1996/04 No.80 | ホーム/主張目次/たより目次/前へ|次へ |
政府案より優れた新進党の住専処理案
住宅金融専門会社(住専)への「会社更生法」適用などを柱とする新進党の「住専問題に関する具体的方針」に対して、政府・与党から「法的処理」に関する無知や誤解、曲解に基づく批判が相次いでいる。
そこで、当初から一貫して「住専問題の処理は法に基づいて行うべき」と主張し、新進党の「対案」作りで中心的役割を果たした江田五月(党住専問題対策委員会副委員長)と、倒産法制の実務に詳しい宗田親彦弁護士(法学博士・慶応大学講師)による対談を掲載する。
江田五月 最初に、政府の住専処理策がなぜダメなのかということについてお話ししたいと思います。
住専は、預金者のいない民間会社です。預金者がいれば、その保護ということを考えなければなりませんが、預金者はいない。民間会社の経営が破綻したのですから、普通の民間企業が破綻した場合と違う処理のしかたをしたのでは、法の下の平等、法治主義に反してしまうことになります。政官業の密室談合が生んだ政府の処理策
ところが政府・与党は法に基づく住専処理を避け、自民党の加藤絃一幹事長をはじめとする与党の政治家と大蔵省、農水省の官僚、それから関係金融機関による「密室談合」で、今回の処理策を決めてしまった。しかも関係金融機関の損失負担の割合を決め、足りなくなった部分に税金を投入するというやリ方です。これは、個人や企業の私的債務を国民の血税で穴埋めするということであり、断じて認めるわけにはいきません。
こうした政・官・業ゆ者の構造こそ、戦後50年、あるいは明治維新以来と言ってもいいと思いますが、続いてきた日本の悪しき「伝統]なのです。自分たちの仲間うちで事を決めて、ツケを国民に回し、国民に何も知らせない。「よらしむべし、知らしむべからず」です。私たちが今、政府案に対して「絶対ダメだ」と言っているのは、まさに、この点です。ここを変えなければ日本は変わらないのです。
逆に言えば、この機会に私たちが徹底的にがんばることによって日本を変えたい。新進党案では、そういう観点から住専各社に「会社更生法」を適用し、さらに「不良債権処理公社(日本版RTC)」を設立して住専以外のノンバンクなどの経営破綻にも対応できるようにしています。「談合国家・ニッポン」「もたれ合いの日本」を根本的に作り変え、もっと透明なルールが働く日本、法律が共通の土俵になる日本につくり変えたいと思っています。つまり、政府案とは根本的に「理念」「哲学」が違うのです。
宗田親彦弁護士 今の政府のやり方は「密室談合」だ、明治維新以来のやり方だと言われましたが、私はそれより前の封建時代の幕府のやり方と非常に似ているのではないかと思います。決めてしまってから「こうなった」というやり方です。その姿勢がまさに「よらしむべし、知らしむべからず」だと思います。
企業の自己責仕というものを考えたときに、すでにそれに対応する法制度を、わが国は備えています。それを無視して、「密室談合」によって都合のいい制度を作ってしまおうというのは、いささか乱暴すぎます。江田さんが言われたように、民間企業の倒産・再建という整理の問題なのですから、その企業に適用される法律は何かということを、まず考えなければならないと思います。
法に基づく「納得のプロセス」が重要
もう一つ大事なことは、日本国民の意識が非常に高くなったために、「納得しなければ国民は反対する」ということです。どうも政府はそのことを分かっていないみたいですね。「目的」と「手続き」と「結果」という3つの面から政府の住専処理案を見ると、「目的」は不明で、その「手続き」は密室で行われ、「結果」が税金をつぎ込むというものです。しかも、政府の住専処理法案のなかには財政支出の規模が一体いくらになるのかが書かれておらず、国民は天井知らずの税負担を強いられることになってます。こういった点が大きな問題だと思います。
江田 もともと住専問題というのは民間の民事紛争であり、関係者の合意が得られないということであれば「法的処理」を行い、裁判所の下で解決するという制度が、法治国家の日本にはちゃんとある。政府は住専問題では関係金融機関の数が多く、損失の規模も大きいから「法的処理」は無理だと主張していますが、規模の大小にかかわりなく対処できるわけですね。
宗田 そうです。「倒産5法」というメニューがあります。「会社更生法」と商法による「整理」、破産法による「破産」、和議法に基づく「和議」、商法に基づく「特別清算」、これらを活用すればいいわけです。倒産法制によると、裁判所に申し立てて裁判所のスクリーンを通す、それから後も裁判所の監督に服する。しかも直接の利害関係人である人々の債権者集会とか関係人集会という手続きを通して自由な討論ができますから、「納得のプロセス」が確保されます。お上が決めて「こうしなさい」「かしこまりました」 という時代ではないと思います。
債権者の合意は可能 更生法は適用できる
江田 私たちは「会社更生法」を適用し、しかも管財人を特殊法人で公的に支援する体制を考えています。これに対して与党から「更生法だと母体行、一般行、農林系金融機関の各債権者の合意が必要だが、それは無理だ」という批判が出ています。企業倒産に関して実務的にも経験豊富で学問的にも研究されてきた宗田さんは、こうした批判をどのように見ますか。
宗田 合意形成は十分に可能です。というのは、債権者集会や利害関係人集会で当然、個々の債権者は自分の利益を目的として参加するわけですが、法制度の目的というのは利害関係人間の調整というところにあります。そこで自由に討論したり、資料を見たりすることによって、関係人自身が「本来は100%債権を回収したいけれども、60%で納得しよう」ということになlり、自然にコンセンサス(合意)ができていくものです。これは実務に携わっている私の経験として、はっきり言えます。
江田 なるほど。新進党案に対する政治家や官僚の批判は、法律の実務を知らない的はずれのものだということがよく分かります。
それともう一つ、自民党の与謝野政調会長代理は新聞のインタビュー記事の中で「更生法は更生の見込みがある時に適用する法律だ。更生の見込みがない場合、裁判所は手続き開始を却下しなければならないという条文がある」などと述べていますが、私の知る限りでも、更生法の中でも「清算型」というものがあリますね。
宗田 これは更生法の条文の中にも(1)清算型の更生計画案、(2)第二会社をつくる、(3)合併する、(4)営業譲渡する−など、いろいろな装置があります。こうした手法を駆使して消滅した旧会社の従業員を新会社が引き取り、さらに一定の営業を引き継ぎ、負債も引き受けるというようなことは大いにあるわけで、(政府・与党の批判は)法律の実務からかなりかけ離れた詰をしていると思います。
住専7社の債権を持ち寄ると、中には優良な債権もあるわけで、それらの優良債権を集めて新会社1社作って再建させ、それ以外は消滅させるということが更生計画の中で自在にできるわけです。
評価に値する新進党の「日本版RTC」
江田 「法的処理」を行うと時間がかかって、その間に金融システムに不安が生まれると心配する声があるようですが…。
宗田 政府の住専処理法案を見ると、6兆7千億円の住専の資産について処理機構が新たな融資を受けて買い取り、それを15年かけて回収するというのですから、政府案そのものが時間がかかるのです。
私が新進党案を評価する点は、「会社更生法」を適用するというだけでなく、「不良債権処理公社」をつくり、更生法を補完させるということです。これは非常に優れていると思います。新進党案では、裁判所に更生手続きの申し立てをして、更生計画の開始決定を受けて、住専各社に管財人をつけます。ですから、第三者機関のスクリーンを通すことで公正・透明になりますが、政府案にはそれがない。
しかも管財人には調査権があり、債務者の不当な財産隠しなどを無効にできる否認権なども行使できます。管財人の権限によって、住専役員や貸し手、行政などの責任を直接、追及できるわけです。さらに、処理公社をつくり実務スタッフを提供しょうというのですから、透明性が高く、機動性があり、今後予想される住専以外の金融機関の破綻にも対応できるものであり、さらに今後の金融再編さえも視野に入れた画期的な提案だと思います。
政府案ではそのところが不透明です。政府の住専処理法案には、責任追及についての規定がありません。久保蔵相は「責任を追及する」といっていますが、それなら法案になぜ追及規定が入っていないのか、全く疑問です。
「住専処理機構」ならぬ「住専免責機構」
江田 政府案の住専処理機構は単なる民間会社であり、管財人のような特別の権限はない。これに対し新進党案では、公社を設立して管財人を公的にバックアップすることにより、財産保全、債権回収、責任追及が万全に行えます。
政府案は「包括的に営業譲渡する」ことになっていますが、住専に対する損害賠償は、「包括的」と言われても、受け渡す方(=住専)も受け取る方(住専処理機構)も、きちんと譲渡されたかどうか分からないのです。
宗田 そうです。たとえば、住専に天下った後、退職した前社長に対する拍害賠償請求権を考えてみましょう。政府の住専処理スキーム(枠組み)によれば、現在の住専の代表者が、前社長に損害賠償を請求して具体化します。それを住専処理機構に譲渡することになるわけです。住専処理機構自体が、(会社更生法による)管財人のように独自の判断でチェックしたうえで、自らの権眼で請求できるわけではありません。今の住専の社長が、「身内」である前社長あるいは役員に対して損害賠償請求権を行使して、これを住専処理機構に譲渡する、などということは考えにくい。
江田 ところが政府は「住専処理機構がそれをできる」と言うんですが、私は法的にも実際上も大いに疑問があると思います。薬害エイズやTBSの問題を見ても「自己監査」や「自己調査」がいかに難しいかが分かります。しかも、政府の言う「包括的譲渡」とかで、抵当権の登記をどうするのか、根抵当権の場合は確定手続きをどうするのか、ものすごく繁雑なことになってしまいます。
われわれの場合は、そうではなくて、管財人が住専に乗り込んでやるわけですから、ずっと徹底してやれます。そういうことを考えると、どうも私は政府が「法的処理」を避けて、不透明な処理に固執するのは、大歳省や銀行から住専に天下っていった仲間の責任を全部隠蔽(いんペい)して、かばうのが真の目的ではないかと勘ぐりたくもなりますが。
宗田 政府の住専法案に責任追及規定がないことや、先ほど述へたように損害賠償請求権を使うのが困難なことを考えると、江田さんの指摘のように言われてもやむを得ないという側面があります。
透明、公正、迅速、法的処理こそ最善策
江田 それから政府は、「法的処理」を採用すれば関係者があちこちで訴訟を起こし、管財人も訴訟をいっぱい起こさなければならないことになって、とても時間がかかると言っていますが。
宗田 「法的処理」では管財人に集約されるので、訴訟はそうやたらに起きないと思います。政府の言っていることはまったく逆です。管財人は、法的な検討を済ませたからといって、直ちに訴訟を起こすわけではありません。管財人は実質的な公平を図りながら、それぞれの関係者に話をし、訴訟まで発展しないような納得のいく案をまとめます。そういう過程をすべてオープンにして、最終的には「こういう案はいかがでしょうか」と法定多数を得て進めます。政府案では、こうした透明な手続きがまったくなされません。
江田 そうですね。われわれの案では、「法的処理」の手続きの中で、いま指摘されたことができます。政府は「自分たちの案ならば訴訟合戦にならない」と言いたいようですが、政府案では管財人の否認権行使ができないわけですから、不当な財産隠しなどを防ぐためには、個別に訴訟を起こすしかない。政府案の方が訴訟合戦になる危険性が高い。それでも政府が「政府案は訴訟が少なくて済む」と強弁するのは、責任追及や法律手段を駆使した債権回収の努力をやらないということではないかとも思える(笑い)。
それと、政府は、新進党案では関係金融機関の損失が確定しないから、金融システムが不安定なまま置かれると言っていますが。
宗田 法的手続きが申し立てられると、その段階で自動的に2分の1の償却が認められます。開始決定がなされると残りの2分の1の償却が認められます。今、政府がもたもたしていますから、住専について、関係金融機関が不良債権の有税償却か無税償却かで混迷していますが、「法的処理」ならば明確です。
「金融不安」のデマで国民を「脅す」政府
江田 与党は、「法的処理」を行えば農林系などの一部金融機関が打撃を受けて連鎖的に金融株序がパンク状態になり、結局、投入する財政資金が何兆円にも膨らむと主張しています。しかし、政府が預金・貯金者の保護を宣言し、毅然(きぜん)とした態度で臨めば、取り付け騒ぎは起こりません。新進党案で、住専処理とは別に預貯金者の保護を明確に打ち出しているのは当然のことです。与党は両者をごっちゃにして、最終的には財政資金が膨らむなどと悪宣伝していますが、その根拠はまったく示されていません。
さらに、新進党案では、体力の弱い農林系の抜本的な組織改革を進めるための方策も打ち出しています。
宗田 新進党の公社構想を、そうした金融機関へ適用することを考えるのも一つの方法だと思います。金融機関の破綻処理に伴い、預貯金者の保護のために税金を使わなければならないことがあるかも知れませんが、先ほどから話が出ているように「納得のプロセス」が重要なのです。国民にオープンにして、どうしても足りない部分は公的資金をこれだけ投入するのだということが示されれば、国民も納得します。しかし、政府は、税金投入の理由を「ギリギリの政治決断だ」としか言わない。しかも二次損失もある。
また住専処理が終われば、ノンバンクなど他の不良債権についてはどうするのかということについて、まったく答えていません。今こそ国民の声に素直に耳を傾けるとき
江田 4月1日から衆議院予算委員会の審議が再開されることになりましたが、私たちは「法的処理」が平成8年度予算の対案であるとは考えていません。住専処理に関して予算案では緊急金融安定化資金として6850億円を計上しているだけですので、これに対する私たちの対案は「削除」です。その後、特別委員会が設置されて、政府の住専処理機構についての法案が論議されると思いますが、そこで「法的処理」を軸とする私たちの考えを示していくことになります。正々堂々と議論していきますが、与党が数の力でゴリ押ししてくれば大変なことになると思います。
宗田 政府といえども「法の支配」を受けています。「国権の最高機関」である国会も「法の支配」の下にある。その「法の支配」とは何か。それは「正しさ」ということではないでしょうか。住専問題をきっかけに、ようやく国民はそれに目覚めたといえます。
これまでは、「納めた税金は何に使われても仕方がない」というのが大方の日本人の考え方でした。しかし、そういう時代はもう終わったのです。国民自身がようやく目覚めて「正しさ」を実現したいと主張しているのですから、与党が数の力でそれを圧殺することは許されません。
江田 本来、9割もの国民の反対の声に国会の多数派である与党が素直に耳を傾けるか、国民の意見を聞くために衆院解散・総選挙を行うか、そのどちらかをやらなければなりません。前回の総選挙以来、この3年間で民意を問わないまま政権のありようが激変しました。自民・社民政権は国民の審判を受けていないのです。国民無視で好き放題のことをやり、さらに数の力で住専処理を通すようなことになれば、もう国民は宗田さんの言われる「正しさ」の前にエリを正すことは馬鹿らしくなってしまうでしょう。これは怖いことです。
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