1977年 社会市民連合結成に向けて

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一九七七年四月の提案=政策大綱(要旨)


   新しい型の政治集団をめざして

 社会市民連合の出発
 社会市民連合は、一方における自由民主党政権の腐敗と統括能力の低下、他方における既成革新政党主流の硬直性・保守性・非現実性によって生じている政治的空白と方向喪失を克服するため、自発性・自律性を基本とする新しい型の政治集団として出発する。

 社会市民連合は、さしあたり これまで革新勢力内部の革新派としてその改革のためにたたかってきた自由派の社会主義者たちと、革新勢力のイデオロギー的・組織的硬直のために政治参加を阻害されてきた新しい市民的運動の担い手たちとが合流することによって生みだされ、その他さまざまな社会運動とのあいだに対等な連携と協力の関係を築くことを志向し、またもっと広汎に、改革を求めながら政治の現状に失望してきたすべての意識ある人々の支持を求める。


   連合・連立の時代のリーダーシップ

 統計・要求から体系的政策へ
 社会市民連合は、政治の流動化と再編成が不可避になっている転換の時代にあって、革新勢力内部で進行している多様な改革的運動と合流することを予想し、その新しい統一された改革派の政策の準備のために中心的役割をすすんで担う。

 また、社会市民連合は、先進社会の不可避的傾向となりつつある政治的連合と連立政権による統治の時代に、改革をめざす政策の質による政治のリーダーシップの確立をめざす。

 このため、社会市民連合は、一面では、現体制につきつけられている国民の不満と抗議、要求と主張から出発する。

 しかし、他面では、不満と抗議、要求と主張のたんなる集積がそのままでは政策たりえないことを理解し、困難な諸問題の錯綜した相互依存性を十分に考慮し、体制を効果的につくりかえていく体系的な政策を提起することが必要であると考える。


   省エネルギーと環境保全の優先 

 経済成長の制御のために
 高度経済成長が必要とされ、また許容される時代はすでに終っている。成長の加速ではなくて、成長の制御がこれからの基本的な課題である。

 しかし、これまで自民党政権のもとで試みられたようなその場しのぎの成長抑制政策は、問題の解決にならず、不況の深化と失業の増大を招き、国民に不必要な犠牲を強いるものとなる。

 経済成長をめぐる革新的政策の基本戦略は、政策体系を変え、経済に内在する機構の働きそのものを変えることによって、成長の減速と生活の安定化とを同時に相互促進的に現実化することでなければならない。エネルギーをはじめとする資源政策もこの戦略に関連づけて再編成されねばならない。

 成長の必要に迫られ、大きな危険をおかして開発を急ぐのでなく、省エネルギーと環境保全を優先させて成長政策を再検討し、さらには文明の型と生活の質を再構成する必要がある。


   人間的連帯による差別なき社会を

 福祉社会への課題
 日本の国民の多数が望んでいるものは、自由放任の市場経済でも、また、すべてを政府の統制のもとにおく集権主義の計画経済でもなく、個人の自由を保障するという原則を土台としつつ、適切な社会制御と公正を実現する諸制度を確立することである。

 一方では、ナショナル・ミニマムとシビル・ミニマムの確立のための公共部門の活動の強化が必要だが、他方では、これまでのような政府のゆきすぎた介入や、効果のはっきりしない総花的な財政膨張を排除する必要がある。

 「福祉」はたんに政府だけによって担われるべきものでなく、公正で、差別のない社会をつくることが国民の共同の目標とされなければならない。

 この観点から、社会的行動のルールをつくりかえること、社会保障制度の統合をはかること、あらゆる差別をなくすこと、医療保健事業や社会福祉事業などの改善・拡充をはかることが重要である。


   集権的行政財政の解体を

 分権と自立の確立のために
 当面の重要な課題の一つは、政治・行政および財政における分権化である。これは、民主主義と自由を根付かせ、成長の制御と福祉社会を実現する前提である。

 明治百年、戦後三十年の行政優位・中央集権の体制を改め、議会の機能の強化と分権的な政治・行政システムの確立が必要である。

 このため、中央政府の行政上の権限と官僚機構の人員の大幅な縮小をはかり、自治体の権限および財源の自立化を実現しなければならない。

 このような分権化を基礎として、それぞれの地方における自治体もしくは自治体連合の政策の選択が、市民参加によって自律的におこなわれるようにし、それらが地方政府として機能しうる条件をつくらなければならない。


   自由な市民の自発的行動の尊重

 市民的諸権利の保障と参加
 社会市民連合は、国民の多様な自発的行動を重視し、そのためにも、市民的な諸権利の完全な保障の必要を強調する。社会市民連合は、社会主義運動や労働運動が担ってきた労働基本権の主張を継承し、重視する。

 しかし、同時に、国民の生活の他の諸側面にかかわる諸権利、たとえば住民として安全・快適な環境を享受する権利、消費者として情報を入手し、独占価格や欠陥商品から守られる権利、マス・コミに発言の場を与えられる権利などの保障の重要性を強調する。

 また、社会市民連合は、市民の活動を公正の実現のために活用しうるように司法・行政・立法の機能を改善し、また関係者や有識者の諸集団が有効に政策過程に参加できるようにする必要のあることを強調する。


   学歴中心の階層社会の打破

 教育面の改革
 現代の教育問題、とくに教育の本来的機能を破壊している受験戦争の問題は、一面では、機会均等の思想の定着と所得水準の上昇を背景としているが、他面では、職業の社会的地位の位階層制によって生じており、日本固有の中央集権制や東京大学への予算集中などによってそれが加重されている。

 したがって、教育改革の成功のためには、そうした職業の位階層制を打破することが不可欠の前提である。

 同時に、教育制度の面でも、予算の東京大学への過度の集中を排除すること、公共機関の介入を減らし各機関の創意と試行を可能にすること、教育行政を分権化し、教育委員会の公選制を復活すること、大学の多くを自治体に移管し、社会教育や生涯教育と結合すること、社会福祉などの人材養成のための傾斜的な予算を組むこと、雇用面の学歴その他による差別をなくすことなどが必要である。


   都市問題への挑戦

 人間的な都市づくりを
 ゆきすぎた成長と都市膨張の結果として生じた混乱と犠牲を克服することは、今後の長期にわたる課題である。

 社会市民連合は、第一に、今日の巨大都市問題を解決するためには、権力と情報の過度集中を排除することが先決であることを強調する。

 第二に、集積の利益と効率の追求の優先を改め、都市住民の人間的要求の充足を主眼とする新しい都市計画を先行させなければならない。

 第三に、巨大都市化にともなう都市行政の肥大化と遊離を克服し、最適規模の有効な政治、行政単位の自律化と市民参加を推進する必要がある。

 そして第四に、各地域の機能的中心となる個性ある美しい都市の建設を、地域的・国民的目標とすることを提唱する。


   新しい文明モデルの創造へ

 産業主義の克服
 社会市民連合は、当面の個々の具体的な政策のなかに、人間性にとっての脅威の根源となっている資本主義と産業主義の克服への手がかりを追求する。

 資本主義的企業は、一面では、社会の設定する新しいルールに従わせることによって、他面では、内部のシステムを改革し、労働者の有効な参加と住民・消費者などによるコントロールを実現することによって、生産のための自律的共同体へと転換されなければならない。

 しかし、商業主義による文化の侵蝕に対抗しようとして文化にたいする政府の統制を強めることには、社会市民連合は反対である。

 表現の自由の完全な保障を前提する人間性の開花への多様な試行が求められるべきである。

 社会市民連合は、産業社会における人間の自己疎外と人間自身の手段化からの解放を、自由な多元的共同社会への発展の努力によって実現することを指向する。


   国民的目標と国際協力をめざして

 外交政策の選択
 社会市民連合は、現実の外交政策にあっても、国民の希求している平和・人権および自由、公正といった目標と理念を追求する必要のあることを強調する。

 平和憲法と最初の核被爆国の体験にもとついて、等距離・中立・友好の外交と核軍縮の実現に努力するのは、日本外交の大きな課題である。

 極東の唯一の先進産業社会として、内政において、自由と民主主義の原則を前提しつつ、新しい諸問題の解決に成功し、独自の体制選択を実現することが、日本の威信と自立の基礎をなす。

 同時に、国際的に影響力ある経済大国の責任として発展の持続性・安定性に留意し、またいわゆる南北問題にたいして積極的に対応することが必要である。

 さらに、資源の保全と最適利用のために新しい国際管理の機構をつくりあげていく努力をしなければならない。


   政策形成の新しい方法を

 この提案の役割
 社会市民連合は、新しい一連の政策の必要性だけでなく、政策形成の新しい方法の必要性を強調する。

 以上に述べた政策も、これまでの政党の公約や政策要綱と同じものではない。これは、この運動に関心のあるすべての人々のために、討論の素材として提出される第一次の提案である。

 これに刺激されて、それぞれの領域にかかわりのある多数の人々あるいは組織からの多様な政策上の提案が用意され、政治の場においてそれらを具体化していく手がかりがあきらかにされていくことが期待されている。


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