2001年12月18日 目次      戻るホーム憲法目次

民主党憲法調査会「中間報告」 (第四作業部会:分権)

民主党憲法調査会(会長:鹿野道彦)


分権型社会の実現をめざして
−第四作業部会「中間報告」−

 日本国憲法は、その第8章「地方自治」で、日本における地方分権の尊重をうたっている。戦後日本は、この精神を踏まえて、とりわけ基礎自治体たる市町村の完全自治体化を保障するとともに、都道府県知事の直接選挙による選出を導入した。地方自治体に対する中央統制についても、「地方自治の本旨」によって制約があることを明示し、極端な中央集権の復活を抑制している。
 しかし、機関委任事務を通じた長い間の中央政府による行政的コントロールが続いたことに加えて、課税自主権や財政自治が保障されずに、補助金による強い制約を受けてきた。また、地方自治体の組織権についても様々な制約が課せられており、日本の政治・行政の中央統制体質が温存されたまま、今日に至っているというのが実情である。
 こうした制度的・行政的限界の他にも、新たな政治・行政課題が「地方自治の形骸化」を促進するという現象も生じた。いわゆる福祉国家化や国をあげての産業近代化の推進とともに、政治・行政の官僚化も進行し、中央政府による地方のコントロールが一層強化されるという事態を招いたことも否定できない。

 私たちは、こうしたことが、日本における地方自治の定着を阻害し、諸個人や地域の自己決定と自己責任に基づいた民主主義の発達を先送りさせてきた要因だと考える。グローバル化が進む中で、この国に民主主義を深く浸透させ、その新しい政治文化のもとに「自治の精神」を培っていく試みが求められている。そして、いま、この考えに基づき、文化やコミュニティに根ざした日本型「分権型社会」への転換を実現したいと考えている。

 民主党は、党の基本方針の一つに「分権連邦型国家の実現」を掲げている。国民一人ひとりの自己決定を尊重し、その意思を大事にする参画型社会の実現には、地方自治の確立を欠かすことはできない。私たちは、「地域のことは地域に暮らす人々が決定する」という原則のもと、日本の国のかたちを大胆に組み換えることを強く熱望する。
 ただし、日本は、米国やドイツのような連邦制国家ではなく、イギリスやイタリアと同様の単一制国家である。そして、議院内閣制と権力分立による節度ある統治機構を有する民主主義国家であり、「地方自治」が憲法によって保障された国である。従って、単一国家としての枠組みを当然の与件としつつ、能う限りの「地方自治」を制度的・政治的・社会的に実現することを目標としたい。

1.中央政府の役割を限定し、地方政府の自主性を確立する。

 日本における地方自治の確立のために、まず基礎自治体でできることは地域の基礎自治体に、その上で必要な広域行政については広域自治体に、そして中央政府は国として直接責任を負うべき業務に限定するという「補完性の原理」を優先する。このため、中央政府権限限定法(仮称)を定めるとともに、憲法にもその内容が明示されるよう検討する。
 また、現行憲法第8章第92条の「地方自治の本旨」について、その内容をできるだけ明確にして、地方公共団体の組織及び運営に関する立法権の恣意的制約をなくし、中央政府の一方的な関与を排除できるようにする必要がある。併せて、自治体の課税自主権、財政自治について明記することも検討されるべきである。
   

2.国・地方紛争処理機能の整備と地方参画制度

 中央政府・地方政府間および地方自治体間の調整と紛争の処理については、権限を有する第三者機関を設置する。現在、地方分権推進委員会の提言を受けて、「自治紛争処理委員会」の制度が発足しているが、当事者間の同意を原則とする協議制が中心の同制度の改革を含めて、将来的には、違憲立法審査制の適用を視野に入れた調整・勧告・裁定の機構を整備すべきである。特に、憲法には、こうした中央政府・地方政府間及び地方自治体間の紛争処理を想定した規定が欠けており、その規定の成文化についても検討する必要がある。
 同時に、地方政府が中央政府の意思決定に参画できる仕組みを工夫し、それを参画権として保障する規定の整備の検討が必要である。


3.地方自治憲章の導入と制度化

 1980年代以降、ヨーロッパの多くの国で「分権改革」の動きが大きな波となった。フランスやベルギーで「地方分権法」が成立し、イギリスでは「分権」が政府の課題となってスコットランドやウェールズの自治権が飛躍的に拡大された。スイスやアメリカで導入されていた住民投票制度がヨーロッパ各国に波及していったのもこの頃である。国際自治体連合やヨーロッパ地方自治憲章が、地球規模での分権改革の推進が普遍的課題であることを宣言するとともに、地方自治体が自らの憲法たる「憲章」を持つことを奨励している。日本においても、地方自治憲章を地方自治の要として位置づける提言が生まれている。
 地方自治体が、自律した政府を持ち、自前の統治機構と住民自治によって自治の実現をより確かなものとするためにも、これらの自治体憲章の意義は小さくないと思われる。憲法や今後の地方自治基本法(仮称)の中にこの「憲章」を明確に位置づけることも重要である。
 
 
4.地方自治体のあり方の再検討

 現在の地方自治体は、歴史的・政治的経緯もあって画一的で多様性に乏しく、地方自治をもっぱら「行政」のあり方としている傾向が強い。地方自治は、まさに政治そのものであり、民主主義の発現と運営そのものである。地方自治体行政の経営的効率化とともに、多様な参画システムの導入とコミュニティ・レベルにおける住民自治の実現に十分配慮すべきであり、基礎自治体のあり方についてもこの観点からの議論が不可欠である。この点、分権改革の波が大きなうねりとなっているヨーロッパの基礎自治体が、日本のそれと比較して小規模であることの意義を再確認する必要がある。


5.地方政府の多様性の実現

 戦後の地方自治体は、首長と地方議会議員とを直接選挙で選ぶという画期的な制度を採り入れており、このことが、地方自治を政治的に保障する仕組みとなってきたことは言うまでもない。しかし、その運営制度が画一的で、変化に乏しく、行政主導の総与党体制という副産物を産み落としてきたことも否めない。
 このような画一性を排し、ヨーロッパの国々で見られる議院内閣制型の政府運営、アメリカのシティ・マネージャー制度、あるいは住民総会制の導入など多様な政府形態が可能な仕組みに転換する必要がある。さらに、様々な住民参画制度を整備して、「民主主義の学校」(ブライス)に相応しい地方自治の実現をめざす必要がある。また特に、首長の権限行使が可能な補佐機能についてその整備を検討し、憲法もしくは基本法に明記することも併せて検討すべきである。

結 語

 以上の構想に基づき、地方自治に関する憲法的規定の再整備を進めるべきと考える。


2001年12月18日 目次      戻るホーム憲法目次