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民主党憲法調査会「中間報告」 (第二作業部会:統治)
民主党憲法調査会(会長:鹿野道彦)
首相主導の議院内閣制度の確立に向けて
−第二作業部会「中間報告」−日本国憲法の国民主権の原理は、国民によって選ばれた議員からなる国会が内閣総理大臣を指名し、その内閣総理大臣が内閣を組織し運営するという仕組みを定着させてきた。そうした日本国憲法の基本原理と規定にもかかわらず、わが国の内閣運営および内閣と議会との関係については、制度的曖昧性を多く残しながら、もっぱら政府の一機関たる内閣法制局の解釈と戦前からの通念によって推進されてきたという問題を抱えてきた。ある意味では、ここに多くの問題点が凝集していると言えなくもない。
たとえば、憲法の統治原理をなす「権力分立」について、内閣イコール行政と議会イコール政治との間の分離・隔離を当然として、本来「政治の領域」たる内閣を戦前の超然内閣のごとき「行政府」の地位に置き、政治の関与を極力排除する解釈をとり続けてきた。また、憲法の規定にも存在しない「閣議」なる用語をもって内閣総理大臣の権限を拘束し、その政治主導を大きく制約してきた。このため、憲法第66条1の「首長たる内閣総理大臣」の地位と権限が形骸化されている側面が少なくない。「閣議」のあり方そのものを再検討する必要がある。
それだけではない。憲法自体に整合性が欠けていることによる課題もある。すなわち、憲法第66条1の「内閣は…、内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する」との条文では、主体が「内閣」となっており、首相(内閣総理大臣)は、その一構成員とされているが、これは本来、「首相(内閣総理大臣)」が内閣を組織するとの能動的規定であるべきものである。このことが、「内閣」が「首相(内閣総理大臣)」の上位に置かれて責任所在が曖昧となる原因となってきた。そもそも、内閣総理大臣は、選挙によって国民の多数の支持を得た政党のリーダーが国会で選任されたものであり、その選任された首相(内閣総理大臣)が国務大臣を指名し、内閣を組織するという首相主導型システムが議院内閣制の姿である。現行の規定は、その点を曖昧にする要素を強く持っていると言わねばならない。
こうした解釈は、議院内閣制の母国イギリスでは当然のものであり、ヨーロッパ大陸における議院内閣制の国ドイツでも採られている理解であって、これらの国々における内閣運営の実際にも沿うものである。
そしてまた、このような議院内閣制の姿は、日本における首相主導の政府運営の実現と深く関わるものである。さらに、この種の議院内閣制度に関する理解は、従前からの内閣法制局的憲法解釈や戦前からの通念とはまったく異なるものであるだけでなく、日本国憲法の様々な規定について疑問を投げかけることを意味する。
例えば、憲法第65条の「行政権は、内閣に属する」との条文は、議院内閣制の趣旨に立てば、本来「行政権は、内閣総理大臣に属する」とすべきとの考えも成り立つ。また、憲法第66条3の「内閣は、…国会に対して連帯して責任を負う」の規定も、主体を「内閣」という顔の見えない機関に置いているという点で再検討が必要となる。とりわけ、憲法第74条のいわゆる「主任の大臣」規定と「連署」規定は、首長たる内閣総理大臣の権限を強く制約するものとして問題となってきた。
私たちは、現行の議院内閣制を維持することを基本に、内閣に関する一連の規定についての再検討を進めるべきだと考える。それとともに、日本の統治機構のあり方と運営に関して、政府による解釈権の独占を排し、独立した憲法解釈と裁決の可能な仕組みを検討すべきであると考えている。
1.首相(内閣総理大臣)主導の政府運営の実現
私たちは、首相(内閣総理大臣)主導の政府運営の実現をめざす。このため、「首長たる内閣総理大臣」(憲法第66条)の実質を阻害する憲法及び内閣法等の規定を見直し、首相の責任と指導性が明確となる法的枠組みを確立する。
そもそも、議院内閣制は、首相(内閣総理大臣)たるに相応しいリーダーが選挙で実質的に選ばれ、国会もしくは大統領・その他の元首によって承認されて任命されるという仕組みである。日本でも、そのような実質を備えるべく90年代に入ってから小選挙区制を中心とした選挙制度改革、それに基づく二大政党型政党システムへの転換促進、および首相主導を補佐する内閣府の設置等の改善を行ってきた。
しかし、今日論議を呼んでいる与党事前審査や憲法規定をも制限する内閣法などによって、首相の権限は実質的に大きく制約されているというのが実態である。曖昧性の残る憲法規定を含めて法制度の抜本的見直しを行い、首相主導型の政府運営のための法的枠組みを確保すべきである。とりわけ、「内閣」を主体とする諸規定を再検討して、「首相(内閣総理大臣)」主体の規定へと変換する必要がある。また、首相公選制の導入などとともに、国民が直接的に首相を選択できるに等しい選挙制度の確立についても検討すべきである。
2.内閣が遂行するのは「行政」ではなく、政治による「執行権」の行使である。
憲法第65条は「行政権は内閣に属する」としているが、ここに言う「行政権」とは本来、例えばカナダ1867年憲法法第2章にいう「執行権」に相当するものであり、日本の行政組織法に規定される「行政」とはまったく性質の異なるものである。「執行権」とは、行政をコントロールし、政治目的に向けてそれを指揮監督する権限を指すものである。
また、この執行権が付与されるのは、日本においては国会で選任された首相(内閣総理大臣)のみであり、国務大臣はその首相(内閣総理大臣)の補佐機関としての地位を持つに過ぎないと解すべきである。従って、憲法第65条に規定される「行政権」、すなわち「執行権」は「内閣総理大臣(首相)に属する」と規定するのが当然と言えよう。この点においても、私たちは、憲法規定における「内閣」と「内閣総理大臣」との組み換えを積極的に行う必要があると考える。
3.二院制のあり方と参議院の役割
私たちは、国会の活性化のための審議のあり方の改善とともに、現行の二院制について思い切った再検討を加えるべきだと考える。国会の活性化については、重要法案についての両院合同審査制の積極活用や与党審査の廃止、いわゆる国対政治からの脱却など国会運営のあり方そのものに関わるものも少なくないが、議会の調査機能の充実や行政監視院の設置などの制度的工夫も求められている。
現行の二院制については役割分担の不明確さの解消が従前から課題とされてきた。現行の参議院の役割を大胆に見直し、例えば、参議院議員の大臣指名の廃止、衆議院における予算審議と参議院の決算審議などの役割分担、また長期的な視野に立った調査権限や勧告機能の充実などを検討すべきである。さらに、衆議院と類似する現行の選挙制度を改め、地域代表制、専門性を加味した選任方法へと改革することも検討の余地がある。
4.政府・与党の一体化と責任の明確化
戦後日本の政府運営は、自民党一党支配が長く続いたことも要因となって、与党と内閣の二元体制が採られてきた。その典型が与党の税制調査会であり、与党審査の現実である。このことによって政府の責任が曖昧となり、首相(内閣総理大臣)によって任命された国務大臣が党と省庁の利害代表として行動するケースもしばしば見られる要因となってきた。
内閣と議会との関係についても、もっぱら与党が野党との駆け引きに対処し、内閣としての議会対応は二の次にされるという状態が続いた。このことがまた、国会に責任を負うべき内閣の姿勢をますます曖昧にする背景となってきたことは否めない。
私たちは、まず、この政府運営の二元構造を排し、内閣の一体的運営と責任の明確化を強く求めたいと考える。このため、内閣以外の議員の行政への関与を厳しく制限し、行政のコントロールに関する内閣の主導性を確保する。同時に、野党の第一党に対して、シャドーキャビネットを義務づけ、一定の範囲での行政への関与を制限的に容認する仕組みを確立することも検討されるべきである。
政府の責任は一義的に国民に対して示されるべきものであり、それには情報の公開、政府の説明責任が不可欠であるが、何よりも政権交代可能な仕組みの充実を欠くことはできないと考える。
5.憲法調査機能の拡充と違憲立法審査制の確立
わが国では憲法解釈の権威を内閣法制局に求めるという奇妙な現象が長く続いてきた。こうしたことの背景には、日本における裁判所の司法消極主義があることは言うまでもない。このためもあって、国民や議会は、裁判所にではなく、内閣法制局に憲法解釈を委ねてきたとの指摘もある。しかし、内閣法制局は政府の一機関に過ぎない。その機関が憲法解釈に権威を振るう姿は権力分立のあり方としても問題が大きいと指摘せざるを得ない。
そこで、私たちは、まず第一に、憲法解釈の機関として立法府たる議会にある衆参両院の法制局を強化し、執行機関の一部局たる内閣法制局を縮小することが必要だと考える。議会における立法作業の強力な支援機関とすると同時に、立法に際しての憲法審査を保障する仕組みの検討も必要である。
次に、日本における司法消極主義の制約を超えて、国民の人権保障と憲法に基づく統治のあり方を確保するため、ヨーロッパや韓国などが採り入れている憲法裁判所もしくは憲法院など、違憲立法審査のできる司法機関を新たに整備することを検討すべきである。
結 語
首相主導の政治を確立するためには、内閣と与党の関係、内閣と議会との関係の見直しと同時に、憲法に規定された「首長たる内閣総理大臣」の権限の明確化と再整理を欠くことができない。そのためには、日本国憲法の規定と内閣法などの再検討も視野に入れるべきである。
また、政府の機能強化と並行して、憲法を保障する違憲立法審査制の確立に早急に取り組む必要がある。
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