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立木トラストの法的根拠・有効性

 ありがたいことに私には法曹資格があるので、昨年末から弁護士事務所を開きました。弁護士は初体験で、裁判官とは勝手が違いますが、やはりここが、私にとっては職業人・生活者としての原点です。どうぞよろしく。

 そこで弁護士として、「立木トラスト」の解説を試みてみました。

 立木は普通「たちき」と読むでしょう。ところが法律家はこれを「りゅうぼく」と読みます。普通なら「りゅうぼく」は流木ですね。法律家の世界にしか通用しない符丁ですから無視して、「たちきトラスト」と読みましょう。

立木法の適用を受ける立木とは

 「立木ニ関スル法律」という明治四二年の法律の第一条が「本法ニオイテ立木ト称スルハ一筆ノ土地又ハ一筆ノ土地ノ一部分ニ生立スル樹木ノ集団ニシテ其ノ所有者ガ本法ニヨリ所有権保護ノ登記ヲ受ケタルモノ」と定義しています。「樹木ノ集団ノ範囲ヲ定ムルノ件」という勅令もあります。古色蒼然とした法律や勅令が、法律の世界では今でも生きているのですね。

立派な「樹木ノ集団」でなくても

 この規定の適用を受けるのは、「樹木ノ集団」で「登記ヲ受ケタルモノ」ということになるのですが、よく読むと、「本法ニオイテ立木ト称スルハ」云々というのですから、「本法ニオイテ立木ト称」しない立木もあり得ることになりますね。現実には民法施行前から、立木法にいうような立派な「樹木ノ集団」ではなく一本一本の立木でも、独立して権利・義務の目的とすることが慣習で認められていました。「立木トラスト」の目的になっている立木は、このように慣習上認められていた一本一本の立木だと思われます。

立木は不動産

 民法八六条は、動産と不動産の区別を規定しており、「土地及ヒ其ノ定着物」が不動産、「此他ノ物ハ総テ」動産となっています。立木は、土地とは別個に権利・義務の目的とされれば、立木法の適用の有無を問わず、伐採されるまでは土地の定着物ですから、土地とは別個の不動産ということになります。ちょうど家と同じ理屈ですが、撤去義務が生じることもありますから、要注意。

不動産の公示方法は登記

 不動産や動産など物についての所有権などの権利は物件と呼ばれ、債権という特定の人に対する権利と異なり、誰に対しても主張できます。しかしそうするためにはこれを天下に明らかにしておかなければなりません。その方法を公示方法といい、不動産の場合は登記です。
 不動産が二重に売られたときのように、一つの物について自分と他人とが同じ権利を主張しこれが両立しない場合は、登記をしている方が勝ちです。
 このように優劣を決める用件を対抗要件といい、不動産の場合は登記です。

登記に代わる明認方法

 しかし「立木トラスト」のように立木法の定義に合致しない立木は、立木法による登記ができません。それでは、このような立木を不動産と認めた意味がなくなります。ここで登場するのが「明認方法」。登記に代わる公示方法として慣習上認められたもので、立木の幹を削って所有者の名前を書いたり、枝にプレートを引っかけたりして、その立木についての権利を示します。
 これで対抗要件を備えたことになります。判例もこれを認めました。

立木が守られます

 土地の所有権者であるAさんから立木を譲り受けたBさんは、何もしなければ、Aさんから土地を譲り受けたCさんに対して何の権利も主張できませんが、「明認方法」をとっておけば物件としての所有権を主張することができ、Cさんが勝手にBさん所有の立木を処分できなくなります。

 明治の立法以前から慣習が認めてきた権利が、市民が環境を守ろうとするときの強い見方になるのです。「プレートかけ」の大切さ、お分かりですね。


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