2004年8月28日

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司法制度改革 与党的立場で仕上げ

民主党参議院議員 江田五月


 ― 司法改革をどう受け止めていますか。

 「民主党がやりたかった制度改革は、弁護士から裁判官を採用する『法曹一元』と、被告は有罪か無罪かを市民が判断する『陪審制度』の導入という二つでした。どちらも、願った通りにはならなかったけれども、調停に限って弁護士から非常勤裁判官を採用する新制度ができるなど裁判官の給源は多様化しましたし、国民と裁判官が一緒に刑事裁判を行う『裁判員制度』も実現しました。市民の方を向いた司法にはなったと思います。司法改革については今後も改革与党の立場を貫いていきたい」

 ― ADR基本法案など秋の国会での対応は。

 「裁判所へ行かないと法的解決ができないのでは裁判所も市民も大変。裁判所で紛争解決の方向を示してもらい、ADRで具体的に解決する手法は必要です。例えば利息制限法違反の貸金について裁判官がいつも金額の計算をしていたのでは、裁判官の負担が重すぎます。別に計算して解決する組織があってもいいでしょう。そのためにはADRについて時効、執行力の付与などを法律で決めていかなければなりません。秋にはぜひ基本法を仕上げたい」

 「裁判官時代にオックスフォード大学で英国行政法を調べたのですが、そのとき、日本の行政法は戦後改革の影響が全くない世界だと痛感しました。戦前の行政法の教科書が、憲法の部分を書き換えただけで通用している。行政の優位性が大前提としてあり、そこからすべて導き出されてくるのです。そのような行政法を、国民主権の下で『法の下の平等』を実現させる構造に書き換えなければなりません」

 「改正行政事件訴訟法はそこまでいっておらず、非常に中途半端です。訴えの利益、当事者適格が広げられるなど、市民がかなり使いやすくなる行政訴訟へと踏み込んではいますが、理想からいえば全面的に変えたい」

 ― 今後の課題ですが。

 「地裁の裁判官の任用過程にもっと市民的チェックを入れていかなければなりません。最高裁の任命手続きを監視していくことが重要ですし、裁判官が市民生活の中で育っていく『裁判官の市民化』も必要です。家庭裁判所の活力を一層増すなどして、裁判所への信頼を高めていってほしい」

 「しかし将来、憲法に手を入れることがあれば、憲法裁判所をつくって抽象的な憲法判断の権限を持たせることは、検討に値する制度設計でしょう。基本的人権の保障をすべて裁判所が扱うというのも、使い勝手が良くない装置です。人権救済機構を憲法上の制度として立法、行政、司法とは別個につくることもあり得ると考えています」


えだ・さつき 参院民主党・新緑風会議員会長。弁護士。1941年岡山市生まれ。


山陽新聞 2004年8月28日掲載
市民の司法へ― 改革の到達点 「秋の国会提出法案」


2004年8月28日

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