2001年12月18日 目次      戻るホーム憲法目次

民主党憲法調査会「中間報告」 (第五作業部会:国際・安保)

民主党憲法調査会(会長:鹿野道彦)


PKOの変容と日本の参加について
−第五作業部会「中間報告」−

 第5作業部会は、(1)国連憲章と日本国憲法、(2)集団安全保障と自衛権、(3)日米安保と日本国憲法、(4)PKO変容と日本の参加、(5)地域安全保障体制の構築、(6)自衛隊の役割、(7)国際援助活動等、を主なテーマと定めている。

 ここでは、(4)の『PKO変容と日本の参加』に論点を絞って中間報告を行なうものである。


1.国連平和維持活動に対する基本姿勢

 平和創造国家・日本にとって、国際連合の活性化とその効率的体制の確立は最重要の課題の一つである。国際連合の現実に理想からかけ離れている部分があることは否定できない。しかし、只今現在も平和の破壊や不正義が地球上に存在し、無辜の民が苦しんでいることを思う時、国連の不完全さを理由に傍観者然と振舞うことは許されない。国連の現実を直視しながら、国連活動の実践を通じて、憲章が規定する理想の姿に国連を近づけていく道を、私たちは選びたい。

 日本は平和の実現に向けた国際秩序の構築に参加していくべきであり、国連PKOをその一つの手段として積極的に活用することを国家戦略として明確に位置付けるべきである。本中間報告は、伝統型PKOはもちろん、平和構築型や平和強制型、複合型PKO等、あらゆる種類の国連PKOに参加する選択肢を日本が持つことを提案する。

(1) 国連平和維持活動(PKO)は、国連憲章上に明文上の規定はないものの、憲章第6章の平和創造と憲章第7章の平和強制の中間的性格を持ち、「憲章第6 章半の活動」と呼ばれてきた。1948年以降、多くの地域紛争の拡大防止に重要な役割を果たしてきたのみならず、難民の大量発生やジェノサイド等、人道面での挑戦に対しても重要な役割を果たしている。国連PKOを万能薬と考える飛躍は戒めなければならないが、国連憲章の規定する理想的な国連軍が存在しない今日、国連PKOは国連が正当性を付与した集団安全保障メカニズムを構成していると肯定的に評価できる。

(2) 冷戦後、敵対行為が事実上存続する状況にあっても国連憲章第7章の下に活動する、平和強制型とも呼ばれるPKOが増加しており、国家間の停戦を前提 に停戦監視等を行なう伝統型PKOと比べ、質的な変化を見せている。こうした新しいPKOについても、「平和に対する脅威、平和の破壊および侵略行為」に関して国連が暫定措置、非軍事的措置、軍事的措置を取ることを規定する憲章第7章の精神に鑑み、集団安全保障活動として正当性を持つと考える。

(3) 日本は、国連PKOへの参加に当たっては、国連が規定するすべての種類の任務を果たせるようにすべきである。ただし、国連PKOへの参加を日本の義務と捉えることはせず、我が国が特定のPKOに参加すべきか否かは日本の自立的な政策判断によると考える。

(4) 日本が国連PKOに積極的に参加することについては、近隣諸国の理解を得られやすいと考えられる。また、関係国と協働してPKO活動を行なうこと等を通して、信頼醸成措置(CBMs)としての役割も期待できる。

(5) 日本の安全保障に関係する場合等においては、国連PKOへの参加が国益の観点から重要となるケースが存在することにも留意する。


2.現状の問題点

 私たちは、前章で合意された方向性と既存の日本の法制度との関係についても併せて検討した。その結果、我が国の現行法制度のもとに国連PKOへの全面的参加を実現することは困難であり、現行の法制度及び考え方を抜本的に見直す必要があるとの認識で一致した。特に、敵対行為が予見される平和強制型PKOへの参加と、国連基準での武器使用の2点が集中的に議論された。

(1) 敵対行為が予見され、強制色の強いPKO

 平和強制型PKOは、安保理決議が当該状況を「国際の平和と安全に対する脅威」と認定し、国連憲章7章のもとに活動することを宣言した上で、派遣されるPKOに「あらゆる必要な措置」を取る権限を付与するなど、強制色を強めている点に特徴がある。停戦合意そのものの存在が不明確であったり、停戦合意の有無に関わらず、戦闘行為が散見される状態で派遣されたりすることも珍しくない。近年の例では、ボスニア、ソマリア、クロアチア、シエラ・レオーネ、東ティモール、コンゴ等のPKOがそれにあたる。

 現行の憲法解釈によれば、戦闘行為が予見されるPKOに参加することは、PKO部隊(自衛隊)が国際紛争の引き金を引く可能性を排除できないこと、及び、その際に自衛隊の活動が「自衛のための必要最小限度の実力の行使」を超える可能性があることから、憲法9条との関係で問題があると考えられている。従って、99年時点でのUNTAET(東ティモール)への参加を含め、平和強制型PKO(実際には複合型PKO)への参加を我が国は見送ってきている。

 私たちは、事実上の敵対行為の存在の有無に関わらず、また、国連憲章7章の下に行なわれる強制力の強い活動あっても、国連安保理等で正当性が付与される限りは、国連平和維持活動への参加が可能となるよう、我が国の法制度に関する今後の議論を整理すべきであると意見を集約した。国連平和協力法のPKO参加5原則との関連では、停戦合意を除外することを含め、受入同意、中立性原則、撤退原則の見直しが必要である。それに付随して憲法上の整理を行なうことも避けられない。

(2) 国連基準による武器使用

 国連がPKO活動で予定する武器使用は、自衛目的に限定される。しかし、その意味するところは、(1)自己、その他の国連要員、もしくはその防護下にある人々及び地域を防衛すること、並びに、(2)部隊の任務遂行に対する妨害を排除すること、の二つに分かれる。(後者を「任務遂行のための武器使用」と呼ぶ。) 一方、日本のPKOの武器使用基準は国連基準に比べ、大幅に限定的である。現行憲法及びその解釈は、PKO活動であっても原則「自己保存のための武器使用」しか認めておらず、「任務遂行のための武器使用」は不可能である。そのために、日本のPKO要員は、例えば武装解除という任務のために武器を使用することができず、本体業務を凍結解除した後も他国のPKO部隊と同等の任務を果たすことができない。また、国連の言う狭義の自衛(上記(1))についても、他国のPKO部隊を防護するための武器使用は原則として認めていない。結果として、日本のPKO参加が、国連全体のオペレーション効率を下げている側面があることは残念ながら事実である。

 私たちは、日本が国連PKOに全面的に参加できるようにする以上、武器使用についても国連基準と同等のものを認めるべきだと考える。さらに、それが可能になる方向で今後の法制度のあり方を議論することに同意する。


3.今後の論点

 私たちは、伝統型PKOに限定することなく、平和構築型や平和強制型を含め、あらゆる種類の国連PKOに参加する選択肢を日本が持つべきであることを提案した。そして、この提案を実現するためには、現行法制度の抜本的見直しが不可欠である。予想される見直しはPKO参加5原則(停戦合意、受入同意、中立性原則、撤退原則、自己保存のための武器使用)の変更を含む。

 今後の課題は、このような見直しを可能とする方向で憲法論議を整理することである。本中間報告は、憲法を含む法制度の見直しに関して、以下の論点を例示する。

(1) 安全保障基本法等による規定

 安全保障基本法又はそれに類似するものを制定し、その中に国連PKO活動への全面的参加を明記する方法も考えられる。

(2) PKO派遣部隊の位置付けの見直し

 PKOに派遣する部隊を既存の自衛隊から区分し、その部隊に関しては国連PKO活動への全面的参加が可能になると考える方法である。完全な別組織とするか、国連待機部隊の形とするか、部隊の身分をどう考えるべきか(国連に属すると考えるか否か等)等については、今後、詳細な議論が必要である。

(3) 憲法との関わり

(ア) 憲法の関連条文は現行のままとした上で、国連PKOを集団安全保障と明確に位置付け、集団安全保障を憲法9条と前文の再評価によって積極的に認める方法がある。この場合、集団安全保障の明確な肯定によって国連PKOへの参加に憲法上の制限はなくなり、平和強制型PKOへの参加や武器使用の問題も解決する。

(イ) 憲法前文及び9条の条文自体を見直す方法も考えられる。この場合、集団安 全保障を可能とする旨の根拠条文を加える、集団安全保障への参加を制限する条文を削除する、等の選択肢が考えられる。いずれにしても、国連PKO以外の憲法上の論点についても結論を出した上で見直し案を検討することになる。


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