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2012年11月2日 第 6 回講義「ねじれ国会の運営―3」          講師  江田五月

 

先週の金曜は都合でお休みということになってしまい、申し訳ありませんでした。その前の金曜日に、参議院職員の大蔵君に講義をしてもらいました。問責決議、それから同意人事、議員立法、議員による法案修正、そういう話を聞いてもらいましたが、今日はまず、皆さんから質問を受けます。意見があれば出してもらい、これらのことを深めていきたいと思います。

 

【問責決議】

問責決議が、今、参議院で最もホットなイシューになっているのですが、どういうことで問責が議論になっているのかお分かりですか。

(学生)参議院で総理大臣が問責決議を受けたため、今衆議院しか動いていない。

(江田)問責決議はそもそも何なのでしょうか。憲法上、国会と内閣との関係はどうかというと、衆議院で内閣総理大臣の指名をし、参議院でも内閣総理大臣の指名をします。国会は内閣総理大臣を指名するだけで、任命は天皇陛下がするのです。他の大臣は誰が任命するのかというと内閣総理大臣です。天皇陛下から任命されて初めて内閣総理大臣になるのですから、論理的にはその前に他の大臣を任命したりはできません。けれども現実にはそんなことはせず、内閣総理大臣は国会で指名を受けたら、すぐに他の大臣を全部決めるわけです。その後、皆揃って皇居に行って、まず最初に内閣総理大臣が天皇陛下から任命を受けて、その他の大臣は天皇陛下が認証するということになります。憲法では国会が内閣総理大臣を指名し、内閣総理大臣がその他の大臣を任命するという形で、国会の方が主導権を持っています。また憲法では、国会は自らが指名した内閣総理大臣ですから、あるいは自らが指名した内閣総理大臣が作った内閣ですから、これを不信任できる 、 というのが内閣不信任決議があって、この不信任決議が可決されれば内閣総理大臣は 10 日以内に総辞職するか、国会を解散するか、どちらかをしなければいけないとされています。ただし、この関係は実は衆議院だけで、参議院はそういう関係はないのです。それなのになぜ、参議院に問責があるのでしょうか。憲法上規定はないのだから問責など関係ないと言えるのでしょうか。

国会では、例えば世界連邦決議とか、オリンピック招致決議とか、何とか感謝決議とか、そのような国会の意思を表す決議を本会議でやることがあります。それはあくまでも国会の意思表示ですからどうぞご自由に、それによって何か起きるわけではないのですからという面も否めません。これら決議と同様に、参議院の問責決議というのは、参議院の意思表示であって、単に参議院の気持ちを表しただけで別にそれ以上の何物でもないのだから、分かりましたと聞きおけばいいという説があります。その説に従えば、今野党の言っていることは無茶苦茶です。野党は、「問責している総理大臣が参議院に来るなどということはとても認められない」としていますが、その説ではそんな効果は何もないのです。けれども今の与党民主党が野党で、参議院で野党が多数だった時、当時の福田総理や麻生総理を問責して、「福田さん、麻生さんは、参議院には入れません」という態度をとったことがあります。なぜ野党がそういう態度をとれるのか。それは問責決議に一定の効果があり、れがまったくのでたらめとは言えないからではないか。従って今回野党が「野田総理大臣は参議院では認めません」というのもまったくのでたらめとは言えなくなります。いったいなぜでしょう。

(学生)内閣は国会に対して連帯して責任を負っているので、参議院も国会に含まれるからそういう態度がとれるのではないかと思います。

(江田)なるほど。内閣総理大臣の指名は衆議院だけの意思に基づくものではありません。衆議院で内閣総理大臣の指名をしますが、参議院でも内閣総理大臣の指名をするのです。衆議院と参議院の指名が同じであれば問題ないのですが、違った場合にはどうするのでしょうか。

(学生)両院協議会を開き、協議がまとまらなかったら、衆議院の議決が国会の議決となって、衆議院で指名された人が内閣総理大臣になります。

(江田)そのとおり、両院協議会は開かれなければいけないのですが、あまりできのいい制度とは言えないと思います。つまり、内閣総理大臣ですから、一カ月交代というわけにはいかないし、協議により第三の候補にしましょうなどということも考えられないし、両院協議会は無駄な感じはしますが、憲法はそうなっています。両院協議会を開いても、両院とも本会議で内閣総理大臣を指名しており、両院協議会に出て行った一方の協議委員全員が譲るなどということはあり得ないので、まとまらないのが普通です。その場合でも衆議院の議決によって内閣総理大臣が決まるのかというと、厳密にいうとそうではありません。衆議院の議決が国会の議決になって、そして国会全体として野田さんが内閣総理大臣に指名されたことになるのです。

両院協議会の結果について、衆参両院の本会議で報告した後、両院議長が揃って皇居に行くのです。天皇陛下と衆参議長と3人だけで小さな部屋に入って、衆参本会議や両院協議会の経過を説明し、国会として野田さんを内閣総理大臣に指名することになった旨を報告するのです。これを内奏とか奏上とかいうのですが、そういう行為があって初めてそれに基づいて天皇陛下が内閣総理大臣を任命するのです。この流れは全部憲法上の根拠があってやっているわけで、つまり国会による内閣総理大臣の指名には、衆議院だけでなく、参議院も関わっているのです。衆議院の方は内閣不信任案議決が制度として憲法で書かれています。一方、参議院も内閣総理大臣の指名に関わっているから、自らが指名した内閣総理大臣の責任を問う、問責するということが言えるのです。だから参議院の内閣総理大臣に対する問責決議というのは何の根拠がないという話ではありません。ただし、その問責決議は効果が憲法上、法律上、規定されていません。しかし、そういうきちんとした根拠のある決議ですから、政治的な効果があるのです。つまり、その時の政治状況によっては、「もう野田さん、あなたは参議院の門をくぐるべからず」というところまでいく場合もあるし「ちょっとごめんなさい」というぐらいの効果しかない場合もあるのです。

 

【野田総理への問責決議】

ところで、野田さんは 8 月の終わり、延長後の通常国会において、参議院で問責決議を受けました。その問責決議にどの程度の効果があるのか、これまでホームページにいろいろ書いてきました。問責決議とは、政治的と言えば極めて政治的なものですが、問責の理由はいろいろあっても決議内容は問責そのものであり、理由ごとに問責があるわけではありません。ところが、この 8 月の終わりに参議院本会議で可決した問責決議は、理由がかなり支離滅裂なのです。野田内閣総理大臣には二つの問責決議案が出ました。一つは8月の始めに自民・公明以外の野党が出した決議です。提案理由は二つあり、一つは消費増税の法案を通したこと、もう一つはその通し方が民主・自民・公明の 3 党のみの合意という方法であったことであり、これらはともにけしからんとするものでした。二つ目の問責決議案は、自民・公明から、全体に野田総理は総理の資格がない、認められないというものでした。どちらの問責決議案を採決するかということになりますが、同じ総理に対する問責ですから、二つとも採決ということはあり得ません。一つの議案を二度採決することはないのです。このような場合、両方引っ込めて一本化するのが普通です。ところが今回は、消費増税けしからん、三党合意けしからんと拳を振り上げた自公以外の野党が、私たちが先に出しているのだから、それをまず採決しろと断固として頑張りました。これには自民党も困りました。なぜなら自らがやった消費増税、三党合意をけしからんと言っている決議に乗るわけにはいかないからです。だからといって否決したら、問責決議は一度否決されているのですから次は出せません。さあ困ったというので、自民党は自らやった消費増税、三党合意はけしからんといって出された問責決議案に賛成しました。自らがやったことを自らで弾劾するのですから、理由からいったら滅茶苦茶です。さすがに公明党は、それはちょっとできないと採決を棄権しました。今回のような論理的に辻褄があわない、理由が無茶苦茶な問責決議に対して、福田さんや麻生さんの時と同じような問責決議の効果を政治的に認めていいのかというのが与党の言い分なのです。「そんな支離滅裂な問責決議に参議院が拘束されることはない。この問責決議は参議院の権威を貶めただけで、ちょっとすいませんと言っておけばそれでいい」と、政府与党はこの決議をそれほど重視せずに臨時国会を召集したのです。そうすると野党は、「問責決議を受けた総理が国会を召集するとは何事か。そんな国会召集は認められない」と怒って、とりわけ参議院では野田首相に対して、参議院に入ってくるなとなったのです。普通国会が始まったら、内閣総理大臣はぜひ自分の考えを国会を通じて国民の皆さんに述べたいと所信表明演説をやるのですが、今回は参議院の方はそんなものは聴くことができないとして国会は止まってしまいました。これに対して衆議院の方は、所信表明演説も代表質問をやり、ことは淡々と進んでいったので、参議院の野党は「困ったね、これは」と言っている始末です。与党としては、そんな支離滅裂な問責に、そんなに強い政治的効果を与えてはあとあと困るというので、参議院でも所信表明演説を聴いて代表質問に入っていこうと提案しました。これに対し野党の方はそれはできないというのが昨日までの展開です。今日はどうなったか、わかりますか。

(学生)久しぶりに参議院本会議で緊急質問をやりました。今までは大きな事件とか事故があった時の対応などについて質問していた例だと聞いています。

(江田)国会法では、国会議員は議長を通じて内閣に質問主意書を出すことができ、内閣は 7 日以内に答弁しなければいけないとされています。これに対し、そんなに待っていられない緊急なことがあって、是非内閣に聞きたいという時には、本会議で議決してそれぞれの議員が内閣に質問できるというのが緊急質問です。

野党は、「首相問責決議をなんと考えているのかという質問をしよう。これだけ国会が動かなくなっているのだから、これ以上緊急なことはあるのか」と主張します。緊急でも何でもないというのが与党の言い分ですが、とにかく数には勝てません。昨日の議運理事会において、今日、議題は人事案件で 10 時から本会議を開きますということだけを決めたのです。決めたといっても会議を開いて皆でまとめたわけではなくて、揉めに揉めて議運委員長が職権で決めました。今日の本会議について、同意人事だけをやるのか、それとも通告が出された緊急質問をやるのか、 10 時から本会議を開くことになっているのに揉めて、すぐには話がまとまらず、議運委員会で採決しました。その後本会議でも緊急質問をやるという動議を起立採決で諮って、起立が過半数だと認めて、7人がそれぞれ緊急質問を行いました。その緊急質問の中には、問責をどう考えているのかという質問もありましたが、原発はどうするのか、地震の後遺症で自殺をした人など、震災で亡くなった人たちのことをどう考えているのか、そもそも震災の被害者を何人いるか、どうやって掌握しているのかなど、いろいろなものがありました。何故そんな質問をやるのかと言えば、それは緊急だからというわけではないのです。

国会の動かし方の問題として、国会が召集されるとまず所信表明演説を聴いて、次に代表質問を受けて、そこからいろいろな段取りが始まっていくのです。今回参議院ではそれをやらないというので、やらなかったら前へ進めないとの主張がぶつかり合い、膠着状態になったのです。何とか氷を解かさなければいけないというわけで、緊急質問をやれば「内閣総理大臣の野田さん、あなたは問責を受けているのだから参議院はもう入れてあげません」と言っていた野党が、「緊急質問だから、緊急の必要があるから参議院本会議に出ていらっしゃい」と言うのです。面白い話でしょう。今日野田さんは、「問責決議は真摯に受け止めます。本日はこうして参議院で答弁させていただいておりますが、さらに引き続いて参議院におかれましても懸案の審議を是非お願いしたい」と本会議で答弁をしています。つまり、緊急質問が事態を動かすテコになっているのです。このようにいろいろな手を使って国会を動かしていく知恵を働かそうとしているわけです。なんで今緊急質問なのか、その辺を考えると大体わかってくるわけです。緊急質問が終わった後、来週から参議院をどう動かすかという議論をいろいろやっているはずです。表でやる話し合い、アンダー・グラウンド、カーテンの向こうでやる話し合いなど、いろいろなものがあって、これら全部トータルに動いていて国会というものが動いていくので、どういうふうに落ち着いていくのかはまだ聞いていません。しかし、緊急質問をやり、出てくるなという野田総理を参議院の本会議場で迎えたのですから、理由はどうであれ、経過はどうであれ、全くの膠着状態になっているものがちょっとは動いたということではあるので、こうなったらやはり動かそうということに普通ならなると思いますが、結果は分 わ かりません。

これらの動きは、結構国会というものの本質から由来しているいろいろな制度の動かし方を今やっている最中とも言えます。もともと参議院には不信任決議を可決させて、内閣総理大臣に総辞職か解散かを選ばせる、強制するという権限はありません。ですから、問責決議が可決されているのだから、早く解散しろ、総辞職しろと参議院が言うのは言い過ぎです。しかし、問責決議なんて聞き置ければいい、あんなものは無視すればいいというのもちょっと違います。ただ、今回の野田首相問責決議はその理由が呉越同舟も甚だしく、どこまでの政治的効果を結びつけるかというのもなかなか難しく、あまりいい宣伝にはならないと思います。

 

【衆議院と参議院】

今回のような臨時国会では内閣総理大臣による所信表明演説だけが行われますが、通常国会の冒頭では政府4演説といって、内閣総理大臣の施政方針演説、外務大臣の外交演説、財務大臣の財政演説、経済財政担当大臣の経済演説が行われます。この政府演説は衆議院と参議院とで一字一句違わないのです。「同じことを二度読むのは馬鹿馬鹿しい。一回で済ませたらどうですか」と小泉純一郎さんが言っていました。ただ、一回で済ませるといっても場所がありません。衆参どちらの本会議場でも、議員全員は入れないのです。しかしながら、天皇陛下をお呼びして開会式をやる時は参議院でやっています。何故参議院の議場で開会式ができるのかというと、全員がこないからです。その上、天皇陛下がご臨席になった時は全員立っているのです。それであれば、内閣総理大臣の演説についても、一回でどちらかの議場で立ったままでやればいいという説も出てきます。衆議院の所信表明演説はいいが、同じことを参議院でやることはないという主張は、かなり根強いものがあるのです。何故衆参どちらでもやるのかといえば、メンツのようなものとも言えます。所信表明や施政方針の演説は国会の手続きの最初なのです。

「うったて」という言葉を皆さんご存知ですか。つい最近知ったのですが「うったて」というのは岡山弁だそうで、「うったて」というのは書道で字を書く時に最初に筆をぱぁーと起こすことなのです。国会の全部の手続きをここから始めますという、刑事手続きでいえば、最初の起訴状朗読みたいなものなのです。衆議院と参議院は別の院ですから、最初に「うったて」がなければコトは始まらないというので、衆議院でも参議院でもどちらでもやるということが続いてきているのです。しかし、同じことを二度やる、無駄の典型みたいなもので止めたらいいという説はずっとあって、その説がもっと進んでいくと、「衆議院で法案の審査をします。参議院でも同じ法案の審査をします。外からみたら同じことをやっており、二度もやるのは無駄ではないか。衆議院で審査をしたら、参議院はやめたらどうか。それでは、参議院は何をするのですか。特にやることないから参議院やめたらどうか」と参議院無用論までいってしまうのです。無用論でなくても、もう少し合理的にやるために、衆議院と参議院を統合した一院制というのをやったらどうかという説もあります。どうもいろいろな説の根底には、参議院は不要だという考え方がどこかにあるのです。今の日本維新の会はそういう主張になっています。確かに、我が国の二院制は必ずしも配慮された制度設計になっていなくて、無駄な分も随分あるのです。しかし、二院制をとっている国は、アメリカやイギリスなど世界にいっぱいあります。それらの国が無駄なことをやっているのかと言えば、そんなことはありません。それぞれ院の性格が違ったり、権限が違ったり、いろいろなことで二院制というものが上手に機能している国はいっぱいあります。大体どこの国でもそれなりにうまく機能しています。

日本も 1 億 2 千万の国民がいて、これを統合して国の方向を決めていくのですから、やはり衆議院は内閣総理大臣を選んでことをどんどん進めていくのに対し、参議院の方はこれに対して時々は待ったをかけたりするもの、数の府の衆議院に対し、質の府、理の府、良識の府の参議院というような二院制は無駄なことはない。一方、参議院は不要だとの説もあって、今回、参議院で所信表明演説が行われなかったことについて、緊急質問というやり方で何とか切り抜けたとしても、結局参議院は、所信表明演説は要らないというようなところに動きが流れついていくとすると問題だと思います。統合一院制なども一つの考え方ですから、きちんと議論すればいいのですが、今回のようなことが一つの例になって、参議院では所信表明演説は要らないなどということがだんだん定着してくると、これは参議院が自ら墓穴を掘ったということになります。もっときちんと論理的、理性的に考えなければなりません。今回は異例の緊急質問で膠着状態を打開しようとしていますが、あまりいい先例ではないと私は今思っています。

最近になって問責決議が多用されているのです。本来こんなに頻繁に使われるべきものではないと思います。ねじれ国会になる以前に、額賀防衛庁長官に対する問責決議が可決され、結局しばらくたってから、額賀長官は辞任することになりました。そして 2007 年ねじれ国会になってから、福田さん、麻生さんと内閣総理大臣に対する問責決議が可決されました。その後、特に民主党政権になって、 2010 年の参議院選挙で再ねじれが起こり、そこから問責決議が多くなりました。仙谷官房長官、馬淵国土交通大臣、一川防衛大臣、山岡国家公安委員長、前田国土交通大臣、田中防衛大臣、そして野田内閣総理大臣と問責が続きました。問責決議については、大体こんなところにします。

 

【同意人事】

次は同意人事の話です。今一番もめているのは原子力規制委員会です。原子力発電については、古くは原子力委員会と原子力安全委員会、事務方としては科学技術庁の中に原子力局と原子力安全局があり、その後、科学技術庁と文部省が統合され、文科省の中に仕事が一部移って、その他に経済産業省、その中に原子力安全保安院ができて、ここが原子力規制の行政をいろいろやっていたのです。これに対し、原子力の推進と規制とが一緒になっているのは問題ではないかということになり、福島事故の反省を踏まえて、原子力規制の組織を別にしようということになりました。去年の夏でしたか、どこにその原子力規制のための行政機関を置くかということになり、ちょうど私が環境大臣だった時、環境省に作ることにしました。環境省の中に、外局として原子力規制庁を置くという制度設計をしたのです。その後、各党の協議により、もっと独立性を高めるべきという合意がまとまり、原子力規制委員会は独立行政委員会として置かれ、原子力規制庁が環境省の外局の行政機関として事務方を担うというちょっと複雑な機構になりました。この原子力規制委員会の委員長と委員は国会の同意人事になりました。田中俊一さんという委員長候補、その他委員の皆さんについて、内閣は国会に同意を求めました。ところがこれに対し国会はどうしたかというと、はっきり言えばさぼったのです。何故さぼったかというと、ここが言いづらいところなのですが、原子力規制委員会の同意人事案件を本会議にかけたら民主党の中が割れてしまうのです。せっかく内閣が出してきたものだけれど、これは認められないという人が約何名かいるのです。これでは本会議にかけられないと言っているうちに、延長国会は幕切れになりました。ある意味では幕切れになるのを待っていた節があるのです。原子力規制委員について、本来は国会の同意を得て内閣が任命するですが、国会閉会中であれば内閣総理大臣が国会の同意を得なくとも任命できるという規定があって、それで任命してしまったのです。その後、臨時国会が召集になり、任命して事後に国会が召集されたら同意を得るのが筋です。普通はそうなるのですが、それでなくとも民主党は今離党者がポロポロと五月雨式にでているのに、同意案件を本会議にかけるとこれ以上また足並みが乱れて、それをきかっけに離党されたらたまらないというので、どうしたと思いますか。

ここからが面白いところなのですが、原子力事故が大変な状態の時は、国会がどうのこうのと 、 言っている場合ではないので、政府は原子力緊急事態宣言を発し、今は国会の同意をお願いできる状況ではありません、ごめんなさいということできると法律に書いてあるのです。これは与野党合意で作った法律です。内閣として出した原子力緊急事態宣言について、今日国会に通知が届き、同意人事を本会議に諮ることはなくなりました。

福島原発は今でも本当に緊急事態なのです。例えば福島第一原発 1 号機、 2 号機、 3 号機は震災当時動いていたのですが、地震でやられて、圧力容器の中に核燃料が溶けており、メルトダウンしている状態です。 4 号機は定期点検中でしたので、炉心の中にある燃料棒を全部取り出して、貯蔵用水の中に浸けていました。全国の原子力発電所には全部燃料貯蔵プールがあり、そこに使用済み燃料や定期検査で抜き出した燃料を浸けて貯めているのです。この容量があともう何年か分しかないので、このまま原子力発電を続けていったらお手上げ状態になるのです。福島第一原発 4 号機は使用済み燃料を入れている貯蔵プールが高いところにあります。コンクリート製ですから、地震によりヒビ割れて水が流れ出ているのではないかという心配があったのですが、大変幸運にもそこまでのヒビはなく、水は漏れていません。今は何とか水の中に浸かっていますが、もしこの瞬間でもちょっとした地震がおきて、このコンクリートが割れたりしたら、水に浸っていない使用済核燃料が空焚き状態になる。制御棒がない燃料棒が空焚きになったら、爆発の心配もあるのです。したがって、今この瞬間、原子力緊急事態であることは確かです。

だから今回緊急事態宣言を国会に通知したので、規制委員会の同意人事について国会はしばらく触らないことになりました。ところがもう少し難しい問題がありまして、実は野田内閣は去年暮れに福島原発収束宣言なるものを出していたのです。収束宣言を出したのに緊急事態宣言を通知するというのは、どうなっているのでしょうか。原子力緊急事態宣言は、実は去年の 3 月 11 日、震災発災当日に災害の方の非常事態宣言と一緒に出されており、今も取り消されていません。去年の暮れに出した収束宣言はまさに政治的なもので、燃え上がる状態がどうやら落ち着いて、安定的管理ができるところまできたので、次の安定的管理の中でだんだん処理をしていくという意味で出しているだけで、去年の 3 月 11 日に出された緊急事態宣言は続いているのです。 1 年半たって国会に通知したのは、実は規制委員会の同意人事の本会議での採決をなんとか回避したいという理由からなのです。与党の人間がこんなことをここで説明するのも恥ずかしい話です。

同意人事というのは、国会の権限を強めて、行政をしっかりコントロールしようという意味ではいいのですが、衆参のねじれで行政の方がまさかこんなにお手上げになるとは夢にも思わなかったのです。とにかく国会は権限を強めることが大事だといって次から次へと同意人事を増やしたのです。同意人事というのは衆参の優劣がないのです。法案の場合は、衆議院が可決して参議院が否決しても、衆議院が 2/3 以上で再議決すれば成立しますし、条約や予算だったらその 2/3 もいらないのですが、同意人事の場合は衆参ともに通らなければいけないのです。以前は衆議院の同意だけでよろしいという人事もあったのですが、それがだんだんなくなって、今はすべて衆参の同意が必要になっています。また、任期が切れた時に次の人事が決まらなければ前の人が続けてやるという任期継続の規定がある場合もあるのですが、そのような規定がない場合もたくさんあって、今同意人事で困っています。さらに困ったことには、その同意人事の同意権をもっと強めようと、私が議長の時で、言いにくいのですが、当時の西岡議院運営委員長が、「国会が人選について話を聞く前にマスコミに出るのはけしからん。そんなものは受け付けない。まず衆参同時に提案を受け、それから新聞が書くなら書け」というルールを作って、衆参ともに動きだしたのです。ルールどおりやってみても、そうはいっても、新聞社は一生懸命取材します。新聞社に嗅ぎつけられるのは絶対にダメといったら、打診なんかできなくなるわけです。人事というものは、普通は、与野党、主要な人たちに根まわしというか、相談して、こういう人ですがよろしくと挨拶にまわったりします。そのようなことをすると必ず漏れるからそういうこともできないし、同意人事で今困っているのです。

国会は、そのようにいろいろ困り事がありますが、困った事態が起きるというのはそのこと自体が悪いわけでないので、それをどうやって知恵を出しながら解決していくのが大切です。そういう知恵を発揮しようという気持ちがなくて、とにかく臍が曲がったら意地でも臍を元へ戻さない、ねじれがこじれになってこじれきってしまうというのはあまりいいことではありません。いろいろな問題が起きるのは人間が作った制度が完璧なはずはないからであり、新しい事態に新しいことを考えていくのは当然なのです。

 

【列国議会同盟】

ところで、国会を超えた国会というものがありまして、国連もその一つですが、つい先日カナダのケベックにいってきました。皆さん、列国議会同盟というのを聞いたことありますか。列国議会同盟( IPU = Inter-Parliamentary Union )は主権国家の議会の代表を結集する国際機関であり、平和と諸国民間の協力推進を図り、代議制諸制度の確立に資するため、 1889 年明治 22 年にできました。日本で議会ができたのが明治 23 年なので、日本で議会ができるより1年前に、既に世界の議会のリーダーの皆さんが集まっていろいろ議論する場を作ろうといってスタートさせたのです。イギリスとフランスの国会議員がいろいろ提唱して、第一回は 9 国、 96 名の参加により、パリで開かれました。ちょうど普仏戦争の頃で戦争が続いたのですが、議会が政府の立場とは別の角度でいろいろ議論をしようとこのような会議を作ったのは偉いものだと思います。今回は 127 回目の会合であり、現在の加盟国・地域は 162 、準加盟国際議会は 10 となっています。地域にはたぶん台湾が入っているのだと思います。日本は中華民国(台湾)を国として認めておらず、中華人民共和国の中の一地域としています。国際議会には EU などが含まれると思います。

10 月 20 日に日本を発って、滞在 9 日間で 28 日に帰国しました。時差が 13 時間あり、成田を発って現地に着いたら、発った時間より少し前に着きました。帰る時がまた大変で、丸一日なくなった感じがするのです。

会議では、最初に評議員会があり、主要なメンバーが集まって、今回の会議をどのように運営するか話し合うのですが、私は評議員になって、最初に手を挙げ、今回の議長にカナダのオリバー氏を推薦しますと言いました。実は前もってカナダ側から日本に対し、議長にオリバーさんを推薦してもらえないかという打診があったのです。カナダとしては、オリバー氏は黒人だがカナダという白人の国として、非白人の国で、有力国である日本が推薦してくれるのが一番良いと考えたのだと思います。

列国議会同盟会議は条約でできているものではなく、最初は自然発生的に集まってスタートし、そのうちだんだん広がって、それぞれの議会で参加しようと何かの意思決定をして集まっているのです。国連の場合は国連憲章という一種条約的なものがあるのですが、列国議会同盟はそうではありません。いろいろな決議をしますが、それに従わなかったら制裁するという権限まではありません。来るものは拒まずで、議会という形で民主主義の政治を動かそうとするものはどうぞ集まってきてくださいとしています。但し、会費は必要で、日本は一番高い全体の 11 〜 12 %払っています。実はアメリカはずっと入っていたのですが、今は辞めています。全部の国が同じ権限で議論に参加するので、アメリカの思い通りにならないこともあり、ユネスコ同様に飛び出してしまったのです。アメリカも、おおらかに小さい国のことを勧化ながら、よく考えながら皆の合意を取り付けて国際社会を動かしていくという、寛容と忍耐が大切ではないかと思います。その他にも今回参加していない国があります。シリアは一部の人にしかビザがおりず、参加できなかった人がいたようです。

本会議ではいろいろな議題を採択していくわけですが、この議長が私が推薦したカナダのオリバーさんになるわけです。私も本会議で演説をしましたが、その英語の発言原稿をお配りしました。最初 6 分間と言われてそれでもだいぶ英語の文章を削ったのですが、発言の朝になって、議長から時間がありませんので 5 分にして下さいと言われ、さらに削りました。発言内容については、英語だからということもあり、結構思い切ったことを言っています。「主権国家の絶対性というのはそろそろおかしくなってきている。主権国家の相対化を提起したり、国際機関で人権を保障していくことがずいぶん進んで、それぞれの主権国家も尊重しなければいけなくなっている。多様性というのは、国の中でそれぞれの個人が自分の判断で自分の幸福を追求していく権利があるということであり、日本の憲法の幸福追求権とはそういうものなのです。もちろん、私は人を殺すのが幸福だなどということはいけません。私はお金をいっぱい儲けるのではなくて、貧乏でも田舎に住んでという幸福感を持つことも自由です。ですから、それぞれの判断に従って選ぶ自由を、国際社会の中でもそれぞれの国が自分の国内の政治においても保障しなければいけない」というようなことを話しました。それは反対だという国もあるはずですが、国際社会でそれぞれの主権国家の多様性は認められるべきであり、内政の中でのそれぞれの個人の多様性を認めなければならないというのが私の主張です。

本会議が結構生きた本会議で、最初に緊急追加議題というのが出てきました。シリア、アラブ首長国連邦、マリ(アフリカ)、英国から4つの議題が出たのですが、そのうち一つしか扱わないとされました。結果はどれも譲らないため、最後は採決になりました。採決は、1ケ国ずつ聞いていくのですが、国によって持ち点が違い、一番小さい国は 10 点、日本は 22 点など、分担金や人口などで決まっており、分割しての投票も認められています。日本はシリア、アラブ、マリについては棄権、英国について 22 点すべてを賛成に投票しました。私は英国の提案が通ると思ったのですが、外れてマリの提案が通り、議題として追加され、最終的にはマリの提案は全会一致で採択されました。

そのような生きた国際会議をやっていますが、特に面白かった一つにケベックシティー宣言の採択がありました。この宣言の中には、今回のテーマである多様性や市民権を大事にしていこう、グローバル化した世界における市民権、アイデンテティー、言語文化の多様性を大切にしよう、そのためにはこういうことが大切ですなど、全部で 15 項目の宣言が全会一致で採択しました。

それからこれも面白いですが、ジェンダーのことを十分意識した議会をつくるための行動計画も全会一致で採択されました。日本における女性の参加率は百何番目だったか最近発表されましたが、やはり国際社会の中ではこれではいかんと痛感します。その他にもパネルディスカッションがいろいろあって、平和と安全保障に関するパネル、持続可能な開発、金融・貿易に関するパネル、民主主義及び人権に関するパネルなど、それぞれ日本からの参加者も発言をしました。私は、ソーシャルメディアに関するパネルにパネリストで参加し、ソーシャルメディアは議会にとって非常に有利なツールになるが、気をつけないとソーシャルメディアのリテラシーもずいぶんあるし、ソーシャルメディアの中での議論と一般の民意が必ずしも一致しておらず、むしろ外れる場合が多いとの発言をしました。

このような国際会議は結構これまでもありました。例えば、東チモールという国は今年独立 10 周年ですが、この国は元々ポルトガルの植民地で、ポルトガルが手を放して独立をといった途端に、インドネシアが攻めて 1975 年併合してしまいました。 25 年間にわたり独立闘争をやって、最後独立して今 10 年なのですが、列国議会同盟会議( IPU )はその東チモールの民族自決権の行使を支持するなど、今までもいろいろなことをやっています。そのようなことをやってそれでどうしたと思われるかもしれません。確かに参議院の問責決議より弱いかもしれませんが、国際社会の一つの流れですから、こういうところで日本はもっと積極的に行動して国際社会や世論をリードしていくような活動を議会人としてやっていかなければいけないと思います。しかし、議員の海外への公式派遣について、参議院では IPU に限らず、それぞれの会派の中に順番があって、民主党では持ち点制が採られており、あなたは持ち点がないからダメですとか、あなたはだいぶたまっているからそろそろ行ってくださいとか、そのような扱いをされていた面もあるのです。

今日は IPU のことまで話しましたので、来週は二院制、選挙制度の話に入っていきます。

 


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