2010年8月 |
両院協議会をきちんと機能させたい
江田 五月
前参議院議長――再び衆参ねじれとなりました。
江田 二院制だから、ねじれは憲法上、想定の範囲内です。ただし、政権交代の後は、新政権が一定期間安定的に政権運営をした上で、次の展開となるのがいいと思います。今回の結果は、参議院で多数を持ち政権交代を果した民主党が、まだ未成熟だと国民にきついお灸をすえられたということでしょう。
日本の衆参両院は、若干の優劣はあるものの、基本的には同じ強力な国民議会です。それがねじれのために動かない状態にならないよう、憲法は調整と調節のシステムとして両院協議会を用意しています。これを機能させるための改革が必要です。
――どの点をどう改革すべきですか。
江田 いまは、メンバーは衆参から一〇人ずつ、それぞれの院議を構成した会派が全部を占めるという制度です。議長は衆院か参院かをくじで選びます。こういうやり方でいいかどうか。成案が得られやすいように、各党の政策責任者をメンバーに入れる、院議の賛否にかかわらず各党の代表で構成する、成案は三分の二ではなく過半数の賛成と改める、協議に大臣の出席を求めて議論するといった点が検討課題です。
これまでの両院協議会は形式的で、実質的な役割は果せないといわれています。それに甘んじるのでなく、ねじれて行き詰まった場合に、合意形成に向けて両院協議会を活用し、何としても議会を機能させる方策を考え出さなければなりません。いまのところ、民主党は野党に協議のテーブルに着くようにと呼びかけ、部分連合、政策連合で進めようと言っています。それが合意形成のきっかけになり得ると思います。
――なぜ改革が進まなかったのですか。
江田 首相指名と予算と条約は、衆参の議決が異なった場合、両院協議会を開かなければなりません。しかし、法案の場合は任意で、一度も開かれませんでした。経験を積めば知恵が出てくるから、とにかく開いて議論してはどうかと、私も随分言いました。しかし、〇七年から二年間、当時の与党が衆議院で三分の二超の議席を持っていたので、それに基づく再議決に頼ってしまいました。
いまは、与野党関係も民主、自民両党の党内も、揺れ動いています。とにかく二進も三進もいかないという状況まで行き着つくと、あとは食うか食われるかしかないというのではなく、議会は合意形成の場だから知恵を絞らなければという気持ちが生じて、初めて知恵が出てくるでしょう。
――野党側は行き詰まるのを望み、行き詰まるように仕向けてくるのでは。
江田 結局は国民がどう見るかです。国民と政治とのキャッチボールが鍵です。野党側がひたすら党利党略で、国会を行き詰まらせて解散に追い込むという手段をとると、肝心の総選挙でしっぺ返しを食うこともあります。
――憲法改正も含め、現行の二院制の見直しが必要、という意見もあります。
江田 現在の二院制を上手に動かす努力を、精一杯行うことが大切です。合意形成の努力を忘れて、闘争一本槍で臨むなら、制度をどう変えても同じ不毛な結果になってしまいます。現在の制度設計はうまくできていないところもあるので、手直しの動きはいずれ出てくると思います。しかし、先走って机の上だけで設計図を書いても駄目。まず合意形成の努力を積み重ねることが必要です。ニューリーダー 2010年9月号(8月25日発行)掲載
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