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2015年、日本復活ビジョン

岡田 克也


目 次
 はじめに
1.本当の民主主義国家日本を創る
2.自由で公正な社会を実現する
3.持続可能な社会保障制度を確立する
4.効率的で満足度の高い地域社会を実現する
5.日本経済の活力を最大化する
6.財政の建て直しに道筋をつける
7.世界に最も貢献する日本外交を創造する

はじめに

 私は7月の参議院選挙において、民主党の政権公約(マニフェスト)を発表しました。参議院選挙から一ヶ月でこの政策を大きく変えることは必要ないと考えています。私自身、政調会長代理、政調会長そして代表として民主党の政策に深くかかわってきました。現在の民主党の政策に対して大きな責任を負う立場です。現在の民主党の政策は官僚にたよらず議員間での議論の真剣な積み重ねによってできたもので、内容的にもすぐれたものであると確信しています。

 ただし、マニフェストが具体論・各論に力を入れた結果、全体像がわかりにくいとの批判があります。民主党の目指す社会の将来方向が見えないとの声もあります。

 そこで、いままでの議論の蓄積を生かしつつ、将来のあるべき姿をまず示した上で、いま何をなすべきかを提案するという作業が必要と考え、今回代表選挙出馬にあたり、10年後のあるべき日本の姿を示す「日本復活ビジョン」を示すこととしました。近い将来、民主党政権が誕生し、衆議院選挙でいうと2期8年の政策効果が見込める期間という意味で10年としたものです。このビジョンは党内におけるいままでの議論を踏まえたものですが、必ずしもそれにこだわることなく、私の主張も盛り込んだものです。私が代表となった場合にはこの「ビジョン」をもとに、更に議論を深めるための「日本復活ビジョン検討委員会」を設置し、多様な有識者を交えて大いに議論したいと考えています。いわば次の総選挙にあたっての党の新しいマニフェストの前提となるビジョンです。

 このビジョン実現のためには、憲法改正を必要とする部分があります。成熟した民主主義国家だからこそ、必要に応じて憲法改正することは当然です。今後、党の憲法調査会中間報告をたたき台に、党内論議を深めたいと考えています。

 私は今回の参議院選挙で年金改革に関し、あえて3%年金消費税の導入や、少子高齢化の中で一定程度の負担増・給付減は避けられないことを明確に主張しました。政治は正直でなければならないというのが私の信念です。政治家が正直に語ることで問題の本質が国民に理解され議論が深まります。国民にはそれを受け止めるだけの覚悟と賢明さがあります。このビジョン作成にあたっても、できるだけ率直に私の考えを述べることとしました。これからも国民の皆さんとともに、まっすぐにひたむきに取り組んで行く覚悟です。


1.本当の民主主義国家日本を創る

 2004年の日本は国民の多くが政治に無関心であったり、政治をあきらめています。特に若者は、政治は特別の人たちが勝手にやっていることで、自分たちとは関係がないと思い、投票にすら行きません。国民の無関心の中で、スキャンダルが繰り返され、更に政治の質が劣化し、信頼が失われています。相変わらず官僚丸投げの政治が行われ、他方、指導者は人気取りのパフォーマンスに躍起です。

 2015年の日本では国民と政治の間にしっかりとした信頼関係があります。大部分の国民は、安全で安定した生活を確保し、次の世代に対しよりよい日本を残すために、政治はとても大切なものと考えています。国民のこの信頼感があるからこそ、政治家・指導者のリーダーシップが発揮されています。国民と国政に取り組む政治家の間に信頼関係が構築されたことは、国の役割の重要さを再認識させ、いい意味での国家意識が国民の間に育ちつつあります。

 政治が信頼される理由の第一は政治家の選ばれ方です。一票の格差は選挙ごとに少なくとも2倍以内に必ず是正されます。選挙運動については、厳格な資金枠が設定された上で、そのやり方については自由化がなされ、ホームページなどを通じた選挙運動や戸別訪問による直接対話、マニフェスト配布制限撤廃などがなされ、候補者の政策や人物を身近で判断することができます。二大政党が政権をめぐって競争する中で、政党は有望な候補者の擁立に躍起になっています。18歳になれば投票権があるだけでなく、あらゆる選挙に立候補も可能です。幅広い経験を経た多様な人材が政治家を目指しています。志を持った人には誰にでも政治家になるチャンスが開かれています。女性の政治家が大幅に増え、女性総理も誕生しているかも知れません。

 政治が信頼される理由の第二は政治資金の透明性が確保されていることです。政治家や政党の政治資金は監査法人や市民によって厳しくチェックされています。政治家や政党は自らの政治資金に説明責任を果すことが求められ、政党の迂回献金などの脱法行為が許されることはあり得ません。ヤミ献金事件などが発生すれば関与した政治家は厳しく罰せられます。政治家や政党を支えるのは主として個人献金です。個人献金を行いやすくするための税制上の措置がなされています。

 政治が信頼される理由の第三は、政党や政治家が結果責任を明確にとることです。選挙の際には具体的な財源や数値目標を示したマニフェスト(政権公約)が各政党によって示されます。選挙や国会において、政治家は正直に自らの政党の政策を訴えます。国民にとって必ずしも歓迎すべきでないことも含めて率直に説明し、国民に判断の材料を示します。国民も政策本位で政党や候補者を選びます。政権党が公約を果せなかったり、大きな失敗をすれば選挙を通じて政権交代がなされます。

 国民に信頼される中で、政治が重要な役割を果たしています。国民生活に大きく影響する内政問題や国の将来を左右するような外交問題は、総理大臣が強いリーダーシップを発揮し、最終決断します。そのためにも総理官邸には主要閣僚や官民から選抜された充実したスタッフが常駐して総理を支えています。総理大臣は国民から選ばれた国のリーダーとしての重い責任を強く自覚し、任期中、間違いのない決断ができるよう、全力を挙げます。意思決定にあたっては、国民に説明責任をきちんと果します。国民との約束が果たせない時は自ら責任をとります。

 各省庁の省益や、族議員によって政策が捻じ曲がることはありません。官僚はリーダーが決断するための材料を準備すること、決定されたことを効率よく実施することが任務であって決定するのは総理や大臣です。与党の議員は大臣、副大臣、政務官などの形で政府に入り、政策決定が与党と政府に二元化することはありません。

 国会は質問の場ではなく、質の高い議論の場になっています。党首討論は年間を通して月2回必ず行われることが制度化されています。野党は次の内閣を構成し、国民に対し政府とは異なる選択肢を示しながら、堂々たる政策論争を行います。国会での議論の模様はテレビの専用チャンネルで国民誰もが見ることができます。衆議院が法律を作成したり、内閣提出の予算案や法案をチェックする役割を果し、参議院は政府の政策の事後評価や決算のチェック、行政監視を行うなど両院の明確な役割分担が実現しています。

 国会議員の数は削減され、議員年金などの特権は廃止されています。資産公開制度の強化や秘書制度の改革もなされました。他方でよりよい論議を行うための議員活動をサポートするスタッフなどは、より充実したものとなっています。

 議員を若くして引退し、民間や国際機関、大学などで活躍する人材も増えてきました。国会議員が善くも悪くも特別の存在とは見られなくなりました。


2.自由で公正な社会を実現する
 
 つい最近までは多くの日本人が自分を中間層だと考えていました。しかし、所得格差の拡大や階層分化が指摘されるようになりました.確かに正社員としての就職を希望しながらそれがかなわない若者が増えていることや、中高年の自殺、路上生活者の増加などは、日本社会に大きなひずみができつつあることを感じさせます。

 政治の最も重要な役割は個人の自由を大切にしながら、公正な社会をつくることです。私の考える自由で公正な社会とは、実質的な機会の平等が保障される社会、次の世代に責任を果す社会、中間層の厚みがある社会、多様な生き方が互いに尊重される社会、努力する人が報われる社会、そして努力しても報われなかった人にも手を差し伸べる社会です。2015年の日本では自由で公正な社会が実現しています。

 実質的な機会の平等の確保のため、最も重要なことは教育を受ける機会が平等であることです。とくに親の所得などにかかわらず、子供たちに等しく質の高い学習機会が与えられるために、公立の小中学校の役割は大切です。いじめや不登校、学級崩壊などの問題に直面して、とくに都市部では私立志向が高まっています。しかし、2015年には、公立小中学校の教育現場は大きく改善されました。小中学校教育は国から地方に権限と責任が移り、地域ぐるみでの学校運営がなされています。各地域でいろいろな試みがなされ、よりよい学校をつくろうとの競争が始まっています。30人学級が実現し、熱意ある教師のもとで充実した授業がなされています。学校長の権限強化と公募や民間人の登用、よりよい教師になるためのトレーニング、学校選択性の採用、地域社会に開かれた学校づくりなどがそれぞれの地域の判断で、当然のように実現しています。高校生、大学生などには広く奨学金制度の利用が可能になるような思い切った改革がなされ、大学以上の教育は親ではなく自分の努力と意思で選択し、負担することが当然になりました。

 一人一人がそれぞれの価値観を持ち、多様な価値観に基づく多様な生き方が互いに尊重される時代になりました。かつての会社への過度の帰属意識は薄れました。他方で個人の自立意識が高まるとともに、家族や地域社会の大切さが再認識されたり、NPO活動・地域活動が活発になりました。新しい社会参加、公共の考え方が拡がりを見せています。価値観、生き方の多様化に伴い「いい大学、いい就職」という神話もなくなり、過剰な受験戦争も過去のものとなりつつあります。

 本格的な人口減少時代を迎え、会社も人材を確保し育てることの重要さを再認識しつつあります。社会保障負担などが非正規雇用者に対しても課せられるようになるなど、国の制度を雇用形態に対し中立化するための改革がなされたため、過度の非正規雇用へのシフトはなくなりました。職業体験プログラムの充実などと相まって、若者の失業問題は大幅に解消されています。

 かつての一億総中流意識が失われつつあることの一つに、所得格差の拡大があります。経済のグローバル化に伴い、年功序列が崩れ、能力や労働の内容によって、会社の支払う給与格差が拡大することはある程度避けられない現実です。しかし、税制によってそれをある程度是正することは可能です。2015年には所得税の所得再分配機能が再評価され、行き過ぎた税率のフラット化が是正されています。

 努力する人が報われる社会は重要ですが、努力しても運悪く報われなかった人に対し、きちんと手を差し伸べる社会の実現も政治にとって大切な役割です。事業に失敗し、すべてを失って自殺する人が増えているのは2004年の悲しい現実で、これを是正するため金融機関の個人保証の禁止・制限、高利融資に対する規制の強化などの総合プログラムの実施、路上生活者を放置することなく社会復帰させるための対策強化などが実施され、2015年には自殺者の数は大幅に減り、路上生活者は姿を消しました。生活保護についても本当に必要な人々に対し、メリハリのきいた支給がなされています。身体などにハンディキャップを持ちながら、自立した生活に向けて挑戦する人々を支援する社会が実現しています。


3.持続可能な社会保障制度を確立する
 
 少子高齢社会と人口減少時代という今までにない大きな変化が現実のものとなっているにもかかわらず、その影響を最も受ける社会保障制度、とりわけ医療制度と年金制度の本格的な改革は先送りされ続けています。今世紀末の人口が現在の半分程度になることは、ほぼ確実という厳しい現実を見据える必要があります。他方で不誠実な説明やでたらめな運営実態を知らされた国民の間には、社会保障制度や、それを運営する政府に対する信頼が失われています。国民の老後の生活に対する不安感は日々高まり、他方で若者の感じる不公平感は政治不信につながっています。

 2015年における年金制度は、安定した持続可能なものになっています。まず高所得者を除く高齢者すべてが、現在の国民年金レベルの支給を受けることができる最低保障年金が導入されました。財源は消費税に必要な改革を行った年金目的消費税によってまかなわれます。消費税率は当初3%でスタートしましたが、最低保障年金の水準や、高所得者の範囲をどう設定するのかなどによって、必要な税額、即ち消費税率が決まります。年金目的消費税が他の目的に使われることはありませんので、国民から見て分かりやすく、納得のいく制度になっています。最低保障年金に加えて、所得比例年金制度が導入されています。現役時代に所得水準に応じて、支払った保険料の総額に応じて支給される年金の水準が決まります。会社員、公務員、自営業者、パートなど多様な職業や働き方がありますが、この制度はすべての人が加入し、所得が同じなら同じ保険料を支払い、同じ保険料負担なら同じ年金給付がなされます。保険料率は所得の一定割合に固定され、年金計算上の見通しが変われば年金額で調整します。保険料の徴収は納税者番号制により正確な所得を把握した上で、国税と一体的に徴収しますので、未納・未加入の問題はありません。

 これらの新しい年金制度に完全に切り替わるまでの間は、今までの年金制度との並存期間があります。したがって、いままで真面目に保険料を支払った人に対しては旧制度に基づく年金支給は引き続き行われます。

 医療制度の問題の一つは、制度の分かりにくさとそれに伴って責任の所在が明確でないことです。2015年においては、現役世代については、会社と本人負担の保険料収入と患者の自己負担によって制度運営がなされる自立的な制度が確立しています。制度の運営主体は一定規模以上の健保組合、共済組合と都道府県単位の国保組合などとし、年齢構成と所得分布の違いを透明な仕組みによる財政調整を行います。その上で、効率的な運営を行ったところは、保険料を自由に引き下げることができるなど、自己責任原則に基づく運営がなされています。患者の自己負担は高額療養費に対する軽減措置を前提としつつ3割を原則とします。 

 高齢者医療についてはすべての人に最低保障年金が支給されることを前提に高齢者から所得に応じた保険料を徴収するとともに、高額療養費に対する軽減・免除措置を前提に、所得に応じて1〜2割程度の自己負担を求めます。しかし、必要な財源の大半は税金でまかなわなければ制度は成り立ちません。社会的入院や必要以上の薬の投与など、いろいろな無駄が指摘をされ、また巨額支出が必要となる高齢者医療制度について、議会や国民のチェックが行いやすいという視点から財源は目的消費税ではなく一般財源となっています。制度運営は都道府県単位に儲けられた運営主体が行いますが、各運営主体が効率的な運用を行っているか否かが比較できるよう、基礎的数値の情報公開を行っています。

 保険者機能の強化、医療情報の電子化、カルテの開示、医療費明細書の発行義務化、中医協抜本改革、診療報酬制度改訂への国会関与など国民の立場に立った改革がなされ、効率的で質の高い医療が実現しています。

 少子化は政治が取り組むべき最大の課題です。少子高齢社会のリスクを回避するためにも、子供を生み、育てやすい環境が必要です。2015年の日本では、18歳までの子供の扶養者に対し、現在価格で平均月額4万円の子育て費用の全額がまかなえる程度の思い切った金額の子供手当てが支給されます。中央省庁の縦割りを反映した保育所と幼稚園の区別はなくなり、小学校入学前の子供に対し、地方自治体の責任と権限で認可した多様な施設に、待つことなく入所できます。学童保育についても同様です。育児休暇制度は小学校入学までの間、取得できることになり、母親だけでなく父親の育児参加と育児休暇の取得が当然と受け止められるようになっています。正社員とパート社員の合理的理由のない待遇差別は禁止され、育児期間中パート社員として働き、その後正社員に戻るなどの選択や多様な働き方が可能になり、育児と仕事の両立が実現しやすい社会になっています。以上の政策が実現された結果、出生率は人口維持水準である2.1にはまだ遠く及ばないものの、既に上昇に転じ、22世紀には人口減少が止まるのではとの期待が持てる状況になっています。


4.効率的で満足度の高い地域社会を実現する

 地方分権の必要性が唱えられながら、中央省庁は権限や財源の移譲には極めて消極的です。財政当局も三位一体改革を財政再建の手段としか見ていないと批判されています。一方で住民が選挙で選んだ知事や市町村長が霞ヶ関や族議員に陳情を繰り返すという風景は相変わらずで、全国一律の補助金などによる高コスト・不満足社会は大きな無駄を生んでいます。

 2015年の日本では、まず国と地方の役割分担が明確になっています。とくに住民に最も身近な市町村の役割が最も重要で、独自の権限と財源を持ち、自らの責任で住民サービスを行います。市町村での政策決定に住民が参加するために、現在より一歩進んだ情報公開条例や住民の直接参加を強化するための住民投票条例が制定されています。市町村でできない広域的な問題や、小さな市町村では対応できない問題は都道府県が担当します。いくつかの府県が合併し、新たな県や州が誕生しました。

 地方自治体が地域社会や、そこに住む人々、NPO、地域の中小企業などの声を聞きながら、地域の多様性・可能性を生かした行政が実現しています。地域の力を生かすことで大きな活力と参加意識が生まれます。同時に身近なところで、自らが払った税金の使い方、行政の無駄や効率性が厳しくチェックされ、住民の満足度を高めることのできない知事や市町村長は選挙によって交代させられます。今までの事業のゼロベースでの大胆な見直しや人件費のカット、アウトソーシングなど、地方自治体間の競争は加速され、効率的かつ満足度の高いサービスが実現しています。全国どこへ行っても同じ風景という時代は終わり、個性ある地域づくりがすすんでいます。地方自治体は介護保険や高齢者医療の効率的運営、質の高い学校教育の実現に仕事の重点を置くようになっています。

 どの程度の事務が地方に委ねられるべきかについては、まず市町村が行うべき事務を決定し、市町村ができないことを都道府県が、都道府県ができないことを国が、という原則に基づいて行うべきことであって、その逆ではありません。また市町村は多様ですから、一定範囲の事務については、例えば人口30万人程度以上の市には任せるが、それ以下の市町村ではその事務を県が行うようなことも行われています。

 以上を実現するための前提として、地方が担うべき事務については、地方が全責任を負うことになっています。そして、その責任に見合った税源が移譲され、それに伴って国庫補助負担金を廃止することが政治のリーダーシップによって実現しています。権限と税源・財源の地方移譲に伴って、いままで補助金配分業務などを行っていた国家公務員が、都道府県や市町村に移りました。補助金の地元優先配分を最も大切な仕事と考えてきた古いタイプの国会議員の中では引退・転職が相次ぎました。

 ただし、過疎地域など自己努力によっては補うことのできない地方自治体に対する地方交付税による財政調整を一定の範囲で行うことは必要です。人口や面積などの客観的指標に基づいて透明なルールでの調整がなされています。その際、事務の効率化による歳出削減や企業誘置による歳入増など、頑張った自治体の努力が報われるように、過度の財政調整は避けられなければなりません。即ちある程度の自治体間格差は認めるとの前提で実施されなければなりません。


5.日本経済の活力を最大化する

 今までの日本は官による様々な市場介入が民間の自由な競争を妨げてきました。規制の強い業界ほど高コスト構造が温存され、かつ世界的な競争力を持つ企業は育ちませんでした。しかし、経済のグローバル化の影響は国内市場にも及んでおり、生産性の低い国内需要向け産業と国際競争力ある産業の二重構造は、いま急激に変わりつつあります。

 2015年の日本は本格的な人口減少時代に入りました。生産性を高めない限り経済はマイナス成長となり、縮小均衡型の活力の失われた魅力のない日本になってしまいます。右肩上がりの経済の時代は明らかに終わりましたが、新陳代謝を活発に行う流動性のある経済の維持は重要です。自由な市場における競争こそが生産性を高めることができます。2015年の日本では経済の分野では市場原理がより貫徹され、政府は独禁法の強化や経済的規制の撤廃、官製談合の徹底排除など競争促進政策に専念しています。資金のない若者に対する起業の支援、外国資本の誘置なども活発となり、日本経済は活力を取り戻しました。高齢化や子育て支援、環境などの新たな分野での新規企業が次々と誕生しています。地方においても特色のある中小企業・地場産業が成長しています。30代、40代の若い経営者や女性経営者の活躍が目立つようになりました。アセアン、中国などには日本企業と競合する企業も増えましたが、基本的には相互補完関係が成立し、自由貿易協定(FTA) 締結も進み、成長するアジアマーケットの中で、日本経済も大きなプラスを得ています。

 持続可能な経済を実現するために環境・エネルギー問題への取り組みが必要です。市場メカニズムを生かしてこれらの問題に有効に対応する手段として、環境税(炭素税) が創設されています。税収の一部は風力・太陽光などの再生可能エネルギーの普及促進やエネルギー技術開発に投入されます。またこれらの問題への対応は日本だけでは意味がありません。成長するアジア経済全体の取り組みが必要です。日本・中国・韓国・アセアンなどが歩調を合わせた環境・省エネルギー対策、そして石油危機時におけるアジア版緊急石油融通システムなどの枠組み作りが実現しています。

 森林の水害防止対策や地球温暖化防止対策などに着目した緑のダム事業が本格化し、10万人を超える雇用を生むとともに、植林から自然林への回帰など、森林再生により美しい国土を取り戻しつつあります。

 農業活性化も大きな課題です。補助金と価格支持政策をやめ、米・麦・大豆などの基幹的作物への直接支払い制度が定着し、意欲ある担い手が自信を持って農業に取り組んでいます。従来の農業従事者に加えて農業をやりたい若者や定年退職者、株主会社やNPOなど多様な担い手が日本農業を支えています。農業従事者間に消費者を意識した競争がはじまり、食の安全という消費者ニーズに応えた農産物の生産が効率的になされています。農産物のブランド化が進み、一部は海外においても人気を得ています。これらの結果、食料自給率は50%へと向上しています。


6.財政の建て直しに道筋をつける

 2004年の日本の長期債務残高は720兆円に達し、対GDP比144%という水準は世界の中で突出して高い水準にあります。経済の低迷による税収減に加えて、歳出の重点化・効率化は極めて中途半端に終わり、そこに政治のリーダーシップは見られません。無責任な負担の先送りは若者の夢を奪い、加えて、増え続ける公債の発行は金利上昇をもたらし、日本経済の大きな制約となることが懸念されています。

 2015年、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化が定着し、ようやく財政再建の足がかりを得ることができました。2004年に約19兆円あったプライマリー赤字が黒字化するためには、国民の理解と政治の強いリーダーシップが必要でした。

 財政建て直しの中心となったのは、歳出の徹底した見直しです。まず公共事業予算が他の先進国並みの水準にまで、即ち現在の対GDP比5%から2%台まで削減されました。道路や新幹線などの地方の根強い要望に対し、次世代への責任と日本経済の持続可能性を前面に揚げて、政治家が説得したことが実を結びました。人件費の削減も困難を乗り越えて達成されました。独立行政法人化された職員の給与はそれぞれ独立採算によって支出されることになりました。公務員にはILO勧告に沿った労働基本権が付与されることが実現しましたが、これに伴い人事院勧告の硬直性が緩和され、より民間の実態に沿った給与水準となりました。仕事の効率化やアウトソーシングもなされ、定員削減も大幅にすすんでいます。国や地方政府がなすべきことが厳しく限定され、いままで官が行ってきた事業の廃止や民間への移管が大胆になされました。

 2015年の一般歳出の中で、いまや7割以上を占めるのが社会保障関係費です。少子高齢化に伴い毎年増加するのは避けられません。制度改革によって年金は保険料と年金目的税によって、また現役世代の医療も保険料によって賄うことになりました。これらはいわば独立採算です。従って支出増の中心は高齢者医療と介護です。いずれも運営の主体は地方であり、負担の一部が住民税など地方税で賄われることで、住民注視の中で無駄のない効率的な運営が実現しています。保障の対象となるべきサービスの重点化なども行われました。他方で元気で可能な限り働いたり社会参加する高齢者を応援するための政策や、少子化対策が将来の歳出減、歳入増につながる点にも注目され、思い切った予算投入がなされています。

 以上の歳出削減を前提に、増税も避けられません。所得に対する課税は景気回復による収入増、累進税率の変更や住民税の地方判断による増税はあっても税収増には限界があります。法人税はグローバルな競争の中で世界の法人税率を無視した税率引き上げは民間の活力を削ぐことになります。増税の中心は間接税(消費税) にならざるを得ません。消費税増税は困難な政治課題ですが、政治のリーダーシップにより、思い切った歳出の効率化・重点化がなされたあとだけに、国民の間に、誰もが迎える高齢期のコストでやむを得ないとの認識が共有されています。医療・介護などの制度が簡素化され負担と給付の関係がわかりやすくなったこと、消費税の改革がなされ、生活に最低限必要な経費には実質的に消費税が課税されなくなったことも、消費税アレルギーを少なくする結果となりました。

 しかし、次のステップである公債発行ゼロ予算、そして公債発行残高の着実な減少を、少子高齢化と人口減少が続く中で確実に実現しなければなりません。世代間責任を果すために、更なる政治のリーダーシップと国民の理解が必要です。


7.世界に最も貢献する日本外交を創造する

 世界の平和をいかにして創造していくかについて、国連を中心とした国際協調と抜きん出た超大国となった米国の単独行動主義との対立が鮮明になっています。米国の単独行動主義への傾斜は、日米同盟と国際協調双方を重視してきた日本外交を大きなジレンマに直面させています。「日本を守ってくれるのは米国だけだ」との指導者の発言に象徴される志のない外交姿勢は、今までの日本が培ってきたアジア諸国や中東、欧州などとの関係を弱め、日本の国際社会における存在感が小さくなっています。

 2015年の日本は、国際社会の中で平和の創造に最も熱心でかつ貢献する、世界から信頼される国としての立場を確立しています。日本は常任理事国として国連がよりよく機能するように、その改革に取り組んでいます。核軍縮や核不拡散など核の恐怖のない世界、そして小型武器など世界の軍備縮小を目指してリーダーシップを発揮しています。また国連の安全保障理事会や国連総会の決議が行われた場合には、国際社会の紛争解決や、平和と安全を維持・回復するためにPKO・多国籍などへの活動に積極的に参加・貢献しています。憲法第9条は、自衛権の名のもとに武力を無制限に行使した過去の戦争に対する反省の中で、日本自身の判断による武力行使について、自らに強い制約を設けたものです。武力行使に対して抑制的な立場をとるとの憲法の基本姿勢は堅持されています。しかし、国連の決議がある場合には、自らの判断で武力行使する場合と同列に考える必要はないとの考え方が国民にも定着しています。これらの国際協力活動を迅速に行うための組織が、自衛隊・警察などの関係機関からの出向などによって設けられています。

 日米同盟は日米地位協定の見直しや在沖縄米軍基地の着実な整理・縮小などを通じ、より国民的基盤を持った強固なものになっています。米軍もテロ対策や大量破壊兵器の拡散の問題などの実効性を上げるためには、国連を通じた国際協調の中で解決することが必要なことを認識し、かつての単独行動主義は影をひそめました。アジアの一員であり、アジアのことをよく知る日本と、超大国アメリカの二国が良好な関係を保ち、同盟関係にあることはアジア太平洋地域の安定にとって大きな公共財になっています。

 難問だった北朝鮮の核問題や拉致問題の解決を経て、日朝国交正常化がなされました。このプロセスの中で、日米韓三カ国の強固な関係が構築され、同時に中国、ロシア、北朝鮮を加えた六カ国による東アジア協力体制の基礎が築かれました。中国は日本にとってアメリカをはるかに超える貿易相手国となり、経済面での相互依存が強まっています。歴史問題は両国指導者のリーダーシップによって克服され、米国も含めた形での安全保障対話も深まっています。日中韓三カ国にアセアンやインドも加わったアジアサミットは毎年定例化されています。経済規模や人口において、世界の中でアジアの存在がますます大きくなっています。日本がアジアにおける民主主義国家として、政治的リーダーシップを発揮することに対する期待感と信頼感がアジアの内外で高まっています。

参考文書: 民主党代表選出馬表明民主党改革の方向性
集団安全保障の基本原則の検討について

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