2011年法政大学大学院政治学講義 | ホーム/講義録目次/前へ/次へ |
2011年10月28日 第7回「選挙制度改革」
【参議院の採決方法 その特徴】
本日は第七回目の講義になります。
前回は、参議院における議案裁決のやり方についてお話ししました。参議院では原則として押しボタン採決を導入しています。法案ではない場合に異議なし採 決を行います。また、起立採決もないわけではありません。
押しボタン採決を導入するときに、ひと悶着ありました。理由は、機械式でやってしまうと、牛歩戦術が使えないからです。そこで、5分の1以上の議員による動 議によって牛歩採決が認められるようになった…のではなく、いつものように木札による記名投票をすることができるようにしました。この木札による採決は人 気があります。押しボタンよりも木札の方が重厚で、権威があるという思い込みがあるのでしょうか。本予算の採決や重要法案の採決の時は木札を使うことが多 いのです。木札を持っていくときは、演壇に登って職員に渡します。この一連の行程があるために、わざと投票する時間をかせぐことができる、これが牛歩戦術 ですが、最近牛歩をする人はいなくなりました。
ボタン式の採決では、議長席から投票の推移をみることができます。参議院の職員にはこのことは言わないでほしいと注意を受けていますが、まあいいでしょ う。議長席には他の議員が見るのとは違うディスプレイがはめ込んであって、投票を開始してから終了するまでの票の推移をみることができます。賛成票や反対 票の数字が刻々と変化していくのです。本当に迷っているのか、それとも困らせようとして意地悪をしているのかわかりませんが、本当に動きます。また、間 違って投票することもあります。木札採決であれば、間違えることはありません。どちらにせよ、賛否同数になれば議長が裁決しなければなりません。
【ねじれ国会 (1)衆議院の再可決】
租税特別措置法のお話で暫定税率についても先週触れました。この問題にはねじれ国会の実態が宿っていて、とても大事なことだと思いますので、も う一度お話ししておきたい。
まず、この道路特定財源というのは、戦後すぐにできた制度です。今は日本中にあまねく道路が走っていますが、ほんの数十年前までは全然違いました。戦争 直後などはもっとひどかった。いや、今も道路は全然整備されていない、と主張する人もいます。私も今日、中国地方の道路整備を求める大会に参加してきまし た。うちの町の道路はまだ整備されていない、高速道路につながっていないと言う人がいます。私は中国地方選出の国会議員ですから、大会にはとにかく出席し なければいけないのです。
道路は生活の基礎であると言われます。道路特定財源の財源は、道路を使う人からいただきます。この言い方は正確ではなくて、道路を使う人というよりも、 自動車を買う人から重量税、取得税として、またガソリンには特別に高い税金をかけて、その税収を道路の整備に充てる。ほぼ目的税になっています。そのうち ガソリンについては暫定税率として通常の2倍の税金がかかっているのです。さらに暫定と言いながら、できて何十年にもなります。
一度道路を作っていくと、その道路をつなぐためにまた道路を造る。地方だと高速道路と同規格の一般道が並んでいるところがあります。見てみますと、その 両方ともずいぶん閑散としています。高速道路についていうと、これはもともと、東京オリンピックの時に首都高を造り、この建設費を世銀から借りたために有 料にしたのが始まりなのです。本当はそれを返し終わったら無料にするということになっていましたが、ずるずると、収入分を次の高速道路の建設費に回すとい うことを繰り返してきました。だから高速道路は延伸に次ぐ延伸でした。もうこんなことはやめよう、ということが世論になり、国会の中でも問題点が指摘され 始め、道路特定財源はあと10年でやめると言って、法案を出したのです。
参議院ではこの法案に反対しました。衆議院では、参院が60日間採決を行わなかったら否決したとみなして再可決することができます。
再可決の朝の閣議決定では1年の延長になっていました。ちなみに法案では10年の延長となっていましたが、このずれは解消できたのです。民主党は衆議院に参 議院に対して両院協議会を開くことを求める動議を出してフィリバスター(議事妨害)を行いました。自民党は多数で否決し,法案を再可決しました。しかし考え てみると,もしも実際に両院協議会が開かれていたならば,暫定税率の期間は変わっていたかもしれないのです。閣議決定では1年間ということになっていたので すから,きちんと話し合えば、その結果1年限りで延長するという結論にもなり得たわけです。
両院協議会については後ほど詳しく見ていきたいと思います。
【ねじれ国会 (2)参議院不要論にこたえる】
日本の二院制―衆議院と参議院―は対等の院が並立しています。下院である衆議院は予算と条約、そして首班指名に限って衆議院の優越事項がありま す。また、法案でも3分の2以上で再可決ができます。これ以外は、両院はほとんど平等になっています。世界では珍しい事例です。また、選挙制度 についても二院ともに似たような制度になっています。両院がよく相談して、院に求められていることを表現できるような組み合わせにした方がいいの ですが、これがなかなかうまくいきません。
参議院は不要であるという話はたびたび出てきます。衆議院が信任した政権に抵抗することがよくあり、だから参議院は邪魔であって、要らない、ということ を言われます。これは衆参がねじれているからですが、もしねじれがなかったらどうなるでしょうか。衆参どちらも同じように審議し、同じ決定をします。同じ ことの繰り返しでカーボンコピーだから、参議院は不要であると言われてしまうのです。もっと制度設計をきちんとしなければいけません。衆参二院制の制度設 計は、憲法の制定過程を見てみますと、きちんと検討しなかったのではないかと思うのです。
先週、憲法審査会について、私が会長に落選したこととあわせてお話ししました。憲法審査会は憲法の改正原案を国会に提示します。憲法の改正原案というの は、国会議員の3分の2以上の発議でできるわけですが、衆参両院が異なる案を発議したらどうなるのか、皆さんは分かりますか?
正解は、衆参が違う案を発議する、ということはできないのです。憲法には「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議」することになっ ています。具体的に、どのようにしたら両院で発議できるのかというと、実は憲法には全く書かれていないのです。国会がもともと一院制で考えられていたから 具体的な道筋が考えられていないのです。だから憲法審査会を設置し、両院の憲法審査会の合同審査会で両院に出す原案を調整できるようにシステムを作ったの です。
また、憲法改正は原案を国会が発議し、「国民に提案して承認を経なければならない、この商人には特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票」 を行いますが、これも具体的に決められていない。そのために、憲法審査会ができる前、国民投票法の制定や国会法の改正を行いました。憲法審査会ができる 前、国会には憲法調査会が置かれていました。おそらく、憲法調査会ができた当初からこの議論に参加しているのは私だけになってしまったかもしれません。
参議院の憲法調査会の会長は、村上正邦さんでした。私は筆頭幹事をしていました。村上さんとは怒鳴り合いをしたことがあります。あのような混乱の中で憲 法について話し合いなどできるかと。そのようなこともあって、憲法審査会ができたものの4年間ほど動きませんでしたが、これが動き出しました。衆議院から 50人、参議院から45人です。
ちなみに、憲法調査会が出した最終報告書では、日本国憲法の基本原理は国民大多数の価値観になっていることを確認した、と書かれています。また、今の憲 法がアメリカから押し付けられたという意見は、憲法調査会の共通認識になっていない。
二院制のシステムが憲法制定過程で十分検討されていなかったという話から、憲法審査会の話になってしまいました。話を元に戻します。参議院を廃止する、 というのは憲法を改正しなければならないし、かなりの期間機能しているわけですから、なかなか容易ではないと思います。だから私は、もう少し二院制が合理 的に機能するために、統合一院制にしたらもっとよくなるのではないか、と主張したことがあります。また、統合一院制を目指す議員連盟にも入っていました。
統合一院制では、衆議院部会と参議院部会を置きます。衆議院部会では予算を審査し、参議院部会では決算の審査を行う、という案です。
今の二院制を基本に考えるのであれば、やはり衆議院は政権選択で優越させる。参議院は熟考する院にします。熟考とは何かといえば、ブレーキは踏んでも バックギアにはしないということです。そういう役割分担がいいと思っています。日本は政権交代がめずらしくない、普通の形になるようにしなければなりませ ん。そして、政権交代が起きるということは、基本的にその前段階において、参議院の与野党が逆転することを意味します。衆議院で一気に逆転するわけではな いのです。2009年の政権交代の時も、やはりもっと先に参議院で与野党が逆転していました。
ではその前はどうだったのか。私はもっと前から政権交代ができてもおかしくない状態であったと考えています。政権交代が成し遂げられなかったのは、自民 党政権の末期、いろんな野党と組んで政権を延命させていたからなのです。皆さんも記憶にあると思いますが、自自連立、自自公連立など、一部の野党を巻き込 むことによって政権交代を阻止してきたのです。
今はどうでしょうか。衆議院では民主党は多数派になっていますが、参議院では野党が多数です。昨年の参院選で与野党逆転が起きたからです。これが何を意 味するのかは言いません。
民主党に限らず、これからの日本では、ねじれ国会が頻繁に起きることになる、ということは覚悟しておいた方がいいと思います。
【ねじれ国会 (3)合意形成のしくみ】
ねじれになってもならなくても参議院は不要である、という意見が出てきます。ここではねじれになった場合、参議院無用論に走るのではなく、ねじ れ状態のもとでどのように運用していくのかを考えてみたいと思います。ねじれを生かす、ねじれの効用です。
衆議院の与党が政権を担当します。しかし参議院の最大政党は野党である、というのがねじれです。述べたように、衆参は基本的に並立しています。どちらが 下ということはありません。だから合意を造らなければいけないのです。十分協議して、そして妥協して合意するということです。より多くの政党と合意できれ ば、八割九割の国民の意思に合致するということになります。多くの人の合意を得るということは、切れ味が悪くなってしまうということです。しかし事態を前 に進めなければいけません。
国の借金が1000兆円を越えました。そのような状態で社会保障と税の一体改革を話し合わなければなりません。社会保障を維持するために財源の話を無視 できないのです。多くの国民は、社会保障制度をこれからも維持していくためにはある程度の負担は避けられない、そのように考えています。しかしながらいざ となると与野党が対立してしまいます。妥協することは無理なのでしょうか。
日本が直面している難問は社会保障に限りません。他の問題の解決のために、ねじれ状態にある与野党が国民の合意を得て、乗り越えることはできるのでしょ うか。先ほどお話しした憲法改正もこのような態度が必要です。与野党間の協議と妥協、そして合意形成に英知が求められているのです。与党が暴走することな く合意できないか。私も議長時代にはずいぶんと努力したものです。
具体的に、与野党の合意をどのようにつくるのかについて、私は両院協議会の改革が必要なのではないかと考えます。
道路特定財源について先ほどもお話ししたように、参議院に両院協議会の開催を求めようという動議は自民党によって否決されてしまいました。両院協議会は 憲法と国会法の規定によって定められた制度です。必ず協議会を開かなければいけない場合と協議会を求める場合の二つがあります。衆議院の優越が規定されて いる予算、条約、首班指名において衆参の議決が異なる場合は協議会を必ず開くケースに当たります。法律の場合は、先議の院から求めることになります。
協議会を開く場合、衆参ともに本会議に於て協議員を選ぶことになります。具体的に見ていきましょう。首班指名選挙があり、衆議院ではAさんを、参議院で はBさんを首相に選びました。そこで「内閣総理大臣の指名両院協議会」を開くことになりました。衆議院ではAさんを選んだ会派―仮に民主党とします―から 10人を選ぶ、参議院ではBさんを選んだ会派―仮に自民党とします―から10人を選ぶことになります。衆議院側の協議員で正副議長を選びます。参議院も同 様に正副議長を選ぶ(協議委員の議長)。こうして4名の正副議長があつまって協議の仕方を話し合うことになります。この正副議長が決まると、両院の議長に 報告します。私が議長をしていた時は、早く会議を始めるように協議会の議長さんに言っていました。なお、議長両院協議会の協議は1回とは限りません。絶対 に成案を求めようということになれば、何回もやります。2回以降の議長役は、1回目が衆議院側だとすると参議院側の議長になります。順番に役回りをしてい くことになるのです。
さて、第一日目の協議会の議長(両院協議会議長)はくじで決めます。衆参の協議委員議長のうちどちらかを両院協議会議長とします。このくじは前にお話し した国会のくじと同様に、順番をきめるくじをまず先に引いて、そして次のくじにうつります。協議会でのまとめは、3分の2以上の多数で決めることになります。 3分の2以上の多数を得て、成案が衆参両院で合意されれば国会の意思となります。
協議会で話し合いを行う場合、議長を選出した院は少数派になります。衆参それぞれ10名の中から議長が1名抜け10対9になるからです。両院協議会の議 長は、これではリーダーシップが発揮できません。両院協議会は形式的なものになってしまいます。ちなみに成案を出したことが昭和20年代には何度かありまし た。
両院協議会は法律により非公開になっています。議事録はとられているため、その部分は公開されます。両院協議会はここまで、となると、可決の人が意見を 述べ、否決の人が意見を述べます。そうするとほとんどの場合、議事整わないという結論になります。ここまでが協議会の協議になります。
また、両院協議会協議員懇談会というものがあります。これは会議ではないので会議録は取られず、当然公開もされません。ここで大切な話がされているた め、協議会はますます形骸化します。これを何とか変えなければいけません。
2007年当時の与党である自民党は衆議院で3分の2以上の議席を持っていました。これは小泉さんが主導した郵政解散のためです。自民党は再可決ができるの だから、成案を得なくても構わないのです。だから協議会などさっさと終わりにして、衆議院で再可決をする方が有利になります。当時は形式的に、短時間で終 わらせようとしていました。
再び道路特定財源の時の話に戻ります。あの時は協議会を行うチャンスだったのに、自民党絶対多数でしたから衆議院から協議会を求めることはありませんで した。しかし、議席の3分の2を持つということは普通のことではありません。今、民主党と国民新党をあわせても、3分の2以上にはならない。だから再可決もで きません。政権交代前のあの場面で、協議会の改革をしなければならなかったのですが,全く議論にならなくて困ったことを覚えています。現時点で協議会を改 革しないのはなぜかと言えば、それが参議院の多数派である野党に有利なのです。この先どちらが多数派になるのかわからないのですから、そのような党利党略 は置いて、きちんと話し合わなければいけません。河野洋平議長は最後の段階で、私と話し合って両院協議会の改革が必要であると一致しました。だから後任の 議長に申し送りをするということにしました。このことは今も申し送りされているのでしょうか。
【両院協議会の改革】
両院協議会は改革を行わなければますます形骸化してしまいます。それではどのような改革をすればいいのでしょうか。まず、両院協議会の成案とす ることができる3分の2以上の賛成については、例えば過半数にすることはできます。この規定は憲法に書いてあるわけではなく、国会法の改正で済む話です。
また、法律改正ではなく、運用上の問題として、協議員を送り出す党は、協議員に意思決定できる人を選ぶことが求められます。現状では、協議員には意思決 定権のない、単に党の指示に従う人を協議員にしています。だからこれを、指示を出す人にしなければなりません。そのようにすれば、一定の実態のある協議が できるようになるでしょう。
協議会の場には国務大臣や両院の正副議長も出席することもできます。これも今までほとんど例がありませんが、考える必要があるでしょう。
私が議長をしていた時は、協議会の会議に加えて、非公開の懇談会についても議事録を作るように求めたことがありました。懇談会の議事録は原則公開とする のは難しいので、衆参の両院協議会議長が合意すれば公開できるというようにしました。これは先例にはなっていると思います。
なぜ私がここまで両院協議会についてお話しするのかというと、私が議長をしていた時に、両院協議会をしなければどうしようもないのではないか、と思うこ とがあったからなのです。皆さん、そういうケースがあったことを知っているでしょうか。両院協議会の協議員を選ぶとき、衆議院の議決を構成した会派と参議 院の議決を構成した会派を選ぶことができなかったことがあるのです。さて、なんでしょうか。
【両院協議会を機能させるために 臓器移植法改正問題】
それは臓器移植法の改正です。ざっくりと言えば、これは未成年からの臓器移植もできるようにしようという内容でした。生命倫理に関する法案だっ たため、主要会派は党議拘束をかけませんでした。幹部の間でも意見が違う、ということもありました。改正案はA案、B案、C案、D案など修正案や対案が入 り混じっていました。衆参の院議が異なるかもしれません。通常の法案ですから、動議が出されなければ両院協議会は開かれません。私はどうにかしなければと いう思いがありました。党議を外している以上、多数会派はできないわけです。賛成した人を会派ごとに数えることになるのか、本当に悩みましたが、衆議院の 案が成立したことで、協議会が開かれることはありませんでした。
この点については、私の活動日誌(2009年7月13日)に詳しく書いてありますのでご覧ください。午後から、臓器移植3案の採決をしますが、票読みが全く出来ないので、すべてのケースにつき議事運営の用意をしました。最初に修正案の採決で、可決 されると修正部分を除く原案の採決に移ります。これが可決されると修正議決となり、衆議院に回付されて、子ども脳死臨調法案は採決されません。この否決は 想定困難ですが、仮にそうなると、改正案は否決で衆議院返付となり、臨調法案の採決に移ります。修正案が否決されると原案の採決となり、可決されると成立 です。否決されると衆議院返付となり、臨調法案の採決に移ります。臨調法案が可決されると、衆議院送付となります。否決される場合もあります。回付案が衆 議院で同意されれば、また、送付案が衆議院で可決されれば、その案が成立です。いずれの場合も,可否同数で議長裁定の場合と定足数不足の場合も想定しなけ ればなりません。修正案可決で,修正部分を除く原案が定足数不足の場合は,場内協議で決めることになりそうです。
(中略)
議題を宣告して討論を終結し、日程第1の臓器移植法改正案につき、まず修正案の採決で、72対135で否決。そこで原案の採決に移り、138対82で可 決、成立となりました。最後に、こども脳死臨調法案は採決しないことになった旨を宣して、(略)13時20分過ぎから、この結果につき記者懇を行いまし た。衆議院の案、修正案、対案(子ども脳死臨調を設置する案)がありました。非常に複雑な話ですので、ぜひ活動日誌を読んでください。
【ねじれ国会 (4)再び選挙制度改革について】
国権の最高機関である国会の実態は、その中で行われる議論によってできていくのです。だから議論をしっかりと押さえなければいけません。国会と いうのは、先例の積み重ねの部分が大きいのです。すこし脱線しますが、この先例を集めたものを衆議院では先例集、参議院では先例録と言います。これに掲載 されていない先例もあります。
今、民主党が与党だからといって何もしないのでは、ねじれの苦しみはずっと続くことになってしまいます。明日は我が身になるのです。
そこで、参議院についてもう一度考えてみたい。決算重視や熟慮の府という方向性とは別に、やはり議員の決め方ももう一度考え直す時期に来ているのではな いかと思うのです。選挙制度の改革は憲法をいじる必要がありませんから、比較的すぐにできます。
今、衆議院における選挙改制度革がニュースになっていますね。私はこのままの制度でも改革は進むと思っています。衆議院は小選挙区比例代表並立制を導入 しています。もともと比例区は人口に応じて定数が決まるのですから、人口のアンバランスはありません。また、小選挙区も1議席あたりの人口を調整すればいいのですから、アンバ ランスは生じないはずなのです。しかし、実際には衆議院の一票の格差は2.3倍になっています。つまり、議員一人当たりの有権者数は最多の区と最少の区で 1対2以上になってしまったのです。基本的に衆議院では2倍以上になったら不平等です。一人一票が大原則であり、これは有権者が国政に参加する権利です。 この権利は全部同じでなければいけません。2倍未満にすることが理想でしょう。
小選挙区を採用しているのだから、衆議院で2倍未満にすることは容易なはずなのに、できていません。先週もお話ししたように、これは一人別枠方式を採用 しているからなのです。これは、まず47都道府県に1議席を分配する、そして残った議席を人口に比例して分配します。そうすると、一番人口が少ない県が2 議席になり、これが最小単位となります。
今回、最高裁は前回の総選挙を違憲状態と指摘し、できるだけ速やかに一人別枠方式をやめることを求めています。先週もお話ししましたが、最高裁がここま で踏み込むのはかなり強い表現と言っていい。これ以上強くなると、選挙の無効になってしまう、それくらい強い表現です。衆議院では、並立制をやめてドイツ のような併用制にするとか、公明党が連用制を主張していますが、基本的には制度は現行の小選挙区と比例代表制をあわせたものでいいと思っています。
参議院も違憲状態と言われています。最高裁では、判決の際に一人一人の判事が意見を明らかにします。多数意見や少数意見、補足意見があるのですが、この 意見を見てみますと、定数配分が違憲状態になっているという人が半分以上います。参議院でも選挙制度改革を話し合っていますが、あまり進んでいません。私 は、参議院の選挙制度はブロック別の個人名投票がいいのではないかと考えています。それならば昔の全国区でいいじゃないか、という声もありますが、全国区 は「残酷区」と言われたように、地理的にも非常に広いしお金もかなりかかるのであまり賛成できません。しかもタレントが通りやすくなります。その反省が あって全国規模の比例代表にしましたが、これでは参議院も政党主導の選挙、そして参議院も政党主導になってしまいます。日本は諸外国と比較しても党議拘束 が強いと言われています。だから参議院が政党主導になると、理想とする熟慮の府にはなりえない。
そこで私の案であるブロック選挙区にするとどうなるのでしょうか。個人名投票で政党主導ではないので、多党化します。そのため参議院で一党のみが多数に なるということはなくなるのではないかと思います。
一方で衆議院では過半数をとる政党が生まれてきます。この党が政権を形成することになります。衆議院の政権選択機能がはっきりとするわけです。参議院で は多数派ができにくいので、合意形成を目指すことになります。やはり参議院は政党主導ではなく、話し合いの仕組みが今よりもきちんと機能することが必要 で、合意形成がしやすい熟慮の府となるべきです。
西岡参院議長はブロック別の比例代表制度にすべきと提唱されています。一つの考えとは思います。民主党では比例代表はそのまま残して、選挙区の区割りを 変える。つまり鳥取と島根を合区するとか、そのようにして定数是正をしようという方向に固まってきています。
いずれにせよ、最高裁にあそこまで言われているのに、定数是正をさぼって、2年以内に必ず行われる衆参の選挙をこのまま迎えることは許されないと思いま す。
本日の講義はこれで終わります。
【質疑応答】
(質)党内の合意形成について質問します。当選一回の議員では、党内の合意形成に参加できないのではないかと思います。与党の幹部にならないと参加できな いのではないですか。
(答)合意形成とは何を指すのか判然としませんが、幹部であっても当選1回の議員を含めた大勢の議員の信頼を得なければ幹部になれないわけです。当選1回 の議員が何もできないかといえばそうではないのです。民主党ではまだ試行錯誤をしていますが、政府にどんどん与党議員が入れという方針です。
今日私は、民主党のTPP会議に参加してきました。当選1回の議員もバンバン議論に参加しています。しかし最後は幹部会議で決まることもあります。しか し全体をよく勘案して党として決めることもありますから、みんなが参加できていないということとは少し違うのです。
(質)政治家の悪意のない率直な表現にめくじらをたてていては真実を語れなくなります。昨今のメディアを見ていると横並びで揚げ足取りが目立ちます。メ ディアには不信感を持っています。
(答)平野復興大臣の「バカな奴」発言、これは自分の高校の同級生に向けられたものでしたが、親愛の情でしょう。それを「バカ」という言葉だけを切り取っ て報道されたのでは、たまったものではありません。鉢呂さんも記者との掛け合いの中で出てきました。
これは難しいですが、やはり今はねじれの状態です。一方の院で野党が多数派であって、そういう「失言」があれば与党をたたこうということになりますか ら、やはりねじれをうまく動かしていかなければならないなと思います。
(質)議事妨害について、アメリカではフィリバスターについて議席数の基準がありますが、日本の場合は基準が有るのでしょうか。
(答)日本では基準はありません。議運とか国対で話し合うことになります。今日はもう時間になってしまいました。議事妨害については面白い意見と思います ので、次回以降お話ししてもいいかもしれません。
2011年10月28日−第7回「選挙制度改革」 | ホーム/講義録目次/前へ/次へ |