2001年11月2日 朝日新聞記事

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改正自衛隊法が成立
「防衛秘密」への注視不可欠

「防衛秘密」の新制度を盛った自衛隊法改正が、テロ対策特措法とともに成立した。憲法で保障された「言論の自由」に重大な影響を及ぼしかねない内容にもかかわらず、テロ戦争一色に染まった国会で、十分に議論を尽くされなかった。だが、これで終わりではない。健全な運用、制度の改善が、これから問われる。適用範囲、刑罰が拡大して、本格的な「国家秘密法」に膨らむ芽もはらんでいる。国民、メディア、国会の注視が不可欠だ。


 新制度は、従来の自衛隊法の「守秘義務」とは、まったく異なる。

 「機密」「極秘」「秘」に指定分けされた防衛庁秘はこれまでも約13万5000件あったが、その根拠は訓令に過ぎなかった。いわば部内規定のようなものだ。

 今度は法律に基づいて、長官が「防衛秘密」を指定する。適用対象も、自衛隊員だけでなく、防衛秘密に触れる国家公務員、国会議員、関連業者に広がった。漏えい罪の刑罰は「5年以下の懲役」。報道関係者などを対象とする教唆罪は実際の漏えいを伴わなくても「3年以下の懲役」だ。

 「切歯拒腕です」
 防衛秘密の問題に詳しい奥平康弘・東大名誉教授はそう言う。
 「80年代に国家秘密法案がつぶれたのは、戦前体験の因縁からだ。『国防保安法』などで、国民の知る権利など成立する余地のない締め付けが行われた。それではいけないという感覚がしみついていた。軍事的価値にあまり大きい顔をさせてはいけない、自衛隊の秘密も国家公務員法や地方公務員法と同じ形で規律維持をさせる、という考え方だ。今回は、テロ持措法の後景に退いてしまい、国民に自分の皮膚で感じるものとして受けとめられていない」

 国会では、衆院の審議段階ではほとんど触れられず、後半の参院の審議で、江田五月(民主)、山口那津男(公明)、小池晃(共産)、大脇雅子(社民)氏らが、比較的詳細に質問した。

 多くの議員が、防衛秘密の指定基準のあいまいさを突いた。法案の条文にある「我が国の防衛上特に秘匿することが必要であるもの」の中身を具体的に聞いても、条文と同じ言葉の繰り返し答弁しかなかった。

 秘密にすることが国益か、国民に知らせることが国益か──それがこの種の法律では争点になる。「防衛庁の一存」で防衛秘密が指定されてしまう新制度は、大きな問題点を残したと言える。

 改善の方向を示唆する質疑もあった。
 江田氏らは「秘密指定した件名を列挙した登録薄を公開すべきだ」と追及。中谷元防衛庁長官は「情報公開請求があれば、不開示部分の件名を除いて開示する」と答えた。墨で塗りたくられた意味不明の登録簿にしてはならない。

 山口氏らは秘密指定を一定期間後に解除・公開する米国の制度の導入を求めた。長官は「検討課題」とした。防衛秘密制度の抑制に、情報公開制度の充実が必要だ。

 奥平氏はこう懸念する。「防衛秘密制度が拡大し、『外交秘密』や『収集・探知罪』が加わって、国家秘密法になるおそれがある」

 防衛秘密が国民の基本的人権を侵さない健全な制度となるかどうか。カギを握るのは、政府と同時に国民自身でもある。

(編集委員・本田 優) 


2001年11月2日 朝日新聞記事

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