2011年2月6日 |
「癒やし系」江田氏の役割
「『イラ官』になったら、癒し系でニコッと笑って心を和ませたい」―。菅再改造内閣で法相に就任した江田五月氏。穏やかな笑顔を絶やさないこの人らしい発言だ。
ところが最近の日程を見ると「癒やし系」に収まらない意欲を感じる。地元・岡山から福岡、名古屋…。法相の激務のかたわら毎週末を地方遊説で埋めているのだ。
参院議長経験者の入閣は初めて。「院の権威失墜」との批判もあるが「今の日本の状況を見て、菅直人首相が議長経験者も閣内で起用しようという覚悟なら、それを共有する」と語る。
昨年の参院選で参院4選を果たした69歳。「まだまだ引退は遠い。神棚で鎮座ましているのは税金の無駄遣い。議長経験を生かして第一線で全力投球しろというのが有権者の付託」と意気軒昂だ。
江田、菅両氏の初対面は1977年5月22日、都内の病院だった。江田氏の父、三郎氏は社会党を離脱して社会市民連合を結成。若い市民運動家の菅氏が参加して参院選に臨む直前に急死した。裁判官だった江田氏は自分の誕生日に父が亡くなった運命を感じ政界転身を決断する。「父の亡きがらの傍らで菅さんと会った。一緒に頑張ろうと誓って33年来の盟友だ」
支持率が低迷する菅首相と年末年始に語り合った。「菅さんらしさを取り戻して我を通させてもらおう。江戸の火消しじゃないが、俺はこれで行くんだと屋根の上で纏(まとい)を持ってすっくと立てば突破口も見えてくる」。社会保障と税制の一体改革、平成の開国─。確かに年明けから首相がめざす政策は明確になった。
首相官邸の主が必ず悩むのが情報過疎だ。菅首相も昨秋「官邸にいると情報が入らない」と愚痴をこぼした。麻生太郎元首相は最高指導者の心境を「どす黒いまでの孤独」と語ったことがある。
法相の仕事は裁判官出身の江田氏には精通した分野。菅首相が頼るのはそれに加えて政権全体に目配りする重鎮の役回りだろう。「閣僚にはそれぞれ個性がある。まとめていくには年代的にも経験でも私はシニアの方だから」と江田氏も調整役を認める。「イラ菅」に直言できる数少ない盟友が閣内にいることは孤独な首相の「精神安定剤」にもなる。
政権運営は依然として厳しい局面が続く。民王党内でも「ポスト菅」を虎視眈々(たんたん)と狙った駆け引きが既に始まっているのが冷徹な政治の現実だ。
江田氏の真価が問われるのは単なる「癒やし」の役割ではない。政権を取り巻く情勢を正確に把握し、時には苦言を呈して政権を引き締めることだ。神棚に鎮座せず、あえて第一線に立つ江田氏が担う責任は重い。(共同通信編集委員 川上高志)
2011年2月6日 |