2003/06/04 |
156 参院・憲法調査会公聴会
テーマは平和主義と安全保障で、9時から11時45分まで、公述人4人から15分ずつ意見陳述を伺い、委員から質疑。民主党は私が20分、質問しました。
大学生の大井赤亥さんと主婦の藤井富美子さんの意見が、北東アジアの安全保障機構の構築など、現実に立脚した地域安保システムを積極的に提案するもので、立論も実にしっかりしており、感心しました。大学教授の北川善英さんは徹底した平和論、学習塾経営の林明夫さんは現実直視論で、論旨明快です。
特に藤井さんの発言は、大阪弁もあって新鮮でした。「国家があったから私たちが生まれてきたのではありません。生まれてみたら日本だったのです。」「国防方針が異なる国と集団的自衛権関係を結ぶことは、相手に引っ張られて危険です。」「国防と集団安全保障を両立させるには、集団的措置に国籍を持ち込ませないことです。」
平成十五年六月四日(水曜日) >>会議録全文
○江田五月君 四人の公述人の皆さん、今日は本当にありがとうございました。
いや、本当に大変レベルの高い話、皆さんそれぞれ聞かせていただいて、感銘を受けて、非常に面白かったですね。しかも四人とも、いろんな違いはもちろんありますけれども、それぞれ個性があって、そして大体同じ方向を向いておると。午後はちょっとトーンの違う人も来るようですけれども、午前中は本当に皆同じ方向を向いていらっしゃるというんで、国民の意見の大きな方向を示しておるのかなという感じがしました。
それと同時に、人の意見というのはよく聞いてみないと分からないと。藤井公述人が、憲法作ったときは日本だけが悪くてほかは全部善だと思っていたら、案外世界はそうでもなかったと、こう話を始められて、そこで、これは日本のオオカミの群の中における安全の保持のためにという議論に行くのかとちょっと思ったら、そうじゃなくて、本当に国際社会の共同の対処ということを非常に重視されると。面白かったです。
四人に共通しているのは、まず、恐らく共通していると私は判断したんですが、個人の尊重が一番大切だと。これも藤井参考人の言葉によると、生まれてきたらこの国だったんで、国家があったから生まれたんじゃないというのは、本当にそのとおりですね。そして同時に、主権というものの相対性、相対化。主権というものが絶対的なものからだんだん相対化していく。同時に、それとの兼ね合いで国際社会というのが非常に重要になってくる。その国際社会をしっかりしたものに作り上げていくために日本はやっぱり果たさなきゃならぬと。大体そのような共通項があったと思うんで、これは私も大賛成で、その点についていろいろ議論をするということはもう大賛成ですから、みんな意見同じですからやめます。
そこで、まず大井公述人に伺いますが、大井公述人の御意見ずっと伺っていて非常に面白いと思ったのは、これは御自身でお気付きになっているかどうか、プロセスというのを重視される、プロセスに大変な意味を置かれるというところがあると。
例えば、アジア太平洋に一つの共通の国際秩序の機構を作っていこうと。そういう議論をすることがその地域の安全に寄与するんだということを言われましたね。あるいはまた、今度のイラクの戦争前の国連の議論についても、その議論の中で戦争の予防化というのがますますみんなの共通の認識になっていったんだというようなことをおっしゃったんですが、このプロセスの重視ということについて、もうちょっとそのことをとらえてお話ししていただけることがあれば、話してみてください。
○公述人(大井赤亥君) じゃ、簡単に二つだけお話ししたいと思います。いずれもすごい抽象的で、ちょっと学生にしては生意気なんですが、御容赦ください。
一つは、プロセスのことなんですけれども、東アジアの問題でいえば、藤井公述人もそのようなことを少しおっしゃっていたと思いますけれども、つまり対話のチャンネルがないと相互不信が続くということですね。北朝鮮に対して今メディアの状況は非常に危惧していますけれども、それは、北朝鮮に対する正確な情報なり、あるいは政治の場でも民間の場でも対話のチャンネルがないからだというふうに思っています。
ですから、民主主義もそうだし、信頼を作っていくという作業も、実際していく中で作っていくわけですよね。ですから、民主主義だってそうだと思うんです。うちの国はまだそういう素地もないし、情報も経済発展も低いし、国土も広いから民主主義はまだ早いんですというような理由で民主主義を受け入れていない国もありますけれども、そうじゃなくて、実際そういう中でもちゃんとそういうふうに踏み出していく、その中で育っていくものだと思うし、国際関係もそうだと思っています。ですから、対話をしていくそのプロセスの中で本当の目的が達成できるんじゃないかというふうに思っています。
それからもう一つは、国連の場でのプロセスの重視ですけれども、これは、国際連合という、国連の場でそういう法規に基づいた組織が曲がりなりにもあるわけですから、そういう力の既成事実じゃなくて、法なり、そういう人間の法規がちゃんと支配しているんだ、そういうことを対外的には建前の上だけでもしっかり示すということは、今後の可能性ということでもすごい重要だと思っています。
○江田五月君 もう少し大井さんに伺いますが、国連の下での軍事行動が行われると、今はなかなか国連での軍事行動となっていないんですが、これから国連改革が進んで国連での軍事行動が行われるというシステムまで到達した場合に、日本はこれに参加をすべきか参加すべきでないのか、この点は大井さんはどうお考えになります。
○公述人(大井赤亥君) 難しい問題だと思いますけれども、だけれども、問い詰めて考えなきゃいけない問題だと思っています。
一つは、国連の場でちゃんと、レジュメにも書きましたけれども、プロセスとしても正当性を持って、かつ、例えば一国の主権の中で多大な人権侵害が行われているとか、あるいは無法な国際的な侵略があった場合に、妥当若しくは正当、どうしても必要だという軍事行動がある場合はあるかもしれません。私自身としても、例えば一国内の人権侵害だとかあるいは不法な国際侵略に対してはちゃんとした態度を取るべきだと思います。
ただ、同時に、国連憲章と日本国憲法は非常に類似性があると思いますけれども、これは価値判断になるかと思いますけれども、日本憲法の方が進んでいる点はあると思います。もちろんそれは実効性がないということで批判されるかもしれませんけれども、国連憲章も行く行くは憲法の、日本国憲法の方向に沿って改善の余地もある部分はあると思うので、そこはやはり憲法が普遍性を持っているんだということを国際社会に認知してもらって、その上で日本は非軍事的な、あるいは警察力の派遣とかはいろいろ議論があるところかと思いますけれども、そういうところで活躍していく。それでも十分国際社会の主要な構成員として名誉ある地位を果たせる役割できると思っております。
○江田五月君 そこのところは、最後、もう少し多分詰めた考察が必要なのかなという気がします。
私自身は、日本国憲法と国連憲章、確かに違いがあるという立場もあるわけですけれども、しかし、むしろ二十一世紀ということで考えてみると、これからの世界全体の秩序、地球憲法を考えてみたらどうだろうかと。それもまあ国連憲章ですよね。その地球憲法と整合性のある各国の憲法ということで、世界の秩序やそれぞれの国の安全保障といったことは考察をしていった方がいいんじゃないか。そういうことから、各国の憲法と世界の憲法の実情とを考えたら、この二つのものは当然整合性を持ってこなきゃならぬし、日本国憲法の場合もそういう形で国連憲章と整合性があるという考え方は成り立ち得ると思っているんですが、時間の方が過ぎていきますので、次に北川公述人に伺います。
この大多数の人間が普通に生き、生を終える、これは非常にいい言葉で、そうした方向に向けて人類普遍の価値、つまり殺すな殺されるな、これをそれぞれの個人の価値から国の価値へと変えていく、これが日本国憲法であって、これが日本の国の形だということは大変感銘を受ける言葉ですが、しかし、これはもう北川参考人御自身がそうおっしゃりながら恐らくお分かりだと思うんですけれども、現実の世界はなかなかそうではないぞという反論がすぐ出るわけですね。この現実の世界をどう作っていくかというのが実は現実の政治の大課題であると。
北川公述人は、国連の集団的安全保障体制、これはどういうものができるかにもよりますし、百点満点ができるかどうかはなかなか難しいと思いますが、百点満点のものができたとして、日本はその集団安全保障体制に参加するということについてはどういうふうにお考えですか。
○公述人(北川善英君) 私は、国連中心主義というふうに一般的によく言われるんですが、必ずしも国連そのものを集団安全保障として日本が具体的にどうするかという段階ではまだないと思います。
それよりも、むしろ日本にとって急務なのは、やはり東アジア地域で、例えば核兵器をなくすという意味での非核地域構想あるいはアジア集団安全保障、そういったものをやはり、先ほどの江田議員あるいは大井公述人からも出ていましたような正にプロセス的な思考ですね、そういう段階を踏まえた、今のところやはり東アジア地域でまず手を付けるべきではないのか。
その際に、やはり問題になるのは軍事的な形で日本が参加していくのか、非軍事的な形で参加するのか、そういう重要な論点があると思われます。少なくとも、地球規模といいましてもまだ早い、取りあえず共通の文化圏という意味では東アジアでは可能ですから。そうしますと、やはりそこで問題になるのは、戦前の我が国の国家犯罪の問題が浮かび上がってきます。そのような記憶は、日本では忘れたいと思っても、被害を受けた国にとってはなかなかこれは忘れられるものではありません。
そういった面からも、また最も有効に非核地域構想あるいは集団安全保障構想を実現するには、私はあえて日本は、憲法に書かれているからではなく、我々が現時点では平和的な形でそこに関与するんだという選択を行って、そしてリーダーシップを取るということが実は必要であると同時に最も有効ではないかと思われます。よろしいでしょうか。
○江田五月君 東アジアの集団安全保障体制、東アジアの信頼関係の構築、これを制度化していく、これは大変大切なことで、私もそこから始めなきゃいけないと思います。
ただ、私が言っているのは、その先に更に地球的といいますか、国際社会全体についての一つの展望というのを持っておいた方が地域的な安全保障体制を構築するときに先が見えて説得力が出てくるのじゃないかということなんですが、分かりました。ありがとうございます。
林公述人に伺いますが、日本国憲法前文に人間の安全保障の促進を明記すべきだということですが、憲法の前文に書くんだ、教育論と別に憲法の前文に書くんだということをもう少し掘り下げて説明をしていただくとどうなりますか。
○公述人(林明夫君) 日本国憲法の制定過程を少し勉強させていただきますと、やはり前文についてもGHQの影響は相当あったと思うんですね。もしこの際、参議院でも、それから是非議論していただきたいのは、日本国は一体どんなふうな国の形を目指すのか、それから世界に対して、国際社会に対してどのような役割を果たすことを目指すのかということを是非御議論いただきたい。そのときに私の考えでは、恐らくこれから先半世紀、五十年ぐらいの使用に堪え得るのは人間の安全保障というふうな概念ではないかと思います。そういうことで、私は人間の安全保障を前文にというふうな主張をさせていただきました。
以上です。
○江田五月君 憲法前文というものが持っている法律論的な意味とか、あるいは法律論を超えた国の形としての意味とかという辺りを重視されるということなんだろうと思いますが、分かりました。
最後に、藤井公述人に伺います。
本当に大変に魅力的な議論で、もう共感し、ある意味では平伏いたしました。いや、本当に面白かったです。
そこで、今回のイラク戦争、小泉首相はブッシュ大統領を全面的に支持したわけですが、これをどう思われますか。
○公述人(藤井富美子君) 日米同盟というもの、現実にあるわけで、アメリカ、お友達がそういうことをするのに、あんた、それはあかんやろって、そういうふうにはそうそう言われないと思うんです。ただ、気持ちを聞いて、分かるけどな程度で止めておいてほしかったなというふうに思います。
○江田五月君 そうですよね。支持というと、これはもう、その気持ちは分かるけれどもちょっとなとかいうんじゃなくて、もうそれがいいんだという話ですから、そこはちょっと違うという感じですよね。おまえ、それは間違っているぞというのが本当の友達だと言う人もいるんですけれどもね。
それで、藤井さんは、私も、集団的自衛権はやばいよというあなたの説明は非常に興味もあるし、共感も呼ぶんですが、しかし一方で、集団安全保障はまた別の、集団的自衛権はまた別の観点からノーだということだと思いますけれども、日本にとってこの日米同盟が、日本は個別的自衛権だと、米国は集団的自衛権だと、これは不平等だとおっしゃるんですが、そして日本の負い目になっているんだとおっしゃるんですが──あ、そうかそうか、ごめんなさい、ちょっと言い換えましょうか。
今の二つの日米の関係が日本にとって負い目になっていて、不平等で、だから集団的自衛権を行使すべきだという声があるということに対して、あなたは批判をされた。その批判の前提なんですが、日本にとって負い目ということになっているのかどうか、あるいは日本とアメリカと不平等なのかどうか。別に負い目でも何でもないんじゃないか。
というのは、日本はアメリカに対して膨大な、しかも極めて重要な基地の提供あるいはいろんな経費の負担、これをやっているわけですよね。これほどやっているということが一方であるわけですから、日本は何もただ乗りしているとかなんとかじゃないので、そういうことを考えたら、これはお互い違った性質のものを提供し合っているということであって、てんびんに掛ければちゃんと両方は釣り合っていると。釣り合っているといったって、それはいろいろ多少の違いはあるでしょうけれども、というそういう見方もあると思うんですけれども、藤井さんはどう思われますか。
○公述人(藤井富美子君) 私もそう思います。
基地の提供とか、もう資金的に随分出しているわけですし、もっと日本は堂々としていいんだろうと思うんですけれども、私、主婦で、テレビから流れてくる感じでいえば、何か日本はちょっとアメリカに対して後ろめたいというか、何かやらなければならないことをやっていないようなニュアンスでニュースからは伝えられてくる気がするんですよ。
そういう意味で書いているだけで、私自身としては、もっと日本は堂々としていいと思いますし、そういう意味でも集団的自衛権というところまで踏み込んで、全く何もかも対等にいくんだと、お金も軍事も全部対等にいくんだとかいう、極論で言えば、そういうところまで行く必要はないというふうに考えているという点で書いているんですけれども。
○江田五月君 最後に、藤井さんの明快な議論で言うと、ちょっとこれ難しいかな、藤井さんの考える北朝鮮問題解決策というのは何かありますか。
○公述人(藤井富美子君) 簡単に言いますと、日本がなぜ北朝鮮からミサイル攻撃をされる可能性があるかといえば、米軍基地があるからだと思うんです。
だから、結局、米軍が今のように先制的な自衛攻撃に出るという可能性を秘めていることを非常に北朝鮮は怖がっているわけですよ。それで脅してくるという形になっていると思うので、言ってみたら、今の現段階でいったらもう無理だと思いますけれども、もうアメリカさん出ていってくださいと言って、日本は独自でやっていきますと言えば北朝鮮からはねらわれないけれども、今度はアメリカからねらわれますよね、そういうことになりますと、その辺が難しいなと非常に思うところなんですけれども。
それで、どうしたらいいかということで言えば、そういうふうにしたら日本は北朝鮮からはねらわれへんようになるだろうけれども、アメリカと敵対するというのはもっと怖いことの話で、結局日本はそういう選択を迫られているような状況ですけれども。
○江田五月君 そうやって議論していればちょっと漫才みたいになるけれども、しかし面白いですよね、こういう議論をしていて、そこから何か結論を、解決を見付けていかなければいけないと思いますよね。
いずれにしても、さっきの、今のあなたの議論で言えばブッシュ大統領頑張れと、こう小泉さんが言うのはちょっと北朝鮮との関係でやばいんじゃないのという感じでしょうね。
終わります。
2003/06/04 |