1979/11/6  いまこそ社会民主主義勢力の結集を

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いまこそ社会民主主義勢力の結集を
社民連代表  田 英夫

 五五年体制の崩壊は進む

 今回の総選挙の結果は、明快に五五年体制が崩壊しつつあるということを示した点に特徴があると思います。

 予想では、一時的な保守回帰という逆流現象が起きるのではないかといわれていましたが、結果は実に明確に、日本の政治は転換しつつある。五五年体制の崩壊、つまり自民党と社会党の低落をはっきり示したというのが最大の特徴ではないでしょうか。

 ややもすると、自民党の予想外の惨敗というなかで、社会党の大敗が忘れ去られて、飛鳥田・多賀谷氏の「勝った」という言葉に幻惑されていますが、これは注意しなければなりません。

 なぜこういう結果になったかといいますと、五五年体制の崩壊は単に日本だけの現象ではなくて、自由主義か社会主義かという、イデオロギーによって世界が二分されていた時代とは異なり、国民の好むと好まざるとにかかわらず、多党化現象が起こってきました。

 そして自民党からは新自由クラブが生まれ、社会党からは社民連が生まれたというのは、偶然ではなく、五五年体制を崩壊させなければならない使命を帯びた二つの政党が誕生したということなのです。小さな政党かも知れませんが、歴史の流れのなかの必然的な出来事だと考えるべきなのです。

 世界の動きも、アメリカかソ連か、自由陣営か社会主義陣営かという、イデオロギー時代から、多極化の時代、第三世界の台頭による非常に複雑な時代になってきた。つまり、イデオロギーという物差しだけで政治を測ることができない世界構造になってきた。その端的な出来事が、イデオロギーを超えた、今年の米中国交樹立です。

 その世界構造の変化が、日本に当てはまらないわけがなく、今画の選挙結果に明快に表れたということです。

 この結果を雨のせいにしたり、投票率が低かったことにすり変えることは、全く政治をわきまえないことだと思います。

 自覚のない自民・社会党

 こういう状況のなかで、日本の政治をどうしたらいいのかというところに基本をおいて、ものごとを考えなければならないのにもかかわらず、崩壊しつつある自民党の人たちは、自分たちの置かれている状能を厳しくつかんでいない。だからこそ、今度のような権力に妄執する醜い姿をさらしたといわざるをえません。大平・福田両氏とも、大きな歴史の流れ、世界構造の変化をわきまえていないからこそ、あのような行動をとったのだと思います。

 同時に、これに対応できなかった野党第一党の社会党も、自らが五五年体制の崩壊にさらされていることを自覚していません。

 日本の政治の悲劇は、自・社両党自らが、歴史的に崩壊しつつあることを、厳しく理解していないところにあるのではないでしょうか。

 なぜ五五年体制が崩壊されなければならないのか、崩壊するのかという点を、お互いにしっかりつかみとっていくことが、歴史的な政治を変えるわれわれの課題だと思います。

 かつては、宗教で戦争をやったこともあり、宗教が絶対のものであった時代がありました。

 また、ここ数十年の間は、イデオロギーこそが、政治の最大の問題であるといわれてきました。マルクス・レーニン主義という社会主義と、資本主義・自由主義という二つの固定したイデオロギーのいずれが正しいのかという抗争こそが政治の最大の課題だと思いこんできて、そのために殺し合いまでもしたのが朝鮮戦争であり、べトナム戦争だったわけです。

 今でも、そのなごりは、世界に色こく残っています。反共があったり、アメリカ帝国主義という言葉が生まれました。

 だが、現在の世界構造は明らかに変化し、マルクスが指摘した資本主義から帝国主義、植民地主義という図式は変わり、新植民地主義というものはあるにせよ、かつてのような資本主義を支える植民地はなくなり、第三世界に変わってきたことは、はっきりしているのではないでしょうか。

 現実路線としての社会民主主義

 今や、資本主義か社会主義かという、イデオロギーの対立が政治の最大の物差しではなくなりつつあるということが、五五年体制の崩壊の基本にあるということを、しっかりつかむことが必要ではないでしょうか。

 しかし、イデオロギーはなくなるのかといいますと、違うと思います。やはり政治というものは、政党というものは、イデオロギーを基礎にして動いていく、その原理に変わりはありません。

 それでは、「これからのイデオロギーとは何なのだ」――これが、社民連として探し求める課題ではないでしょうか。

 われわれの場合は、マルクスがいいだした社会主義――今の世界構造のなかでは通用しないにせよ、その精神のなかの正しいものは生かしてゆかなければならないという意味で、新しい社会民主主義のイデオロギーをこれからつくり上げていかなければなりません。

 われわれはみんなで、世界の同様な立場にある人々、例えば西ドイツの社会民主党とか、フランス社会党の一部の人たち、スウェーデンの社会民主党、イギリス労働党の一部の人たち、あるいは日本の多くの同じような考えをもつ人、社会党や公明党、民社党の人たち、労働組合、学者、文化人といっしょになって、新しい政治哲学、経済理論、政治構造をこれからつくっていくこと――これがわれわれに課せられていると思います。

 マルクスが社会主義を主張したころは、植民地に支えられた資本主義社会でしたが、それが変わってきています。食糧やエネルギーが無限ではなく、代替エネルギーをどうするか、食糧問題が人類最大の政治課題になるという時代です。あるいは公害問題。工業化一辺倒の時代ではなくなり、むしろ、自然保護を重視しなければならなくなっています。地球上の構造の基本が変わってきているのですから、当然でしょう。

 政権交代こそ民主主義を生かす

 日本の悲劇は、自民党の圧倒的な支配と、野党に安住した社会党、社会党のなかに極端なマルクス・レーニン主義の社会主義協会が育っている党内情勢にあります。

 これに対して最も典型的なのが西ドイツです。キリスト教民主党という保守党が単独政権を担う日が続いていたなかで、現実を見極めた社会主義政党である社会民主党が生まれて、いろいろな論争のなかで、大胆な保守と連合する形を経て、社会民主党が政権を担った。そこに政治の切磋琢磨が生まれ、保守一党支配の構造のなかに組み込まれるという状態に追い込まれなかった。

 ここに、議会制民主主義というものの歴史の深さ、浅さの差が出たのかも知れません。日本の場合、政権交代ができなかったことに一つの大きな悲劇があり、議会制民主主義が未成熟だったということでもありましょう。

 政情不安定のイタリアの場合で、文字通りの多党化ですが、それだけ有権者の価値感が多様化したことが議会に鋭敏に反映されていて、一党が単独では政権を支配できない、連立政権をつくらざるをえない、その連立も非常に多党化して、政情が混乱しているからむずかしい、しかし、いつもいろんな党に政権が移るという形で、議会制民主主義の基本を守っています。

 日本の場合でいえば、今回は単独で過半数を割ったのですから、その瞬間に、野党第一党が交代して、責任を担って連合を呼びかける。成功したら、社会党が中心になって政権を担う。これが憲政の常道、議会制民主主義の常道です。それを与野党ともに忘れてしまっているところに問題があります。

 社会党は今こそ切開手術を!

 具体的に日本の政治の問題にふれますと、自民党が行き詰まっていることは、いろんな面で明らかになっています。

 ロッキード、ダグラス、グラマン事件で表れた構造汚職。過去のものとなった資本主義理論。一部には、民主主義に反する国家主義的な考え方、天皇制復活を考える人もいて、自民党の終焉ははっきりしています。

 だから、自民党を救う道は、保守を保守なりに生まれ変わらせることが必要になるでしょう。これを担おうとしているのが新自由クラブかも知れません。

 ところが社会党は、五五年体制のなかに組み込まれてしまった。資本主義か社会主義かというイデオロギー対立の一方だから当然なのですけれど、その結果として、永年にわたって、自民党を中心とする権力機構のなかに、アンチ・テーゼとして組み込まれてしまった、安住してしまったということが、非常に大きな反省点としてあげられなければなりません。

 例えば、鉄建公団の問題がでてきて、官僚政治に対する見直しが注目されていますが、エリート官僚群のなかの官僚大衆ともいうべき労働組合を、社会党機構のなかにもっています。その要求に動かされる、官公労が圧力団体となって社会党を動かしているのが、総評政治部といわれているゆえんです。

 エリート官僚対官僚大衆という形で、官僚機構のなかに社会党も組み込まれている。ですから、財政再建問題が総選挙の争点になったとき、自民党大平内閣が大衆課税をやろうとしました。これに対して、社会党は企業増税を提案しました。

 社民連の場合、(1)行政改革、(2)不公平税制の見直し、(3)各種補助金の見直しの三点を提案しました。社会党の場合は、その一番大切な柱となる行政改革をいえない状態に追い込まれています。官僚政治機構に組み込まれていて、官僚機構を改める行政改革には、本気で取り組めない体質をもつようになってしまいました。

 このような自民党と社会党という五五年体制を、崩壊させるのだという国民の意志が、今回の選挙で、実に明快に出ました。これを決定的にするのが、来年の参議院選挙です。

 社民連としては、秦豊君を先頭にして大いに奮闘することを決めていますが、この選挙はわれわれにとっても象徴的意義があります。五五年体制崩壊を促進する一つの政治勢力として闘っている姿を、秦君を通じて国民の皆さんにアピールしてゆきたいと思います。

 重要な参院選拳協力

 当面する具体的な問題は、このような五五年体制を崩壊させて、日本の政治を変えることにあります。そのポイントは、来年七月の参議院選挙にあります。具体的には、それに向かっての野党の選挙協力が非常に重要な意味をもってきました。

 与野党を逆転させるためには、二十六ある一人区で、少なくとも五選挙区以上、野党側でとることが必要です。それには、社会党プラス四党という、社会党の参加を得た選挙協力が必要なわけで、社会党の選択が重要なポイントになります。

 社会党はどっちをとるつもりか。全野党路線などといえば選挙協力は崩れるし、共産党とはっきり手を切って、他の野党と一名区で協力することによって、与野党の逆転をはかるという路線を選ぶのか、それとも引き続さあいまいな姿勢をとるのか、社会党は重要な岐路に立たされています。

 今回の自民党の混迷で、野党は政権構想をいやでも持たざるをえなくなっています。したがって、社会党が、来年の参議院選挙をひかえて、政権構想を明らかにし、共産党と手を切り、協会を切るか切らないかの決断を迫られてきています。

 社民連としては、そういうことを目の前にひかえながら、大きな日本の政治の転換の接着剤、触媒の役割を果たしてゆきたいと思います。

 もう一つ、将来の展望についていえば、日本に新しい社会民主政治勢力をつくり出す作業をする。これが将来に向けての展望であり、当面は五五年体制の崩壊をめざし、社会党に決断を迫るということです。

 新しい社会民主政治勢力とは、社会党のなかの志を同じくする多くの人に参加してもらい、公明党、民社党の人たちの協力もえて、一つの政党になる必要は必ずしもなくて、全体として社会民主主義的政治勢力になればよいということだと思います。

 それが実ったときの理想の姿を描いてみると、われわれを中心とした社会民主主義政治勢力が一方にあって、もう一つ、新しい保守、クリーン保守の政治勢力が一方にあって、大きく二つのブロックをつくり、その両脇に、ウルトラ・コンサバティブと共産主義の勢力が小さくある― という形になったとき、日本の政治は非常にいい形になるのではないでしょうか。

(一九七九年十一月六日談)


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