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この意見書は、日本社会党第40回大会(1977年2月)に提出されたものである。その時は提案理由の説明さえさせてもらえなかった。しかしその構想は、今も脈々として生き続け、いよいよ政治の表舞台に登場しようとしている。


「革新・中道連合政権」についての意見書

 福田内閣は衆議院において一票差で生れた。参議院は与野党伯仲である。世界が大転換に直面しているなかで、「日本丸」はどこに進路をとるのか。すでに破産した大企業優先路線をとる保守本流が、これまでの議席上の優位をも失い、その場しのぎの対応をすることで、明日の展望をひらけない。

 この政権は、他党のだきこみに、あらゆる手段をとるであろうが、どの党も、この政権と抱合心中するような愚はさけるだろう。残された唯一のチャンスは参議院選挙であり、財界あげての支援をバックに、なりふりかまわぬ選挙戦を展開するであろう。彼らが勝利すれば、参議院のだきこみに新しい条件が生まれよう。福田政権は、すでに歴史的役割の終わった保守本流に、戦後民主主義に背を向ける党内右派が加わり、情勢次第で、いつ右翼反動政権に移行するかも知れない性格をもっており、われわれは、参議院選挙でこの政権を勝利させてはならず、命脈を断たねばならない。そのための、可能な方策確立が急がれる。

 今次選挙では、中道派が支持されたといわれているが、より正確には、政治の急激な変化による混乱をさけ、漸次的改革を望む人々が、国民の側で多数派を形成しつつあるということであろう。年々ふえつづける支持政党なし層が、四年前には、自民党に痛棒を加えるため共産党に投票したが、今回は新自由クラブに移ったこと、最近の世論調査によると、自らを中産階級だと考えるものが、中の上、中の下を加えたら、国民の九割に達していることもこれを裏づけている。この国民の側で形成されつつある多数派を、政治の場で実現するのがわれわれ政党の役目である。そのため、第一に、先進国型の自由と民主主義に基礎をおき、漸次的改革をめざす社会主義勢力(党と労働組合)が核となり、第二に、革新的ないしリベラルな諸党派、諸勢力、市民、知識人、中間層等を含む進歩的連合を形成することである。われわれはそれを革新中道連合と呼ぶ。より正確には、社会党が中心的な勢力として加わるという意味で革新・中道連合である。もし今回の選挙にあたり、そうしたリベラル保守をも含む革新・中道連合構想が具体的に明示されていたなら、新しい政権誕生の道が一挙にひらかれたかもしれない。野党各党バラバラの抽象的政権構想では、なんの迫力も持ちえなかったのである。

 すでに古い社会主義陣営の階級分析が当たらなくなり、価値観の多様化した今日の社会状況にあっては、単一の党が国民過半数の支持を獲得できる時代はすぎ去り、革新のみならず保守も多党化が必然となり、したがって、政権は多党連合が不可避必然となる。西欧社会ではそれが大勢となっており、日本もこの時代に入ったと考えられる。こうした多党連合は、一つのイデオロギーによる連合ではなく、多様な価値観の共存を認める政党が、自治と参加を基調とする諸団体、個人を加えて結集する柔軟な連合である。連合論についてつけ加えるならば、これまで安易に使われてきた「統一戦線」という用語も刷新する必要があるように思う。統一戦線という語は、前衛政党(共産党)を中心としてその周りに諸勢力を結集するという、同心円型の戦線として歴史的に定形化された概念である。われわれが目ざす連合はそうではなく、実際上何れかの党が要(カナメ)党としての役割を担うにしても、少なくとも理論的には、同格の複数の政党がいて、互いに協力しあう関係でなければならない。したがって「統一戦線」という用語よりも「連合」がその呼び名にふさわしいと思う。わたくしはいま、参議院選挙を前にして、こうした考え方にたって、政権構想を早急に具体化しなければならず、そのためのリーダーシップは、野党第一党である社会党に責任があると思う。

 社会党は全野党による共闘を主張してきたが、数年を経過したにもかかわらず、四野党の足並みは一致ではなく、分離の方向に進んできたことを冷静にうけとめなければならない。ネックは共産党にある。この党がいかに柔軟な路線を表明しようと、民主集中制をとるイデオロギー政党であり、党内にさえ民主主義が生かされない独善の党である限り、この党を加えての連合は不可能だということを認識しなければならない。これはすでに、世界的に実証されてきたことであり、共産党とは閣外協力が限界だということである。わたくしは日本における現実的な革新的連合政権の構想にに、共産党とはともに天を戴かずという態度をとれというのではなく、遠い将来は別として、現段階においては、前述のように対処することが壁につき当たっている社会党の政権構想に窓をあけることができると確信する。

 成田委員長は、社会党の提示した政策に賛成なら、戸籍を問わず、柔軟大胆に手をつなぐと総選挙中に述べた。しかし最近、いまの段階において政権構想に線引きをすることに反対し、参議院選挙での保革逆転をかちとることが先決だと述べている。この前段の部分は、革新側の政権構想に「保」が入れられたことが画期的な提案だと思う。しかし後段についていうなら、実は参議院選挙前に、政権構想を具体化することこそ、逆転を可能とするのではないのか。参議院選挙を迎えて国民の社会党に対する最大の関心は、社会党が実現可能な、明確な政権構想をもって臨むかどうかにかかっている。もし、社会党が具体的な政権構想を持たず、政権構想の意欲を具体的に示さないなら、ふたたび自民党勢力が復活するおそれもある。現在、社会両党間で若干の選挙区での共闘の話し合いが進められているが、このことさえも、社会党が明確な政権構想にふみ切らないかぎり、まとまらないのではないかと」憂慮される。

 五万に足りない党組織で、一千万を超える得票を重ね、広く革新を代表する国民常識の党として歩んできた社会党は、今こそ決断すべきである。わたくしはこの際、連合の可能な諸政党をはじめ、広く諸団体、学者専門家によびかけ、連合政権の基調、中心にすえる政策の具体化のため、社会党のイニシアによる、大シンポジウムを提唱すべきことを提案したい。保守に代る新しい連合政権樹立のため、広範な論議を組織する責任が社会党にあると考えるからである。

 社会党が、旧来の路線にとらわれ、新しい道をひらくことに怠慢をつづけるなら、なおも低落がつづき、自らを過去の政党とすることになるであろう。革新の革新は、構造改革提唱以来のわたくしの初心にほかならず、重大選択が迫られるいま、あえてこの提案を行うものである。

1977年1月


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