2011年11月18日 第10回「政治家の日常と民主党の課題」
本日は10回目の講義になります。前回は大蔵さんに、国会の召集日はどうなっているのか、国会が終盤になると荒れる理由や発言の時間制限、そして
牛歩などについて、議事法を中心に話してもらいました。
【議事妨害について】
牛歩は議事妨害ではあるけれども、違法ではありません。あくまでも議長が「終わり」というまではどんなにゆっくりと歩いて、投票してもかまわな
いのです。
合法的な議事妨害のもうひとつは、フィリバスターといいます。日本でのフィリバスターも大したものだと思います。先週参考資料として見てもらった国民年
金法のフィリバスターを見ると、かなりの時間、一人で演説していますね。このフィリバスターを話すときには、「スミス氏
都に行く」という1939年の映画を外す事はできません。見た事のある方もいると思います。ボーイスカウトをしている青年が主人公ですが、この青年が上院
選挙で当選します。自分の選挙区に建設されるダム建設に絡んで腐敗があることを知り、上院の本会議場で演説を始めるのです。この演説がどのくらい続いたの
か、忘れてしまいましたが、それこそ何日も続けたのではないかと思うほど印象に残っています。
演説を始めたときに、他の議員たちはスミス氏の発言を大したものじゃないと思っていた。しかし、どんどん時間が経過していって、議員達も注目し始めま
す。こんなに長く演説しているのだから、なにか理由があるのだろうと思って聞くようになるのです。スミス氏はダム工事には裏事情があるという話から始まっ
て…と、内容を言ってしまうのも面白くないので、皆さんぜひ映画を見てください。アメリカの上院では、議員の発言時間を制限してはいけないことになってい
ます(上院議員の5分の3以上の議員が賛成した場合にはこの限りではないが、可決する事は希である)。立ったまま演説を行い、トイレなどで本会議を出ない
限り演説を続けるということは、これは本当に演説者の体力が尽きるまで、体を張った抵抗なのです。
【選挙戦とスタッフ】
さて、今回も前回に引き続いて民主党の課題をお話ししようと思います。
ある中国人の方とお話ししていて、その方から選挙は好きかと聞かれました。まさか、好きではありません。しかしながら、選挙という制度が存在して、それ
に勝った者が議員になれるというシステムの方が、貴方には申し訳ないけれども良い制度であると思う、と答えました。
有権者に対して思いを述べて投票してもらう制度の方が良いと思うけれども、その一方、やはり選挙というのは戦いであるということは否定できません。その
上、いまの小選挙区という制度では勝つか負けるかという更に厳しい側面があります。小選挙区となって、毎日が戦いの連続となった結果、小粒な政治家しか育
たなくなってしまったという批判があります。また、政治家が劣化しているのではないかという批判もあります。中選挙区に戻す事を目標とする議員連盟ができ、
50人くらいが集まったと報道されました。
私は今のような批判をふまえ、そして議員が問題意識をもって議連を立ち上げた事を否定する事はできません。しかし、中選挙区制度のように当選者が複数人
出るような、言ってしまえば与野党がもたれ合うことが可能な制度では、新人がそこに入り込む事が難しく、前にも述べたように地域内、業界内で票を分割する
ことが可能になってしまい、緊張感がなくなってしまうのです。その意味で、否定する事はできないけれど、私はこれに与することはできません。
選挙をやるときは非常な緊張感を持って、周到な準備を練ります。一日にどれくらいの街頭演説を行うのかということも考えます。これは体力勝負になりま
す。どのような内容の訴えを行うのか、今の有権者に届くテーマにぴったりとはまるような内容にしなければなりません。ポスターをとってもそうで、なにかス
ローガンを書くとしても厳選しなければなりません。
選挙戦をたたかっている時、味方の情報は漏らさないようにする一方で、相手の情報はどうにかして手にいれなければなりません。一般論として、相手陣営に
関するデマを流す事もあるでしょう。演説やビラなどで相手の弱点には容赦なく切り込みます。もし傷があれば、塩を塗り込むとか、そういうことまでやりま
す。別に私がそのようにしているという話ではありませんよ。ただ、それくらい、敵と味方という関係になってしまうのであり、そういうやり方を捨てることは
できないのです。
さて、このような選挙戦をたたかうために、そして当選した後の活動を補佐してもらうためにも、どのような陣営をつくるのかということがとても大切になり
ます。国会議員の秘書には政策秘書、公設秘書、私設秘書がいますが、秘書に誰を選ぶのかということは、細心の注意が必要です。最近、某大臣に執行猶予が切
れたばかりの秘書がいることがニュースになりました。その大臣はしらなかったと弁明していたけれども、普通は信用をおけるような人を秘書に登用しなくては
なりません。信用ということでいくと、気心の知れた支援者からの紹介という方法もあります。支援組織がある場合、たとえば労働組合の優秀な職員をスタッフ
にするという方法です。これは縁故採用といい、信用面では確かにに長所になりうるかもしれないですが、政治で働こうとする多様な人材を吸収する事にはなら
ないのです。私は政治に志をもっている人をスタッフにしたいと考えています。しかし、政治家としてはこのような冒険をするよりも、縁故採用の方が安心で
す。しかし、政治全体から見たらリクルートのシステムが生まれません。合成の誤謬という言葉はご存じでしょうか。個々の政治家にとって縁故採用の方が安心
するといって、それが大勢になってしまうと、全体から見たときにリクルートの機能が果たせず、間違った方向にいってしまうのです。
私はこのような問題意識があったものですから、思い切ってスタッフを公募制にして募集してみました。全国紙ではお金もかかりますから、地方紙や求人誌に
まで広告を出しました。結構応募があって、筆記試験や面接をしてスタッフを選びます。その際に重視したのは次の目標があるか否かでした。議員の秘書だけで
終わるのではなくて、その経験を生かして議員になる、または首長になる、このような明確な目的意識がある人を求めました。また、最近では珍しくないかもし
れませんが、女性枠をつくったこともありました。スタッフになってもらう際には簡単な身辺調査も行います。もちろんお金をかけて探偵を雇うわけではありま
せんけれども。
民主党は政党として、候補者を公募しています。公募合格者はスタッフとして採用します。そしてそのスタッフを選挙に出すということをしています。私の秘
書から議員になった人は結構多くて、その意味では成果があったと思います。ちなみにこのようなシステムを大々的におこなったのが小沢一郎さんです。
残念だと思う事もありました。私の秘書からスタートして議員になったけれども、結局自民党に行ってしまった議員さんもいます。私たちの力量不足だと思っ
ていますが、当時の民主党はやはり野党です。野党議員を続けるということは、余程固い決意がないと厳しいものなのです。地方議員は地方でどのような仕事をしたの
かが評価の物差しになります。例えば、地域ボスにつながる、市の幹部とつながる、そういうことが大切になるのです。野党だった民主党にはそういうつながり
がありませんから、保守系に行くのかなと思っています。それほど腹を立てることはしませんが、やはり嬉しい事ではありません。昔私のスタッフだったから、
保守系にいっても応援するかといえばそのようなことはしません。やはり私も人間ですから、思い知らせてやろうという気持ちもあります。
秘書をやった人の中には困った人もいて、暴力事件を起こした人もいましたし、詐欺をしてしまった人もいました。政治というのは世の中の縮図ですから、こ
ういう人も当然いるのです。今となってはいい思い出です。
私のスタッフということではなく、選挙に関わってくれる方がいます。そのなかでも地方議員は非常に大切です。地方議員は国会議員の部下ではありません。
しかし、密接な、良好な関係を保つことが大切です。政治の世界には、選挙の借りは選挙で返すということがあります。私の選挙で手伝ってもらったら、その地
方議員の選挙では私も手伝います。
後援会の組織も大切です。自民党は議員の後援会から成り立っているといえます。後援会組織のなかから次の人材がリクルートされてくるという構図になって
います。民主党も議員や後援会が基盤になっています。これが政党の姿か疑問はありますが、現実としてはそのようになっている。さらに民主党の場合、地域に
根が張っていればいいのですが、なかなかそうなっていないのです。
【日本の政党】
党の組織についてお話ししているので、政党論にも少し触れておきます。自民党も民主党も本来の意味での政党になっていないのではないかと問題提
起しましたが、一方で違う考え方もあります。大学生の頃、私はゼミで吉野作造について発表しました。吉野さんは政党をどうとらえていたのかというと、政党
はあまり構成員(党員)がいてはいけない、党員は少数精鋭であるべきだと論じておられた。政党が草の根レベルで影響を与えるということは、すなわちその意
見は草の根ではないということを述べていたのです。吉野さんはこのように言っておられるけれども、やはり私は、有権者が日常的に政治と関わりを持つ事、も
ちろんずっと政治に関心を持つことはできませんが、政治家と対話を重ねていくことが大切なのです。その意味で、有権者と関わりをもつためにも、一定の志向
性をもったスタッフが必要であり、このようなスタッフと共に有権者の中に根を張る必要があります。
少し脱線しますが、有権者の政治判断に影響を与えるのは議員だけではなく、もちろん政府とかマスコミも強いのですが、この二者だけでは心配なのです。
はっきり言ってしまうと、政治に関する最近の報道は酷いと感じます。
ある議員が山口県光市の少年事件についての番組に出演し、加害者の少年にも事情があると発言したら大問題になりました。詳しくは言いませんが、あのよう
な番組の構成によって、議員が批判を受けるのは気の毒だと思います。有権者ときちんとしたキャッチボールができるのであればいいのですが、マスコミはそれ
を一方的なものにしてしまう危険があります。
本論に戻ります。吉野さんの少数精鋭政党ともいうべき政党論の対極には組織政党という概念があります。多くの党員によって組織がしっかりと構成されてい
て、議員は組織の方針に従う働き蜂に徹するべきであるとする政党論です。政党が構成員に対して強い統制力を持っています。その意味で、民主党は組織政党な
のかと聞かれたこともあります。このような政党も良いと思います。事実、イギリス労働党はこのような政党です。
ブレア元首相は労働党の方でした。ブレアさんは若くして労働運動に身を投じました。労働党はまず、ブレアさんのような活動を一所懸命に行う人を、労働党
にとって厳しい選挙区に出馬させます。ここで良い成績をおさめると、次の選挙では労働党が強い選挙区に出ることができるようになります。組織政党にはこの
ような試練があって議員になっていくのです。日本でもこのような姿が本来の政党だと考える人がいますが、「本来の政党の姿」ということには賛成できませ
ん。
私が大切だと思っているのは、議員が有権者の中に根を張ることです。組織政党では政党と議員との関係において個性は没却されるべきとされます。政党の指
示に基づいて活動しなければならないのです。日本では共産党と公明党が該当するでしょう。しかし自民党と民主党は自分党であって本来の政党はない、しかし
共産党や公明党のような組織が強すぎる政党も賛成できない。どのような姿が「本来の政党」なのでしょうか。
イギリス労働党をもう少し見てみると、労働組合は労働党の構成組織のひとつになっていることが特徴であると言えます。民主党であれば、労働組合の連合を
構成組織としてしまうことになりますが、民主党はそのような方法をとりません。もちろん、連合には喉から手が出るほど応援して欲しいと思っています。しか
し民主党も連合も、組合を党の一部にしてしまうということは考えていません。実は、自民党はこのようなシステムになっています。職域支部というのがありま
す。たとえば建設業の業界団体の中に政治連盟があって、それが自民党の支部になっています。今、自民党はずいぶん弱くなったと感じますが、これは職域支部
が原因です。自民党はずっと、職域支部のいいなりになって政策決定をしてきた。だから国民に見放されてしまったのです。また、職域支部そのものが抱える問
題もあります。昔と比べて集票能力が落ちてきたのです。右肩上がりの経済状況であればこそ、業界の集票能力は発揮できるのです。業界団体というのは人間の
生産活動に重点を置いています。しかし経済成長がなくなってくると、生産活動も低調になってしまいます。業界に廻すだけの利益配分がなくなってしまったた
めにこのようなことになっているのです。
私は、政党とはこうあるべしという理念のもとにあるのではなくて、様々な組織形態があったほうがいいと思います。その上で、今の日本を見ると、個人の要
素が果たす役割が大きくなってきています。業界組織などではなくて個々人が主役になってきています。政党も個人とのつながりを重視すべき時にきています。
【政治活動と資金】
議員が政治活動・選挙活動をおこなうにあたって、かなりの数のスタッフが必要になります。いまは学生インターンといって、手伝いをしてもらいな
がら政治の実態を見るということもあります。このような学生さん達に仕事をしてもらうこともありますが、どうしても有給のスタッフをそろえなければなりま
せん。そのためには一定の資金が必要になってくるのです。
それでは、どのようにして資金を調達するのかという大問題が出てきます。これは非常に悩ましいのです。企業や組合の資金や人材を頼ることもできるでしょ
う。しかし、このような状態では議員として自分の発想で行動できません。今や、政治資金規正法によって、企業・団体献金を得る事は非常に厳しくなりまし
た。昔ならば、スタッフの給料、はては保険料までをある企業に丸抱えしてもらうこともできました。その上、議員の運転手や車まで支援企業に面倒をみてもら
うことさえあったのですが、今はこんなこと許されません。なぜならば、このようなことは寄付扱いになりますから、報告書での扱いをきちんとしなければなら
なくなったからです。仮に記載されていなければ、法律違反になってしまいます。誰とは言いませんが、贈収賄に関わらなかったら、微少な違反は事務的に修正
すればいいというのはとんでもない話なのです。政治参加をより開かれたものにしようとしているのだから、甘い事を言ってはいけません。
国会議員は憲法の規定によって歳費を支給されています。ある名古屋市長などは、議員が給与をもらうなどとんでもないことだと主張していますが、そういう
わけにはいかないのです。マックス・ウェーバーが職業政治家といったように、政治は臨時や副業の政治家でも行う事はできるが、物的にも心的にも第一義的に
政治に生きている人を職業政治家と定義しました。職業として政治をおこなうのです。政治家であるか否かは、政治のために生きるのか、それとも政治によって
生きるのかということが分岐点になります。政治によって生きるのであれば、これは政治家としては失格です。政治のために生きるのであれば、そのための十分
な収入が保障されなければなりません。私はこの方が正統と考えます。
議員に支給される歳費のほかに、3人のスタッフ(政策秘書、公設秘書)の給与が支給され、所属する会派には立法事務費が支給されます。また、政治改革の
際に政党交付金制度も導入されました。政党交付金は、政党本部の判断で、国会議員が支部長をつとめる総支部に対する交付金として支給されます。
これだけを見ても、公金の支弁による政治活動は広がってきたと思います。他にも選挙の際の車利用に対する補助、ポスター補助、チラシ補助など選挙資金で
も公費の支給が拡大されました。一方で供託金といって、衆議院選挙に出る場合は300万円を預け、当選すれば返還されますが、落選してさらに法定得票数に
達しなければ没収されます。
このように、公費で政治活動を支えるシステムにはなったものの、実際の政治活動ではこれだけでは済まないのです。小選挙区で選挙戦をたたかう場合は、地
域毎、できれば小学校区ごとに後援会組織を作り、スタッフを置きたいのです。それをやらなければ勝てないのです。本当に際限なく、無定量の仕事があるので
す。
公費支給があるスタッフは3人だとお話ししました。このうち公設秘書は月60万円位の給与です。一方、公費支給がない私設秘書は手取り20万円くらいで
す。スタッフ間の格差をどうするのか悩ましい問題です。私のところでは資金的な問題などで、私設秘書の給与水準を公設秘書の水準まで高める事はできませ
ん。さまざまな事例を見てみますと、公設秘書の給料をピンハネして私設秘書にまわすこともあります。これを議員が自分の懐に入れてしまったら、首が飛んで
しまいます。また、時によっては公設秘書の名目で雇ったことにして、その分をプールするという事例も知っていますが、これでは詐欺になってしまいます。
それではどのようにするべきか。議員一人当たり、秘書給与の総額を支給し、そのなかで秘書を雇うべし、というやり方もあるでしょう。しかし、これでは秘
書の方が困ってしまうのです。必然的に秘書の待遇が下がってしまいます。ひいては人材が集まらない。困難な課題ですが、もっと合理的にできないものか、考
える必要があります。
企業・団体献金については、民主党は党として受け取りを自粛しています。そのために一切受け取っていません。そのために党財政に占める政党交付金の額が
大きくなってきました。
企業の側から見て、献金とはどのようなものでしょうか。企業や団体にしても、モノやサービスを売って利益を株主に還元するという目的があります。このよ
うな目的を達成する事によってはじめて会社がなりたっているのです。このような企業も目的にそぐわない献金を行うとどうなるかというと、会社に対する背信
行為、つまり会社の金を横領したことになるのです。それを受け取った側は収賄に問われます。
昔、八幡製鉄事件という事件がありました。政党に対して献金をおこなったところ、株主から横領だと訴えられたのです。つまり会社の目的適合性がないとい
う主張でした。しかし、最高裁は請求棄却します。企業による献金は社会通念上認められるというのが内容でしたが、この部分が世間に広まって、企業団体献金
が合法であるという認識になったのです。ひとつお話しすると、最高裁はよく救済判例ということをします。裁判所は法理的には歓迎しない、首をかしげるよう
なことであっても、目をつぶるのです。もし法律違反にした場合、影響が大きすぎる時によく用いられます。
理想はやはり、個人献金を財政の根幹とするような資金構造にすることです。しかし、現実には個人寄付の文化が育たない。ここが悩みの種です。ちなみに民
主党は党として企業団体献金を自粛していますが、所属議員にはこれを強制していません。閣僚であれば倫理規範に、議員であれば法律に背かない範囲で受け
取っても良いということにしています。
私の場合は個人献金やパーティ券などで資金を調達していますが、いろいろなことをやらなければやっていけません。寄付を一切求めない議員もいますが、収
入源がまったくないとなると、政治活動は難しいと思います。事務所の維持、スタッフの雇用だけでなく、さまざまな経費がかかりますから、一定の資金は必要
と思います。
昔の経験ですが、1万円のパーティ券を買ってもらうために、お金を持っていそうだからという理由で、ある不動産屋さんに頼みに行ったことがありました。
そうしたらぱっと5千円くれるわけです。馬鹿にされていたのですが、たたかれても、馬鹿にされても這い上がってきました。このように広く個人献金を求める
ということは、社会の実相に触れるということで、必要な経験であると思います。
【個人寄付の文化へ】
政治家への個人献金については、税制面で優遇があります。議員個人ではなく政党に対する寄付は、所得控除になるのです。
その点に関連してお話しすると、今国会の終盤、寄付について税法上新しい優遇措置を作りました。来年4月から全面施行されるNPO税制です。いま、
NPO法人は40,000くらいありますが、これまで税法上の優遇措置がある認定NPO法人はその中の200ちょっとしかありませんでした。そこで、認定
NPO法人格をもっと取りやすくして、さらに寄付を所得控除ではなく税額控除とするシステムにしたのです。これについて私なりの理解を少しお話ししたいと
思います。
NPO法人の活動のなかに、行政の下請けをしているNPOがいます。行政がサービスを行うと、規則適合性とか、細かい書類などがあってどうしても難し
く、堅くなってしまいます。行政が心のふれあうサービスを提供できるかといえば、やはり難しいのです。そこで、行政は後景に退いて民間のNPOにやっても
らおうということで、NPOの機能が注目されています。
お金はどうするのかというと、有権者が直接代金をNPOに支払ってくださいという仕方にします。行政が税金からNPOに交付するということはしません。
利用者がNPOに払いたいというなら払う、その代わり、その分のお金は税金を低くする事によって相殺します。このようなシステムはこれまでなかなか実現で
きず、私も苦労しました。この一点をもっても、政権交代の成果のひとつであると思っています。この法案は衆参ともに全会一致で成立しました。
いまのところNPOの政治活動には制限がかけられています。しかし、いま日本が直面している課題、例えば地方の文化を育て、継承していかなければならな
いことなど、政治と深い関係があります。この点はひき続き解決していかなければなりません。
【マニフェストと選挙】
政治家の活動のなかで選挙はどのような位置を占めるのでしょうか。政治家にとって一番重要な事は選挙に勝つ事ですから、選挙は一番やらなければ
ならないことです。全体として見るならば、一人一人の候補者が勝っただけでは、本当に勝ったことにならないのです。政党として、政権を担当しなければいけ
ないのですから。
この点に関連すると、日本社会党にはあまりいい評価をあげることはできません。社会党が主に活動していたのは中選挙区の時代でした。野党第一党であった
社会党は、一応政権交代を目指していただろうと思うけれども、それでも180議席しか候補者を立てられなかったのです。衆議院が500議席でしたから、過
半数も立てていなかった。これでは政権交代など絶対不可能なのです。その理由を考えてみると、中選挙区制というところに思い至ります。
中選挙区制は、1つの選挙区で3から5人の議員を出します。ということは、1選挙区当たり複数の候補者を立て、競争させ、複数の当選を勝ち取らなければ
ならなかったのです。その点、自民党は派閥、族議員があったのでかなり機能したのです。社会党は組織政党という呪文があったものですから、同じ選挙区で同
じ政党の人が争うなどあってはならないという考えでした。
現在の小選挙区はどうでしょうか。政権交代を成し遂げるのであれば、本当に全部の選挙区に候補者を立てなければいけません。それぞれの候補者は選挙区の
中で個性的な活動をします。同時に政党の選挙運動も行います。
小選挙区制度になって日本に登場してきたのがマニフェスト選挙です。これは何でしょうか。それぞれの政党が政権を担当したら、具体的な期間と政策目的、
そして具体的な数字を書き込みます。そのようにして政党がお互いに競っていくのです。民主党は菅直人さんが代表をやっていた時期に、イギリスへ行って勉強
し、マニフェストを取り入れました。それに自民党もついてきたのです。
マニフェストでは政策を実現させる事も重要ですが、何故できなかったのかについて、理由をしっかり説明する事が大切になります。しかし、この点について
民主党には悩みもあるのです。イギリスのマニフェスト選挙では、総選挙が想定される1年前から官僚に情報を出させて、与野党共に共通の行政情報に基づいて
マニフェストをつくります。政権交代を目指すどの党のマニフェストを見ても、現実に可能であり、洗練されていました。
2009年に民主党が政権を取ったとき訴えたマニフェストを見ると、大変残念ですが、正確な行政情報に基づいたものではありませんでした。国の財政状況
をとってもそうで、民主党は埋蔵金が大量にあり、特別会計もかなり切り込めるとマニフェストに書きました。しかし実際に政権を担当すると、埋蔵金は数字上
あるにはあるが、すぐに取り崩すことができないなど、情報をきちんと知っていればこうは言わなかったものが矛盾として出てきたのです。
私は、いろいろなことはだんだん良くなっていく、改善していくものだと考えています。2009年のマニフェストはそうではなくて一気に変えるというもの
でした。今、民主党の中でも2009年のマニフェストを絶対に変えないという人もいますが、これは正しくないと思います。変えるときは検証して、理由を説
明する事が重要なのです。
苦労話ばかりしてきましたが、国会での活動も話しておかなければなりません。先日の講義で、党の幹部にならないと政策決定に加わる事ができないのではな
いかという質問を受けました。法案を作る時に、議員はどのように影響を及ぼすのでしょうか。民主党にはかつて、政策調査会がありました。政権交代後、政策
調査会と政府の両方があるということで、政調会長の菅さんが国家戦略担当大臣を兼務する事で解決しようとしました。しかし、幹事長だった小沢さんは党の政
策調査会をなくし、党の議員が政府の会議に直接参加する事で解決しようとしました。しかし、これはあまり現実的ではなかったのです。これについては既にお
話しした事なので繰り返しませんが、党の政策決定についても、試行錯誤を繰り返しながら成熟すると考えています。
政府の決定は玉虫色だと批判されることもありますが、玉虫色にすることによって、障害をひとつ越えることもあります。あえて玉虫色にしているともいえま
す。これは日本特有のテーマではありません。
今日の講義はこれで終わりにします。
【質疑応答】
(質)いまの民主党では政調会が復活しましたが、それではかつての自民党のようになってきたとは思いませんか。
(答)それは当たらないと思います。TPP問題では、自民党のようにしなければならないテーマもあるのです。政策決定においてマジョリティとコンセンサス
のどちらをとるか問題になりますが、日本はコンセンサスの社会です。マジョリティで決めると後が大変なのです。その意味では自民党は巧みな手法を持ってい
たといえます。
(質)官僚との関係が自民党時代と似てきたと思うのですが。
(答)そんなことはありません。自民党は官僚が物事を決めていました。官僚に操られる政治家が良い政治家だったのです。民主党では逆になった、というより
もずいぶん減ってきたと思います。