1983年 第三回全国大会(1983/01/23)

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八三年度政治方針

  中曽根内閣出現をめぐる内外情勢

一、一つの内閣の出現にこれほどの政治的、道義的、社会的批判が集中したことはかつてなかった。

 二十の閣僚ポスト中、過半数に近い八人の田中派(系を含む)議員の入閣、しかも官房長官・後藤田正晴(元警察庁長官)、法務大臣・秦野章(元警視総監)、自治大臣・国家公安委員長・山本幸雄(元大阪府警本部長)とロッキード・シフト、選挙対策の要を田中派の元警察官僚群でおさえた組閣人事は、余りの露骨さに国民を唖然とさせた。田中派自身が驚いたといわれ鈴木派からもひんしゅくを買い、一将功なって万骨枯ると総裁派閥の中曽根派までが嘆いたこの組閣は、まさに天をも恐れざる破廉恥人事である。

 田中軍団の戦略はあくまでも本年一月二十六日の領袖の論告求刑、夏の終わりの判決という裁判日程に合わせて日本の政治日程を組むことであった。そのためには何としても刑事被告人・元総理の亜流総理・総裁でなくてはならなかったのである。かくして第三次田中内閣は形成された。「田中曽根内閣」といわれるゆえんである。

二、なぜかくも刑事被告人が総理を操り、日本の政治をろう断しうるのか。なぜかくも恥ずかしい事態が堂々とまかり通りうるのか。理由は明白である。それは与党の絶対多数を許した政治情況の背景にある野党の非力と不統一、そしてもう一つは与党反主流のだらしなさにつきる。

 昨年の与党総裁予備選の結果は、反主流の立ち直りを許さないほどの田中亜流派の圧勝に終わった。しかしそのしこりは深く潜行している。必ずやそれは田中元総理の論告求刑を契機として再び点火され、矛盾は拡大されて判決に連動し、本格的地殻変動に発展する可能性は依然として大きい。その可能性を現実のものにしうるかどうか、すべては「野党の出方」一つにかかっている。

 この期に及んでも野党が田中支配政治を破砕しえないとしたら、それこそ日本の民主政治はついに息をひそめ、国民の政治不信は増幅されて、ファシズム台頭への道を開くことにもなりかねない。

 いま一つ警戒を要する問題は、中曽根内閣の右傾化指向である。現に総理自身が公然と改憲論議をあおり、自民党内の改憲作業は実現にむけて拍車をかけられることになった。

 われわれの責任はかつてないほど重く厳しい。今日を生きる政治家のすべてが党派をこえて、その政治責任を鋭く問われようとしている。まさに運命の年が明けたのである。

三、国際情勢も複雑さを加えることになった。昨年十一月十日、十八年間にわたってソ連の最高権力の座を占めてきたプレジネフ書記長が急死した。その後任は過去十五年間、KCB(国家保安委)議長であったユーリ・アンドロポフ氏である。経済停滞、穀物不作、軍備への過剰投資にあえぐソ連の現状が新書記長によってどう変わるのか、緊張緩和のプレジネフ外交路線がどう具体的に継承されるのか、アフガニスタンからの撤収はありうるのか、SALT、STARTなどの米ソ交渉、また中ソ接近はどうなるのか、すべてがいまださだかではない。

 昨年九方中旬、イスラエル軍の支援をうけたキリスト教民兵らによるパレスチナ難民大虐殺後のレバノン情勢は、今もイスラエル、シリアなど外国軍隊が居直り、米・仏・伊三国の国際監視軍が治安維持に当たっているが、宗教派閥の争いは絶えず、中東情勢は依然として混迷をつづけている。

 領土問題にからむ昨夏の英・アルゼンチン両国のフォークランド紛争は、国家の威信という名のたわいもないメンツが民族の英知と理性をいかに狂わせ、いかに馬鹿げた行動に走らせるかを国際政治の場で見せつけた事件であった。

 対米、対欧貿易摩擦は今後とも重い荷物として日本外交の足カセとなり、特に中曽根総理訪米を機に、米国の対日防衛力増強圧力は米上院決議を背景にさらに厳しくなる状況である。

 このように国際情勢は混迷と停滞からの出口を見出すことができえないでおり、「話し合い」のルール確立は一段と重要性を増している。

 そうしたなかでポーランド「連帯」のワレサ議長釈放、および韓国の金大中氏の刑の執行停止、米国への出国は、われわれの運動の一定の成果として評価しうる面もあるが、問題の真の解決にはほど遠く、特に金大中事件の日本政府による真相解明はこの際急がれねばならない。今後とも国際的民主化の連帯活動はねばり強くおしすすめることが必要である。

 訪米前に急遽決定した中曽根総理訪韓は、日米韓の軍事癒着体制を強化するねらいをもったものであり、朝鮮半島の安定、平和にとってはむしろマイナス要因となるであろう。日韓経済協力も日本の財政事情を無視するものであり、その経済援助があくまでも韓国民衆の生活安定中心に生かされるよう歯止めをかける必要がある。


  政治方針

 この新しい年、二十一世紀にむけて解決を迫られている内外の政治課題は山積している。

 不況脱出への出口は遠く、生活は一段と厳しさを増し、国民の不安と不満はうっ積している。問題をしぼれば、政治倫理確立、行財政改革、防衛力増強と国民負担増、貿易摩擦解決を中心とする外交の立て直しの四点に集約しうるであろう。

 このような不確定要素に満ちた政治情勢のなかで、われわれにとり何よりも重要なことは、政治戦略を明確にすることである。

 現政局における。野党の政治戦略はただ一つ、自民党の単独支配体制を突きくずすこと、裏を返せば政権交代可能な民主的政治勢力を結集することの一語につきる。今こそ三年前の全国大会で決定した、連合政権構築の「プロモーター」としてのわれわれが立ち向かう政治状況が到来しつつあることを確信する。

 戦略目標がはっきりすれば、戦術は柔軟であってよい。ただしそれには原則が必要である。

 われわれはこの時点における政治原則をもう一度次のように鮮明にしたい。

政治原則 政治倫理確立と護憲・右傾化阻止

政策原則
 (1)平和・反核・軍縮
 (2)分権・公開・参加
 (3)社会的公正・公平・制御による産業経済政策、福祉社会、国民生活向上
 (4)環境・生態系保全とクリーン・エネルギー対策
 (5)国際的交流・協力と平等互恵

 戦略目標にいたる道すじは、八〇年大会決定の連合政権構想をめざし、前掲の政治原則および政策原則(具体的には新自連結成時の声明および政策大綱を許容限度とする)を基調とし、環境整備をはかりつつ可能性を追求して政治勢力結集をはかると同時に、社会党の再生と自民党の分裂を誘発するよう全力をあげる。

 政治勢力結集に際しては、はじめから一定の予断をもって特定の政治勢力を忌避するのでなく、原則を明確にしてその原則によって構成組織を規制、拘束するよう努力しなければ、既定の主義、主張をもった政治集団の結集は到底成り立ちえないであろう。

 なお社会党再生について言及すれば、院内会派である「社会党・護憲共同」の「護憲共同」の方を広く国民に開放し、院内だけでなく、院・外の有望、有能な民主的人材をそこに集め、吸収してゆく発想に切り替えることが最も手っ取り早く現実的な方法ではないのか。社会党の真剣な検討を期待したい。


一、院内活動

 1、野党再編をにらんだ院内統一会派再編問題は、試行錯誤を重ねつつ努力中であるが、いまだ機熟さず、今後とも実現をめざして精力的に協議を積み重ねてゆく。ただし中道四党の院内活動における共闘、および同盟を含む選挙協力は何としても強化しなければならない。

 2、衆議院院内会派「新自由クラブ・民主連合」(新自連)は今後の政治勢力結集の基盤として大切にし、当面継続強化して院内活動に当たる。

 なおそのときの情勢と条件が熟すれば、次の総選挙、統一地方選挙を「新自連」方式で闘うことも可能性の一つとして、真剣に両党とも検討することが望ましい。

 3、参議院院内会派「新政クラブ」は秦、前島両議員が脱会して「無党派クラブ」結成に走り、五名になったが、六月の参議院選挙に備え、新しい会派への衣替えを新自由クラブとの間で検討協議中である。もしこれが実現すれば、参議院全国区選挙への展望が大いに開けることになる。

 4、九八通常国会闘争方針

(1)政治倫理確立の闘い

 (a)一月二十六日のロッキード事件「丸紅ルート」論告求刑において田中元総理有罪求刑の場合は、即刻、議員辞職勧告を行うことは当然であるが、場合によっては「院の品位を著しく傷つけた」ものとして「田中元総理および佐藤孝行議員の懲罰動議」を提出し、両議員の「除名」を要求する方向に切り替えることも検討すべきである。

 ※国会法第一二一条=「各議員において懲罰事犯があるときは、議長はまずこれを懲罰委員会に付し審査させ、議院の議を経てこれを宣告する。…… 議員は衆議院においては四十人以上、参議院においては二十人以上の賛成で懲罰の動議を提出することができる。

 ※衆議院規則第二四五条=「議院の秩序をみだし又は議院の品位を傷つけ、その情状が特に重い者に対しては、議院は、これを除名することができる」

 (b) 両議員辞職あるいは除名実現は、野党が衆議院解散も辞せず、野党全議員が議員総辞職を賭して闘うぐらいの体制をしかなければ到底おぼつかないであろう。

 (c) 両議員辞職あるいは除名を含む政治倫理確立に目途がつかない限り、五十八年度予算案の審議には応ずべきではない。

 (d) 以上の諸問題で野党の足並みをそろえるため、論告求刑後直ちに野党党首会談が開かれるよう提唱し、実現にむけて努力する。

(2)五十八年度予算闘争
 政治倫理確立に目途がつき、予算審議に入った場合は別紙「方針」の通り、人勧・減税・国民生活防衛をからめて代案を提示しつつ、修正をかちとるため野党共闘を強化する。


二、院外活動

 八三年度運動方針は二つの「反カク」運動と環境・生態系を守る運動および国民生活防衛闘争に集約する。それらの運動を基調として統一地方選挙、衆・参両選挙の政治決戦に臨む。

 1、「反角」運動

 院内の田中、佐藤両議員辞職勧告、あるいは除名運動を支える世論形成のため、院外で壮大な「反角」国民運動を展開する。

 楢崎書記長の提唱で結成された衆・参政治倫理確立議員懇談会(政倫懇)はすでに労働四団体と協力体制を完了し、労働四団体は市民・青年・婦人・住民組織と連帯して幅広い運動の中央実行センターの組織化をめざすとともに全国的運動の盛り上げに乗り出している。われわれはそれらの運動に協力して活動するとともに、社民連独自の運動も別途活発化する。

 2、「反核」平和運動

 昨年度は第二回国連軍縮特別総会にむけて中道四党、同盟の五者による「核軍縮をすすめる会」を結成し、二千万人の反核署名を集めてデクエアル国連事務総長に直接手渡すなど、特別総会における核凍結、核使用禁止決議可決に連動する多大の成果をあげたが、今年も引き続き米国、西独、仏、オランダなど国際的反核キャンペーンと連帯して運動を継続発展させる。

 特に米国は巡航ミサイル・トマホークの太平洋配備を決め、すでに対艦用トマホークは昨年半ばに潜水艦へ、本年中に水上艦艇装備、太平洋における初のトマホーク水上艦艇としては本年夏に、トマホーク32基搭載の戦艦ニュージャージー(五八、〇〇〇トン)を第7艦隊の守備範顔である西太平洋に配置する予定である(八二・四・二六、ロング米太平洋軍司令官、日本人記者団に言明)。

 また核ミサイル(B43、B57、B61)装備可能のF16、八五年三沢配備など、いよいよ日本は米国のアジア核戦略体制の中に組み込まれることが明らかとなり、非核三原則を厳守する運動は、今後ますます重要となった。

 「アジアを非核の地域に」、「太平洋、日本海を非核の海に」をスローガンに関係各国に訴えていこうではないか。

 3、環境・生態系を守る住民(市民)運動との連帯はわれわれの運動の原点である。

 すでに洗剤追放運動等で先駆的役割を果たしてきたわれわれは、除草剤「MO」の告発でも消費者団体と共闘してメーカーの三井東圧と農水省をつきあげ使用制限に追いこむ成果をあげた。また「緑の地球防衛基金」創設にも参加して環境保全の国際的運動にのり出しているところである。
 今後とも国会と市民運動の接点に立って、環境保全、生態系を守る運動に取り組んでゆく。

 4、国民生活防衛は、五十八年度予算闘争を院外闘争と結合させて展開する。


1983年

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