1979年1月14日 |
一九七九年度政治方針
書記長 楢 崎 弥之助
一九七九年、まさに八〇年代への扉の前に立った年である。国の内外にわたって不透明な混迷と模索が今年もまた続くであろう。そしてそこから生じる未来への不確実性が人々の不安をさらにかきたてている。
このような乱気流の中の内外情勢に対し、政治はどんな対応を迫られるであろうか。
一、アジア情勢と日本外交(略)
二、現政局に対するわれわれの認識と方針
昨年十一月の自民党総裁選挙ほど、野党不在を印象づけた政治的できごとはかつてなかった。
野党の無気力がこのままつづくならば、もはや野党の存在理由はない。現に自民党の中の各派閥が、それぞれ時に応じて与党、野党の任務を分かち合い、一種の政党連合の様相をもって、自民党一党だけで政局を動かしているといっても過言ではないのである。
最近の政党支持率に関する各種世論調査の結果もそのことを裏づけている。自民党の復調、支持率増加と政治(政党)不信層、無関心層の拡大傾向が一貫して現れているが、この現象をわれわれはどのように受けとめるべきか。一にかかって野党の未成熟と無気力が保守回帰を促しているとみるべきであろう。
これはまた五五年体制への逆流を意味する。
「とにかく一刻も早く自民党一党支配の政権だけは終わらせる」ために、なぜ野党は結集しえないのか。これが国民の率直な声ではないのか。
いまや現代資本主義体制内における連合政権の経験を経ずしては、いかなる未来をも語れないという新しい時代の認識と展望について、われわれはいま一度その責任を明らかにしなければならない。
われわれは新しい政治連合を実現させるための政治勢力の結集をめざして、その起爆剤ともなる、牽引車ともなる覚悟をあらためて確認しようではないか。その意味で、昨年三月二十六日結党大会で明らかにしたわれわれの政治方針――社・社・公・民プラスアルファの新革新・中道路線を今年も継承し、さらに具体化するため全力を傾注したい。
具体化の一つは、昨年提唱した院内統一交渉団体結成への努力である。議会内(国会、地方議会)共闘から統一交渉団体への発展は、連合の政治力学に不可欠のステップである。その際重要なことは、交渉団体結成に参加する各党は、最終的な自主性と独自性が留保されるということでなければならない。
例えば、案件に対し、最大限の一致を求めてそれぞれ努力することは当然であるが、もしどうしても一致できないときは、賛否が分かれてもやむをえないという自主性を尊重し合うことが条件となろう。議会内統一交渉団体が、政党の合同、合体でなく、連合の初歩的形態である以上、それが許容されなくては、統一交渉団体の結成そのものが、現時点では困難であると判断されるからである。
1 いわゆる・中道ブロックについて
われわれはいまだかつて、みずからを中道と名のったことはない。われわれの立場はまぎれもなく、デモクラティック・レフトである。しかし忍耐強く日々漸進的な改革を積みあげて民主的多数派を形成してゆく路線をもし中道と呼ぶのであれば、われわれはまぎれもなく中道である。あえていえば新革新中道であろう。
われわれが新自由クラブを含めた公明・民社と四党会談をなぜ積み重ねているのか。それは三・二六決定の「連合の原則」にたって将来を展望しているからにほかならない。
一言でいえば「五五年体制打破」のためである。そのためには、新自クの自民党回帰、および中道全体の右シフトをどうしても防がなくてはならない。いうならば、中道ブロックにおける左シフトの役目を社民連は当面の目標にし、社会党がいまの体たらくである限り、中道四党の結束を今後ともますます強化して、社会党を引きこまなくてはならない。本来なら野党第一党の社会党が果たすべき役割を、いまわれわれが微力ながらも一所懸命苦労をし、試行錯誤を重ねながら努力をしているのである。
ただわれわれが自戒していることは、中道といわれる各党が余りにも無原則に「分かりのよさ」や現実妥協を図るならば、結果として保守側の術中に取りこまれるということである。
いま一つ、各党が己れだけを目立たさせようとして功名を競うならば、その間隙をぬって魔の手がさしのべられ、全体として右シフトに巻きこまれる危険性が常につきまとうことを忘れてはならない。
われわれ社民連は、このような政治変動期の中で、変化に対応しつつ、変化をさらに促進する媒体として生まれたのである。それゆえにわれわれは、すでに機能を失った五五年体制の崩壊を意識的、積極的に早め、それに代わる新しい政治勢力結集の主役を、捨て石になる決意で果たさなければならない。
それこそが新革新の立場にたつわれわれの任務である。
2 大平政権に対して
大平正芳氏が自民党総裁予備選挙で、大方の予想を完全に覆して逆転大勝した事実は、選挙の力学や技術をはるかに超えた自民党員なりの危機感が流れを変えたとみるべきであろう。つまりそれは、自民党の枠内におけるリベラルとネオ・ファシズムの思考上の、手法上の争いに対する自民党員なりの回答でもあった。
しかし、現実では大平内閣は大きな矛盾を内包しながら出立している。その矛盾とは、総裁選で大平勝利の大きな支柱となってくれた田中軍団の「角影」からくる矛盾、さらに思考上、手法上では明らかに背反している福田派の「福影」を、党の安定運営の面では無視できないという矛盾が、常につきまとわざるをえない宿命を大平内閣は背負っている。このウィークポイントをわれわれは鋭く衝いて自民党の矛盾を拡大させ、内部矛盾を敵対矛盾にまで誘導発展させたとき、はじめて政局転換の転機をつかむことができる。
その起爆剤こそ、ダグラス、グラマンの不正支払い事件の徹底究明である。今度の事件は保守本流の最上層部をまきこんだ自民党の構造的疑獄体質を国民の前に余すところなく露呈しきった点、および民間機ではなく政府採用導入の軍用機である点で、その政治責任はロッキード事件の比ではない。この事件の進展如何は、現政局を根底からゆるがす大きな台風の目となるであろう。
われわれは大平内閣に対していささかの幻想も抱かない。今後ともきびしい監視と批判を怠ってはならない。
三、第八六回通常国会対策
1 五四年度予算政府案について
八〇年代にむけて日本経済が発展するための障壁となる諸問題が、この年に集中することになった。国際収支のアンバランス、国内財政収支のアンバランス、デフレギャップ、求人・求職のアンバランス、好・不況業種のアンバランスなど様々のアンバランス解決の糸口が、果たして五四年度予算案に見出せるであろうか。
この点、本年度予算は補助金の整理、地方財政、福祉の拡充等、安定成長、福祉型経済へと財政構造の根本的転換がはかられなければならないのに、政府案は依然として高度成長期型の財政構造から抜け出していない。このためその掲げる「景気」「財政再建」の二本柱のいずれも中途半端に終わっている。
第一に、ムダな補助金を整理し、地方への財源配分、分権と自治の徹底によって、行財政構造の根本的転換がはかられなければならないのに、これらの施策は放置されたままである。逆に地方交付金ののびはとまり、当面の地方財政危機にも対応していない。
第二に、問題の医師優遇税の改正は骨抜きとなり、その他の不公正税制の是正もほとんど手がつけられていない。したがって、国民の税負担の不公正感をぬぐうことはとうていできず、財政再建へのスタートもきれない。
第三に、公共投資は地方自治体主導型の生活環境整備にふり向けるべきなのに、依然として高成長期と同じ中央主導型であり、効果もうすく、ひずみを招くだけである。同じく潜在市場である住宅建設についても、都市計画、土地政策を欠いたままの個人住宅への公庫融資だけでは、住宅の行き詰まりを解決できない。
第四に、いまこそ社会保障、福祉の長期計画の下に、無拠出老齢年金等の遅れている部分の引き上げや諸制度の統合に着手すべきなのに、この点でも政府案は足ぶみしており、国民の将来への確信の回復をはかることはできない。
第五に、本年度予算の重点目標である雇用不安の解消について、多少の努力は認められるが、政府の雇用政策は依然、小手先だけで、低成長時代に必要とされる積極的な雇用創造政策が欠けている。不況産業、不況地域、中高年層重点の雇用政策を進めるとともに、この際何らかの雇用創造機構を設ける必要がある。
第六に、公共料金の値上げと増税が自立ち、国民の負担を一層重いものにしている。
第七に、公共料金の値上げと国債大量発行によるインフレの危険防止のために、国債発行条件、金融市場等の環境整備を早急に行わなければならないのに、その措置がとられていない。
第八に、政府の予算編成は依然として密室型であり、予算に関連する情報を公開し、予算編成過程における国民参加の機会をつくるとともに、国会審議も十分な討論ができるよう、時間的その他の措置を講ずべきである。
最後に、防衛庁予算の中に疑惑のグラマンE2Cホークアイ早期警戒機四機の導入予算を計上したことは絶対に許されない。
以上の見解にたち、社民連は五四年度政府予算案に対し、予算修正を含めて次の諸項目を要求する。
(a)補助金の大幅削減等、行財政構造の根本的転換をはかる。
(b)医師優遇税をはじめ、不公正是正を徹底する。
(c)財源、権限を地方に移譲し、地方自治体主導型の生活環境投資を行う。
(d)格差是正、制度の統合等、社会保障の制度的改革に着手する。
(e)不況構造業種、不況地域の中高年層雇用に重点をおいて雇用政策を進め、同時に何らかの雇用創造機構を創設する。
(f)国債依存度の縮小をはかるとともに、国債消化の環境整備を早急に行い、インフレ防止につとめる。
(g)グラマンE2Cホークアイ早期警戒機の導入を中止し、その予算を削減する。
(h)予算編成過程における国民参加の機会をつくる。
2 ダグラス、グラマン不正支払い事件の徹底究明
米SECの公表による事件の報道が行われるや直ちに社民連は行動をおこし、他党に先がけて三井物産、日商岩井に対する調査を開始した。われわれには他党に優る調査の蓄積がある。独自の調査活動により、本事件の徹底究明を、予算闘争とともに今国会の最大目標として取り組む。
国会に対しては、ロッキード特別委員会を拡大した各党委員で構成する新調査特別委員会の設置を要求する。この新特別委員会は調査室を強化し、各種の不正問題を調査しうる強力な権能をもつとともに、再発防止に関する措置を行う権限をもつ委員会にする。
四、統一地方選挙
社民連結成後はじめて迎える政治決戦として、党の命運をかける。公認候補は少数精鋭とし、全員当選を期して闘う。 この際特に注意を喚起したいのは、首長選挙に対する地方社民連の対応である。
最近行われた首長選挙において、遺憾ながら地方社民連と中央本部との間で意見の調整ができず、不統一な印象を対外的に与えるケースがおこった。
統一地方選挙では東京、大阪の二大決戦を含む十五の知事選から、最末端の町村長選が一斉に行われる。首長推せんの基準については、新革新・中道路線の上にたち、具体的には明らかに自民党の候補とみられるものは推せんの対象としないという原則を、社民連はすでに確認しているところである。ただ実際には、中道四党がまとまっている場合は問題ないのであるが、割れている場合に混乱がおこる。その際は原則にたちかえって対応するように努力し、まとまらない場合や、推せんに適合する候補がない場合は、自主投票とすることがのぞましい。
統一地方選挙スローガン
○地方自治は政治の原点
住民参加で “お役所政治” から “市民の政治” へ!
○新しい町 (コミュニティ) づくりをめざして
地域に医療・福祉センターを!
○環境を守る政治は自治体から!
国に先がけて「環境アセスメント条例」の制定を!
○市民のルールは教育から!
住民参加で心の通い合う教育を!
○良識で選択を! 参加で創造を!
良識を大切にする社民連