職員は別枠扱いとすべきではないか。
(事務局より,総定員法の枠と実員数との間に2万5千人を超える開きがあるため,総定員法の枠の中でも運用により十分対処可能である旨を説明。)
- 特例判事補制度について,改革審の意見書では段階的に「解消すべき」と断定していたが,計画中の表現はこれと比べて後退しているのではないか。
(事務局より,後退させる趣旨ではない旨を説明。)
- 被疑者・被告人の身柄拘束に関連する問題について,担当府省等に本部が入っていないのはどのような理由によるものか。全体の検討をコントロールするためにも本部を加えるべきではないか。
(事務局より,この問題は運用に関する事項なので,その運用を担当する省庁を記載している旨を説明。)
- では,本部を入れても差し支えないということか。
(事務局より,本部は運用については担当していない旨を説明。)
- 日弁連の計画案には,報酬の透明化・合理化や弁護士倫理に関する弁護士会の態勢の整備が記載されており,期待を寄せている。弁護士報酬に関しては,合理化と競争を通じたサービスの向上を期待している。倫理問題については,日弁連総会で綱紀・懲戒手続への国民参加が決議されたことは結構なことであり,是非計画中にも取り入れてもらいたい。
(日弁連より,報酬問題については検討中であること,綱紀・懲戒については倫理委員会での議論を踏まえて計画に反映させていきたい旨を説明。)
- 裁判員制度は重要な問題である。先日弁護士会の主催により開催された模擬裁判では,裁判官と裁判員の人数構成が異なる4種類の裁判体で同一の結論が出たと聞いたが,関心の高い人が参加したが故に結果が安定したのではないか。バックグラウンドが異なる人が審理すれば違う結果が出たかもしれず,充分な検討が必要である。
(日弁連より,模擬裁判では,壇上に上がった裁判員には当方より個別に依頼をしたが,その他の裁判員については希望者にお願いをしたのであり特定の団体に動員をかけたわけではないこと,今後は会場参加者へのアンケート結果を充分に検討したい旨を説明。)
- 民事司法制度の改革について,法制審と検討会との関係はどうなっているのか。
(事務局より,技術的な問題が多いので法制審で検討を行っていること,最終的に法案を本部と法務省のいずれが提出するか未定であること,法制審の検討結果を踏まえて本部でも検討を行う予定である旨を説明。)
- 特例判事補について,計画中の記述の趣旨は改革審の意見書の趣旨と同じであるという理解でよいのか。
(事務局よりそのとおりである旨を説明。)
- 民事裁判では審理期間の半減がうたわれているが,いつまでに達成するのか。ビジネス界は変化が激しくスピードが命である。刑事事件でもオウム事件の裁判の長期化が確実視されるなど,司法制度は仮死状態であるといっても良く,法治国家として恥ずべき状態である。いつになったら裁判の迅速化が実現して法制度が救済されるのか。
(事務局より,民事裁判については審理期間の半減を目標として審理計画を定めるための協議をすることを義務づける制度の推進を実現したいこと,刑事裁判については裁判員制度を導入する関係で迅速化を達成しないと国民の協力が得難いことから迅速化のための手続を導入することを説明。)
(さらに,座長より,計画中にも記載されている刑事裁判の連日的開廷は裁判員制度の導入と関連していること,また,弁護士側の態勢の整備も必要である旨の説明があった。)
- かっては選挙違反事件の裁判は非常に時間がかかったものだが,百日裁判制度により迅速化が達成され,連座制の導入もあり腐敗の抑制に効果があった。これは裁判の迅速化が制度運用の実効性に影響を与えた好例である。法的に不確定な状態を長期間放置することは好ましくなく,審理期間の半減は最低目標であると考える。
- ADRと言われても具体的なイメージがわかないが,どのようなものなのか。この呼称は国民に分かりやすくないのではないか。
(事務局より,例えば建築紛争で各都道府県に設けられた審査会により裁判によらずして仲裁で解決を図る制度があること,弁護士会でも斡旋,仲裁などによる紛争の解決を行っており一定の機能を果たしていること,このように事前の解決を促進することで訴訟社会となることを防止する効果があること,呼称については残念ながら適当な訳語が見当たらない旨を説明。)
- 検討会における検討状況が顧問会議に伝わらないと議論ができないのではないか。
(事務局より,検討会における検討がある程度まとまった時点で顧問会議に資料を提出したり,検討状況を報告する予定であること,各検討会の議事概要,議事録はインターネットのホームページを通じて入手できる旨を説明。)
(座長より,検討会の議論の反映は節目々々で必要であり,特に法科大学院問題など速やかな検討が必要なものについては早急に報告してもらい,顧問会議で議論する必要がある旨の認識が示された。)
- 検討会の議事録の公開方法について,顕名とする検討会と匿名とする検討会とが半々であると聞いたが,匿名とするのは検討会の議事内容公開の趣旨に合わないのではないか。
(事務局より,検討会では氏名の公開について多様な意見が出されたが,その決定について事務局は関与せず,すべて検討会に任せた結果である旨を説明。)
- 特任検事に法曹資格を与え,副検事,簡易裁判所判事の経験者を活用するとされているが,今後このような身分の者はいなくなるということにはならないのか。
(事務局より,これらの職には一定の役割があるのでなくなることはないことを説明。)
- 同様の職務をしている者が法曹資格の付与において差別されることは適当ではない。副検事と簡易裁判所判事が不利益を受けることがないようにすべきである。
(事務局より,意見を踏まえて検討を進めていきたい旨を説明。)
(7) 森山副本部長から概要以下のとおりあいさつがなされた。
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- 大変遅くまで熱心に具体的な意見を述べていただき感謝する。本日は総理からも出席をいただき司法制度改革についてコメントをいただいたが,その指摘を踏まえて「速く,近く,便利な」司法制度を実現するようよろしくご協力をお願いしたい。
以 上
文責:司法制度改革推進本部事務局
注)速報のため、事後修正の可能性あり